IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第27話 夜風 その時が

「それが、2組と1組はまだ未決定らしいですよ」

 

「ふぅむ、そうなのか…」

 

メルクの返答はそれだった。

 

どうにも今年は波乱万丈なようだ。

5組は一般生徒がクラス代表に就任。

4組の代表候補は機体が未完成。

3組では俺が編入。

2組は、クラス代表が未決定で、中国代表候補が国のゴタゴタにて、まだ学園に到着していない。

1組はクラス代表が未決定、と。

 

「ミリーナさんからの情報だと…」

 

情報通ミリーナ恐るべし、一日経っていないのに他クラスの事情を丸裸かよ。

 

「2組はアメリカ出身の一般生徒の方が推薦されていたらしいですが、その方が中国代表候補の方に役目を渡そうとしているそうです。

その本人も不在で交渉が出来ていないそうですから、クラス代表が決定できなかったそうですよ」

 

確かにクラス代表の役目は、クラスメイト全員が揃っている状態で決めた方が良いだろうな。

不在者に押し付ける形になってしまっていたら、押し付けられた側は納得できないだろうし。

その中国代表候補の人、そんな大ごとになってるのを知ったら何と言うのだろうな、ご愁傷様、と。

 

「で、最後に1組だけど」

 

楯無さんがサーモンサンドを食べるのを中断し、口を挟んできた。

 

「…イギリス代表候補生と、男子生徒との間で諍いが起きたのよ。

それで試合をして、勝者がクラス代表に就任する事になったわ」

 

「そりゃまた無謀なことをするもんだな…ポッと出の一般人が代表候補生に勝てるとは思えないんだが…。

俺だって喧嘩になったらメルクに負けるというのに」

 

兄の威厳?

そんなものとっくの昔に跡形残さず消し飛んでいるさ。

最低限の沽券を保っていられればそれで良いだろう。

 

代表候補生というのであれば、軍属であり、多くの修練を積んでいる搭乗者というのも同時に指し示す。

そんな相手に、ポッと出の一般人が、ISという慣れないものを使って戦うとか…なんで1組の担任や副担任は止めなかったんだ?

こういう場合は経験者に任せればいいのに…。

 

「そこで私やお兄さんを引き合いに出すのは如何なものかと…」

 

いや、実際に喧嘩になったら俺は姉さんにもメルクにも勝てないぞ。

腕力だけなら勝てるかもしれないけど、技術面では二人が圧倒的に上だ。

俺がISへの搭乗が可能だとわかってからは結構鍛えられているけど、それでも結局は技術で負ける。

ブレード(グラディアス)では俺自身しっくり来ていなかったからだ。

だから別の武装、『ウラガーノ』や、イタリアを出立する、その直前に急遽届けられたパッケージ『クラン』に切り替えたりしていた訳だからな。

 

そのうえで色々と試した、自分なりに努力はしたし、研鑽も積んだつもりだ。

メルクや姉さんには、それでも遥かに届かない。

それは今日の放課後でも実感したことだ、ISを用いずに白兵戦闘訓練をしたけど黒星がいまだに続いているからな。

もう一人の男性搭乗者…『オリムラ』だったか、そいつはどうなのだろうな。

 

「にしてもミリーナは凄いよな、一日経ってもないのに他のクラスの情報を根こそぎ集めてくるとか」

 

「パパラッチを自称していたのは伊達じゃないみたいですね」

 

取材される側になったら逃げられる自信がまるで無いんだが。

今後も彼女とはいい方向で友人として付き合っておこう。

追われる側になって堪るか、専属パパラッチになるとかほざいてたけど!

 

「クラス対抗戦か…クラス代表同士を対戦させてその勝率で競うんだったな」

 

「で、一番勝率が高いクラスの全員に、スイーツの無料券が半年分支給されるんだそうです!

