IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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執筆した内容がやや中途半端になったので、続きは近日公開します。
ウェイル君の前回の戦歴ですが、ウェイルとメルクの機体に搭載されたシステム越しにリアルタイムで姐さんの所に届いています。

おや?姐さんのPCのディスプレイの片隅にデフォルメされた鵞鳥のマークが…?


第34話 逢風 終わり?始まり?

それは、一つの出逢いだったのか、それとも何かが終わるものだったのか、アタシにはまだ判らなかった。

 

東側のピットからは白い機体が飛び出す。

その搭乗者は知っている。

 

織斑全輝

 

私からすればこの世で最も嫌いな人間。

それと同じだけ嫌いな女もいるけど、私としてはもう二度と干渉すらしたくない相手だった。

クラス対抗戦二日前に、男性搭乗者というものに興味を惹かれ、面白半分で入ってみたクラスがアイツのクラスだったことには心底後悔した。

でも、興味を引く存在はそれだけじゃなかった。

 

「ぅん?もう一人の男性搭乗者?

ああ、3組のハース君ね」

 

ルームメイトのティナに教えてもらったもう一人の男性搭乗者の情報だった。

3組に所属しており、白い髪が特徴の男子生徒らしかった。

ホームルームが始まる前、興味本位で3組のクラスに来てみたことがあった。

けど…肝心の男性搭乗者とやらは…

 

「…くー…くー…」

 

寝てた。

腕を枕にして。

しかも頭の上に眼鏡を乗せて…。

 

やっぱり、違ったのかな…

 

そんな切ない思いを抱えたまま、アタシは3組から立ち去った。

だけど…顔も見ず、何一つ言葉を交わす事も無く立ち去ったのは惜しい判断だったかもしれない。

そう思っているのも確かだった。

 

それからはティナに半ば押し付けられたかのように任せられたクラス代表の仕事をしていく必要があり、言葉を交わす暇すら失われてしまっていた。

仕事…というよりも、クラス対抗戦に向けた訓練だった。

クラスメイトのみんなも訓練に付き合ってくれていた。

3機の打鉄と3機のテンペスタ。

それを交代してもらいながら相手にしていく。

クラスメイトの皆の実力を測れ、そしてみんなの実力も向上させていく。

そういうギブアンドテイクで訓練は成り立っていた。

 

「はぁ…はぁ…次、始めるわよ!」

 

貸し出せた機体の数には限りはあるけど、訓練に付き合ってくれているクラスメイトはもっと居た。

それこそクラスの大半。

望む人には戦術を限定した状態で。

望む人には私が出せうる本気で。

そういう形で訓練を幾日も繰り返す。

 

力が欲しかった

 

一夏の悲しみを…絶望を…理解できるほどに…

 

闇の深さを知り、そこから掬い上げるあげることができる力が

 

(希望)になりたかった

 

もう二度と、絶望の闇に侵されなくて済むように

 

私がアンタの居場所になるって…そう決めたんだから!

 

 

 

クラス対抗戦の日、私は駆け抜ける流星を見た。

暗い紫に染まる機体、同じような色に染まるバイザーの向こう側の素顔は見えなかったけど、それが誰なのかは理解できた。

 

「『ウェイル・ハース』…」

 

二振りの長い槍を自在に振るい、全輝を相手に切り結ぶ。

それどころか凌駕していく。

あの女譲りの単一仕様能力『零落白夜』のセオリーでもある、中遠距離への離脱も行わず、その脅威の圏内へと飛び込み、突き抜けた。

 

「お前にだけは負けない!」

 

その言葉が耳に届いた。

そしてその声は…一夏に似ている気がした…。

 

歯を食いしばりながらも…諦めなかった彼の声に…

 

その突風を纏う槍が止まることは決してなかった。

白い両翼を貫き、青と白に染まる左足を貫通し、そのまま砕くといわんばかりに地に這わせたままの疾走にとうとう両手の装甲をも砕く。

電磁シールドごと粉砕すると言わんばかりにアリーナの壁面へと衝突させた。

響く轟音と衝撃が広がる。

偶然か、それとも狙っていたのかはわからないけれど、それは私のすぐ近くだった。

ティナや皆は悲鳴を挙げながら逃げ出していたのに、私は目を奪われて離れられなかった。

 

