IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第13話 街風 三人で

施設への見学会がご破算になりかけて、やむなく休みを延長して見学会と街並みを見ていくことにした。

見学会としては実際には大成功で、メルクもウェイルも興奮しっぱなし。

イタリアの売りでもあるテンペスタの製造工程なども見せることが出来た。

でも、今回はまだ見せるだけ。

最終選抜試験にまで残り続けたメルクは搭乗する機会はあるだろうけど、ウェイルはと言えば

 

「初めて触れる機会があるとすれば、初めて整備に参加できる瞬間にしたいんです」

 

とまで言ってしまっていた。

早い話が、餌を目前にして「待て」の状態の子犬のような状態。

あ、またあの子ってば兵装(ランス)を持ち上げようとして振り回されてる。

メルクはブレードに振り回されて…二人とも見てられない。

 

「重い…」

 

「今の私達じゃまだキツいです…」

 

「気は済んだサね、二人とも?」

 

二人の様子といえば、バーベルを持ち上げた後の疲れ切った体操選手の姿のようになっていた。

無理しすぎサ、ほほえましいのは認めるけどサ。

二人が頑張ってるのは判るけど、何と言うか…。

 

製造過程の次に見せたのは、先日亡くなったテスターの代わりに新しく派遣されてきた新しいテスターによる実演飛行だった。

 

「あれが、本格的な飛行技術なんですね…」

 

ISが飛行しているのを間近で見る機会が恵まれているわけでもないからか、そんなコメントがウェイルの口から零れ落ちた。

この世の中じゃ優れた技術を使う人間は頭のねじが外れているのが多い。

昨日のテロリスト然り、創始者(篠ノ之 束)然り、あの女(織斑 千冬)然り、国際IS委員会然り、もしかしたら私も。

 

「では次に私から基礎知識的な簡単な講座を」

 

テスターも親切なのか、弟妹達(ウェイルとメルク)に授業をしてくれている。

けど、その講義に関しても二人は首を傾げるようなことをしていた。

当然サ、あの二人が事件に巻き込まれたのは昨日の今日のことだから。

その事について質問されてしまっていたテスターも困り果てて私に視線を向けてくる。

 

「その質問には私が答えるサ」

 

そう、この子達には先ほどの講義は既に逆効果になってしまっている。

ウェイル達がした質問とは、ISコアの管理についてそのもの。

コアにはそれぞれナンバーが記され、各国に配布されたコアはナンバーがバラバラ。

ある国にはナンバー『102』の他に『374』のようにバラバラにされている。

そして各国は配布されたコア一つ一つを記録し、国際IS委員会に開示、国際IS委員会はそのナンバーを参照できるようにして、管理をしているとのこと。

そう、『管理』だ。

昨日のようなテロリストが現れたが最後、そのテロリストもまた国際IS委員会によって管理されているのではないのかという疑いが発生する。

 

「これは各国が考えている汚い部分サ。

IS一機で…もっと言えばコア一つで国家の防衛力が大きく上下するのサ。

だから、各国は他国にコアを奪われてしまうのを過剰なまでに恐れているのサ。

それと同時に、コア一つで防衛力だけでなく軍事力のバランスも大きく傾く。

コアを失えば…それが露見すれば、国際IS委員会による国家単位での制裁を受けることになる。

だからこそ、コアがどこかに流出してしまったとしても、国家全体でそれを隠蔽しようとする。

でも、隠蔽するのはそれだけじゃないのサ」

 

そう、国家といっても綺麗事ばかりじゃない。

どこの国でも同じような事を考えている。

 

他国のコアを奪った(・・・・・・・・・)ことすら隠蔽されるのサ」

 

そう、国家間の大犯罪ですら、その国家間同士で隠蔽しようと躍起になる。

 

「他国のコアをくすねとる、それは他国の管理技術の甘さを露見させる、それはどこの国家でも考えられている。

そしてそれを国家間同士で黙認して、隠蔽しているのサ」

 

「じゃあ、昨日のテロリストは…」

 

「アレはさらなる例外サ。

あちこちの国家からISコアを略奪しては殺戮を繰り広げているのサ。

けど、国際IS委員会はそれに関しては関知しない。

あの国際IS委員会は『地図上から見ているだけの傍観者』にすぎないからサ。

放置しているのに管理とは怪しい話、ハッキリ言ってしまえば『管理している』というのは建前であって、実施はされていないのサ」

 

