IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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新しい暦に代わっての最初の投稿です。



彼女の扱いが毎度毎度ひどすぎる点についてはゴニョゴニョ…
今回のコンセプトは
『何事も程々に』
『発明に失敗は付き物』


第24話 東風 辿り着いた場所

飛行機を乗り継ぎ、俺とメルクは極東の大地に足をつけた。

 

「長かったな…飛行機の旅は…」

 

イタリアから飛び立ち、降り立った先はシンガポール。

そこからさらに飛行機を乗り継ぐ空の旅になった。

船には乗る経験は幾度もあったけど、飛行機に乗るのはローマに行った時以来だ。

ましてや国境線を超えるような経験は今まで一度もなかったけど、飛行機という巨大な密室空間に閉じ込められ続けるのは窮屈で仕方なかった。

それよりも外の風を感じられる解放された空間というのはとても心地良い。

けど、それと同時に感じてしまう。

イタリアの中で育ったけれど、それもまた小さな鳥籠だったのかもしれない、と。

 

「けど、ヴェネツィアが恋しいなぁ」

 

「到着したばかりなのにホームシックですか、お兄さんってば」

 

誰だって故郷は恋しくなるものさ。

俺の場合はそれがヴェネツィアってだけさ。

 

空港の一角のロビーで、財布の中身、イタリアユーロを日本円に両替してもらい一先ずの資金を手にする。

俺もメルクも国と企業から定期的な資金援助はうけているし、個人的な貯金もある。

けれどまずは財布の中身を潤しておかないとな。

 

「えっと…まずはコレで、と。

それからタクシーを捕まえてからだったな」

 

空港の外のタクシー乗り場にて行列に並ぶこと15分、ようやく車に乗り込めた。

行き先を告げる際には、イタリアで事前に学んでおいた日本語が役に立つ。

俺の場合は、昔に日本語を使っていたからかもしれないけれど。

それと、学園に到着するまでは俺はジャケットを羽織り、学園の制服は隠しておいた。

これは姉さんの配慮だ、世の中妙な風潮に乗せられて遊びで殺戮だの冤罪だのを巻き起こす迷惑な輩も居るのだから、ということでその事前対策だ。

このジャケットは俺としては気に入っているから別に構わないけど。

背中の『Attendere e Sperare』のロゴもいいセンスしていると思うんだ。

 

「えっと…ここだよな…?」

 

メルクと一緒に地図を見ながらたどり着いたのはモノレールの駅だった。

学園に向かうにはルートが幾つか在る。

 

・船を使って学園の港に乗り込む船舶ルート。

・車両を使って大橋を渡る車両ルート。

・モノレールを使うモノレールルート

 

以上の三つ。

俺たちは最後のモノレールを使うわけだ。

ヴェネツィアでは自転車と船がメインだったからモノレールなんて新鮮だ、是非とも分解してみたい。

 

「お兄さん、また変な目になってます」

 

「変な目とは失敬な、『技術者の目』と言ってくれ」

 

そんなしょうもない愚兄賢妹コントをやってる場合でもなく、チケットを購入してからモノレールに乗り込んだ。

ふぅむ、内部は電車とそんなに変わらないな。

言ってる間にモノレールは発進する。

向かう先は世界唯一のISの為の学府であるIS学園だ。

 

「あそこって世界レベルの女子高なんだっけ…居心地悪そうだな…」

 

「しかも世の中に出回っている風潮に乗せられている人も少なくはないらしいですから…」

 

「威勢良く飛び出してきたけど本格的にホームシックになりそうな予感が…」

 

しかも日本の学府に合わせられているから、俺としては二度目の高校一年生だ、留年するような成績ではなかったのに…進級も決まっていたのに…。

 

 

入口にて手続きを行い、編入の手続きを始める。

それから事務室に通され、最終的な手続きをもすることに。

それも済んでから俺たちはようやく学生寮へと案内された。

 

「で、部屋が4206号室か…すごいよなこの建物、さながら国営のホテルみたいだ。

どんだけ予算を使っているんだろうな」

 

「校則によると、学生の一人一人が国賓のようなものですから、不満を与えないようにしているんだと思いますよ」

 

指定された部屋に入ると、これまた豪華なホテルのような部屋になっていた。

キッチンもバスルームも完備されていて、確かにこの部屋で暮らすには不自由のない状態になっているようだ。

ただし

 

