IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第21話 異風 変遷を告げる時

「へぇ…コレはまた…今までに見たこともないものサ…」

 

「へっへへ」

 

秋になってから考案していたものが完成、実装された。

その第一号は姉さんに渡され、今は試験稼働をしている。

もちろん、今度の春から国境を超えるメルクも一緒になってそれを見てくれていた。

 

「確かに、可変形式になっているから採用はされるかもしれないけど、見事なものサ」

 

新しく作った兵装はあっさりと受け入れられ、もしかしたら今後のテンペスタに標準搭載されるかもしれない。

とはいえ、俺はバイトだからAlboreにしてもアウルにしても、今回のコレにしても特許は勿論FIATに還元されている。

俺は開発者の端くれとして名前がチョロッと端っこに乗るだけだ。

 

 

 

「んで、FIATのバイトはどうなんだ、ウェイル?」

 

「結構楽しいよ、仕事も充実しているし、スタッフのみんなは受け入れてくれているからさ」

 

学校の冬休みも終わり、もうじきしたら一年生最後の試験が…進級試験が待ち構えている。

メルクは余裕でクリア出来るだろうし、俺は…学年主席には届かないだろうけど、上位には入れたら良いなぁ、と理想を思う。

本当に姉さんには足を向けて眠れないな。

その姉さんだけど、今は軍で忙しくしているらしく、あまり姿を見せてくれなくなっている。

先日の開発された兵装を見てから駐屯地で籠りっぱなしらしい。

シャイニィも今は俺達と一緒に過ごしているから寂しさはそんなに無いけれど、居ないというだけで喪失感はそれなりに在る。

家庭教師の役を代行してくれていたヘキサさんも、今は姉さんに頼まれて何かしているらしい。

 

「ンじゃぁな、全員仲良く二年生に進級しようゼ!

あっ、と…メルクだけは東洋の学び舎に向かうんだったな」

 

「ですね、でも学籍はこちらの学校に残ってますから、何か在って退学処分を受けたりしたら皆と一緒に通学できますよ」

 

いやぁ、メルクの実力だと東洋の学び舎でも学年主席を狙えると思うんだけどなぁ。

ともかく簡単に『退学』なんて言葉は口にするなよ。

 

「うわ、ウェイル、お前凄い難しい顔してるな」

 

「仕方ないだろ、メルクの将来が少し心配なんだって」

 

「このシスコンめ!」

 

うっせぇっ!

 

とは言え、メルクが東洋のIS学園に入学するというのは、イタリアの現段階での技術力を見せつけるためでもある。

可変形式脚部クローブレード『OWL(アウル)

相手の機動性を奪う杭状兵装『イーグル』

これら二つだけでも結構なお国自慢になるらしい。

補助腕(Albore)』はミーティオには搭載されていないが、欧州全土で広まってきている。

もちろん、欧州の外には出ないように配慮も徹底されてきている。

あと、どういう訳だか知らないけど、フランスには一機も流通していない、だがあの国は大丈夫なのだろうか?

 

実際、Alboreは、介護だとか、個人用クレーンだとか、災害時に於ける道具として広まっている。

けど、ISに搭載されたという話はFIATの試験機以外には全く聞いた話がない。

やっぱり扱いが難しいのかもしれない。

欧州全土に広めた際には、『音声認証システム』と『音声認識システム』も搭載されている。

その二つを搭載させたことで『使用可能な人間を登録し、他者による誤作動を防ぐ』、『その場その場で的確な指示を行わせる』という二つの設定も標準機能として出せるようになっている。

まあ、その的確な指示というのも音声での指示では間に合わないから、簡易コマンドを音声で発することで指示を出す形にしてあるけど。

例えば、アルファベットと数字を合わせてみたり、とか。

そんな感じの性能を今では誇っている。

その完成版が父さんのクルーザーにも載せられているわけだ。

FIATのエンブレムは刻まれていたけど、自宅に送ってきたのが誰なのかは判ってないけどさ。

かといって、会社の倉庫から盗まれたものでもないとか。

念には念を入れて検査もしてもらったけど、外装、内装、システム、それら全てがFIATのものと遜色も無かったため、そのまま船に取り付けてもらっている。

社内にもハッキングだとかデータ漏洩、システムへの侵入の形跡も一切無かったため、誰も彼もが首を傾げていたけど。

まるで社外の誰かが見様見真似だけで完成品を個人的に作った上で寄贈したみたいだとか言ってたっけ。

気にしていても仕方ないよな。

 

