IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第17話 双風 もう少しだけ先へ

受験戦争は辛かった。

来る日も来る日も勉強漬け、高校受験って辛いものだな。

この先、これが終われば釣りに行ける、そう考えながらなんとか乗り越えた受験日当日(地獄の一丁目)、その日の夕方には俺は真っ白に燃え尽きていたかもしれなかった。

髪が真っ白だけに、その表現はぴったりだと思うんだ。

 

「えっと…お兄さん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、大丈夫大丈夫…もう少ししたら釣りに連れて行ってやるからな」

 

近所のオッチャン達ともしっかりと約束してある。

父さんもクルーザーの整備は万端と言っていた。

母さんも静かにナイフを研いでいて、魚をさばく準備は出来ているらしい。

俺も父さんに教えてもらって、今回は魚群探知機の整備方法を教えてもらっている。

釣り竿の準備もバッチリだ!

気分としては鯨だって釣れそうだ…あ、それは無茶か。

 

帰り際、自動販売機で紅茶を購入してからそれを飲み干す。

それでようやく気分が落ち着いた。

 

「それにしても、姉さんの受験用プランは流石だよな」

 

姉さんが建てた受験対策、そして課題、それらは学校が出してくるものとは少しだけ違っていた。

今回の受験用テストそのものにかなり近かった。

無論、表記ミスだとか、ひっかけ問題だとかにも対策を用意してくれていた。

おかげ様にて俺たちは受験を無事に乗り越えられたと思う…思わせてほしい、切実にでもいいから。

その受験の帰り道、俺たちはヴェネツィアの一角で肩の荷を下ろし、一息ついていた。

こういう時くらいは、気を休めてもいいよな?

寒いのは辛いけど。

 

「お、見つけたサ、二人とも」

 

夕方になってもジョギングをしていたらしい姉さんに見つかった。

あのマグロ三昧生活の日々、ため込んでいたものを排出させるため、という事で、オフの日にはひたすら走っているのが昨今の姉さんだ。

今日もマラソン選手のような姿で走っていたらしく、あちこちに玉のような汗が浮かんでいる。

それと同時に街中の野郎連中が姉さんに視線を向けているのはいただけない。

 

「さてと、それじゃあ早速だけど…今日の受験の手ごたえはそうだったサ?」

 

俺とメルクは…親指を立てて応えた。

だってびっくりするくらいに解答用紙が黒く染まっていくのだから。

挙句に時間も余って見直しまで出来る始末だった。

もう余裕も余裕、残る時間は問題用紙まで見直していたよ。

 

「えっと…姉さん?

あの受験対策用の課題、どこから集めてきたんですか?

あんまりにも受験問題と重なっているような…というか、横流しじゃないですよね?」

 

もうメルクの疑問も仕方のない話だと思う、俺だって内心戦々恐々だ。

これで「実は横流しサ」とか言われたらほかの受験者の皆さんに申し訳ない。

 

「ん?知人とかに聞いて回ったのサ。

アンタ達二人が受験した高校は、問題をそんなに変えることが少ないらしいからね、過去卒業生35人の受験者にいろいろと教わっただけサ」

 

…うん、横流しじゃなかったらしい、安心安心。

…とうか、過去の受験者だとか卒業生の人もよくホイホイ教えてくれたよな…。

もしかしたら釣り人のオッチャン達の中にも居たかも…いやいや、そんな、まさかな…。

ひとまず、これで少しの期間だけでも安心出来るだろう、

というか安心させてほしい。

 

それから暫くして、受験発表の日もやって来た。

志望校からの通知が、通っている中学校に届くという形らしいけど、こういうのってドキドキするよな。

クラスに全員待機させられた状態から、一人一人別の教室に呼び出され、その中で発表させられるらしいんだが、クラスの皆は全員ドキドキしっぱなしだろう。

卒業後に即就職する人も、企業から通知が届くらしいから、全員緊張しっぱなしなんだよな…。

なお、呼び出された人は誰も教室に戻ってきていない。

通知を渡された人は、そのままさらに別教室に移動するようになっているから、だれが受験、就職に成功し、だれが失敗に終わったのかも判らない状態だ。

んで、

 

「残ったのは俺達だけかよ」

 

「先生、なんで呼び出す順番がランダムなんだよ」

 

「悪意を感じるよなぁ…」

 

「えっと…その、落ち着いてください…」

 

「んなぁ…」

 

俺とキースとクライドとメルクが最後の最後にまで残された始末だった。

どう考えても悪意が見え隠れしているんですが、先生。

なお、この四人は受験先が全員同じだ。

一度に発表してしまえ、とかそんな形になるのだろうか?

