IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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今回登場する人物について

ガリガ・スタンダイン
シャッポと呼ばれる帽子を愛用し、葉巻と一緒にトレードマークにしているナイスミドル。
釣りをする際には生餌ではなく疑似餌を使用する派。
ウェイルからすれば釣り好きの気のいい近所のオジさん。
だがその正体は、イタリア随一の巨大マフィア『スパルタクス』の13代目大頭目。
表事業としても有名ではあるものの、裏仕事も色々とこなす。
配下は末端まで含めれば3000人とも5000人とも言われている。
だがウェイルはその事実も真実もを知らない。

ウェイルの家の近所に家を購入しているが、実はセカンドハウス。
釣りに於いて必要な『糸の結び方』をウェイルに教授した。
なお、釣り場では葉巻もたばこもパイプも控えている。


第10話 白風 目覚めたときに

朝、目が覚める。

 

その時には視界が滲んでいる時があった。

 

それは普段の生活でも、授業中に居眠りしてしまった時も。

 

冷たい闇の中、知らない誰かの名前を呼びながら、俺に向かって走ってくる女の子。

 

涙を流しながら、髪を振り回しながら

 

「今日も、か…」

 

これで何度目になるのかは判らない。

 

繰り返し同じ夢を見続けているからか、今と昔とで、その女の子の様子が違っているかのように見えた。

最初の頃と比べ、その女の子は髪が伸びていたかのように思える。

なのに…どうして顔を思い出すことができないのだろう…?

なんで…手を差し伸べることができないのだろう…?

 

「なぁ…」

 

膝の上に座るシャイニィを撫でながら、頬を伝う涙を拭う。

こんな顔、メルクには見られたくない。

 

「おはよう、シャイニィ」

 

夏、メルクは合宿に出向いており、今は家に居ない。

アリーシャ先生もそれに関係しているのかは判らないけど、ここ最近は家に来てくれない。

家には、俺と両親と、シャイニィだけだ。

私服に着替え、洗面所で顔を洗う。

髪は…染めるかどうかで悩んでいたけど、両親にダメ押しされて白髪のままだ。

 

「おはよう、父さん、母さん」

 

「おはよう、ウェイル」

 

「朝食、出来てるわよ、一緒に食べましょう」

 

「その前に走り込みしてくるよ!」

 

こういう当たり前にありうる光景に、俺としては今になっても感動することがある。

もちろん、メルクやアリーシャ先生が居てくれれば、この空間も完成するんだろうけど。

 

今では見慣れたコースを緩急をつけたりして走るのに見慣れてきてる。

だから走るのは朝だけでなく夕方にもすることにした。

 

「いただきます」

 

朝食はカリカリになるまで焼いたトースト。

そこに気に入っているトマトジャムを塗ってから食べる。

コーンスープも温かみがあっていい。

母さんの料理の腕は凄い、ご近所さんの話では『国際の場でも出せる』と評判だ。

そんな腕前を家族のためにふるってくれてるから頭が下がるよ。

それにその料理の腕を俺やメルクにも仕込んでくれてるから猶更。

 

父さんはといえば、色々な企業をまたにかけてる機械関連のトップクラスだとか。

船に車に飛行機と機械関連では有名人らしい。

で、俺にも機械関連のメンテナンスを教えてくれてる。

ここ最近、DVDプレイヤーの修理もできるようになった。

難しくて徹夜しちまったけど。

 

「ウェイルは今日はどうするんだね」

 

「ううん…メルクは合宿に出向いてるくらいだし、俺はそのエンジニアになるって決めてるから、その勉強をするよ」

 

つまりは、ISのお勉強だ。

ISは女性だけが起動可能。

そんなのは世間の常識であり、俺だって知ってる。

だけど、製造過程に於いては話は別だろ?