そう、建前サ。

あいつらはただ単に、世界地図を見ているだけ。

何かが起きたとしても、事が済んでからしゃしゃり出てくるだけの傍観者サ。

地図の上からは人は見えない(・・・・・・・・・・・・・)』のをいいことにしてサ。

その犠牲者の一人がウェイルだ。

 

「何か…変な組織ですね、国際IS委員会って…」

 

現実を識ったウェイルの一言は、それだった。

けど、これが現実サ。

 

「極端な話をしてしまえば、ISに関わるってことは、その組織の端くれに入るってことにもなる。

まあ、関知されないってことで言ってしまえば『クソ喰らえ』って言ってやってもいいだろうけどサ」

 

そう、最後は明るく締めくくる。

それが私なりの教育術。

 

「メルクがそういった組織の犠牲者にならないように俺も気を付けないと」

 

うん、ウェイルも前向きになったサね。

メルクは少しだけポカンとしてるけど、この様子なら大丈夫。

 

「さあ、ここから先はテスターを交えていろいろと授業をしていくサ!」

 

私なりの授業、しっかりと受け止めてもらうからね!

 

授業とテスターを挟んだ実演を交え、その日の見学会は一日遅れの大成功になった。

今日のこの疲労感はなかなかに心地いい。

おっと、一日遅れになったけど、国家元首に昨日の襲撃の詳細を報告しとかないとね。

さあて、コアを奪われたマヌケはどこの国だったのやら。

これが前回のモンド・グロッソの会場になっていたフランスだったらマヌケにも程がある。

 

夜、ホテルの部屋では今日教わったことを忘れないようにウェイルとメルクが必死にノートに記憶を記録として刻んでいた。

あんまり頑張りすぎて徹夜にならないといいけどサ。

明日は気晴らしに街に連れて行こう。

昨日は襲撃を受け、今日は実演を見せながらの授業だから気も張りつめているだろう。

 

そんなわけで、その日は私がちょっとだけ夜更かしをすることにした。

ホテルの部屋に備え付けられているキッチンを使って、簡単なお弁当を作ることにした。

とは言っても、バスケットの中身は簡単なサンドイッチ、それから容器に詰めたスープに、あとは…何にしようか?

私も大概面倒見がよくなってきてるサね。

 

「良し、こんなものでいいかな」

 

ジェシカのおかげで私もすっかり料理上手になってきたみたいサ。

バスケットを机の上に置き、私は寝室に戻った。

ベッドが三つ並んでいるが、一つは空っぽ。

メルクがウェイルの腕を枕にして安眠状態、そのウェイルはというと穏やかな寝顔。

夢の中でまた彼女に逢っているかもしれないけど、それが現実になる日がくるのだろうか…?

やめやめ、こんなんじゃ『いつもの私』じゃなくなってくる。

さあ、明日に備えて私も寝よう。

羊が一匹、羊が二匹…

 

 

「とまあ、そんなわけで、今日は三人で街を見て回ろうかと思ってるのサ」

 

ホテルの食堂で紅茶を飲み終えてから私は視線を二人に向けた。

 

「散策、ですか?」

 

「そうサ、いいものがあればお土産として買って帰るのもいいかもね。

あとは欲しいものがあれば、なんてね」

 

トーストを齧るメルクに私は答えた。

ウェイルはオムレツを齧りながら私に視線を向けてくる。

 

「ローマを見物かぁ…」

 

うん、今日は最終日だし、物見遊山に浸ってみよう。

軽くローマといっても結構広い。

あいにく一日で全部を見て回ることも難しいから、効率よく、そして楽しめるように見ていきたい。

 

「最初に見に行くのは…」

 

食事を終えてから少し経ってからホテルを出た。

最初に出向いたのは、『バチカン美術館』。

ローマの中でも有数の観光スポット、かつては美の都ともされていたローマの中でもこの場所は譲れない。

それから次にコロッセオ。

かつては剣闘士(グラディエーター)や奴隷が戦わされていた場所ともされている。

今では地下に在った施設がむき出しになっているけど、まあこれはこれでいい場所サね。

 

「ここでいろんな人が戦っていたんですね…」

 

「人間の歴史は戦争によって作り出された歴史とも言える。

だけど、ここで戦っていたのは時に『名誉』を望んだ人物がいたのもまた確かな話サ」

 