「…ぁ…」

 

轟音に麻痺した聴覚が回復し、最初に目にしたのは…紫に染まる左右非対称の翼だった。

 

「少なくとも…姉さんはそれを俺達に教えてくれたよ…」

 

暗紫のバイザーから零れ落ちる白い髪の彼がそう呟くのを、私は確かに聞いていた。

槍を携え、彼は飛翔する。

 

ウェイルが言うところの『姉』とは誰の事なのだろう…?

国家代表候補生の『メルク・ハース』は『妹』であることは私も情報から把握している。

それ以外に姉と呼べる人が居るのかもしれない。

 

今になって『もしかしたら』という願望が胸の内に駆け抜ける。

それを確かめたい、知りたい、言葉を交わしたかった…。

 

「…く…そ…オレが…負けた…!?

あんな…あんな凡人如きに…!?」

 

全輝が気絶でもしていたのか、ようやく動き出す。

でも、その声は怨嗟に満ちていた。

コイツにこんな一面があるだなんて知らなかったけど、どうでも良かった。

 

「認めない…あの野郎…絶対に許さねぇ…!

オレをコケにしやがって…!」

 

「アンタの負けよ、全輝」

 

コイツのこんな表情に興味も何もなかった。

だから、言うべきことを言ったらさっさと立ち去ると決めていた。

 

「フザけんな!俺は負けてなんて」

 

「負けたのよ、技術や機体性能云々の話じゃないわ。

もっと、別の方面でね。

寧ろ、アンタは誰にも勝利なんて出来ないわ、それが理解できてない限りは何一つ覆す事なんて出来ないわよ」

 

今のアタシが言うべき事なんてそれだけに過ぎない。

さっさと駆け出す。

目指すべきは西側のピットだった。

 

視界の端に、あの日、木刀で斬りかかってきた女の姿が見えた。

どうやら全輝のもとに駆け付けたらしい。

あの女にも私としては関わりたくはない。

こうやって考えてみれば、アタシって嫌いな奴が多いかもしれないわね。

 

 

 

ひたすら走って西側のピットに到着した。

ドアの隙間から中の様子を伺ってみる。

声が聞こえた、それも二人分。

見えたのは、桜色の長い髪の女の子。

知ってる、あの娘がイタリア代表候補生『メルク・ハース』。

もう一人の、白に染まったやや長めの髪の人が『ウェイル・ハース』なんだろう。

 

「あ、眼鏡をしていたからバイザー付きの機体だったのかな…」

 

そんなどうでもいい事が口から零れ落ちた。

でも、髪の隙間から眼鏡の向こう側が垣間見えた。

その瞳は、『妹』らしいメルクとは似ても似つかぬ『黒』に染まっていた。

イタリア人でも黒い瞳は珍しくもないかもしれないけど、髪の色も瞳の色もここまで違うなんてことはあるのだろうかと違ってしまう自分が居た。

もしかしてあの二人は血縁関係なんか無くて、どちらかが養子だとか…?

 

「…詮索のし過ぎ、かな…」

 

今は二人の邪魔をする気なんて起きなかった。

それに、垣間見えた笑顔は偽りのないものだったと信じられた。

もしも…もしも一夏が微笑んだのなら、あんな笑顔だったのかもしれない。

ウェイルが夢に現れる男の子だったとしても、それを訊いてみようかな、なんて。

 

でも、会話をする機会が無いわけじゃない。

もうすぐ私の試合も近いから…その試合の最中に尋ねてみよう。

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

試合終了後は、やはり格納庫に戻ってからの整備だった。

こういうところは小まめにしないといけないよな。

尤も、整備をしたからと言って勝てるわけではない。

だけど『整備を怠ったから負けた』という敗因は消え去るわけだ。

つまり、『勝利出来るとは言えないが、敗因が一つ無くなる』、という事だ。

 