それにエンジニアに男性が入ってるって話もよくあるらしい。

扱いがひどいのは世間の情勢らしいけどさ。

だけど、『搭乗者がエンジニアを直接指名』した場合はそれからも出られるとか何とか。

そんなわけで俺もISに関しての勉強は夏の少し前からずっと続けてる。

頭が悪いのに徹夜してまで勉強とか頭が痛くなりそうなのが最近の悩みだ。

 

「なぁ!」

 

「いけね!寝そうになってた!?」

 

勉強中の居眠りは宜しくない。

先生に放課後呼び出されたりと色々と面倒だもんなぁ…。

眠りに落ちそうになる度に起こしてくれるシャイニィに感謝感謝。

 

「えっと…イタリアでの開発主体機はテンペスタだったな…」

 

アリーシャ先生が搭乗している機体とてその機体だが、チューンナップされて、今は『テンペスタⅡ』という事になってるらしい。

俺は直接その機体を見せてもらった事は無い。

本当に必要な事態とかにならなければ無断展開は禁止されてるとか。

結構規則が厳しいらしい。

そこでメルクが定期購読している雑誌『インフィニット・ストライプス』を見せてもらった。

アリーシャ先生に関しての特集もあったらしく、その機体の写真も載せられていた。

シャイニィも一緒に載ってたな。

 

アリーシャ先生の機体は、髪の色に合わせてか茜色だった。

この色は正直好きだと思う。

夕暮れの色に近いから。

 

「夕暮れ、か…」

 

なぜこの色が好きになったのかはよく判らない。

俺自身、夕暮れに何かあったのかな?

思い出せないのなら気にしても仕方ないな。

次に行ってみよう

 

「うわ…難しいな…」

 

ISは現代機械の最高峰に近いものらしいから、課題はたんまりだ。

参考書で山になりそうだ。

勉強って…辛いな…、頑張ろう。

 

 

 

機械いじりは多少は得意な分野に向いてるけど、ISはすごく難しい。

イタリアのうりでもあるテンペスタでもかなりの困難ばっかりだ。

テンペスタの特化している機能は『機動性』。

縦横無尽に、そして他国の機体では決して追いつくことすら出来ないスピード…らしい。

それゆえに『世界最速の翼』。

 

う~ん、その機体でみられる光景、見られるものなら見てみたいなぁ。

海にも出られるし、沖合で釣りとか出来そうだよなぁ、クルーザーだとか用意する手間も省けるじゃないか。

燃料代とか気にしなくていいし。

 

それに通信機も使わずに遠方とも連絡が取りあえるらしい。

一人用クルーザーもどきとしては夢のようじゃないか。

 

「でも、兵器なんだよな…」

 

これだけの機動性と性能がありながら、その使用用途は「兵器」だ。

 

・女性のみ起動可能

・女性の中でも先天性の適性が必要

・適性次第で性能が著しく上下する

・量産不可

・コアの製造は不可

 

…こうやって考えるとISって欠陥ばっかりだよな…。

兵器じゃなくて作業補助システムだとか、宇宙進出技術とかに使えばいいのに。

それに、釣りとか釣りとか釣りとか。

 

今日も今日とていつもの釣り場に出向いて釣り糸にルアーを結び付け、それを水面に投げた。

さあて、今日はどんな魚が釣れるかな、と。

 

「なぁぁぁ…」

 

シャイニィも俺の膝の上で丸くなって視線は釣り糸を垂らした先へと向いている。

釣れるのが楽しみだよなぁ。

 

「坊主、今日も来てたのか」

 

「ガリガさんこそ、今日も釣りですか?」

 

「おうよ、あの青っ白い奴に勧められたがいいが、ここまでのんびりできるものは無いぜ」

 

この釣り場の常連でもあるこのオジサン…ガリガさんは葉巻とシャッポがトレードマーク。

時々だけど、葉巻がパイプに変わったりするけど、普段は何をしている人なのかは知らない。

釣り好きに悪い人なんていないだろうから気にしないけど。

 

「よし、さっそく一尾目が来た!」

 

「なぁっ!」

 

釣り竿を傾けながらもリールを巻き上げ、一気に引き寄せる。

手ごたえからして…少しだけ大きめの小物だな。

よし、夕飯はコイツをグリルにしよう!