だったらグループで呼び出せばいいのに、なんで一人一人個別に呼び出しているのだろうか…?

どう考えても悪意が見え隠れしているんですが、先生。

 

「ははは…受験結果を言われる前に燃え尽きそうだ」

 

「落ち着けウェイル、お前はすでに髪は真っ白だろ」

 

うっさいな、気分的な問題なんだよ。

 

そんな馬鹿なやり取りをしている間に教室の扉がガラリと開き

 

「次、キース・ヴァイゼル君、来たまえ」

 

「へ、へい!」

 

キースが呼び出され、その次にメルクが呼び出され、クライドが呼び出され

 

「…俺が最後かよ…」

 

「なぁ…」

 

隣にシャイニィがいてくれるのがとても有り難かった。

けど、気分的には辛い。

教室で一人きりって…結構辛いぞ。

 

「痛い⁉」

 

机に突っ伏していたら耳に急激な痛み。

思わず飛び起きた。

 

「何するんだよシャイニィ⁉

なんで耳に噛みつくんだ⁉」

 

「ニャアァ…」

 

「いや、落ち着けって言ってもだな…こういう場合は…ああ、ごめんな、落ち着くよ」

 

シャイニィのおかげで気分も落ち着いたし、ちょっと深呼吸でも

 

「ラスト、ウェイル・ハース君、来たまえ」

 

する暇もなかった。

結果、もう良いだろ。

 

 

「ただいまぁ」

 

メルクと一緒に学校から帰ってきてから家に入る。

うん…?この香りは…鶏肉料理か?

 

「ナァン!」

 

「お帰り、ウェイル、メルク」

 

一番に出迎えてくれたのは父さんだった。

その後ろから母さんも顔を見せてくれた。

 

「それで、どうだったの?」

 

満面の笑みを見せながら母さんが受験結果を訊いてくる。

その笑みを見ながら俺とメルクはカバンに入れていた通知を二人に見せた。

そこに記されていたのは、『合格通知』の文字。

 

「よく頑張ったサ、二人とも。

ところでウェイル、その耳の傷跡はどうしたのサ?」

 

黙秘権を行使させてもらいました。

でも姉さんのことだから見抜いてそうなんだよね。

シャイニィに噛みつかれた傷跡だってことにも。

その張本人のシャイニィはといえば、素知らぬ顔で机の上でユラユラと尻尾を揺らしてるし。

この時に決めた、少しばかり髪の毛を伸ばしてみよう、と。

 

夕飯は、『チキンティッカ』だった。

どちらかというと鶏肉が好きな俺からすれば好物の一つ。

海鮮料理は嫌いじゃない、母さんが喜んでくれるから、いつも釣りに行ってるわけだし、それに趣味でもあるから。

 

「そういえばウェイル、アンタは近所の釣り場に行ってばかりだけど、波止場の釣り場には行かないのサね?」

 

「え?ああ、あそこ?実は結構騒がしいから」

 

「ですよね…」

 

俺の言葉にメルクが頷いてくれる。

もしかしたら姉さんは知らないのかもしれない。

黒の釣り人(ノクティーガー)氏のように、『色』の名を関した釣り人は存外居るらしいのだが、このヴェネツィアにも居る。

非公式ではあるけど『緋の釣り人』と『碧の釣り人』と仇名される人達が居るのだが、犬猿の仲らしいんだよね。

その二人のゴタゴタに巻き込まれた経験があるから、波止場の釣り場には行かなくなってしまったんだ。

 

思い出すのは昨年のある日のお昼前、波止場に居たのは碧の釣り人。

その怒声が響く。

 

「何で茂らせてんだよ!景観台無しだろぉっ!

丁度良い、そこの坊主と嬢ちゃん!

この植木鉢を退かすの手伝ってくれ!