メルクは国家代表候補生の称号を手にして、今度の春からは極東の学び舎、通称『IS学園』に通う事になる。

全寮制の女子高で、全世界から、『搭乗者』『技術者』を目指し、中には『企業』に自分の存在を売り込む為に切磋琢磨するらしい。

とは言え、通えるようにするためにも、その試験も難しいらしい。

『筆記試験』『面接試験』そして模擬戦闘による『実技試験』だ。

だが実際には姉さんに鍛えられているのだから、実技試験に関してはトップに躍り出るだろう。

 

だけど油断は出来ない、今年受験をする者の中には、ほかにも国家代表候補生が潜んでいるらしい。

姉さんが持ってきた情報ではイギリス出身だったかな。

イギリスと言えば第一世代機『スプラッシュ』、第二世代機『メイルシュトローム』が有名だ。

そしてその性能は主に『射撃特化』という中遠距離戦闘に重きを置いた機体だ。

近接戦闘の性能は多くを捨て去っているのかな?

出来ない事は無いだろうけど、少しばかり興味がある。

機体性能が優れていても、搭乗者に関しては判らないのだから、今から推測を立てるのも邪推に近くなる。

 

というか、以前から思っていたのだが、受験の際の倍率がどう考えてもおかしい。

何なんだよ、倍率20000倍って。

5クラス200名に対して4000000名が受験することになる、そんな単純計算だ。

IS学園のブランドっていったい…。

 

まあいいか、これ以上は気にしていてもどうしようもないのだから。

さてと、今日の夕飯は何にしようか。

あ、その前にバイトだバイト。

今日も今日とてメルクを後ろに乗せたまま自転車を走らせる放課後だった。

 

今日のバイトの内容はと言えば、試験稼働だ。

先日開発されたばかりの兵装をテスターの人が稼働させている。

 

「取り回しに関しては問題無いわね、両手に持っているというスタイルはそんなにしないから違和感は多少はあったけど、慣れてしまえば。

それにしても誰なのかしら、こんなの思いついたのは?」

 

とはテスターの方の言。

そして周囲の視線は俺に集まる、犯人は俺ですよと自供しておいた。

そんなこんなでレポートをまとめてみる。

取り回し、問題無し

性能、問題無し

命中率は個人的な話だ。

こんなもんで良いだろう。

また、重量的にも問題無しだ。

 

あ、テスターの人が高機動に移りながら使い分けたり、併用したりとやってる。

慣れるの早いなぁ。

そして早くも近接戦闘形態に切り替えたり、と。

 

「やっぱりテンペスタは速いよなぁ」

 

父さんに連れて行ってもらったモーターレースを見ていても同じようなことを思った。

後、モーターボートレースでもだ。

なお、見るだけで賭けはしてない。

「ギャンブルは悪い意味で依存しやすいから我が家では禁止よ」というのが母さんの方針だったからだ。

 

イタリアで製造されている主力機であるテンペスタのコンセプトは『高機動特化』だ。

他の国が造りあげる機体に比べても、そのスピードは群を抜いている。

そして、その速さを以てして『防御』ではなく『回避』と『翻弄』こそがテンペスタに向いている。

その為、相手に攻撃を与えながら、一気に間合いを離すヒット&アウェイ、更にはそこからの射撃攻撃にも切り替えることで、相手にペースを掴ませない高機動による独擅場にも回れるわけだ。

姉さんの場合、更にそこに『蹴り技』を織り込んで手数を増やしているわけだから、本当に最強だよな…。

…そのうちにISで関節技(サブミッション)とかやりそうでそれはそれで怖いかも。

まあいいや、メルクの方はと言えば…。

先程のテスターの人を相手に高機動近接戦闘を繰り広げている。

かと思えば間合いを離してからの射撃攻撃。

右手にレーザーブレード、左手にレーザーライフルという遠近両用のスタイルに切り替えているようだ。

 

「お、とうとうやったぞ、アウルの出番だ」

 

親方の言ったように、メルクがとうとう脚部クローを展開した。

そして杭状武装イーグルで相手のテンペスタのスラスターを損壊させたうえで、テスターの両腕を掴む。

…チェックメイトだな。

相手のテスターは機動性の殆どを失い、武器を掴んでいた腕を掴まれてもう動けないし、姉さんのように蹴り技を使っていた例も無い。

 

「メルクの勝利、と」

 

あの状態になったら並みの搭乗者ではどうにもならないのだろう。

まあ、蹴り技を使ったとしてもあの場所には届かないだろうからな。

んで、そのテンペスタはメルクとミーティオの()でピットに運搬されていった。

さあ、あのテンペスタの修理作業がこの後に待ってるぜ。

 

まあ、それもバイトの時間だけで間に合う訳もなく、後日に持ち越しになるのだった。

 

「メルクも派手にやったなぁ…」

 

「えへへ…アウルを実際に使ってみたかったんです。

お兄さんが考案、設計したものなんですから!」

 

う~む、こう言われると何も言い返せないな。

設計して良かった…!