「お帰りなさ~い♡

お風呂にします?ご飯にします?それとも、わ・た・し♡?」

 

目の前に痴女が居なければ。

髪の色は珍しいスカイブルーのような優しい青、そしてその双眸は夕暮れを映したかのような紅だった。

そんな女子生徒だろうか?素足も腕の肌も晒してエプロンだけを身に着けた姿でそこに立っていた。

 

顔は動かさずに視線を動かし、ドアプレートを見てみるが、部屋番号は間違っていないらしい。

ということは、この痴女は不法侵入を果たした侵入者ということなのだろう。

後ろにいるメルクもジト目になってきている、その視線が俺に突き刺さっていないことを願っておこう。

よし、こういう場合の対処方法は…

 

「で、メルク。

俺達のクラスって何処になるんだっけ?」

 

「えっと…1年3組になるんだそうです」

 

「ああ…本格的に二度目の高校一年生か…なんて皮肉だよ…」

 

現実逃避だった。

 

「え、あの、ちょっと…?」

 

頭の中から次の話題を絞り出す、それもイタリア語で。

だから俺の視界の端に狼狽えているビキニエプロンの痴女なんて居ないんだ。

 

「この学園の地図を大雑把に見たけど、食堂も在るらしいな。

それに教育棟と学生寮の間には購買部があってショッピングも出来るみたいだぞ」

 

「それに実践授業に使うアリーナってどれだけ大きいんでしょうねぇ」

 

「俺としては格納庫の中も見てみたいな。

この学園に配備されている訓練機は、イタリアの『テンペスタ』と、日本の『打鉄』だったな。

ほかにも複数のパッケージもあるとかだったなら良いんだけどな…」

 

「無視してんじゃないわよそこの二人!」

 

無視だ、無視しろ俺。

今はメルクとの会話が重要なんだ。

 

「だから俺の視界に痴女なんて居ないんだ」

 

あ、言っちまった。

それがしっかりと聞こえていたらしく、痴女が今度は顔を赤くしていく。

 

「痴女じゃないわよ!何のためにこんな格好をしてると思ってるのよ!」

 

「えっと……そういう趣味をしてるからですか?同じ女性として軽蔑します」

 

「露出狂みたいに言わないでくれる!?

あ~も~いい加減にしなさいよ!」

 

俺達二人に向けて指をさしてくるどこの誰とも知らない痴女(露出狂)

そんな手に…というか手首に

 

ガチャリ

 

発明品を取り付けた。

外見としては手首にピッチリと固定される銅色のバングルだ。

 

「え?何コレ?」

 

なお、コイツが発()品だと思い知るのは数分後だった

 

「さてと、部屋の内装が確認できたんだし、いったん事務室に戻って荷物を受け取りに行こう」

 

「あ、そうですね。

衣服とか多めに持ってきてましたから、クローゼットに収納しておかないと」

 

そんな訳で背後の痴女をほったらかしにして俺とメルクは揃って部屋を出た。

 

「あ、ちょ、ちょっと待って!

私も一緒に行くから!それにまだ話は終わってな」

 

その瞬間だった。

 

()いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ(じょ)おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!』

 

凄まじいスクリームが響き渡った。

それも間違いなく近所迷惑なレベル、ホテルでやらかすとクレームが間違いなく集中するレベルで。

 

「は、はいいぃぃっ!?」

 

()いいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃ(じょ)おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!!』

 

さぁてと、荷物は多いんだ。

明後日の入学式に間に合うように整理を頑張らないとな。

なお、このシャウトはまだまだ続く。

 

『痴ぃ女ぉがぁ出ぇたよぉぉぉぉぉっっ!!』

 

「何よコレぇぇぇぇっ!?」

 

『警察呼んでぇぇぇぇぇッ!!

