IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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今回はサクッと筆が進んだので早めの投稿です。
次回も早めに投稿の予定です。


Q.ウェイルのテンペスタの固有名称って決めてるのでしょうか?
そろそろ教えて下さいよ。
P.N.『バウワウ』さんより。

A.名称は決めています。
その名称が登場するのは次回になりますのでお楽しみに!

ガチャやってみたら、上から下まで真っ黒いの『復讐者』が出てきたのだが…あれ?
星『0』ランク⁉
そんなの在るんですねぇ…というか宝具使いにくいなぁ…。

それはそれとして、ギル祭りでホイホイ箱を開けているわけですが、雨空の狙いは『マナプリズム』と『種火』のカードです。
狙いは、ね…。
欲を言えば『鳳凰の羽』が欲しかった…。

それでも狙うものが全然出ず、QPが使い切れないほどに貯まっているわけですよ。
前回のベガス祭りでもアホみたいにガッポガッポの雨空ですが、ここまでQPを貯めさせるくらいなら、QPでガチャを回させてほしいと思っています。
もしくはリアルマネーではなく、QPと星晶石との交換システム実装を…!
いや、ホント。
伝わらない人も居るかもしれないが伝われこの思い。


第31話 羨風 離れ別れて

一人の少年が、自室でほくそ笑んでいた。

彼の脳裏には先日廊下に貼り出された、セシリア・オルコットの処分が思い起こされていた。

それは彼にとって予想通りの展開だった。

彼女から身に覚えの無い誹謗中傷を受けたのは確かな話だ。

その挑戦を受け、尚且つ返り討ちにした。

それでも忌々しげな視線を突き刺してくるのが気に入らなかった、ひどく不愉快だった。

だから、八つ当たりが出来る対象を求めるその復讐心の矛先を変えさせ、その心を暴走させた。

 

 

とは言え、彼女がやった事は重大な話にもなってくるだろう。

そうなれば最悪の場合も想定出来た。

だが、それが彼の狙いでもあった。

 

「まあ、アイツの自業自得だ。

精々あの野郎に重傷でも負わせる程度には役に立ってくれてたら良かったけど…役立たずな奴め」

 

セシリア・オルコットが処分を受けるのは確実。

それで済むのならそれでも良かった。

居なくなれば尚更良し。

その際、3組の彼に大なり小なり被害を与えていれば更に。

重傷を与えていれば、二人まとめて居なくなるだろうから、そうなればそれがこれ以上と無い結果だ。

そうなったとしても、その二人に対しては悪びれる気など微塵も無かった。

 

なにしろ、()()()()()()()()()()()()()のだから。

そして、自分は何もしていない(・・・・・・・・・・)のだから。

 

そう、あくまでも想像通りの展開の一つだった。

だが、そこから先は何一つ予想していなかった。

 

今回の件により、国際情勢が著しく変動していく事も。

 

ある人物の首を締め上げる事に繋がるとも。

 

そして…窓の外からその様子を見ている小さな影が居る事も。

 

 

 

 

 

 

♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪ ♪

 

 

 

 

「誰か…居るの…⁉」

 

声が聞こえた。

脅えながらも、警戒に満ちた声が。

多分聞き覚えは無いと思う。

 

「ああ、今日ここを使うことになっていた…」

 

「ま、待って、ここを使うように私も予約をしておいたんだけど」

 

おや?予約が重なってしまっていたのだろうか?

だけど、それなら何か知らせが在ってもいいんだろうけども…。

 

「メルクは何か聞いてるか?」

 

「いえ、何も」

 

あれ?じゃあいったいどういう事なんだろうか?

 

疑問に思いながらも俺は通路に出た。

そこに居た少女の姿を改めて見てみる。

 

背丈はメルクよりも少し高い。

珍しいスカイブルーの髪がセミロングになっており、その双眸は紅だった。

そして俺と同じく眼鏡をしている。

尤も、俺の眼鏡はハーフフレームで、彼女はフレームレスだ。

眼鏡というだけで何故か親近感が

 

「………………」

 

湧いて来なかった。

俺の姿を確認出来た時点で訝しげだった視線は、侮蔑を込めた視線へと切り替わる。

あれ?俺、何かしたっけか?

