IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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早期投稿を宣言しましたが、ずいぶんと遅くなってしまいました。
インフルエンザになり、まともに動けませんでした。
熱が39.9℃とか何それ、そんな状態でよく自力で車を走らせて病院まで言ったな、私…。
予防接種とかしておけば良かったと思いながらも後悔してもすでに手遅れでしたね。
おのれぇぃ…!

それに付け加えて現在スランプ中なんですよね…。
なのでもう一方の作品も半ば凍結しているような状態なわけでして…。


第35話 夢風 いつかの君と

私の頭痛は、あの日以降から酷いものに成り果てていた。

 

「さて、織斑先生、あなたをこの朝早くから呼び出したのは他でもありません。

昨晩、食堂で起きた件についてです。

早速ですが、先のイタリアから抗議文を見てから、貴女がどうするつもりでいるのかを伺いたい」

 

クラス対抗戦の当日に、私は朝のSHR前に学園長室に呼び出された。

その要件は、食堂に於いて発生した事案の顛末以降についてだった。

あの日、全輝と幼馴染でもある篠ノ之が、3組に在籍しているハース兄妹に干渉したからだった。

しかも、無関係の他人をも巻き込みかねない惨事にも発展していたそうだった。

被害としては、他の生徒の食事が生ゴミに変わり、観葉植物は食堂に散乱、投影ディスプレイは幾つも修理が出来ずに廃棄処分、机や椅子は幾つもが粗大ゴミに成り果てていたそうだった。

流石に何かの間違いと思いたかったが、目撃者が非常に多数居た。

初日に警告は二人にしておいたにも拘わらず、この事態だ。

反抗期だろうかと思ってしまうが、それでも学園長は監督不行届きとして、私に叱責を下し、損害賠償を私達が支払う事になった。

当日の夜間にはイタリアからの苦情が来たとのことだから、話があまりにも早いとは思うが、既に起きてしまったことに関しては、どうしようもない。

早くも報復行為が下されるのかと思ったが、その類の方面には話は広がることは無かった。

不幸中の幸いだろうかと思ったが、叱責を下されて終わってから時間を見ればSHRが終わっている時間だった。

学園長から二人への処罰も預かり、1限目が始まる際に、私は全輝と箒に処罰内容を告げた。

二人ともに、三日間に渡り反省文50枚、合計150枚提出を、と。

そろって不服そうだが、器物損壊賠償86万6000円もあるので無理に黙らせた。

 

無論、この話は他の教師にも見られていた為、私に対しての風当たりは一層に酷いものになり果てていた。

それだけでなく、その数日後には凰 鈴音への殺害未遂ということで学園長に呼び出され、二人には重々なる処罰が下された。

追加してクラスで使用していた生徒用の机と椅子の損害賠償33万4000円も追加されていた。

それも含め、学園長の視線は、今まで以上に冷たくなっていた。

 

「どうにも貴女の身内は騒ぎを起こして目立たねば気が済まないようですな」

 

もはや、私に対して、信頼どころか信用すら失われていることなど判り切っていた。

 

 

 

「…くそ…っ!」

 

アリーナの屋内を撮影しているカメラのいくつかが急に破損した。

それら全てがある一室の室内を映したものではあったが、急な破損の理由が皆目見当もつかなかった。

控えさせていた収音用のアンテナまで機能停止に陥っている。

とは言え、学園長から私の監視を仰せつかっている真耶には気づかれていないようだからまだしも、これでもかなりのスレスレの干渉だ。

接触そのものを避けるというのであれば、その理由は私からしても過剰だとは思う。

対戦カードを気づかれない範囲で調整し、少しでもピットにいるのを視認して確認したいことがあったが…再調整がなされ、思うように行動も出来ない。

 

「織斑先生、どうされました?」

 

「…いや、何でもない」

 

私が副担任に降格され、繰り上げで担任となった真耶の視線が突き刺さる。

かつては敬意が込められていた視線も、今では冷たさしか感じられなかった。

私達が現在居るこの管制室に居る、もう一人の人物、篠ノ之 箒が原因だろう。

先のハース妹の試合直後に整備室に殴り込みをしようとし、更識に取り押さえられ、此処に連行されてきて以降はここで騒いでいる。

 

「本当でしょうか?」

 

管制室の扉が開き、冷たい声が響いた。

 

 

 

 