 

けど姉さんは不要とばかりに大旋嵐(テンペスタⅡ)の標準装備で乗り回している。

使ってほしいのもやまやまだけど、無理は言えないな。

姉さんが使いこなしたら凄まじい事にもなりそうだけど。

世界最強の銘は伊達ではないのだろう。

第一回大会優勝者、初代世界最強だって相手では無い筈だ。

名前も顔も知らないけど、まあ、良いか。

 

「……?」

 

体に違和感を感じ、自転車のハンドルを握る手を見てみる。

なぜか、その手が震えていた。

 

「お兄さん?どうかしました?」

 

「……いや、何でも無いんだ」

 

何故、手が震えていたのかは判らない。

その手の震えを隠すようにして、俺は自転車を漕ぐスピードを速めた。

 

 

 

進級試験も終わり、姉さんから言いつけられていたその見直しという名の復習も殆ど終わってしまった。

寝る前の少しだけ空いた時間、窓を開いてみる。

真冬の冷たい空気が部屋に流れ込んでくる、それに構わず星空を見上げた。

 

「一週間後には、メルクがIS学園の受験、か」

 

受験の時期は結構近い。

筆記試験は世界中の国々に於いて行われ、実技試験も各国で執り行なわれる。

イタリアの場合は試験会場はローマだ。

筆記試験が年末で、実技試験は1月になってから。

その期間が異様に長いが、受験生の数を数え上げれば当たり前なのだろう。

400万人もの解答用紙を採点して、得点順に並べなおして、とか質量的にもやってられるか。

そのため、受験の際に配布される問題用紙は各国の言語に合わせているが、解答用紙は世界共通のマークシート式になっているらしい。

そっちの方が採点は機械任せに出来るから楽だよな、問題用紙を作るのに比べれば。

だが400万枚もの解答用紙を機械で採点していくのもどれだけ時間がかかることやら。

だからこそのこの空白の時間があるのだろうな。

学園の皆さん、お疲れ様です。

 

「メルクが居なくなるのは寂しいな…」

 

振り返ればいつも隣に居てくれた、合宿の時にも同じ様な事を考えたりしたが、今度ばかりは不在期間が桁外れだ。

実技試験に持ち込めたというだけでもその殆どが入学を許可されたも同然だ。

入学前の各自の腕前を把握するだけのものであり、その実技試験に求められるのは実力ではない。

あくまで理解力だ。

そして、ただただ教師による情報整理のためだけだ。

そこで勝利したとしても自慢にもなりはしないそうだ。

なにせ、素人(アマチュア)相手に本気になって挑む者が試験官の任を受けれる筈も無いのだから。

 

だが、国家代表候補生や、企業から機体を預かった『企業所属』『企業代表』であれば話は別だ。

彼女らの場合は良くて勝利、悪くても辛勝は必然でなければならない。

更には、

『実力の全てをそこで出し尽くしてはならない』

 

『機体性能の全てを出し尽くしてはならない』

という暗黙の了解が存在している。

他の受験生、いわば他の国家から必要以上に警戒されてしまうらしい。

 

「難しい話だよなぁ、制限を施した機体で、手加減してくれている相手に必ず勝てって話なんだからなぁ」

 

メルクなら何とかしてしまうだろうという甘い考えが無いとは言わない。

でも、潜り抜けてほしい。

 

「俺も、頑張らないとな」

 

シルバーフレームの眼鏡を外し、レンズを綺麗に拭き、もう一度眼鏡をかけなおす。

課題とばかりに渡されたのは、現在の嵐星(テンペスタ・ミーティオ)の基本データ。

此処からどういう風に仕上げれば、機体性能が向上していくのか、それを考えてみる。

だけど、それは向上させれば良いというだけじゃない。

搭乗者のことも常に考慮に入れておかなくてはならないからだ。

即ち、『搭乗者とともに機体を育てる』というものだ。

これは技術屋としては至極当たり前だよな。

それに…また何か思いつくかもしれないからな…!

 

それにしても

 

「…姉さんは今頃はどうしているんだろうなぁ…」

 

「フニャァ…」

 

俺の膝の上でシャイニィが眠そうに欠伸をしていた。

…そろそろ寝るかな?