絶対に負けられないですよ!」

 

辛いのが苦手だからか、俺の妹は甘いものが好みになってしまっている。

姉さんの手により、不摂生になったりしないように注意はされているから、食べすぎたりとかはしないと思うけど。

 

「ジェラートも美味しかったですけど、外国のスイーツも気になってて…」

 

「ああ…この学食って世界中の料理が出せるみたいだからな…」

 

世界中から学徒が集まっているからその好みにも合わせる必要があったからだろう、この学園の食堂のスタッフはどんな料理の腕をしているんだか。

現にイタリア出身の俺たちだって納得できるような腕前だからな。

食べていたナポリタンは日本で出来たパスタ料理らしいけども。

 

「話を戻そう。

クラス対抗戦で戦う相手のことを事前に可能な限り集めた方が良いかもしれないな。

それを想定してクラスのみんなにも手伝ってもらおう」

 

「はい!」

 

情報に関してだけど、またミリーナに集めてもらえばいいだろう。

…高くつかなければいいんだが…。

俺とメルクの話はそれで着いた。

当然、視線が向かうのは、同じボックス席に相席している生徒会長に突き刺さる。

この人、何かしら話を抱えてきたらしいのだが…伺うとしようか。

 

「で、生徒会長直々のお話って何ですか?」

 

「ああ、それなんだけど…二人を生徒会へ勧誘しに来たのよ」

 

「「生徒会?」」

 

おいおい、クラス代表で忙しくなるメルクに、座学で平均的な成績をやっとの事で維持している俺をか?

人選基準がおかしくありませんか?

 

「メリットは在るわよ。

他の生徒もあまり出入りしないから、静かに過ごせるもの。

先生も、来る人は限られるわ。

どうかしら?」

 

静かに過ごせる場所らしいけど、どうするかな…?

そもそも俺は人の上に立つ器でもないしな…

 

「勿論、無理強いをするつもりは無いわ。

虚ちゃんも説得し、納得させているもの。

それに…困った事が在れば真っ先に相談にも乗れるから。

どうかしら?」

 

悪い話じゃなさそうだけど…保留かな?

書類仕事とか苦手だし。

 

 

 

 

さて、食事も終わったし、部屋に戻ろうか。

それからする事はといえば…勉強だけだったりする。

 

「歴史の授業も導入されているんだな…この学園…しかも世界史とか…」

 

自分の過去すら知らない記憶喪失の人間が、過去の歴史の勉強とはこれ如何に。

皮肉にも程があるぜ。

俺はやっぱり文学系統には向いていないのかもしれないな、どっちかというと理数系かもしれない。

いや、座学方面に関しては全般的にからっきしだからな…肉体労働専門か?

機体のメンテナンスには数値計算のこともあったりするわけで。

成績表は両親や姉さんにも見せたことあるけど、「随分と尖っているみたいサ」と苦笑されたこともあった。

けど直ぐに言い換えて「狭く、深く」とか言ってたっけか。

俺の成績表がそれだったけど、メルクはどちらかというと苦手分野が少ないみたいだった。

そういう意味では俺とは正反対かな。

 

「ちょっとだけ手を休めるかな…」

 

メルクが淹れてくれたアップルティーを飲み、夜空を見上げる。

夜空を見上げると…ふと思う…

 

「本当に…遠くへ来たんだな…」

 

…と。

そんな中、夜空を渡る飛行機が目に入る。

あの中にも大勢の人がいるのだろう、数日前に自分も乗っていたのだと思うとやはり気持ちが複雑になる。

 

「あ、良いものを思いついた」

 

発想としては荒唐無稽にも程があるけど、忘れてしまわない内にさっさとスケッチに起こしてしまおう。

ホント、勉強の合間に何を考えているんだろうな、俺は。

こんな事をしているから成績が悪いのだろう、集中力の維持させる方向を間違えているのは自覚してたりするのにな…。

 

予習復習を先に…ああ、でも早くスケッチしておかないと…でも勉強が…

 

そんな事をしているうちに消灯時間が来てしまう。

仕方ないから俺もメルクも寝ることにした。

デッサンの続きは夢の中で、だ。

 

 

 

 

 

不思議な夢を見た。

今までに見たことのない夢を。

 

髪の長い女の子

 

闇の中で涙するばかりで、必死の手を伸ばしてくるのに、その手を俺は掴めなかった

 

そんな夢であれば今までに幾度も見てきた

 

なのに…今日に限ってはその女の子は泣いていないのだとわかった

 

その女の子は立ち上がっていた

 