此処にも武器の見本なんてものが置かれているけど、ウェイルはさっそく手に取ってみていた。

手にしてみたのは槍だったけど。

まあ、あれくらいなら大丈夫みたいだね。

 

さて、キリキリ歩こう。

次に来たのは大通り、『ナヴォーナ広場』。

朝市(カンポ・デイ・フィオーリ)も開いているみたいだし、ちょっと覗いていこう。

 

「この服、メルクに似合いそうだな」

 

ウェイルがのぞいてみたのは仕立て屋らしい。

その中に飾られていたのは、シンプルなワンピース。

お気に入りの服がソレだったからか、ウェイルの目にその服が目に入ったらしい。

 

「私にですか?」

 

「うん、例えばこのボレロと一緒にしてみれば…とか、こんな組み合わせはどうだろう」

 

「じゃあ私はこんな服の組み合わせにしてみるサ」

 

「「…え?」」

 

さあさあ、ウェイルとメルクの二人をオーディエンスにファッションショーの開幕さ!

 

私が最初に選んでみたのは、トップスに黒の臍出しTシャツに、ボトムはホットパンツといった動きやすい組み合わせ。

う~ん、やっぱり胸がキツい。

さて、着て見せてみたけれど、やっぱりと言うかウェイルは顔を合わせてくれない。

メルクは…妙な視線をむけるんじゃないサね。

動きやすい服が私の好みなんだけどね。

ちょっとこの子達には刺激が強すぎたのサね?

 

ところ変わって…というか、真向かいにはどういうわけか眼鏡屋が構えられていた。

朝市で出す代物なのか少しばかり悩みどころではあるが…まあ、いいか。

 

「そうサね…ウェイルはエンジニア、有り体に言えば研究者を目指してるんだから、眼鏡とか似合いそうサ」

 

「お兄さんに眼鏡、ですか…」

 

「もともと視力は問題無いし、度が入っていない伊達メガネでも良いかもね」

 

ツツーッと適当に見て最初に手に取ってみたのは、フルフレームの黒縁眼鏡。

試着させてみる。

 

「う~ん、どうですかね?」

 

どう、と言われても…この眼鏡は失敗サ。

何だか猶の事、普段よりも子供っぽく見える。

30秒ほど笑いをかみ殺すのに必死にさせられた。

 

次に手に取ったのは、銀縁のハーフフレームの眼鏡。

 

「…どうですかね?」

 

「あ、お兄さんにはそれが似合う気がします」

 

「ふむ、さっきの眼鏡よりもずっといいサ」

 

というわけで銀縁眼鏡お買い上げ!

いい買い物ができたサ!

物のついでに丸レンズのサングラスも一緒に買ってみた。

 

さてと、ジェシカたちへのお土産には何が良いかねっと。

 

それとウェイルにもなにかいい服を見繕ってあげたいサね。

 

「ウェイル、背広とか着てみないサね?」

 

「俺が、背広を、ですか…?」

 

仕立て屋もあるんだから見ていかないとね!

『背広を着ている』のではなく『着られている』とかなってしまっても、思い出になればそれでもいい。

ほらほら、メルクも背広姿のウェイルを見てみたそうにしてるし、キリッとした姿を見せてあげな!

ああ、それとメルクにもレディーススーツを着せてみてあげよう。

 

そんな訳で、二人にもスーツを着せてみた。

まだ二人は今年で14になる中学三年生だからか、やっぱりというか、『着ている』と言うよりも『着せられている』といった感じ。

でも似合ってるサ。

 

「スーツ、高いんじゃないですか?」

 

メルクが気まずそうにしていたけどお構いなし。

私としては経費で落とせるから今回のこの旅行に関しては費用は惜しまない。

はい購入決定!

 

「ウェイル、どうしたんサね?」

 

「あれ、使えそうだと思って…」

 

ウェイルが指さす先は、ポケットがたくさんついている繋ぎ服に、エプロン。

うん、メカニックをしている最中のウェイルが着こなすには調度よさそうサ、はい、購入決定。

まあ、そんな事がありはしたものの、背広よりも作業服を喜んでいるウェイルには少々気分が複雑サ。

メルクはというと、それを試着したウェイルの姿に見とれてるし。

私の弟と妹のセンスが少しわからなくなってきた。

 

「先生も何か購入されてみてはどうですか?」

 

「ん?私も?」

 

そんな訳でメルクの案に従って適当に見繕ってみて試着室に入ってみた。

メルクが持ってきたのはサマードレス。

肩と胸元が少々開いた大胆なものだった。

足元が少々不安ということで太ももから足首までを隠せるレギンス付き。

靴はウェイルが選んでくれたローヒールの花飾りが施されたサンダル。

 

「うん、ちょっと大胆だけどいい感じサ」

 

試着室のカーテンを開き、弟妹に姿を見せようと思ったら

 

「あれ?居ない?」

 

背筋に寒気が走る。

昨日あんな事が起きたばかりなのに、目をはなしたせいで何か事件に巻き込まれた…⁉

そんな事、あってたまるか!