駄賃やるからよぉ!」

 

報酬:『アジのなめろう』のレシピ

 

 

その翌週の朝。

今度は緋の釣り人の罵声が響く。

 

「パラソルに電飾!?

馬鹿か!気が遠くなる!

そこに居る少年少女!

このガラクタを撤去するのを手伝ってくれ!

無論、報酬は支払おう!」

 

報酬:『カジキマグロのソテーと野菜のガスパチョ』のレシピ

 

 

更に翌週のお昼前

続けて碧の釣り人の憤慨が。

 

「有り得ねぇ!飲みかけ、食いかけ捨てやがった!

そこの坊主と嬢ちゃん!

荷物広げるのを手伝ってくれ!

前より良いモンやるからよぉ!」

 

報酬:『サーモンのホイル包み焼き』のレシピ

 

 

 

更に更に翌週のお昼前

緋の釣り人の苛立ちが。

 

「空き缶に生ゴミを詰め込むとは…!

ヴェネツィアのゴミは分別収拾だ!

そこの二人、ゴミの分別と処理を手伝ってくれ!

安心したまえ、極上の報酬を支払おう!」

 

報酬:『海鮮釜揚げ御飯』のレシピ

 

 

ホント、もうあそこには行きたくないね。

確かに良いものもらったけどさぁ…。

 

名前は…『緋の釣り人(シェーロ)氏』と『碧の釣り人(クーリン)氏』だったか。

仇名というだけあって非公式扱いなわけだから俺が愛読している『月間釣り人』にも掲載はされていない。

 

「…なんか碌でもない事になってたみたいサね…」

 

「うん、まあね」

 

あの二人のゴタゴタで釣り竿を持って行って、持って帰っただけの日が数日ありまして。

そんなわけで俺はご近所の釣り場で釣りをしているんだ。

さてと、それはそれとして、今後の勉強のプランを姉さんから伝えられた。

メルクはこの数日後、『国家代表候補生』のライセンスを正式に取得し、更には専用機、通称『テンペスタⅢ』の受領も約束された。

最新鋭機の正式固有名称はこれから決めることになるらしい。

ぜひとも開発スタッフの一名として名を連ねたいな、そのためにもこれから始まるであろうFIATでのバイトを頑張ろう。

内密、簡単なスケッチは色々としているんだよな。

俺が設計した補助腕も正式採用されることになり、今は企業で試験稼働をしている。

そっちはメルクの機体に搭載はされないみたいだけど。

お恥ずかしいことにも、その補助腕にも固有名が付けられる事になったとか何とか。

ところで…開発者って誰だったんだか?

俺の名前が使われていたけど…?

そうそう、その補助腕は、フランスからも受注があったらしいけど、どういうわけか全面的にシャットアウトしたらしい。

それと少し時を同じくしてドイツからも要望があったが、サンプルを必要最低限度に提供しただけで、終わっている。

要はその補助腕『Albore』は、イタリアだけでの開発が行われているわけだ。

なぜその二か国に対してはその対応なのかは俺は知らない。

しかもフランスは、欧州全体からそんな扱いときたもんだ。

どうにも信用が全然無いのだとか。

理由は知らない。

まあ、わからないことに頭を使い続けていても無駄だよな。

さて、次のスケッチは、と…。

 

俺が設計考案した補助腕の発展形だ。

イメージインターフェイスがあるのなら、補助腕は態々手動操作をしなくても良い。

それどころか、腕に近い形状でなくても構わないという事だ。

それを教えてもらってから俺が新しくデッサンしているのは『脚部』に搭載する『クロー』だ。

コレで掴んだり、もしくはブレード型の兵装にすれば、姉さんのような戦い方をしても、脚部装甲の変形だとかの心配もまた小さくなってくれる筈だ。

 

あと…姉さんには秘密だけど、大型の魚を捕まえるのにも向いてそうだし。

いや、俺は魚を獲る時には釣り竿を使う主義だけど、つかみ取りを好む人も居るわけだろ?