 ムショ行くよぉぉぉぉぉぉっっ!!』

 

「嫌あああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!」

 

物は試しで作ってみたけど、効果の程は凄まじいみたいだな。

試運転出来て良かった、メルクや姉さんもヘキサ先生も試運転させるには頼みにくかったからなぁ。

 

「でも事務室って遠かったドワッ!?」

 

背を向けたばかりのドアの間から色白の細い腕が生えて俺のジャケットのロゴのあたりを掴んでいた。

当然、部屋の中からは例のシャウトが大音量で響き渡り続けている。

 

「は、離してくれ!このジャケット気に入っているんだよ!皴がつくだろ!?」

 

「止めて!この音声を止めてぇっ!止めてくれるまで離さないからぁっ!」

 

そんな訳で俺もメルクも部屋の中に引きずり込まれた。

 

そして部屋の洗面所にて。

そのビキニエプロンという痴女は洗面台に溜めた水の中に腕と一緒にバングルを突っ込んでいた。

おお、頭良いな、あれなら音があまり周囲には響かないんだろう。

だが、そんな事をしているわけだからヒップをこちらに突き出すような態勢になり、俺の目はメルクの小さな手によって目隠しされていた。

想像してみるだけでも、彼女の顔は真っ赤なのだろう。

怒りによるものか羞恥によるものかは知る由もない。

 

「で、どちら様なんですか貴女は?

出来ることなら痴女なんて部屋に入れたくないんですが。

勿論痴女とはお近づきにもなりたくないだけでなく知り合いにもなりたくないわけでして」

 

「だから痴女って言わないで!」

 

いや、だって名前知らないし。

どう呼べばいいか知らないし、だからまんま痴女呼ばわりするしかないわけで。

 

「私は『更識 楯無』、この学園の生徒会長よ。

ちなみに学年は第二学年で貴方達からしたら先輩ね」

 

へーそうなんスか。

 

「イタリアから編入してくることになったFIAT企業所属の『ウェイル・ハース』です。

こっちが妹の『メルク・ハース』。妹は国家代表候補生です」

 

「あら、兄妹なのね。

今後は良好な関係を築いていきたいんだけど、その前にこのバングルを外してくれないかしら?」

 

洗面台に溜めこんだ水の中では今もバングルがダイナミックなスクリームとシャウトを続けているのだろう。

………あ…………

 

「そのバングルなんですが、暴漢に襲われたりした場合に、相手に取り付けることによって、そのあとの追跡捜査などに非常に役立つ仕様になっています。

そんなに強い力でなくても相手に取り付ける事が出来る訳ですから、女性用の新たな防犯グッズとしてイタリアで開発が進んでいるんです。

内部には小型のバッテリーも内蔵されているだけでなく、ソーラーバッテリーも取り付ける事によって光の当たる場所であれば電池切れ知らずにもなっています」

 

「そういう性能面の説明は良いから、止め方かもしくは外し方を」

 

「もちろん今後はGPSを取り付ける事によって、音声機能を壊されたとしても国境を越えて衛星で追跡できるような仕様をという話も出ていて…」

 

「そういう性能面の説明は良いから、止め方かもしくは外し方を」

 

目隠しをされたまま顔を横に向ける。

無論、前は見えない。

 

「一部の機能を破壊されたとしても、本体の破壊を防ぐ仕様は最初期から話し合われていて…『耐水性』『耐熱性』『耐衝撃性』『耐電性』『防弾性』『防刃性』『防塵性』も付け加えられた結果、本体どころか機能破壊も防げるようになりまして」

 

「…で?」

 

声に怒りが籠ってませんか生徒会長さん?

 

「そういう風にひたすら頑丈に作っていたら、『取り外す為のギミックを搭載し忘れていた』そうで」

 

「…で?」

 

「外せないというのに、外して壊さなければ止まりません」

 

「そういうことは先に言いなさいよ!」

 

バッチ――――ン!

 

 

 

暫くお待ちください

 

 

 

 

 

俺の技術力の全てを以てしてようやく外す事が出来た。

これが試作品で良かった、完成品になっていたら夢の永久ロック式を搭載しようだなんて話も持ち上がっていたんだし。

ソーラーバッテリー内蔵だから電池切れとも縁も無いのでこれをつけられた人物は二度と太陽の下を歩めないという日陰者行きの片道切符になるわけだ。

 

んで、事態の片付けも出来たところで夕方になってしまっていた。

荷物を事務室で受け取って部屋に戻ってくると、生徒会長は制服に着替えて椅子の上で不貞腐れていた。

 

「なんであんな辱めを受けなきゃいけないのよ…」

 

そりゃアンタの自業自得だろう。

 

人の部屋に勝手に上がり込んでいるわ、痴女としか思えぬ格好で出迎えてきたり。

いや、あのバングルを取り付けたのは俺が悪かったかもしれないけどさ。

左頬につけられた手形一つで勘弁してもらえませんかねぇ?