事もあろうか、その女の子はIS(・・)学園の制服(・・・・・)を着ている。

 

そして突き出してきたのは…手ではなく…()だった。

 

その表情は相変わらず見えないけれど、泣いてなんかいないのだろう、何故かは分からないけれど、そこには今まで以上に強い意志を感じたんだ。

 

 

 

 

「…何だったんだろう、あの夢は…?」

 

夜明けと同時に目を覚ましてから考えてみても、その答えは出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

世界は『裏切り』に満ちている。

10歳になるよりも前にアタシはそれを悟った。

かつて、あれほど裏切りにあった人を私は知らなかった。

 

「一夏…」

 

10歳の誕生日に行方が分からなくなった。

 

数週間後には死亡判定が下された。

 

何があったのかは、今になっても判らないまま。

当時から必死に情報を集めようと頑張ったのに、収穫は何一つなかった。

 

悔しかった

 

惨めだった

 

悲しかった

 

絶望しそうになった

 

心が…圧し折れそうになった…

 

だけど、諦める訳にはいかなかった。

私が、一夏の居場所になるって決めたんだから…。

だから、見つけると決めた私自身の意思を裏切るわけにはいかなかった。

 

あの日以降、不思議な夢を見るようになった。

 

何処までも続く暗闇の中。

 

一夏の姿を確かに見た

 

日を重ねるごとに痩せ衰えていき、髪の色も真っ白になっていく

 

必死にその姿に手を延ばしても届かない

 

走っても走っても追いつけなくて、悔しくて…夢の中でも涙してしまっていた

 

いつの頃からか、夢の中で姿が変わってしまった彼も手を延ばしてくれるようになった

 

それでも…私達の手は届かなかった。

 

 

 

「悪いな鈴、結局何一つ情報を渡せなくて」

 

「それは私だって同じよ、何一つ情報は集まらなかったわ。

出来る事は何だってしたのにね…どうしてかしら…?」

 

出来る事は何だってした。

 

あの4年間、張り紙だってした。

近所の人にも訊いて回った。

恥を承知で小中学校で予定されていた修学旅行の際にも人に訊いたりした。

でも、収穫は完全にゼロ。

 

全輝は、一夏の生存を信じて動き続ける私達を指差して嘲っていた。

その態度に違和感を感じないわけじゃなかったけど、話が通じる相手ではないと知っているから完全に無視し続けた。

 

あの女(織斑 千冬)は完全に諦めているのか、私達の行動に何の関心も持っていなかった。

 

一夏は…家族(同居者)にまで裏切られているのだと私でも理解した。

 

「私…ね、考えがあるの」

 

中学の卒業を待たず、両親の都合で中国に帰国することになった。

別に離婚だとかそういう話じゃない、母方の祖父母の都合による帰国だった。

だけど、ここで一つ、私は一計を講じることにした。

 

「中国で近く、ISの代表候補選抜が在るって聞いたのよ。

私はそれを受験するつもりなの」

 

「「「…はぁっ⁉」」」

 

「あ、でも勘違いしないでよね。

目的は別にあるのよ…私の本当の目的は、軍が持ち合わせている情報網よ。

それを利用して、私は日本国外から調査をしてみたいと思っているのよ」

 

それが私の目的だった。

使えるものは何だって使う、たとえ国だろうと、軍だろうと関係無い。

合理性を取る事で、効率も上がるかもしれないから。

 

両親の都合もあるけれど、日本国内からの調査は、弾、蘭、数馬の三人に託す事になる。

その代わり、国外からの調査へと移る。

 

「安心しなさいよ、弾、数馬、蘭。

私はあの女(織斑 千冬)のようにはならないわ。

目的に目が眩んで、家族をないがしろにするような人間に見える?」

 

「「「いや、見えない」」」

 

でしょ?

私は、家族を蔑ろにするような奴なんて人間だなんて認めない。

家族を切り捨て、裏切るような奴を自分と同じ人間だなんて絶対に認めない。

 

「やっぱり、それは一夏さんを見つけるために…?」

 

「当たり前でしょ、私は絶対に諦めないってーの!