 

「調子が良いじゃねぇか、ウェイル!」

 

「どうも!」

 

水面から出てきた魚は…15cmほど。

口元からルアーを外し、そそくさとバケツに放り込む。

途端にシャイニィが尻尾をユラユラと揺らしながらバケツの中に視線をくぎ付けにしている。

コラコラ、露骨すぎるだろう。

 

「嬢ちゃんは…確か、合宿だったな」

 

「メルクが居ないってだけでも、家の中が少しばかり寂しいですよ」

 

「がっはっは!すっかりシスコンだなウェイル!」

 

自覚してますって。それよりも。

 

「釣れてますよ」

 

「うお!?コイツはイカン!」

 

釣り竿がかなりしなってた。

それを見ながら俺も釣り糸を水面に垂らす。

 

「おっ!こっちも来た!釣り糸垂らして5秒も経ってないってのに!」

 

しかも今度は大物だよ間違いない!

今日はグリル!それもちょっと贅沢して塩釜焼だ!

今夜はご馳走だ!

 

「うぉいウェイル!なんでお前さんばかりいつも大物持ってってんだ!?」

 

「さ、さあ…?」

 

ってかかなりの大物だな、コレは…。

持って帰るのも苦労しそうだし、コレはご近所さんにもおすそ分けしよう。

うわ、ラインが切れる!?

持ってかれてたまるかぁっ!

お、重い…!

 

「ぜりゃぁぁぁぁっ!!」

 

「こりゃまた凄い奴を釣り上げやがったなウェイル!」

 

釣り上げるまで、気づけば15分も経過していた。

しかもどこから来たのか、周囲はまた多くの人が集まっていた。

 

「取り込み、始めるぞ!」

 

「ウェイル、岸にもっと寄せろっての!」

 

「凄ぇなオイ、コイツは何なんだ?新しいヌシか!?」

 

タモを使おうとしたけど、入りきらない。

仕方なく水面に飛び込み、エラのあたりに手を突っ込んで…持ち上げられない。

これまた仕方なく背に担いで桟橋へと乗り上げた。

 

「がっはっは!

凄ぇ獲物じゃねぇか!」

 

今までにない程の釣果だった。

メジャーで測ると…うわ、マジかよ。

192cm、重量は75956gだった。

疑う余地もない程に、今までにない最高の獲物だった。

 

「なぁ!にゃぁぁ~!」

 

「今夜は楽しみにしててくれよ、シャイニィ」

 

「だぁぁッ!?ルアーを持ってかれたぁっ!?」

 

お隣のガリガさんはラインが切れたらしい。

まあ、時にはそんな時もあるって。

 

空を見上げてみる。

今日は雲一つない快晴だ。

こうやって空を見上げていると眠たくなってくるんだよなぁ。

それと、夢の中でのことを思い出す。

 

「あれ、誰なんだろうなぁ…」

 

夢の中、俺ではない誰かの名前を呼びながら、泣き叫びながら手を突き出してくる小さな女の子。

夢の中という都合によるものか、どうしても素顔を思い出すことができない。

メルクではないのは確かな話、メルクは髪を伸ばしているが、夢の女の子はツインテールとかいう髪型だ。

それに…繰り返して見ているからか、なんとなく察してしまうものなのかもしれないが…その女の子は、成長しているようにも見えた。

…気のせいかどうかは判らないけど、それだけは察している。

 

後は…悪夢、か。

アリーシャ先生に叩き起こされた日、俺は悪夢に魘されていたのかもしれない。

その日の夜に見ていた悪夢の内容はいまだに思い出せない。

ただ…右腕を(・・・)押さえていた、という曖昧な情報くらいだった。

俺の利き腕が左腕なのと関係あったりするのだろうか?

 

「お、今日はもう帰るのか?」

 

「ええ、大物が釣れましたし、それにシャイニィが待ちきれないみたいで」

 

さっきから肩に上ってきてしきりに毛並みを擦り付けてくるからくすぐったい。

はいはい、今日の夕飯は奮発するからそれくらいにしてくれ。

今日も爆釣日和でした、と。

 

「ただいまぁ、今日も大物を釣って帰ったよ」

 

「おかえりなさいウェイル」

 

「おお、コレはまた大物だなぁ」

 

母さんも父さんも大物を見て大喜び。

こういう風景って良いよなぁ。

この感覚を大切にしていきたい。

将来一人暮らしとか悪夢に思えてくるよ。

 

「本当に大きいわね…早速だけど切り分けちゃいましょうか」

 

「ご近所さんにもお裾分けだな」

 

言いながら母さんは大きな包丁で正中線から真っ二つに。

切り身を小さく切り分けてそれはシャイニィの胃袋へ直行。

半分に切り分けたものを俺にパスし、ここからは俺の仕事。

鱗を剥がし、鰭も切り落とし、皮がついたままの魚を捌いていく。

部位ごとにブツ切りにし、そそくさと均等に切り分けていく。

切り分けたものは父さんにパスし、ビニール袋に氷と一緒に入れていく。

これにてお裾分けの準備も完了だ。

自転車の荷台と前籠に切り身を積み込んで…出発!