俺も悪かったですから。

 

「お兄さんも悪かったと思いますよ?」

 

「まあ、そりゃぁな。

試運転もしていない試作品の臨床試験をここでするのは間違っていたかもしれないが、試せる相手も居なかったわけだから」

 

あのバングルを量産する際は、破壊されてしまうか、もしくは手首をちぎってでも外そうとする人も居るかもしれない。

そういうことも考慮して、次からは永久ロック式だけでなく、ICチップを肉体に埋め込むギミックも搭載してしまおうか。

 

 

 

衣服だの参考書を適所に収納していってたら程よい時間になっていた。

食堂はあるけれど…自炊にしようかな…?

 

「夕飯のメニューは『ミネストローネ』にするか?」

 

「手伝いますね」

 

母さんにしても、姉さんにしてもミネストローネに入れる具材は少しずつ違う。

俺としては好みなのは姉さんが作ってくれた時のミネストローネだ。

あの時の味が今でも忘れられなくて、自分で作っていても、自然とその味へと近づいていく。

 

「あとは中火で煮込んで、塩コショウで味を整えれば完成だな」

 

ミネストローネは良い料理だ。

トマトベースのスープの中に、しっかりとした味の野菜がたっぷりと入っていて、食べ飽きることがない。

記憶を失って目覚めて以来、ミネストローネは大好物だ!

あ、勿論、母さんやメルクが作ってくれるミネストローネも大好きだ。

 

「で、生徒会長さんはこの部屋に何の御用ですか?」

 

「君のことを知りたかったのよウェイル君」

 

…俺?

途端にメルクの目が細くなった。

何か警戒しているらしい、ああうん兄さんも理解できるぞ、この人は警戒しておかないとこっちの身が持たない。

なにせ初対面からキャラが濃いと思うほどの人物だ。

 

「イタリアの工業高校出身、メルクの兄。

趣味は釣りと機械いじり、家族は父母と妹と義姉と飼い猫が一匹。

それくらいで充分じゃないんですか?」

 

「お姉さんとしてはそれだけじゃ満足できないんだけどなぁ?」

 

「FIATの企業所属、言い忘れたのはそれくらいだと思いますよ」

 

「ま~だ足りないなぁ?」

 

やけに食い下がるなぁ。

何を考えているのかよく判らない。

おっと、食器の用意をしないとな。

ありがたいことにも、食器も、コメも完備しているから入寮初日からそこまで困る事が無いようだ。

すでにライスも炊き上がり、パンも焼きあがっている。

 

カチャカチャと食器を用意し、その間に出来上がったであろうスープをスープ皿に注ぐ。

ううん、いい薫りがするなぁ。

 

「じゃあ、食べるか」

 

「いただきます」

 

「ちょっと待ったぁっ!」

 

またかよこの生徒会長さんは。

今度は何なんだ?

 

「ねぇ、食事の用意をするのは良いけど…なんでお姉さんのは用意してくれないのかしら?」

 

え゛…この人食事の時間も居座るのかと思えば、食事の要求までしてきたぞ。

ここまでくると流石に厚かましいだろう。

だがここでメルクが

 

「日本には『働かざるもの食うべからず』という言葉があるそうですね。

食事を作っている間、座って不貞腐れていただけの人に用意する食事なんて有りませんが?」

 

「ず、随分と知ってるのね、そういう言葉も…」

 

「イタリアを出る前に日本語を色々と学びましたから。

一応ですけど、企業では必要だからということで英語も多少は学んでます」

 

これも本当だ。

普段から使い慣れているイタリア語とで頭の中がパンクしそうだったのは苦い思い出だ。

 

「それはウェイル君も同じなのかしら?」

 

「ええ、そうですよ。

英語って難しいですよね」

 

「…日本語()そうでもなかったのかしら?」

 

先程から人の事ばかり探ってきている様子なのは俺も察している。

何と言うか…酷く気に障る。

 

「人の事ばっかり聞き出そうとしてないで自分の自己紹介くらいしたらどうだ?」

 

不機嫌なのを隠しもせずに言ってやることにした。

このまま居座られても折角の食事が不味くなるどころか味が感じられなくなってしまいそうだ。

 

「あら?してなかったかしら?」

 

「名前と自称生徒会長、それだけしか聞いてない。

ほかに自己紹介できることがあるなら言ってみてくれ」

 