 

「えっと…何かな?」

 

「私は、更識簪、日本代表候補。

それとこの格納庫の中を見て察することは何も無いの?」

 

自己紹介どうも。

そして有無を言わさぬ問いに俺もメルクも首を傾げる。

改めて格納庫の内部を見て…作成途上の機体が鎮座しているだけで、あとは比較的整っているようだが…。

ふ~む、そう言われてもよく判らないな…。

 

「すまない、君が何を言いたいのかが判らない」

 

「私もです、えっと…更識さんは何を伝えたいのか…」

 

すると彼女の眉尻が吊り上がる。

目に現れたのは苛立ちと憤怒だった。

だけど、その瞳に映っているのは本当に俺なのだろうか…?

 

「あの子…あの機体は、作成機関から開発計画を凍結されて今に至るの!

開発費用も!開発スタッフも!資材も何もかも!

貴方がISを稼働させた事で、貴方の専用機開発の為に!」

 

何故だろうか。

この態度に何か懐かしさを感じた。

拒絶をするためになけなしの勇気を奮っているように見受けられるこの瞬間に…。

 

とはいえ事情は察した。

彼女は日本代表候補生であり、専用機を受領する予定だったのだと。

けど、男性搭乗者が登場したことで、その人物の機体の開発を優先したことで、彼女の機体開発計画は遅延どころか凍結処理された、と。

 

「その開発機関って何処ですか?」

 

「…『倉持技研』」

 

…ん?なんか話が噛み合わないぞ?

俺の機体にしてもメルクの機体にしても、開発元はFIATだ。

少なくとも日本に開発を任せたなんて報せは無かった筈だが。

 

「言い分は判りました。

ですが更識さんは何か勘違いしていると思います」

 

そう言ってのけたのはメルクだった。

あのぅ、メルク?

そのセリフは俺の言うべきところだと思うんだけども…。

 

「勘違い?何を?」

 

俺もこの勘違いに関しては粗方察しはついた。

あいつ(・・・)と俺と見分けがついていないのかもしれない、と。

 

「その為にも一応自己紹介しとく。

俺はウェイル・ハース。

イタリア出身の二人目の男性搭乗者と呼ばれている者だ」

 

この瞬間に紅の双眸が大きく見開かれた。

ああ、判るぞ、驚愕しているんだろう。

そして視線がメルクに向かい

 

「…本当なの?」

 

「ああ、本当だよ。

信じられないなら、担任の先生に伺ってみてもらって構わない」

 

それで納得したらしい。

その双眸と同じくらいに顔を真っ赤にして

 

「ご、ごめんなさい、てっきりあの人なのかと思って…」

 

「まあ、なんだ、その…勘違いは誰にでもあるだろうし、そうだよな、メルク?」

 

「え⁉あ、は、はい、そ、そうですね」

 

挙句の果てには三人揃ってしどろもどろになっていた。

この空気、どうしようか…?

 

「じゃあ、引き続き、この第4格納庫を使わせてもらうよ」

 

「此処、第4じゃなくて第5()格納庫だよ」

 

気まずい空気はなおも続くのだった。

一番最初に勘違いしていたのは俺だったようだ。

穴があったら入りたい!

 

 

 

それから5分後、メルクがカフェオレを淹れてくれたのでそれを飲みながらの話になった。

最初に出たのは、今もハンガーにて鎮座しているあの機体についてだった。

機体の固有銘は『打鉄 弐式』。

日本製初の第三世代機になれなかった機体だ。

この機体の開発計画は冗談抜きでの凍結処理だそうだ。

最初の男性搭乗者である『織斑』の機体開発計画が最優先となり、資材、費用、職員のことごとくを奪われ、携わる事が出来なくなったそうだ。

 

「ああ、なるほど、道理で機体開発がこんなにも早かったんですね」

 

「どういう事だメルク?」

 

メルクは何か納得したらしい。

 

「えっと…機体開発には長期の日数を要します。

これは知ってますよね」

 

俺は首肯して返す。

実際にメルクの専用機でもある『テンペスタ・ミーティオ』の開発も教えてもらっているからその程度は承知している。

あれだって半年程度はかかっていた。

開発計画が発生したのを含めればもっとかかっていただろう。

 

「あ、そういう事か」

 

織斑がISを稼働させたのは2月だった。

たった二か月やそこらであいつの機体は完成している。

その資材は?