 

大きな魚の切り身はそれだけでもご近所さんには評判が良い。

こういうのを幾度か繰り返しているからか、俺もすっかりこのご近所には顔が知られている。

やっぱりいいよね、こういう健康的な生活ってさ。

 

太陽が傾き、茜色に染まりつつある頃になり、ようやくご近所さんへのお裾分けも終わった。

自転車でちょっとだけ寄り道をしに回り道をしてみる。

どうしてかは判らないけど、またあの鵞鳥の落書きがされた道へと来ていた。

 

「さすがに鵞鳥の落書きは消されてるか…」

 

傾けてみればウサギにもなる大きな落書きは消されて…というか、上から新しく塗り替えたのか、レンガはすっかり見えない。

…消せなかったから塗り替えたとか、そんな処かな。

それと地面…というか石畳も妙だ。

何かが突き刺さったような所があり、そこを中心にして蜘蛛の巣状に亀裂が走ってる。

なんだろ、アレ?

 

「おやぁ?また此処に来てくれるなんて、そんなに私に会いたかったのかな?嬉しいなぁ」

 

また、その声が聞こえた。

前?それとも後ろ?

判らない、声が反響を続けるような場所じゃないのは判ってるのに。

右?それとも左?

 

「ああ、ごめんね、怖がらせちゃったかな?

…コレならどうだろう?」

 

カチリ、と何か音が聞こえた気がした。

それで声が一方からだけ聞こえてくる。

あの鵞鳥の落書きがされていた場所から。

…えっと…スピーカーか何かしかけてる、とか?

 

「…帰り道のついでに寄り道しただけだよ」

 

あの声、どこで聞いたのかは判らない。

聞いたことがあるような、初めて聞くような…そんな特徴のない声とでも言えばいいだろうか…?

 

「そっかそっか。

それで、余った切り身があるみたいだね、私にもお裾分けしてくれるのかな?

嬉しいなぁ、美味しそうだなぁ、貰いたいなぁ」

 

「…あざとい…」

 

「酷いぃぃ…」

 

ついつい反射的に声に出てしまってた。

だって仕方ないだろ、俺よりも視線が魚の切り身に向かってそうだったんだから。

いや、そうに違いない、この人の視線は俺ではなく、自転車の前籠に集中していたんだろう。

どこから見てるのかはわからないけど、その程度は判るぞ!

…俺を見てくれと言ってるわけじゃないけどさ。

 

「…帰る」

 

「あ、ちょっと待ってぇ~っ」

 

サドルに跨り、立ち漕ぎまでしてすっ飛ばして帰った。

変な叫び声が聞こえてきたけど、無視だ無視。

 

それと…夢の中に出てくる女の子は、あの声の主ではなさそうだった。

声の主のことは気にしても意味は無いんだろうな、気にしないでおこう。

もしも自宅にまで来たら…よし、通報しよう。

 

 

 

「ただいまぁ」

 

「おかえりなさいウェイル、夕飯はもう出来てるわよ」

 

「今日は塩釜焼だぞ、母さんの料理は豪勢だからな」

 

家の中ではすっかりといい薫りが漂っている。

 

「メルクからつい先程電話が入ったぞ」

 

うん?合宿に行ってるメルクから?

何かあったのか!?