「ふむ…そうね…」

 

とは言っても、メルクがまだ警戒を解いていないのが気がかりだ。

この人物は情報を聞き出そうとしているのはもう判りきっている。

実際、イタリアにもこういう人物は少なからず居た。

産業スパイ(・・・・・)とかがその例だろう。

この人物も疑ってしかるべきかもしれない。

そもそも、何のために(・・・・・)情報を聞き出そうとしているのかが今一つはっきりとしていない。

 

それからその人物の自己紹介が続く。

ロシア代表と、学園最強だとか、生徒会勧誘だとか。

 

「とまあこんな感じかしら」

 

「ご馳走様。さてと、後片付けを始めようか」

 

「そうですね、それに母さん達にも連絡を入れたいですし」

 

「ちょっとぉっ!結局私は夕飯抜きにするって魂胆だったのぉっ!?」

 

ああもう、五月蠅いなぁ。

 

「はいはい、マタタビあげますからそろそろ帰ってくれませんか?」

 

「猫扱い!?そんなんじゃ私は喜ばないわよ!」

 

「こっちは家族に連絡を入れるのを日課にしようって話になっているんですから」

 

「あら♡家族にさっそく紹介してもらえるってことかしら♡」

 

「寝言は寝てから言ってください」

 

「辛辣!?おまけに真顔で言うの!?」

 

当たり前だろ。

 

 

 

 

 

嵐が過ぎ去ってから回線を繋ぎ、連絡を取ろうとした矢先だった。

 

コンコンコン

 

ドアをノックされた。

先ほどの生徒会長さんだろうか?

嫌だなぁ、相手したくないなぁ、両親の顔を知られたくないなぁ。

頭を抱えながらドアを開くと、そこには眼鏡をかけた女子生徒が一人居た。

胸元のリボンから察するに上級生なのだろう、キリッとした目つきに思わずに背筋を伸ばした。

 

「ウェイル・ハース君、ですよね」

 

「ええ、そうですけど。どちら様でしょうか?」

 

「第三学年、生徒会所属『布仏 虚』と申します」

 

また生徒会かよぉ…。

先程の生徒会長の事もあってか、『IS学園の生徒会は変人』という偏見が俺の中では出来上がってしまっている。

その為、このタイミングで訪れたこの人も変人なのだろうなという思いがあるわけだ。

部屋先でも悪いので、軽く痛み始めた頭を抱えながら部屋に招き入れることになった。

非常に不本意だけど。

 

「で、こんな時間に何か用ですか?」

 

俺のストレスは今が正にバブル世代なのですが。

 

「いえ…先程はお嬢様が大変失礼なことをしでかしてしまったと聞きまして、そのお詫びに来た次第です」

 

「…な…!?」

 

変人奇人じゃないだと…!?

しかもあの生徒会長が『お嬢様』だと…!?

 

続く話としては彼女の人となりに関してだった。

実力は折り紙付きで『学園最強』を自称。

国にも認められており、現ロシアの国家代表であり、専用機所持者。

更には学業も非常に優秀で、物のついでに言うとこの国、日本お抱えの暗部の長でもあると。

 

「どこの完璧超人だよ…平々凡々の俺からしたら真逆もいいところだな…」

 

いや本当に、羨ましいとは口には出さないでおくが、あまりにも眩しい人だと思う。

 

「で、そんな人がなぜ俺達の部屋に来たんですか?」

 

「興味を持ったから、だと思います。

ハースさんに関してもそうですが…ハース君は情報のエキスパートでもある更識家のネットワークでも感知できなかった人物です。

今回を機に、いろいろと調査をしてきましたが、至って普通の家庭で育ってきた男子学生だという事しか…」

 

ふぅん…ある程度は俺に関して調べたのか。

 

「ですが、経歴調査をしてはいたのですが…ある事情があって調査は中止になりました。

公的には調べられないのと、本人の興味から突撃しに行ったのだと思われます」

 

とうとう調査(・・)とは言わずに突撃(・・)とまで言ってるよこの人。

 

「まったく、その興味からくる行動力を別の方向に回してほしいもんだな」

 

「ええ、まったくです。

だから今になっても膠着状態が…あ、すみません…私的な愚痴まで言いそうになって…」

 

一応判った事が在る。

生徒会長は奇人変人だが、この人は苦労人らしい。


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