真耶の他にも、監視をするような視線は増えていた。

それどころか、学生の間でも私に妙な視線を向けてはヒソヒソと何かを話している様子がこの半月で増えていた。

仕事場が息苦しい、居場所が無い、何処に居ても妙な視線を向けられる。

実害こそ存在していないが、心労はたまる一方だった。

 

こういった事をされるような事をしでかした覚えは…無いわけでは無い。

6年前の国際IS舞踏大会モンド・グロッソを優勝して帰国した後に私を待っていたのは家族の喪失という絶望だった。

 

織斑 一夏(いちか)

 

私の大切な家族であり、弟だった。

私が留守にしている間にパタリと姿を消した。

頼み込んでまで捜索してもらったものの、何が起きたのか、何処に行ったのかも判らず終い。

一週間後には、死亡判定が下された。

 

一夏が見つかってほしいと願いながらも、宣告されたのは非情な報告だった。

捜索活動も完全に終結し、私も諦める他に無いのかと立ち尽くした。

そんな中、一夏の友人だという話を聞いていた『凰 鈴音』が訪れる。

胸の内が痛くなるような罵声を私に浴びせ、居間に置いていたガラスケースの中身を、トロフィーや盾を粉砕し、賞状も引き裂く。

事も在ろうに位牌すら真っ二つに割られた。

それから一夏が使っていたという肩提げ鞄を持って立ち去った。

あの日以降、彼女は私と決して目を合わせようとしなかった。

 

絶望の泥濘はあまりにも深かったが、私は何とか持ち直した。

それは、もう一人の弟である全輝(まさき)のお陰だった。

それからは私も以前通りに振舞えるように努力した。

気持ちが回復したのは、それでも年を越えてからだった。

 

それから私は再び仕事に勤しむ様になった。

それでも、次の大会の話が持ち上がってきていた。

そして同時に出てきていたのは、他の選手の状態の把握だった。

 

多くの選手と戦い、それを制してきたが、容易くに勝てない相手が一人だけ居た。

イタリア国家代表『アリーシャ・ジョセスターフ』。

その動向の情報収集に移る、と。

その訓練内容を把握することで、こちらはそれに応じて戦局を覆す事が可能になる、と。

全輝に、私の雄姿を見せたかった事も在り、その諜報活動は私も賛同した。

そしてその諜報活動は極秘裏に進められる事になった。

その諜報活動には、日本政府とも繋がりのある『更識』家も協力する形として。

 

だが、その計画も僅か1週間で失敗に終わった。

イタリアに更識のエージェントが送り込まれたが、その悉くが…只の一人の例外もなく、日本へと強制送還された。

それをやってのけたのが、アリーシャ自身だったという。

それでも、手に入ったのは極僅かな情報だけだった。

懇意にしている人物が居る、という事だけ。

けれど、それが誰なのかは判らなかった。

 

かつての大会ではまるで一匹狼のようだったアイツにも、懇意にする人物が居るのだと知り、親近感が沸いた。

そう思い、第二回大会では全輝を連れ、機会があれば紹介しようと思っていた。

だが、アリーシャの態度はあまりにも冷たかった。

最後に口にしていたのは

 

「4年前の借り、必ず返す」

 

寒気がするほどの究極の拒絶から来る宣戦布告だった。

不要な言葉を口にしてしまったと、後になって思い知った。

だが、口から出した言葉を無かったことになど出来なかった。

そして翌日の大会のタイトルマッチで、悲劇が起きた。

 

全輝が誘拐された。

狙いは私の棄権。

迷ってなどいられなかった。

日本政府の発言等、悉くを無視し、報せをくれたドイツ軍と合流し、捜索活動に加わった。

幸い、全輝は郊外の工場跡で発見し、保護に至った。

今度は間に合ったのだと心の底から安堵出来た。

 

それでも、ドイツ軍には借りが出来てしまった。

その借りを返すために一年という長い時間をドイツで費やすことになった。

長期間会えなくなるが、日本に居る全輝はご近所に世話を頼んだ。

それからも頻繁に連絡を入れ、無事が確認できていた。

 

あれから何年も経過し、全輝がISを稼働させた。

それだけではなかった。

日本国外からもISを稼働させた男子が居たという話を聞いた。

 

もしかしたら…もしかしたら…

 