 

「朗報だ、第一次試験を突破出来たそうだ」

 

「おお、凄いな!」

 

だけど…合宿はまだ終わりじゃないらしい。

 

「アリーシャ先生もこの合宿に関わってるのかな?」

 

椅子に座り、切り分けられた塩釜焼を早速口に運ぶ。

うん、美味しいなぁ。

 

「ああ、この合宿では試験官の役を担っているそうだ」

 

アリーシャ先生が試験官か…厳しそうだな…メルクには頑張ってほしい。

俺もメルクの専属エンジニアになるって決めてるから勉強を頑張らないと…。

 

「アリーシャ君も大変だな…試験官の任と一緒に、自身の修行もこなさなければならないとは」

 

「そうね…来年が大会と言っていたからご自分の訓練も並行していかなくてはならないから…」

 

ふぅん、ISは競技として一応は分類しているから、そういう大会とかも存在するんだな…それが来年か…。

アリーシャ先生にはぜひとも応援してほしいなぁ…。

写真では姿を見ることがあったけど、実物も見てみたいよなぁ…。

 

「大会ってどこで開催されるのかな?」

 

「ドイツだと聞いている」

 

ドイツかぁ…遠いなぁ…。行けそうにないなぁ…。

モニターの前での応援ってことになるかな。

 

「他国の競技者も大量に来るんだよな?

強い人が多く集まる光景って迫力在るんだろうなぁ」

 

「まあ、モニターの前で応援をしようなウェイル」

 

父さんの言葉に俺は素直に頷いた。

 

 

 

後日

 

「た!」

 

扉が大きく開かれ

 

「だ!」

 

ドタドタと足音を響かせ

 

「い!」

 

ダッシュの後に跳躍し

 

「まぁぁぁぁ!」

 

メルクが俺に飛びついてきた。

俺、料理中なんだけどなぁ…。

 

「はいはいメルク、久々のウェイルがうれしいかもしれないけど、ちょっとは自重しな」

 

そんなメルクをまるで猫のように首の後ろを掴んで引っぺがすアリーシャ先生。

細い腕でよくそんなことができるなぁ、なんて思ってみれば、その右手は茜色の装甲に覆われている。

あ、もしかしてISを部分展開させてるのかな。

 

「おかえり、メルク。

もうすぐ昼飯が出来るからな。

先に手を洗ってきなよ」

 

「は~い!」

 

アリーシャ先生の手から解放され、床に降り立ったメルクは洗面所へと駆け足だ。

ん~…、なんかメルクの変わりようが凄いことになってるなぁ。

 

「安心しな、しばらく会えなかったから、そのぶり返しみたいなものさ」

 

それであの変化か。

メルクらしいといえばそれになるの…かな?

これから先も少しばかり兄さんは不安だぞ。

 

「そうそう、メルクだけど成績はトップだよ。

これからもあの調子が続けば国家代表候補生にだってなれるサ。

今のところ、その可能性は95%と言ったところサ」

 

わぁ、メルク凄いなぁ。

兄さんも勉強は頑張ってるけど、メルク程の功績は残せてないよ?

さしずめ…『賢妹愚兄』といったところかな。

 

「…ところでアリーシャ先生、いくら家の中でもその恰好は…」

 

「ふふ~ん♪私のスタイルの良さが猶の事良く判るだろうサ?」

 

この人、リラックスしすぎじゃないのかな?

家の中でISスーツだよ。

夏休みに沖合までクルージングで行った際にも、ビキニだのセパレートだのとスタイルを見せつけてきたけど、青少年には刺激が強すぎますって。

父さんだって母さんの手で目隠しされてるほどなんだから。

この人、我が家をコスプレ会場とか思ってそうだよなぁ。

 

「恥ずかしくないんですか?」

 

俺もメルクの手で目隠しされながら言ってみた

 

「私は私の体に恥じるところはないと自負してるサ」

 

…あれ?会話がかみ合ってない?