 

「お兄さん、コレが似合うと思いませんか?」

 

「だな、コレで決まりだ」

 

アンタ達?

私を試着室に放り込んどいて何をしてんのサ?

 

二人はすぐ近くに居た。

試着室からは少し離れているだけで、近くのアクセサリーの類が飾られている戸棚の前に二人は居た。

それから二人は風のように駆け抜け、支払いをして、試着室の前へ戻ってくる。

私が着替えているのに手間取っていると思って、勝手に買い物をしていたらしい。

心配するような状況にはなってなかったから良かったけどサ、心配かけさせないどくれ。

 

「どうだい二人とも、お姉さんの着替えてみた姿は?」

 

「「凄く似合ってます!」」

 

お決まりのパターンだった。

 

けど、言葉自体は嬉しかったから、先ほどの勝手な行動は咎めないでおくことにした。

はい、購入決定!

 

さて、今日は旅行の最後の一日。

二人にはいい思い出を作ってあげよう!

さ、朝市は見たから次はどこに行こうか!

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでこの二日を観光に費やして、最後は空港に来ていた。

楽しい時間ほど経過するのが早く感じてしまうのは何故だろう。

それはきっと解き明かせない謎の一つかもしれないサ。

この数日はいろいろとあったけど本当に楽しかった。

ウェイルは工場の方からマニュアルをもらったらしく、読みふけっているし、メルクも完成された状態ではなく製造過程を見て勉強になったらしいし。

それに何より、命の重みだとか、世界の汚いところを見てしまっている。

今回のこの旅行で多くのことを学べた筈サ。

 

飛行機のシートに座った途端、二人は寝てしまっていた。

楽しむだけ楽しんで、学べるだけ学んで、お昼には私が作ったお弁当を食べて、歩き回れるだけ歩き回った。

二人の体力を考えれば眠ってしまうのも無理は無いだろう。

 

「今日はお疲れさん、ウェイル、メルク」

 

歩くのにも疲れてしまってるかもしれないけど、二人の寝顔はとても穏やかだった。

揃いも揃って、のんきな寝顔しちゃって。

 

…私は、うまくこの子達の居場所に成れているだろうか?

笑顔を浮かべられるように出来ているだろうか?

()として振る舞えているだろうか?

大丈夫な筈、私としてはうまくやってきた筈。

先手を常に握り続けてきた、嘘と偽りで塗りたくった虚飾そのものの世界だったとしても、ウェイル達に注いできた感情は本物サ。

絶対にそれは偽りじゃない。

 

「けど、『姉さん』って呼ばれた経験はいまだに一度も無いサね…」

 

そう、私はまだこの子達からすれば『先生』らしい。

あれだけ親身にしてきたのにね。

あ、それも私が原因か、初対面の時点で『家庭教師』と名乗ったのが失敗かな。

これからは『姉さん』と呼ばせてみるとかしてみようサね…?

…ガラじゃないだけ引かれそうな気がした。

けど、呼ばれたら私としては嬉しいサ。

 

「じゃあ、私も一眠りしようサね」

 

CAに頼んで毛布を貸し出してもらい、二人にそれをかぶせ、私も毛布にくるまった。

その日、不思議な夢を見た。

例の繋ぎとエプロンを身に着けたウェイルがISを作ろうとしている夢を。

ああ、うん、現実でもやらかしそうな気がした。

 

 

夢から覚め、暫く前に見せてもらった、ウェイルなりのISのデザインを思い出す。

あんな兵装、使いこなせる人なんて居るのだろうか?