「スラスターに砂が入り込んでいるなぁ、急いで整備しておきたいところだけど、今は時間が無いから予備パーツに交換して整備は後回しだ。

えっと、それに合わせてエネルギー配分の調整をしておかないとな。

長槍(クラン)は…この摩耗具合だったらまだ使えるな、けど対抗戦が終了したら解体して整備が必要だな…。

ウラガーノのお披露目はまだ早いから…次は脚部の装甲内も確認しておかないと…」

 

一試合を終えたとしてもやることは沢山あるわけだ。

その整備にはメルクにも手伝ってもらっている。

それでも今は現状の情報処理だけで手が一杯だ。

 

「お兄さんのアンブラからの戦闘データがリンク・システムで受信完了しました。

ミーティオにインストールさせます」

 

「ああ、そっちの情報処理は任せるぞ。

これで織斑があの機体で挑んできたとしてもメルクも勝利ができるのが確実になるだろうな」

 

「でも、滅茶苦茶なデータもありますよ。

このスピードで急速旋回とか軌道変更とか、危険ですって…」

 

ああ、思い出すのは一つの黒歴史だろうか。

骨や筋肉も軋みを挙げていたような気がする。

それに内臓も体の一方に圧迫されてから元に戻る際の痛みで気絶しそうになったよな…。

 

「なんでだろうな…そういう無茶な事をしでかしても、アイツにだけは負けたくなかったんだ…」

 

何が俺をそこまで駆り立てたのかは、正直に言うとよく判っていない。

試合が終わった後になってからは尚更なまでに。

俺とアイツの因縁なんてものが存在していたとするなら、食堂での一件だけだろう。

それ以外には皆目見当がつかない。

というか、それ以上の因縁なんて存在してたまるか!

作って堪るか!

精神の平穏は金じゃ買えないんだぞ!

 

「で、楯無さんはいつまでそこに居るんですか?」

 

試合開始前から試合終了後に、果てはこの整備用に借りた整備室にまで、当然と言わんばかりに同行してきている人がそこに居るわけだ。

 

「気にしなくていいわよ」

 

そして微笑む生徒会長。

ここで無理を言って追い出そうとしても、軽~くあしらわれるのが関の山だろうから2秒で諦めた。

まあ、気にするのも時間の無駄だわな。

 

そんな折り、壁面に埋め込まれたモニターが点灯し、標示が出てくる。

どうやら次の対戦カードの発表らしい。

 

『3組クラス代表 メルク・ハース

       VS

 1組クラス代表 織斑 全輝

 

織斑 全輝の機体損壊状況により試合不可

よって、メルク・ハース 不戦勝』

 

ありゃりゃ、メルクがこのまま不戦勝で終わったそうだ。

そして引き続き

 

『4組クラス代表 更識 簪

       VS

 1組クラス代表 織斑 全輝

 

織斑 全輝の機体損壊状況により試合不可

よって、更識 簪 不戦勝』

 

とのお達しが。

 

更に更に

 

『2組クラス代表 凰 鈴音

       VS

 1組クラス代表 織斑 全輝

 

織斑 全輝の機体損壊状況により試合不可

よって、凰 鈴音 不戦勝』

 

とのお達しが。

早くも1組は勝率0%の結果が出たらしい。

というか連戦の予定だったのかよアイツ。

誰が対戦カードを用意していたのだろうか…?

楯無さんに視線を向けるけれど、首を傾げて

 

「何かしら?」

 

俺が何を問いたいのか察してくれていないということはどうやら違う…の、だろうか?

 

「どうしましたお兄さん?」

 

「いや、なんでもない。

整備を急ごう」

 

処置が間に合わない部位に関しては予備パーツに交換し、最適化させ、エネルギー配分を調整し、出力調整もさせておく。

んで、次の試合に間に合うように簡単な部位の整備だけでもしておかないとな。

 

だけど、俺の手のスピードは格段に落ちていた。

『凰 鈴音』、その名前を見た瞬間に何か胸の内で揺らぎが生じていた。

初めて聞く名前にしては…そのような気がしない。

懐かしいような…それでいてどこか寂しいような…この揺らぎは何なのだろうか…?