マグロとかつかみ取りとか出来たら、それは一つのやりがいだと思うんだ。

 

あ、それと…こういうのは考えたくないけど…戦場では、相手の武器や機体の鹵獲、敵兵の捕獲にも役立つと思うんだ。

こうして考えてみれば、人や敵にも優しい兵器にも…いや、コレはただの綺麗事だな。

ともかく、俺はこれからは高校生になって勉強を、それとFIATのバイトの端くれとして頑張っていかないとな。

 

「ん~?へぇ、コレはまた面白いものを考えたものサ」

 

手元のスケッチに夢中になってたら、姉さんとメルクにもじっくりと見られてしまっていました。

 

「ふむ…こういう形状なら収納に関しても問題は無いだろうサ。

スラスターにも影響は出ない、コレは…今度のバイトの時にスタッフに見せてみな、良い反応をしてもらえるだろうサ」

 

姉さんからはお墨付きだった。

やったね。

 

 

四月に入り、工業高校に無事に入学。

俺はその中でも、専門のコースを選んだ。

分野は勿論『IS』関連のコースだ。

 

教科書には…昨年のFIATに於けるテロのことも新しく記されていた。

ただ、『ローマの開発企業もまた、テロの標的にされた』との一文だけで。

そのページには、亡くなった人たちのことは記されていない。

ニュースでも取り沙汰されていたのにな…。

だけど、このことは忘れてはいけないのだろう…あの日、その出来事を目にした者の一人として…。

 

さてと、FIATでのバイトも滑り出しとしては…なかなかにハードだった。

設計部門といえども、最初から設計考案に関わらせてもらえるものでもない。

そんなわけで、書類の運搬から始まっている。

五月になると、企業で行っている設計考案のラフスケッチなどを見せてもらえるようになった。

内蔵されている部品とか、一つ一つまで詳しく考えられているらしい、参考になるね。

そんな感じで忙しかったけれど、俺が考案した補助腕『Albore』の製造を行っているラインも見せてもらった。

 

「おう、バイト!

いい知らせが入ったぞ!」

 

「先輩、どうしました?」

 

「四月にお前さんが見せたスケッチだ!

あれが採用だ!『テンペスタⅢ』の開発に組み込まれることになったぞ!」

 

「………ウェイっ⁉」

 

え?俺が考案した脚部クローが開発に組み込まれることになっただと⁉

しかも『テンペスタⅢ(メルクの専用機)』に⁉

 

確か今はメルクは機体に搭乗して本格的な訓練に入っていた筈。

機体完成は秋の予定、それに対して今から導入開発決定って…やる気が出てくるじゃないですかぁ!

 

俺が考案したラフスケッチがまさかの第三世代兵装としてイタリア内部で登録されるだなんてな…。

 

「それでだ、臨時ボーナスも入ってくるだろうぜ」

 

「いや、あの、俺はバイトなんですけど⁉

にも拘わらず臨時ボーナスってそんな馬鹿な⁉」

 

「がっはっはっは!

小僧が細かいことを気にするな、ここはそういう職場だって風に考えちまえ!

良かったな!家族を誘って食事にだって行けるぜ!いい店紹介してやるから行ってこいよ!」

 

あ、ありがとうございます…。

いいのかな…?

 

なお、この報せはメルクにも姉さんにも届いたらしい。

勿論、両親にも報せは届いてた。

んで、翌週には姉さんとメルクと一緒に上層部に呼び出された。

あまりの事態に頭が追い付かない。

 

「バ、バイトのウェイル・ハースです。

召喚に応じ、参りました」

 

「お兄さん、緊張し過ぎです」

 

し、仕方ないだろ。

こんな風に呼び出されるだなんて思ってもみなかったんだから。

 

そんな言い訳をする間もなく、部屋の中に入った。

そこに居たのは、写真でも見たことのある課長本人が居た。

何と言うか…物凄い筋肉質の男性だ。

 

「よく来た、ウェイル君」

 

「待ちかねたよ、噂はかねがね」

 

そして何故か高校の校長先生も居た。

え?なんでこの人も此処に居るの?