そんな願望を今になっても捨てきれなかった。

だから、その男子生徒を私のクラスで受け持つように周囲に話を通し、準備を整えた。

その折りだった、イタリアから私や全輝、その幼馴染である箒による接触、干渉を徹底的に拒絶するようにという指示が下されたのは。

しかも、その書状は私にではなく、学園長に届いていた。

そして私に対し比較的協力をしてくれていた更識も、決して私の肩を持つことは無くなっていた。

その日の内に私への信頼は一気に叩き落されていた。

全教職員に続き、その視線に気づいたのか学生からも。

針の筵で日々を過ごすようになり、今に至る。

 

後輩でもあり、副担任をしている真耶ですら、私の監視をしている始末。

今のコンソール作業にしても、気づかれてはいない…と信じていたい。

 

モニターに映るのは、あの日、私に怒りの罵声を浴びせた少女、凰 鈴音。

そしてもう一方からのピットから飛び出してきた暗い紫色の機体。

その搭乗者の素顔はバイザーに隠され見えない。

それどころか表情もよく判らなかった。

 

 

 

 

 

「覗き見は楽しかったですか、織斑先生?」

 

モニターに視線を釘付けにされている瞬間だった。

その冷たい声が聞こえたのは…。

 

「布仏?覗き見とは何のことだ?」

 

毅然とした態度のまま、彼女は管制室に入ってくる。

だが、私とて今になって更識や布仏を責める気は無いし、それが出来るとは思っていない。

かつては共犯だったが、完全に見切りをつけられているのは理解していた。

 

「ウェイル・ハース君が使用していた整備室の監視カメラを調べさせてもらいました。

この部屋で監視をしていたそうですね。

我々の方で処理しておきました。

イタリアからの文書に従えば、これにて何らかのペナルティが施されることはありませんが、不用意な行動は慎んでください。

一度目は寛容に済ませてくれましたが、次も同じとは限りませんので」

 

「………」

 

そうか、お前がやったのか…。

 

「ああ、判っている…」

 

一目会い、言葉を交わすこともできない、か…。

これは私のわがままであり、先の見えない願望でもあることは…私自身が一番理解しているんだ…。

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

お兄さんが飛び立ったピットで、私はその様子を背面から眺めていた。

次の対戦では、私が凰さんと試合をする形となっていた。

 

「お兄さん…」

 

凰さんとお兄さんは本当は見知り合った仲の人同士だった。

けれど、お兄さんは全ての記憶を失い、今に至るまでその記憶が甦る事が無かった。

それでも、夢を見る事は在ったらしいです。

その中でも、二人の子供が姿を現す夢を特徴的に覚えていた。

闇の中で涙する女の子と、粘つく闇に囚われた男の子。

それは、凰さんと、…昔のお兄さん自身だったのだと思う。

 

そして今…その闇に囚われていた者同士が相見えていた。

 

「どうしたの、暗い表情しちゃって?」

 

「生徒会長さん…?」

 

私の頬に指でツンツンとつついてくるこの人もよく判らない。

日本政府に関係を持っている人物であることを自ら暴露までして見せたのだから猶更。

そのうえでお兄さんとやたらと執拗に接触してきていたから、そんなにいい気はしないです。

 

「はいはい、そんなに警戒しないの」

 

また頬を突いてくる…。

 

「そんなに辛気臭い顔してたら応援なんてできないでしょ?」

 

「わ、判ってます!」

 

お兄さんは既に両手に長槍(ジャベリン)を握っていた。

相手の観察は初めからする気が無いらしい。

本気…とまではいかないまでもいきなり近接戦闘を仕掛けるのは危険だと思いますけど…。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

両手に長槍(ジャベリン)を握り、一気に詰め寄る。

凰さんが握っているのは肉厚で重量のありそうなブレードのようだった。

あれを受けたら吹き飛ばされる。

そう判断し、瞬時加速をしながら体を捩じる。

そして背面翼を最大出力、この瞬間に!

 

「甘い!」

 

ギャギィンッ!

 

長槍(ジャベリン)が伸びきるまでの途中、その軌道が捻じ曲げられた。

右手に握られた肉厚のブレードの軌道そのものに干渉されたのだと気づく。

だけど、瞬時加速を活かせるものは

 

「お互いさまにな!」

 

左手の獲物の動きを見切られても、俺にはまだ右手で握られている長槍(ジャベリン)が存在する!

 

バシィッ!

 

その筈だったのに、右手に大きな衝撃が襲い、こちらもまた防がれる。

何も無かった、何も見えない、ただ、砲撃を受けたかのように…!?