 

苦しい…?

 

違う

 

淋しい…?

 

それも違う

 

それでいて…どこか切なかった…。

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

初陣を終えてからウェイル君が戻ってきてからメルクちゃんは大はしゃぎだった。

ウェイル君のことなのに、まるで自分の事のように。

飛び跳ねて、抱き着く。そんなメルクちゃんをウェイル君も受け止めて抱き返す。

羨ましい光景だと思いながらも、そんな二人をそっとしておくことにした。

 

そんな二人を覗き見る誰かさんが居ることも感じ取っていたけど、害意のあるソレではないと理解したからこそそっとしておいた。

 

「嬉しい気持ちはさておいといて、早速整備に移らないとな」

 

メリハリをつけるのがウェイル君のペースなのかもしれないけど、もうちょっと喜んでもいいんじゃないかしら?

そう思う頃には視線の主は立ち去ったらしい。

気分を一新させたらしい二人に同行しながら、整備室へと来たけれど、二人はとにかく忙しそうにしている。

けど、私はそれを手伝えない。

もとより私は別の役割があって此処に来ていた。

日本政府は二人の監視と、必要があれば身柄拘束を命じてきているけれど、私達更識はその指示を受けながらも別の意図を以って二人に接触するようにしていた。

その目的は『護衛』。

無論、これはイタリア政府に話は通じてはいない。

更識が独自に動いているというだけの話。

 

先の一件もあり、イタリア政府にこの話をしたところで信用などされるはずもないと理解している。

だからこその更識独自の独断行動。

それに、イタリアが送り付けてきた文書に関してはこの二人は何も知らないから尚更好都合だった

日本政府には「監視をしている」と言ってのけ、イタリアには「警戒している」と察しをつけてもらう。

どっちつかずの蝙蝠みたいな行動をしているけれど、これが私達に出来る最善の行動だった。

 

「にしても、ウェイル君も無茶をしたわね」

 

「何がですか?」

 

整備をする手を休めずに私に返答をしてくれる。

うんうん関心関心!

 

「あの動きよ、あんな速度で急速旋回だなんて身体への負担は大きいわよ。

内臓が体の一方に寄せられ、圧迫される。

下手をしたら内臓の破裂の危険性だって在ったのよ。

あの動きもイタリアで学んだものだとするのなら、貴方達の教官は…」

 

「先生から教わった技術じゃないですよ」

 

ともなると…どこから…?

 

「自分でも多少の無茶をしたのは自覚しています。

それでも、織斑には負けたくなかったんです…」

 

「何故?今回の対戦は成績にまで反映されるものではないのよ?」

 

「…多分、理屈とかの話じゃないんだと思います。

あの時、自分が何故あそこまで『アイツにだけは絶対に負けたくない』と思ったのか…自分でも全然判らないんです」

 

そんな言葉を紡いだウェイル君は…どこか寂しそうな笑みを浮かべていた。

…自分で自分がわからない、か…。

思い返してみれば私もそんな感じだったかもしれないわね…。

早く仲直りしないと…簪ちゃんと…。

 

「あ、次の対戦表が発表されましたよ」

 

メルクちゃんの声に意識を現実に戻す。

モニターに表示された対戦カードは

 

『2組クラス代表 凰 鈴音

       VS

 5組クラス代表代理 ウェイル・ハース』

 

「あれ?また俺か?()()()()()な。

本来のパーツじゃ間に合わないし、やっぱり予備パーツでやるか」

 

そのウェイル君のつぶやきに、この対抗戦の違和感に気づく。

冒頭のメルクちゃんの試合に、先程の織斑君の連戦予定に続き、再びウェイル君の出番。

この対戦カード、操作されている!

それこそ誰に?