アンタはどうなのよ蘭?」

 

「私だって諦めたりなんてしません!」

 

そうそう、その元気さが無いと蘭っぽくないのよね。

本当は知ってるのよ、蘭だって一夏が好きだってことを、その思いを告げられなかった事も。

 

「あら残念、素直に諦めてくれてたりしてたら、一夏と一緒にゴールインしてる姿を見せびらかしてあげようと思ってたのに~」

 

「ふ、ふん!こここここ国外に居るだなんて限りませんからね!

日本の中で私が先に見つけてブライダル会場の写真でもエアメールしてあげますよ!」

 

言ったわねぇっ!

なんて、ね。

蘭の決意をしっかりと受け止めるにはこれくらい発破かけとかないと。

 

「弾、数馬、アンタ達にも、そのうちにエアメール出すから、それで情報交換しときましょ」

 

「いいぜ」

 

「了解だよ」

 

それが私が日本に居た最後の日に交わした、最後の会話だった。

 

 

 

それから私は中国にて国家代表候補生選抜試験に転がり込んだ。

それでも、支給金の殆どは家族に贈り、連絡だって毎日した。

そんな中でも、必死に訓練して、必死に修行して、必死に研鑽を積んで、結果を半年で叩き出した。

結果、中国製第三世代機であり最新鋭機『甲龍(シェンロン)』を受領した。

たった一人の情報を得るために積んだ修行の成果は、あの女(織斑 千冬)と同じ『専用機所有者』という地位だった。

これで、情報を集めるための布石は少しは整った。

だから即座に行動を開始した。

日々の修行を終えた後に情報部に通い詰める毎日。

情報を集めてもらうために、頭を何度も下げた。

そこまでやってやっと情報を集める事が出来た。

でも、手元に渡された最初の資料はあまりにも残酷なものだった。

 

第一回国際IS武闘大会『モンド・グロッソ』に於いて、大会を利用して賭けを行い、金を荒稼ぎしようとしていた集団が居た、と。

その際に一回戦に出場する選手の家族を誘拐し、棄権させようとしていたのだと。

 

「間違い無い、一夏だわ…」

 

だとしたら、あの女(織斑 千冬)も被害者のようなものだと察した。

あの女(織斑 千冬)は嫌いで嫌いで仕方ないけど、犯罪者のように扱いたいわけじゃない。

それでも、この胸の内に広がる違和感は消えてくれなかった。

 

書類を見た感じ、フランスはその情報を把握しておきながらも、一切の対処を行わずに大会を敢行。

後々に情報隠蔽が発覚し、全世界からバッシングされる事になった。

そのバッシングを行う側には当然日本政府も存在していた。

結果、フランスは零落し、差別対象にもなった。

フランスから亡命する人も後を絶たず、華の都も廃れているのかもしれない。

 

「大会関係者の身内に、護衛の一つも無かったって言うの…?」

 

あの女(織斑 千冬)は一夏と全輝にとっては唯一の身内であり保護者。

それはこの年になった私にも理解は出来ていた、ならその人本人が護衛をつけなかったのは何故?

それに昨年の大会ではタイトルマッチで棄権したのは…

 

「それはドイツ政府からの通告があったとされているわ」

 

「ドイツ政府が?」

 

「第一回大会での二の轍を踏むわけにはいかなかったんでしょうね。

二連覇を狙って情報を隠蔽した(・・・・・・・)日本政府に代わりドイツ政府があっさりと通告したらしいのよ。

だからイタリア出身のアリーシャ・ジョセスターフ選手は雪辱を晴らせぬまま称号を授与されというわけね。

あの選手がインタビューも受けずに即日イタリアに帰ろうとしていた理由は判らないけれど」

 

イタリア…。

そういえばここ数年で業績が右肩上がりになっているとか聞いたけど、何一つ情報が集まらないから除外していいわね。

 

そのまま私は修行を続け、情報も集め続けたけれど、収集できる情報は極端に少なくなってきていた。

そして真冬に…全輝がISを稼働させたというニュースが全世界に広がった。

女性のみが稼働可能なソレを動かした理由は判らないけれど、IS学園への編入が決まったらしい。

私も代表候補生になった以上は受験もしたし、余裕でパスしている。

けど、全輝がいるのなら行きたくなかった。

長いこと説得を受け、話を先延ばしにし続けていた結果、今度はイタリアで男性搭乗者が発見されたというニュースが。

名前は判明しているけれど、風貌はヴェールに包まれたままで不明の一言に尽きる。

 