費用は?

職員は?

それらすべてをどこから持ってくる?

個人で補填できる要素でないのは当たり前だ。

なら、何処か別の所から持ってくる必要がある。

そこで目をつけられたのが更識さんの機体開発計画だという事か。

この話、以前は予想でしかなかったのだが、これにて確信と裏付けまで出来てしまったというわけだ。

しかも物的証拠、それによる被害者本人というオマケ付きで。

 

「で、その機体を学園に持ち込んで組み立て途中、と言った所かな?」

 

「正解。

そこに貴方が来たからてっきり噂の男性搭乗者が来たのかと思ったの」

 

あんな奴と同一視されるのは嫌なんだけどなぁ。

更識さんの場合は、織斑の容姿とか興味の外だったんだろうな。

あ、それは俺に対しても同じか。

俺は目立つつもりが無いからどうでもいいんだけども。

 

「で、開発の目処は…」

 

「えっと…その…」

 

あまり進んでいないのが見て取れた。

 

「代表候補生もしてるけど…、クラス代表も兼ねていて…このままじゃ…クラス対抗戦にも間に合わない…」

 

手伝いたいのはやまやまなんだけども…

視線をメルクに視線を送ると…首を横に振る。

ダメらしい。

 

「事情を知っても、私達には手出しが出来ません。

機体も機密情報が何処に在るのか判らぬ以上、間者(スパイ)と扱われかねません」

 

「国際規約っていうのは面倒だな、肝心のタイミングで行動を制限してくるんだから」

 

微微たる調整程度なら大目に見てくれるものではあるけれど、組み立ての段階からとなると完全に待ったがかかる。

日本の機体は日本人が完成させろというロジックだ。

 

「間に合わないかもしれないけど、私はこの機体を一人で完成させたいの」

 

心意気は見事としか言えないんだけど、間に合わないと思う。

しかも

 

「なんで一人での完成を拘るんだ?

ああ、開発スタッフを総取りされたのは承知しているけども」

 

「それは…」

 

そこから先の理由を聞いて、どう反応すればいいのか心底困らされることになった。

 

 

 

その日の夕飯時、今日も自炊にするつもりで居た為、部屋に戻ってきていた。

家族とのテレビ電話を終えた直後、どこで聞きつけたのか知らないが、楯無さんもこの場に来ていた。

今日の夕飯の当番は俺だったから、厨房で食材の用意をしている。

今日の夕飯はペスカトーレ、パスタ料理だ。

母さんには、未婚の男性がよく作る料理の筆頭が『カレー』と『パスタ』なのだとか教えられた事が在ったな…。

 

「そう、ウェイル君は簪ちゃんと知り合ったのね…。

ああ、うん、その…簪ちゃんのことは把握していたのよ。

だけど、あの子は私に苦手意識を持ってしまっているから…」

 

その経緯に関しては一通り聞いてしまっていた。

 

「お兄さん、判決は」

 

「有罪確定、晩飯抜きの刑だ」

 

「二人して酷い!」

 

人に言えないような稼業をしているのは薄々と察している。

そこから遠ざけ、危険から切り離そうとしたらしいが、更識さんは楯無さんの影の中の存在にされてしまったという事らしい。

 

俺が姉さんからそんなことを言われようものならどうするだろうか…?