 

疑問は浮かんだが、促されるままに席に座る。

秘書の方が紅茶を用意してくれ、その香りがとても良かったのを覚えている。

 

「君は、『欧州統合防衛計画(イグニッションプラン)』を知っているだろうか?」

 

「はい」

 

俺はその質問に対して首肯した。

聞いたことはある。

統合防衛計画とは言っても、その実は各国が開発しているISの自慢会なのだそうだ。

それが数年前から躍起になっているらしい。

俺としても興味はあるが、話だけでも腹一杯だった。

もしかしたら展覧会みたいなものかもしれないけど。

 

「それは実は、昨年にも執り行われたばかりだ」

 

昨年といえば、モンド・グロッソ第二大会が開かれた年だ。

へぇ、そんな年にも行われていたのか…。

 

「五年前にはフランスで、昨年はドイツで。

ともにISの開発が世界最先端になった企業を保有している国家で開催されたのだよ」

 

へぇ、そんな法則があったのか。

てっきり国際IS委員会が抽選みたいなもので決めているのかと思ってたよ。

 

「次回、第三回大会がここイタリアで開催される可能性が出てきたのだよ。

それは間違いなく君のおかげでもある。

ISに関わらず、災害における救助活動にも使われている補助腕『Albore』、脚部に内蔵された捕獲クロー兼、蹴撃型ブレード『OWL』、それは君の柔軟な発想のお陰だ。

すでにそのどちらもが特許として認定されており…」

 

「まだるっこしいサ、支部長。

ウェイルに言いたいことがあるのならさっさと言いな」

 

姉さん、率直すぎるぜ…。

まあ、俺としても今回呼び出された理由を手早く知りたいところでもある。

 

「う、ウム…なら率直に言おう。

ウェイル君、君のその柔軟な思考を我々は手に入れたい」

 

「…?

すんません、もう少し判りやすく言ってくれませんか?」

 

数秒、部屋の中が沈黙に包まれた。

校長先生とメルクは苦笑い、姉さんには側頭部を軽く小突かれた。

あれ?俺、何か変なことを言ったかな?

 

「そ、そうかね…。

そうだな…高校を卒業した後、君を正式雇用したいと思っている」

 

…え?マジっすか?

大学進学とか姉さんは考えていたと思うんだけど。

そう思ってみてみると、…うん、呆れていた。

でも…なんだか嫌な気がした。

だから、俺は…

 

 

 

その日の夕飯はシーフードパスタになった。

魚介と海藻類が幾つも盛られ、なかなかに豪華だ。

 

「でもお兄さんの返し、予想外でした」

 

「いや、アレは試されていただけサ。

ウェイルの反応をあの御仁方は窺っていたんだから、あれで正解サ」

 

両親の前、二人は今回の面談について語り合っていた。

どうにも呼び出されたのは、俺の人となりを知る為だったそうだ。

俺が誘いにホイホイ応じていれば、印象は最悪方面へ真っ直ぐだったそうだ。

なにせあの場で頷けば、「自分の開発品を使ってくれるなら誰でも良い」と言い出すマッドサイエンティストと何も変わらないからだ。

 

俺はあの支部長の誘いを断った。

就職への近道が出来るのは良いことかもしれないけど、その為に頑張っているのは俺だけではないんだ。

その人達への侮辱になるような誘いに乗るのは、間違いだと思ったから。

それに、俺は補助腕に関しては設計考案しただけで、開発したわけじゃない。

開発をしたのはFIATであって俺ではない。

特許というのも企業へ還元されるものだろう。

 

「ウェイルも謙虚というか、遠慮がちというか…サ…」

 

「い、いいだろ姉さん、俺は後悔してないんだから」

 

就職は、自分の手で決めたいんだ。

メルクの専属エンジニア、俺にはこの目標を決めているんだから。

 

「男の子だったら、女子にモテたいとかそんな青臭い青春を夢見てたりするかと思ってたけどサ」

 

「だ、ダメですそんなの!」

 

はれ?俺のことなのにメルクが真っ先に怒り出したぞ?

コレってどういうことなんだか?

それに、学校でも俺に近づいてくる女の子が居ないわけじゃないけど、皆そろってシャイニィを撫でたがっているだけだしなぁ。

ドラマで見るような青春物語なんて俺には経験が無いんだよな、そういう時期が来てほしいってわけじゃないけどさ。

それに、こんな白髪の男を好む女性なんて居ないだろうから。

染めてみるのは結局止めることにしたんだし、自分なりの青春ってものを探してみようかな。


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