決まってる(・・・・・)

 

「そう、ただでさえ抜け穴になる公式戦で時間の穴を作ろうってわけだったのね…!」

 

懐から暗器を取り出す。

取り出すのは苦無。

 

影踊(かげろう)流…陽刺舞(ひしまい)!」

 

両手に握られた苦無を手首のスナップだけで整備室の八方に向けて投擲。

天井の四隅、床近くの四隅、そこに施された監視カメラのレンズを全て貫通する。

 

ガシャガシャガシャバリィ!

 

迂闊だった。

直接見る事は出来なくても、監視カメラを経由すれば、管制室とピットを行き来している彼女には丸見えだっただろう。

その監視カメラを通じて何を企てていたのかは知らないけれど、止める他に今の私達に選択肢は無い。

 

「楯無さん?何をしているんですか?」

 

「驚かせてごめんなさいね、どうやら覗きをしている人が居たみたいだから」

 

「「?」」

 

はいはい、二人揃って首を傾げない。

仲が良いのは理解しているから。

 

学園長に釘を刺されていたにも拘らずこの体たらく。

正直、あの時には更識の組織維持の為に完全黙秘という、言質を取られないためだけの無能の対応をした。

……正直、織斑先生とは関係を断つべきかもしれない、そう思うようになってきてしまっていた。

 

「…後手に回ったわね、これは悪手になるかもしれないわ…」

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

予想はしていたけど、本来のパーツは間に合わないと判断し、予備パーツで間に合わせることにした。

出力調整はすでに終わっているから、この試合の間だけでも不備は出ないものだと祈っておこう。

 

「エネルギー配分、出力、駆動系統、各種センサー問題無し。

よし、全システムオールグリーンだ、行くぞメルク!」

 

整備出を飛び出した途端に、通路の右側には

 

「あれ、虚さん、どうしました?」

 

そう、その人が居た。

 

「えっと…私も整備課に所属していまして、よろしければ整備の手伝いをしようかと思っていたのですが…」

 

目を泳がせながらの返答だった。

あれ?この人に何があったのだろうか?

こんな返答の仕方をする人じゃなかった筈なんだが…まさか偽物?

いや、それこそまさかね。

 

「お気持ちはありがたいです、じゃあ今回の対抗戦が終わったら整備のお手伝いをお願いします」

 

人手が増えるのは悪い事ではない、寧ろ有り難い。

気持ちを受け取ることにした。

 

「では、整備課の精鋭に声をかけておきますので」

 

「その時は妹ともどもお世話になります!」

 

シュタッと手を挙げて軽い挨拶を交わし、俺は一気に足を加速させる。

ピットにたどり着けば、試合開始時間2分前だった。

調度東側のピットからも対戦相手が飛び出してきていた。

 

「来てくれ、嵐影(テンペスタ・アンブラ)

 

俺も機体を展開させて飛び出す。

規定位置にまで到着し、相手を観察する。

機体を、ではなく、搭乗者を。

その素顔は晒されている。

 

…似ている、素直にそう思う。

似ているどころじゃない…むしろ、夢の中に幾度も現れ続けていた彼女が目の前に居るかのようだった。

 

「…5組クラス代表代理、3組クラス代表補佐、イタリア企業FIAT所属『ウェイル・ハース』だ」

 

「2組クラス代表、中国国家代表候補生、『凰 鈴音』よ、宜しく」

 

ハイパーセンサーに命じ、顔の上半分を覆うバイザーを開く。

これで俺の素顔も見えるだろう。

 

「…君に訊きたいことがあるんだ…」

 

「奇遇ね、私も貴方に訊いておきたいことがあるの」

 

 

 

 

 

夢の中に現れ続けていたのは君だったのか?

 

 

 

 

何処かで逢ったことはありませんか?

 

 

 

 

君は、俺を知っているのか…?

 

 

 

 

俺の知らない俺を、知っているのか…?

 

 

 

 

訊きたいことは濁流のように押し寄せてくる。

だけど、何から口にすればいいのかが判らない。

迷っている間に、試合開始のブザーが鳴り響く。

…悔しいけど、話は後回しにしよう…それでも、言いたい事が沢山在るんだ…!


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