多分、絶望していただろうな。

家族に希望として見られるのならまだしも、切り離されたということにもなるのだろうから。

俺としては家族の居る場所が、自分の居場所なのだろうから猶更だ。

 

「よし、ペスカトーレの完成だ」

 

「お皿持ってきました。お兄さんと、私の分を」

 

「また私はお預けなわけね…」

 

何を今更、先に宣告しておいたんだから当たり前だろう。

そう思いながら、フライパンの中身を皿に盛り付ける。

オムール貝を始めとしたシーフードが色鮮やかに見え、食欲を加速させてくれる。

 

「同情っていえばソレになるんだが、どうやってか更識さんの機体の組み上げを手伝ってあげたいなぁ。

メルクは何か案は在るか?」

 

「うぅん…一人で完成させるということに拘らなければ…」

 

「そうなんだよなぁ…誰かさんが一人で機体を組み上げたっていうから対抗意識まで持ってるのがなぁ…」

 

その誰かさんに視線を向けてみると…目を見開いていらっしゃった。

オイ、なんだその反応は、アンタの事だよ。

だが

 

「私はそんなことを吹聴した覚えは無いわよ?」

 

…は?

いやちょっと待て、更識さんは姉が専用機を一人で完成させたと聞いたから対抗意識を持ってしまっているんだぞ?

なのにこの返答は予想外だ。

見ろ、メルクも絶句してるじゃねぇか。

 

「きっと誰かが誇張したんでしょうね、それが簪ちゃんに伝わったんだと思うわ」

 

ああ、成程ね。

噂は得てして尾鰭背鰭がつくもの、という事か。

 

「じゃあ、なんでそれを教えてあげなかったんですか?」

 

「その頃には簪ちゃんとの関係が険悪なものになってしまってたから…」

 

不器用な姉妹だな…。

妹が姉に苦手意識を持っているのではなく、姉が妹相手に苦手意識を持ってしまっているんだ。

そして妹は、姉から遠ざけられ、切り離されたと思っている。

けど、更識さんと会話をしていて思ったことがある。

彼女は、姉である楯無さんを嫌っているんじゃない、これは絶対だ。

態度の奥底にあるのは、羨望なんだろう。

 

その感覚は理解できるものがある。

俺も、メルクや姉さんにうらやんでいる節がある。

あの高みに追いつきたい、横に並べるように、と。

その手段がメカニック兼エンジニアという手段だ。

なら、俺は今回は更識さんの手伝いをしてみよう。

 

「楯無さん、組み立て作業やシステムに詳しい人に伝手はありませんか?」

 

「ええ、勿論有るわよ!」

 

「なら、その人を紹介してほしいんです、勿論日本人限定で」

 

それから名簿を出力してもらう。

候補として挙がったのは合計8人。

ここから先は俺が交渉して回ってみなければなるまい。

良い結果を出せればいいんだけど。

 

「此処まで用意してあげたのよ、タダ働きだなんて事は無いわよね?」

 

「じゃあ、報酬に…」

 

楯無さんの視線が皿の上のペスカトーレに向かう。

食いしん坊め、だがやってもらう事はまだあるのを忘れていないだろうな。

 

「ウェイル君の手料理を…」

 

「その香りだけを報酬に」

 

「酷過ぎる!

こんなにもおいしそうな香りだけを感じさせておきながら夕飯抜きとか!

美味しそうに食べている様子を見せるだけとか!」

 

だったら早く仲直りしろってんだ。

 

その間、メルクはペスカトーレの味を満喫しているようだった。

上手く出来ているようで何よりだった。

さてと、名簿書類の中の人達は、と。

ああ…やっぱり上級生も含まれてるな、明日からも忙しくなりそうだ。

 

 

 

翌日、俺は早朝訓練を中止にし、上級生の寮へと出向き、頭を下げて回った。

メルクからしたらクラス対抗戦に於ける強敵の増加ではあるが、腕を磨ける機会になると言って承知してくれた。

兄の威厳も沽券も吹き飛びそうではあるが至極今更なので、俺のプライドなんて安いものだ。

そしてその日の放課後

 

「えっと…ハース君?その人達は?」

 

「情報通が居てさ、組み上げ作業の助っ人を集めたんだ」

 

「だけど…」

 

「本人に確認してみたけど、一人で組み上げたっていう情報はデマだったよ」

 

最低限度の情報は提供しておこう。

それが彼女の為にもなるかもしれないから。

だけど、仲直りを求めているという情報は提供しない。

そこは本人達の問題であり、俺の出る幕ではないのだから。

 

「そんじゃ先輩方、組み立て作業の方、サポートをお願いしますね。

じゃあ俺はこれで」

 