あ、やば⁉焦げ臭いががががががががが⁉

 

みごとなまでに『焼き魚』にするつもりだったのに、『焼け焦げた魚』に変わりきっていた。

食べられる部位も残ってない、全部真っ黒焦げだった。

仕方ない、作り直そう、使える切り身はまだまだ余ってるんだから。

先日の釣果で冷蔵庫の中はパンパンだ。

 

アリーシャ先生には着替えてきてもらい、食事も新しく作り直した。

着替えた先生は、まるでどこかのモデルのように感じられた。

だって着替えた後の服装は、見覚えがあるレディーススーツ。

参観日の日には必ず()てたっけ。

 

本日のお昼ご飯はシーフードをもあり合わせたグラタン。

これも母さんに教えてもらったメニューだ。

明日にはペペロンチーノを教えてもらおうっと。

 

その日の夜、メルクには合宿でのことを簡単に教えてもらった。

近隣の空軍基地での起動訓練と、座学、簡単なメンテナンスについての事を教わる感じの特訓。

だが軍隊の基地ということで、やはりというか、拳銃での射撃訓練だとか、軍刀での近接戦闘訓練、武器を用いない白兵戦等の訓練なんかがあったらしい。

子供に教えるメニューではないだろうけど、先の事を考えると妥当…なのかな?

とにもかくにも国家代表候補というのは難しいものなんだな…。

 

「代表候補に名を連ねるのは、いくつか可能性があるのサ」

 

「可能性、ですか?」

 

風呂も終わらせ、寝るだけになるのを待つ些細な時間にアリーシャ先生によるIS講義が始まった。

あの…パジャマ着てるつもりかもしれませんけど、ソレ、メルクの寝間着…。

おなかが見えてますよ、冷やしますよ?

けど、そんな非難めいた視線などどこ吹く風、アリーシャ先生の講義が始まった。

 

「候補者として選ばれるのは、適性を持つ者。

この前提は覆らない。

その中から訓練という篩にかけられ、数が絞られていく。

そうやって努力した人の中から選ばれるパターンが一つ目、サ」

 

「ふむふむ」

 

それは身近で言えばメルクだよなぁ。

 

「二つ目は、軍のなかから直接選ばれる場合サ。

これは私が当てはまる」

 

…え?アリーシャ先生って軍人?

気儘に見えるこの人が?

そういえば俺の体力づくりメニューだってアリーシャ先生が考えたものだし、そういう意味では納得かも。

 

「軍人から直接選ばれ、その後になってから機体に合わせたメニューをこなしていくというものサ。

それと同時に後輩の育成義務も発生するハードものサ」

 

「なるほどぉ…」

 

「そして最後に…企業業績を盾にして資格を『買う』とうやりかたサ」

 

…せこい。

そんな人がほかの人を…努力者に対して…言わば『財力』で蹴落とすというのは納得できない。

 

「けど、コレも結構綱渡りなのサ。

結局のところはギブアンドテイク、資格を『買い』、訓練をしていくというのは軍人と変わらない。

だけど、売りにした企業の株の大半を国に預ける形になるからね、下手すりゃ安値になるまで暴落したうえで売り払われ、企業は潰れる可能性もあるのサ」

 

「き、きついですね…」

 

正直、国家代表候補生になるのなら、地道な訓練を積み重ねたほうがまだマシなくらいだ。

付け加えられて教えられた。

代表候補生は、いわば国の顔であり、国家元首の命代だ。

その発言はそっくりそのまま国家元首の発言と同じように取られる可能性もある。

下手な発言は国を追いやるだけになるらしい、そして未来永劫恥が残る。

さらに、その国に国際IS委員会と、国連名義の国際裁判所からの制裁が施され、研究、ISコア、製造企業を奪われるとか。

ああ、うん、個人の発言が国家を一つ丸々消滅させる危険性も危惧されるということですか。

怖いなぁ。

地位と身分を得るのなら、それ相応の覚悟を持て、ということか。

更に言うと、軍人扱いということで、軍には絶対服従、と。

…俺、メカニック志望で良かったかも。

 

「さぁて、ウェイルの勉強の程を見せてもらおうかな」

 

「うへぇ…やっぱりそっちの方向でも話は進みますよねぇ」

 

「私も気になります!」

 

そこでノートを開くことになりましたとさ。

内容は勉強していたソレだけど、なぜか見られるのが恥ずかしい。

 

「…ぅん?ウェイル、このページのコレは?」

 

「ああ、それですか。

こんなのが出来たらいいなぁ、とか思って書いてみたイメージ図です」

 

できるものならば、メルクが搭乗する機体に取り付けてみたいなぁ、なんて。

不器用なくせに、考えるのは好きだからなぁ。

それに、こういうのを考えてると夢が広がるよなぁ・・・。


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