どちらかというと、アレはウェイルだけの単一仕様機(ワンオフデバイス)だ。

かつて、ウェイルではなかった頃の過去の誰か。

右腕を骨折していたから、『もう一本右腕があれば』とか考えたのかもしれない。

 

それと、ウェイルの成績表を思い出してみる。

一般科目はギリギリ平均点だけど、機械工学や料理などの特殊科目はずいぶんと尖ってる。

『全てに対して十全』ではなく、『限られたことに対して万全』といった風に形容できる。

言わば、その知識や技能は『深く、狭く』といった感じなのだろう。

釣りもその内に入るのかは…評価すべきか?

まあいいや、無自覚にも人脈を広げているみたいだし。

 

「コーヒーもらえるサね?」

 

「はい、少々お待ちを」

 

CAの機内サービスを取り寄せ、眠気覚ましにコーヒーを頼む。

一口飲んでみるけど、ウェイルが淹れてくれるカプチーノの方が美味しいサね。

食事は…空港についてからラウンジでしようか。

時間はまだ9時を回ったくらい。

二人はよほど寝足りなかったのか、まだグッスリと寝ている。

昨日は勉強したことをノートに取り直したり、私に質問してきたりと家庭教師冥利に尽きる夜になったサ。

おかげで私も少々寝不足だったけどサ。

 

「ほら、二人とも、そろそろ着くよ、起きな」

 

寝ぼけ眼のほほを軽~く摘まんで起こすことにした。

メルクは柔らかいけど、ウェイルは少し硬くなってるサね、年頃の男の子ってこんな感じなんだろうサね?

おっと、よく見ればウェイルの頭に寝ぐせが。

手持ちのヘアブラシでなでつけて治しておいた。

ウェイルは何かと世話がかかるけど、こういう子は嫌いになれない。

どちらかというといい弟サ。

成績がとがってようと、性格まで尖ってるわけじゃないからサ。

オマケに温厚で喧嘩は嫌いでどこかノンビリとした所もあるからね。

うん、『いい弟』じゃなくて『自慢の弟』と言えるかもサ。

 

空港に到着し、すっかり眠気もすっ飛んだのか、二人の足取りはしっかりとしてた。

空港のラウンジに開かれていたパン屋でベーグルサンドを頬張り、これからヴェネツィアまでは電車やタクシーで帰ることになる。

久し振りのヴェネツィアも悪くないサ。

 

「工場長にも話は着けたし、研究所への繋ぎにもなった。

これからは見学はいつでも来ていいって話になったサ」

 

そう、ウェイル達へのは見学に行きながらも勉強を怠らなかった。

だからこれは私から二人へのご褒美サ。

途端に二人は大喜び。

 

「それとウェイル、見学に行った際に自分で描いてみた設計図を見せたらしいサね?」

 

「アハハ、ちょっと好奇心半分で。

でも、あんなの結構ピーキーになりそうですけど」

 

「作業用アームとしてなら使えそうだって話を後から聞いたサ」

 

そう、一人で出来そうにない作業でも、ウェイルが書いてみた設計図の中身のそれなら出来そうらしい。

兵装としてはともかくとして、作業用アームとしてなら可能。

ちょっと改造してしまえば、ISにも搭載が可能なのだとか。

 

で、後日…試作品が家に届いた。

FIATの社長は何を考えてるのサ。

よもやまさかの私の家に。

車に乗せてからウェイルの家に運び、実物を見せてみると。

 

「おおぉ…凄いなぁ…」

 

「これが、お兄さんが設計したISのパーツ…」

 

「説明書には、『任意付け外し可能(アタッチメント)』式になっているみたいサ」

 

弱冠、13歳の少年が設計した後付け武装。

けど、その実態は、ISに取り付けなくとも稼働が可能な補助作業腕。

それをウェイルときたら

 

「これを使えばもっと大物とか釣れそうだな…」

 

釣りに使う気満々だった。

アンタって子は…いや、ウェイルらしいと言うべきか…。

 

「でもこの説明書、『開発者』の名前が記されてないですよ?」

 

メルクが気にしたのはその点だった。

そう、その点は私も気にしていた。

『設計者 W・H』とまでは記されているけれど、開発者の名簿欄には『開発者 ・ 』と半分が空欄状態。

…後で問い詰めてみるとしようサね。

そしてその補助作業腕を嬉しそうに担いでいくウェイルの後を追いかけていくと、港に停泊させているクルーザーに運び込み、船の船頭に固定した。

 

「これで今度の海釣りで大物をつってやるぞ!」

 

近々海釣りに行くつもりになってるし…。

その時には私も同行しよう、ちょっと心配だし。


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