立ち去ろうとしたとき、肩と腕と手をつかまれた。

 

「ハース君?私達に頭を下げてまで頼んできたのは正直、高評価だったよ~?」

 

「で~も~、私達だけに働かせて後は他人面って事は無いよねぇ?」

 

「そうそう、エンジニア兼メカニック志望者なら見て学べることもあるんだしぃ、か弱い乙女に肉体労働を押し付けるなんて事は無いよねぇ?」

 

ははは…その日の放課後は扱き使われることになるのだった。

無論、データや情報の類は見ることが禁じられているので、機材運搬に限定されていたけど。

 

 

 

 

「えっと…お兄さん、大丈夫ですか?」

 

「疲れた…」

 

ホームルーム前、お昼休憩、放課後の時間を全て費やし、機体製造時間に割り当てた。

もともと設計図が用意され、材料も充分に揃っていた。

なおかつこんな学園だ、機体調整用、及び製造用の機材はそれこそ軒並みに揃っている。

後は整備科の上級生にもヘルプを請い、徹底的に調整も施してもらっていた。

そんなわけで、クラス対抗戦の3日前になってしまっている。

残りの時間は、クラス対抗戦の為の訓練に使う必要があるため、俺はシャットアウトだ。

その直前まで走り抜けた後は、機材の片付けに奔走し、今に至っている。

 

メルクが用意してくれたスポーツドリンクを一口飲み、深呼吸を二度。

 

「更識さんの機体が完成したよ。

これで4組の人達も士気が上がるんじゃないかな」

 

「それだけ私達の勝率も下がるかと思いますけど…。

でも、更識さんからすれば慣れてない機体で挑む事になるかもしれませんから、そこを穿てば…」

 

メルクはさっそく脳内でシミュレートをしているらしい。

これは俺の勝率も稼げるかどうかは怪しくなってきたぞ。

実は敵に塩を贈っただけだったりして、な…。

 

とはいえ、俺も休んでしまった分は遅れを取り戻さないといけない。

貸し切っているアリーナにて射撃訓練に、近接戦闘訓練に型稽古を繰り返す。

固有兵装である、『アウル』『ウラガーノ』『アルボーレ』はまだ使わない。

そんな早くから使い始めていては、今後の勝率も悪くなってしまうとの事。

早くても6月くらいまでは隠すべきなのだそうだ。

 

そしてその日のお昼休み。

 

「で、俺たちに何の用ですか、生徒会長」

 

またもこの人達に呼び出されてしまっていた。

なんというか、この人達にペースを呑まれてしまっている気がする。

 

「大切なお話があるの」

 

虚さんが紅茶を用意してくれたので、一応一口。

 

「…美味しい…」

 

メルクもそう呟いていた。

 

「話すべきことは二つ。

まずはその一つ目から話しておくわね」

 

そう言うと生徒会長の表情は柔らかくなる。

警戒は…しないで良いのかな…。

 

「簪ちゃんの事よ。

機体開発に尽力してくれたのを訊いたわ、本当にありがとう」

 

それは本人が言うべき言葉だと思うんだけどなぁ。

生憎、タイミングが悪かったせいで更識さんからは感謝の言葉は受け取れていない。

昨日は後片付けに奔走して、疲れ果て、部屋でブッ倒れるようにして寝てしまっていたからなぁ。

けど、力になれたというのであればそれで良いけど、そこから先の件、すなわち姉妹の仲直りは俺からすれば管轄外、この二人の問題だ。

 

「で、二つ目の要件は?」

 

さらなる面倒を吹っ掛けられるのは嫌だったから、次の話へと飛びつく。

途端に生徒会長の顔が引き締まる。

結構真面目な話になるのだろうか?嫌だなぁ、堅苦しいのは苦手だっていうのに…。

 

「私達からすれば後ろめたい話になるの。

メルクちゃん、そんなに警戒しないで、捕って食おうってわけじゃないんだから。

それとウェイル君は嫌そうな顔をしない。

なんで二人ともそんなあからさまな反応をするのよ…」

 

兄妹ですから。

けどその言葉は喉元に留めておく。

真面目な話がブチ壊しになりそうだ。

 

「まあ良いわ。

先に言っておきます、私達『更識』は日本の暗部、いわば諜報機関組織みたいなもんだと思ってくれてい良いわ」

 

…はい?