「…もしかして…」

 

全輝がISを稼働可能なのだとしたら、イタリアに現れた人物は一夏なのかもしれないと思った。

だけど、名前が違うにもほどがある。

それに『ハース』の名前は私だって聞いたことがある。

イタリアの代表候補生のファミリー・ネームなのは知っている、受験者の中では主席だったという話は有名だし。

他にも最新式のテンペスタの搭乗者という事でも知っている。

 

その人と家族なのだとしたら…でももしかしたら…。

 

そんな希望は捨てる事が出来なかった。

顧問官の説得に応じ、私は学園への入学を決意した。

 

『可能性』、『奇跡』

そんなまるで幻のような糸だとしても…掴むよりも前に触れてみたかった。

 

「もしかしたら…」

 

希望は捨てなかっただけ価値が在る

 

掴めるかはこれから

 

「って、なんでこんな事になってるのよ!」

 

いざ空港から発とうと思ったその日、甲龍のメンテナンスで待ったがかかってしまっていた。

理由としては…私の過度の修行だった。

より多くの研鑽を積もうと思って、…その…修理とかメンテナンスが面倒だったから、予備パーツへの交換しては使いまわしてごまかし続けていた。

その結果がこのメンテナンスでの出発の遅延だった。

思い立った矢先に出鼻を挫かれるだなんて思ってもみなかったわよ!

とはいえ原因が私だからあまり強くは言えない、だから待つ他に無かった。

 

その日の夜、またあの夢を見た。

 

真っ白な髪の男の人。

かつては痩せ衰え、骨に皮が張り付いたような姿の彼。

でも…なんで寝間着姿なのかしらね…?

だけど、時折に見る夢だから、もう動揺なんてしなかった。

だから私は、手を延ばすのではなく、拳を向けた。

 

「必ず直ぐに逢いに行くんだからね!」

 

そう宣言して見せた。

 

これが、私の想い

 

これが、私の願い

 

私はもう…絶対に諦めないんだって誓った。

絶対に貴方を裏切らないんだって。

 

「言ったでしょう、『私の想い、毎日叩きつけてやる』って!」

 

例え世界が裏切りに満ちていようと

 

貴方が悪意の掃き溜めにされていたのだとしても

 

私の想いは、その全てに勝るんだって見せつけてやる!

 

貴方の…心からの笑顔を引き出して見せるんだから!

 

「だから…覚悟しなさいよね!」

 

メンテナンスも終わり、基地から出る。

私の肩には、今も一夏の肩提げ鞄がぶら下がっている。

『織斑 一夏』と記された名前は今もはっきりと見える。

この鞄は、遺品としてもらい受けた、とかじゃない。

 

『今は私が預かってる、だから必ず受け取りに来なさい』

 

そういう意味を込めて、私が持っている。

 

空を見上げれば、雲一つない快晴。

飛行機に乗るにも丁度いい天気だった。

空港に入り、手続きを終わらせ、鞄を持ったまま飛行機に乗り込んだ。

余計な荷物は持たないのが私の主義、必要なものはこの鞄一つだけで事足りた。

それでも飛行機で半日近くかかり、お昼過ぎに眠気に襲われて、鞄を抱きしめて目を閉じる。

 

飛行機が到着したのは夕方だった。

久し振りに踏む日本の大地、感動とかではなく、また来たんだな、と少しだけ郷愁を感じた。

 

「えっと…IS学園はあっちなのよね…」

 

行先は世界を股に掛けた女子高。

どんな日常が待ち受けているのかは判らないけれど、それでも私の目的はただ一つだけだった。

 

「先ずは、アンタを探すのが一番の近道かしらね、『ウェイル・ハース』。

…どんな人なのかは知らないけど」

 

待ってなさいよ、一夏…。

絶対に見つけるんだから…!

アンタが私を救ってくれたように、今度は私がアンタの希望になってみせる…!

私の想い、毎日叩きつけてやるんだから!


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