 

 

 

 

 

けど、存外早くもその日はやって来た。

俺達の進級試験の結果が貼り出され、俺とメルク、キースとクライドの四人は二年生への進級が決まった。

街角のファーストフード店で喜びを分かち合いたいところだが、その翌日にメルクがIS学園への片道切符を手に入れるための筆記試験と面接試験が執り行なわれる事になっていた。

無論、男である俺達からすれば会場に入れるわけもなく、外でメルクの学業の成果が発揮されるのを待つだけだ。

 

「ってかウェイル、寒いぞ、いつまでここで待つんだ」

 

「真昼間なのに冗談抜きで寒いっての!

自販機で買ってきた紅茶も冷めてるぞ⁉」

 

「俺達が待たずに誰がメルクを待つって言うんだよ?」

 

「「待つ場所が此処である必要性が在るのかって訊いてるんだよ!」」

 

何しろメルクが受験をする際に行う受験会場だが、なんとローマだ。

俺達一家と、キース、クライドもローマに来ていたのだが、待ち合わせ場所が何故かコロッセオだ。

言わずと知れた吹き抜けの場所だけに結構寒い。

父さんと母さんは現在仲良くショッピング中だ。

メルクの合格を祝う為のケーキを見繕っている。

けど俺はと言えば、ちょっと気が逸って待ち合わせ場所でメルクを待ち続けていた。

早ければお昼過ぎに連絡が入るらしいから気が気じゃない。

 

そして、自販機で買ってきた三本目の紅茶とコーヒーが冷め切った頃、姉さんとメルクが笑顔で戻ってきたのだった。

その笑顔を見て結果は悟っていた。

やっぱりメルクは凄い。

 

「メルクが言うには解答用紙は全て埋める事が出来たそうサ。

面接にしても返せた返答も充分、国家代表候補生としての貫禄を周囲に見せつけることが出来てるサ」

 

「貫禄って…」

 

姉さんが言うとなぜかシャレに聞こえない。

けど、実際にはメルクの成績はイタリア内ではトップなのだそうだ。

その兄貴に関して言えばあくまで平々凡々の裏方専門ときたもんだ。

このギャップはどうにもならない。

 

「後はしばらく先にある実技試験サ」

 

とはいえ、試験官も手加減してくれるだろうから、メルクでも存分に勝てるだろう、との事。

問題は、その後。

学園ではそんな常に手加減した状態を維持し続けられるわけでもない。

だから、その時に備えて徹底的に訓練をする必要がある。

んで、俺はFIATで裏方の仕事をすることになる。

ミーティオの調整にも加われるようになってから、俺もその仕事に携わっている。

最近は専ら脚部の『アウル』の調整が多い。

問題は幾つか在る。

装甲の内部に別の装甲を搭載するという新技術『内蔵装甲』は、少々だが装甲の摩耗の心配性がある。

開発当初の部品や装甲が摩耗し、耐久性が失われてきているので、別の装甲をカットし、それを新たに内蔵させる。

これにて、問題は解決する。

 

次に展開スピード。

高機動のさなかに展開させられるかの実験を何度も繰り返す。

 

次はそのアウルによる握力の測定。

これに関しては最初から問題は無い。

そうそう離れられる機体が存在しえないからだ。

シミュレーターでの計算では、重量が大きいとされている、ドイツの第二世代機『シュヴァルツ』、中国の第二世代機『龍』、日本の『打鉄』でも持ち上げて鹵獲できるのが判明している。

イタリアのテンペスタと重量がそんなに変わらないらしい、イギリスの『メイルシュトローム』、フランスの『ラファール』も問題無いらしい。

 

さて、杭状兵装のイーグルの貫通性能もかなりのもの。

ファルコンの射撃性能、ホークによる近接戦闘も問題なし。

 

最後に、背面の2対4機のスラスターだが、実技試験が終了次第新しいものに用意される予定になっている。

なお、この新型スラスターだけど、最新鋭技術というものでもない。

ただ単に、操作伝達速度を向上させ、以前よりも操作を簡易化している。

これによって、急速旋回も可能になってきている。

旧式のスラスターは、機体にセミオート操作を一任するのではなく、搭乗者が端から端までマニュアル制御を強いられるもの。

もはや、念には念を入れて作った予備パーツのような扱いだ。

だから、取り付けたとしても、その操作技術に慣れることを最優先として、普段は拡張領域に収納して置く予定でしかない。

新しいパーツを造り出す際だけど、収集したデータをベースにしたらしいが、それで此処まで造れるって言うのだから正直驚いた。

 

「ん~…だけどAlboreも搭載してほしかったな…」

 

これは未練なのだろうか…

 

 

 

それから暫く経ち、メルクの実技試験も終わり、合格通知が届いた頃だった。

そのニュースが全世界に響き渡ったのは。


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