 

「隙だらけよ!」

 

ドンッ!!

 

彼女の左手に握られたブレードが直撃し、アンブラ共々吹き飛ばされる。

しかも…ただの一撃で…いや…

 

2撃(・・)でSEが16%も削られている。

流石は(ロン)シリーズの最新鋭機かな?

噂にたがわぬ大出力だ」

 

「驚いたわ、今のを2撃と見抜いた(・・・・)なんて。

大抵は何が起きたのか判らなくなる人が多かったから」

 

しかも1撃目は防御に使ったという型破りだ。

尚且つ不可視の砲撃…か?

厄介だな、仮に不可視ともなると止めるのも難しいぞ。

 

「ねぇ、アンタって姉が居るのよね?」

 

考えに耽ろうとした直後だった、彼女が語り掛けてきたのは。

 

「…教えたっけ?」

 

むしろ姉さんからは『私の名は極力伏せるように』と言われているから、姉さんの存在自体悟られないようにしていた筈なんだけど…。

いや、生徒会長相手にポロっと口にしてしまっていたけどさ…。

 

「さっきの試合、全輝を泥まみれにした際に、アイツを見下ろしながら言ってるのが聞こえたのよ」

 

…恥ずかしいな、独り言が聞こえてしまっていたらしい。

 

「アンタには妹が居るのは知ってるけど、姉の存在は知らなかったのよね。

詳しく教えてほしいんだけども、良いかしら?」

 

さぁて、どうしようかな。

 

「じゃあ、試合の結果次第ってことで」

 

「言ったわね、絶対に聞き出してやるんだから!」

 

よし、猪口才な考えだけど上手くいった!

勝敗がどうなろうと有耶無耶に…

 

「有耶無耶にしたら怒るからね?」

 

笑顔で言い切られた。

休むに似たりの考えだったみたいだな。

けど…思わずその笑顔にまで見惚れる自分のバカさ加減には呆れ果てる他に無かった。

そのせいで最初の一刀への対処が遅れてしまったのだから。

 

長槍(ジャベリン)を両手に握り直し、気合を入れなおす。

中国のあのシリーズは恐らく最新鋭機、第三世代機なのだろう。

龍シリーズの特徴である、高出力、管理されたエネルギー消費性能を両方とも組み込まれていると考えてみよう。

まあ、そんなものが実現しているとするのなら、第三世代機の共通した欠点でもある長時間稼働不可という欠点が克服されていることになる。

 

それにしても、テンペスタ自慢の高機動力を利用し、地面スレスレをジグザグに低空飛行しているが、その後方で連続で土ぼこりが柱上に立ち上っている。

見えない砲撃によるものだろうとは推測が立つが、結構な連射力だ。

しかも彼女、凰さんはこちらに常に目を向け…うん?まさかとは思うが…よし、実験してみよう。

 

進路を急速変更。

また内臓に嫌な負担がかかるが、構っていられない。

 

「腹を決めたってわけ!?」

 

「まぁな!」

 

視線が動く。

視線の先は無論、俺の胸の真ん中。

そこからさらに軌道を傾ける。

頭上を何かが通り過ぎていくのを感じた。

 

「ッ!」

 

視線が動く。

その視線から避けるように動けば、また後方で土埃が立ち上がる。

なるほど、不可視の砲撃だから着弾する場所を視線で決めているということか。

 

「アンタッ!」

 

「実験成功、かな!」

 

両手の長槍(ジャベリン)を突き出す。

弾かれる、それが如何した!

 

そこから先は刺突のラッシュだった。

フェイントを組み込ませながら、左右の穂先はもう彼女を逃がさない。

燃費が制御されていたとしても、その制御に高い集中力が必要なのは変わらないらしい。

 

「やるわね、アンタ!

ここまでクロスレンジでやりあおうとする人は久々だわ!」

 

「槍の扱いに関しては教官役から仕込まれているからな!」

 

「へぇ、それでさっきは全輝をボコボコにしたってわけね!」

 

「ちょっとやりすぎたかなとは思ってる、もしかして凰さんはそれについて怒ってるとか?」

 

「冗ッ談ッ!

アタシはあの男が世界で一番大ッ嫌いなのよ!

憎んでいる、恨んでいると言い換えても別に構わないわ!」

 

うわぁ、凄い事を聞いたような気がする。

まぁ、気分は理解出来る。

俺もアイツが嫌いだからな。

 

「それは俺も同感だ、俺もオリムラが嫌いなんだよ!