なんかこの人凄い事を言ってる!…気がするような…?

反応に困るのでメルクに視線を向けると…

 

「…………!」

 

ものすごい警戒していた。

という…、視線で威嚇してるよ妹が。

これがシャイニィだったら物凄く尻尾を膨らませていただろうな…。

メルクがここまで警戒しているのなら『物凄い話』というよりも『ヤバイ話』だったりするのかもしれない。

 

「だからそんなに警戒しないで、先にも言った通り捕って食おうってわけじゃないんだから」

 

「そんな話をいきなりしてくるのなら誰だって警戒しますよ」

 

そうか、やっぱり警戒するような話なのか。

もう正直ついていけそうにないからメルクに任せて寝てしまおうかな…?

などと不届きなことを考えていたらメルクに手を掴まれたので、それも出来そうになかった。

 

「日本の暗部、もっと言ってしまえば日本政府お抱えの組織なの。

今回、我々はウェイル君の身辺調査を行うように指示を下されたわ。

産まれや育ちといった素性、家族構成、所属しているらしい企業、通学していた学校や、友人のような身辺を含めて何もかもを」

 

「なんで俺の事をそんなに調べたがるんですか。

しかも友人に至るまで!

俺に用があるのなら直接言ってくればいいでしょう!」

 

一瞬にして頭に血が昇った。

何のいわれがあって俺の身辺を調べようってんだ!

俺が日本に何かしたか?

日本の恨みを買った覚えも無ければ、喧嘩を売った覚えも無い!

なのに何で!

 

「安心して、日本政府からの指示に関しては断ったわ。

割が悪いにもほどがあるもの、前例も在る事だし」

 

断った…本当なのだろうか…?

八つ当たり気味に紅茶を一気に飲み干す。

この程度では気が収まらなかったけど。

 

「ご安心を、断ったというのは本当ですよ」

 

虚さんが紅茶のお替りを淹れながら言葉を囁いてくる。

生徒会長が言うよりも今人が言ってくれた言葉に、なぜか信用してもいいのではないだろうかと思えてくるから不思議だ。

 

「我々更識家、布仏家はイタリアに関する話に関しては一切の例外も無く断るというのがここ数年の間にできている暗黙の了解です。

ですが、それを理解していない人物がまだ居るようでして」

 

…暗黙の了解とやらがあるのは理解したけど、本当なのだろうかと疑ってしまう。

だけど、まだ納得出来ない。

そしてメルクの警戒している様子とくれば…。

 

「で、何で俺の身辺調査をしたがっているんですか?」

 

「織斑君がISを稼働させた直後から、全世界で国際IS委員会に名を連ねている国家の全てで男性を対象とした適性者を探してみたけれど、適正が判明したのはウェイル君の他には誰一人として居なかった。

だから君に興味を持ったのだと思うわ。

あわよくば、日本に連れ込み人体実験をしようとしてたというのもこちらで裏付け調査までしたわ。

無論、きっちりとこちらで処分したから安心していいわ」

 

…日本に来るのって、本当は危険だったんじゃ…。

今さらになってこの国にやって来たのが不安に思えてきた。

というか見ず知らずの他国の人間をモルモットとして徴収しようとか狂ってるなぁ。

 

「だけど一応念の為、学園外に外出する時には、メルクちゃんか私の同行を求めるべきよ。

メルクちゃんも私も同行が出来ない場合は、教師か、ほかの専用機所持者を護衛に雇う必要があるでしょうけどね」

 

「面倒だけど…仕方ないか。

いや、ちょっと待った」

 

「何かしら?」

 

うわぁ胡散臭い反応辞めてほしい。

 

「メルク、ほかの専用機所持者、教師の同行はいいとして、何故楯無さんが別枠で候補に挙がってるんですか?」

 

「せ、生徒会長たるもの、学徒の安全を守る義務が在るからよ!」

 

…可能であるのならメルクに同行を求めるとしようか。

うん、そうしよう。


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