数日前は食堂で女子生徒と徒党を組んで襲ってくるわ、食事を台無しにされるわで、災難だったんだからな!」

 

「へぇ、そうなんだ…。

とはいえアンタが全輝をボコボコにしたのを見てスカッとしたわよ!

本当のことを言えば自分の手でやってやりたかったけどね!」

 

事実、ブレードはどうにもしっくりこなかったけど、長物であればそうでもなかった。

姉さんやヘキサ先生からも「槍が向いている」とまで言ってくれたわけだし。

それで必死になって教わった。

それが今の型、それも二槍だ。

本来のスタイルとでもいうわけではないのだが、それでも最初に習得出来たのがこれだった。

 

「ったく!やり辛いわね!」

 

「そりゃお互い様だ、君の機体のパワーアシストはどうなっているんだか!」

 

中国謹製の龍シリーズは世間でも出力が高いということで有名だ。その最新鋭機ともなれば噂以上ということになっていた。

テンペスタはその速度による回避と翻弄がスペック上求められている。

二槍によるラッシュ等で手数こそ増やせるようにしたが、欠点としてどうしても一撃が軽くなる。

半面彼女の機体はパワー重視だから、下手に受けるか殴られるかしたら吹っ飛ばされる。

かといって接近ばかりしていたら先ほど撃ち込まれた不可視の射撃…砲撃?を受けることになる。

だから、彼女に対抗するためには…

 

「戦術を変えるか」

 

『クラン』を収納、続けて普段の訓練に使っている無銘の槍を左手に、右手には3点バースト式アサルトライフル『トゥルビネ』を展開する。

『アルボーレ』や『ウラガーノ』に『アウル』を展開して本来のスタイルに戻りたいが、まだ秘蔵しておく。

まだ出すには早いのだからな…ああ、でも使いたい。

なんて優柔不断なことを考えていたら、肉厚のブレードが襲ってきていた。

後退瞬時加速で緊急回避。

即座に銃口を彼女に向けて射撃を行う。

装甲内部操縦桿にまでその振動が伝わってくる。

だが、射撃攻撃を行いつつも、奇妙な現象がいくつか見えた。

弾丸のいくつかが空中で弾き飛ばされている。

あの肉厚のブレードで弾丸を防ぎ、防ぎきれないものは空中ではじかれる。

 

「こんなもので、アタシは止められないわよ!」

 

「…強い…!」

 

オリムラ以上の強さだ。

そしてダメージを恐れずに突っ込んでくるその剛毅さ。

こちらの戦術よりも常に上手を取ってくる。

 

「これが…代表候補生の強み、か…」

 

まったく、素人には考えられないことをするよな…。

だけどな、俺だってそれなりに負けず嫌いなんだよ!

このタイミングで通信回線を開く、繋げる先は…メルクだ。

 

「どうしましたお兄さん?」

 

「悪いな、やっぱり使うよ。

本当ならもう少し先にまで隠しておきたかったけど…!」

 

装備を再び変えようとしたら、ブレードが飛んできた(・・・・・)

ギリギリで回避してから視線を前方に戻せば、驚いたことにもそのブレードは連結されたらしい彼女の物だった。

辛うじて回避できたが、追い打ちとばかりに見えない衝撃が襲ってくる。

ああもう、装備の換装させる暇も与えないっていうのかよ!

 

「何を考えてるのか知らないけど、これ以上はそっちのペースに持ち込ませたりしないわよ!」

 

そりゃぁ酷い考え方だ、寧ろ俺が君のペースに飲み込まれているだけなんだが。

距離を離そうとすれば見えない衝撃が襲ってくるわ、接近戦に持ち込めばパワーで負けるわ、こうなったら右手の銃だけでどうにかしたほうがいいな。

 

「ああ、そうかよ!」

 

売り言葉に買い言葉で言い返すもどうにか突破口を見つけたい。

舌戦でどうこうなる相手ではないだろう。

オリムラの場合は言葉が通じても話が通じないけど、凰さんとはコミュニケーションがハッキリと出来るようだし。

 

換装はすでに諦めている。

なので、槍と銃だけでどうにかこうにかしていこう。

 

「とにかく、だ」

 

どう対処すればいいのか、それは今までと何も変わらない。

姉さんからも繰り返し言われてきたけど、まずは…観察に徹するところからだ。


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