IS 速星の祈り   作:レインスカイ

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第8話 淋風 姉として

隠し事をし始めて長く経ったと思う。

 

ウェイルは真実を知らず、自分が見た世界を事実として見ている。

 

隠し事をするのは正直に言うと辛い。

 

現実を嘘で塗り固め、真実を見せず、虚実を織り交ぜたこの環境で生きているウェイルにはどう見ているんだろうか…?

 

 

「にゃぁ?」

 

私のそんな気持ちを知ってか知らずしてか、ウェイルの胸の上のシャイニィは首を傾げる。

ちょっと様子を見に来てみれば、ウェイルは自室の床で寝ていた。

その傍らにはメルクがウェイルの左腕を枕にして眠っている。

 

「読書中に寝落ち、とかそんなところサね?」

 

ウェイルの顔の上には、相変わらず『月刊 釣り人』。

少し前から毎月購入するようにしたらしい。

表紙に載ってる年配の釣り人が今回は主役のようサね。

ちょっと失礼して、雑誌をどけ、ウェイルの寝顔を見てみる。

 

「………」

 

また、あの日を思い出す。

ウェイルが昏睡状態のまま眠り続けていたある日、ウェイルはその双眸から涙を流していたのを。

今の生活の中、そういったことはどこかしらで在るのかもしれない。

 

「暢気な寝顔しちゃってサ」

 

けど、今は安らかな寝顔を見せていた。

 

ワシャワシャと前髪を撫でまわしてみる。

前髪で隠れていた大きな裂傷が目に入った。

額から左のこめかみに走る、由来も判らぬ大きな裂傷。

この傷は、病院に搬送された時からずっと残っている。

傷跡についても調査したけど情報は入らなかった。

もしかしたら織斑 一夏(イチカ オリムラ)は傷を負った直後に誘拐されたのか、誘拐された後になってからこの傷を負ったのかもしれない。

この傷を負ったときは痛みに苦しんだかもしれない。

 

でも、今は…今だけは穏やかな寝顔をしていた。

メルクも安心しきってるのか、服にしがみついてる。

 

「…くかぁ…」

 

「…すぅ…すぅ…」

 

もののついでに…脈も異常なし、呼吸も同じく、体温は…たぶん問題無し。

残る問題は、見てるかもしれない夢の内容だけれど、この調子なら問題は無さそうサ。

 

兄妹(ウェイルとメルク)のこういう暢気も元気も心得ている私としては、この様子を見るとついつい顔が綻ぶ。

 

おや、行儀悪くも本を枕にしてるみたいサ。

起こさないように気を付けながらウェイルの頭の下からソレを抜き取ってみる。

こっちは…コレはウェイルにはまだ早いだろう、機械工学の本。

今からでもメルクのための専属エンジニアになろうとしているのか、プログラミングについての参考書も机の上に何冊か積み重なっている。

 

「フフ、勉強の方は…」

 

机の引き出しを開いてみてみると、ノートがぎっしり。

勉強に追いつけてはいるけど、それは「ようやく」といった具合なのかもしれない。

お、学校のテストも返ってきてるみたいサ。

こっちは…可もなく不可もなく、といった人並みの成績。

うん、頑張ってるみたいサ。

 

本棚にしても、機械だの料理だの、親父さんとお袋さんの影響が丸判り。

おっと、アルバムも入ってる。

不躾にアルバムを開いてみる。

一緒に生活をするようになってから、写真の枚数は徐々に増えてきている。

家族の写真も入っているけれど、シャイニィの写真もあちこちに挟まってる。

 

シャイニィはウェイルとメルクをいたく気に入っている。

学校に行くときも、出掛ける時もいつも一緒。

食事も、就寝も一緒の時がある。

肩や頭の上に飛び乗ったり、自転車に乗るときには前籠に飛び込んだり。

なんか私以上になついているときもあって少しだけ気分が複雑。

そこはまあ、ウェイルの人の好さということで納得しておく。

 

「アンタが浮気性じゃないのを祈ってるよ」

 

その言葉がウェイルに向けられたものか、シャイニィに向けられたものかは判らない。

もしかしたらメルクに向けられたものかも。

そんな風に考えると笑いが込み上げてきたけど、兄妹(二人)と一匹を起こしたくないから我慢我慢。

本当に元気も暢気も弁えてるサ、私は。

 

「さてと、今日は気分が良いし、なにか料理でもつくってあげようか」

 

ギュルル~…

 

ふと振り向く。

…今の、腹の音?

どっちサね?ウェイルか?メルクか?

私が料理すると言った途端に腹の虫を鳴かせるとか現金すぎるだろう…。

…まあ、いいか。

 

「今日のメニューは何にしようか」

 

今日は気まぐれで海老とアスパラを買ってきたし、アヒージョにでもしてみようかな。

ふふん、さあ寝コケてる二人、お姉さんの料理の腕をまた見せたげるサ!

 

二人のお袋さんに教えてもらってからか、私も料理は楽しみの一つになってきている。

さてと…オリーブオイルは、と。

 

料理を作っていると、両親が帰ってきたらしく、簡単に挨拶をしてから料理の続きに入る。

ウェイルの部屋を覗いてきたらしく、二人の様子を見てニコニコとしている。

この二人、なかなかの親バカになってきてるサ。

とはいえ、私も人のことをとやかく言ってられない気がする。

兄妹(ウェイルとメルク)のことをとにもかくにも気にかけてばかりだから、ブラコン、シスコンの気になってるような…、まあ、いいけどさ。

 

「なぁっ!」

 

聞きなれた声とともに、肩に重み。

振り向くでもなくシャイニィがそこにいるのを感じた。

お構いなしにそのフサフサとした毛並みを私の横顔に擦り付けてくる。

ああもう、この子は人懐っこいねぇ。

 

「いいタイミングで来たねシャイニィ、ウェイルとメルクを起こしてきてくれるかい?

夕飯が出来上がったってね」

 

「にゃぁっ!」

 

私の肩から飛び降り、椅子の背、座面、それから床へと飛び移り、ウェイルの部屋へと走っていく小さな背中を見送る。

あの子も家族の一員として大活躍サね。

 

料理を皿に盛り付けるのをお袋さんのジェシカに押し付け、好奇心半分でウェイルの部屋を見てみる。

シャイニィが二人を起こそうと頑張ってた。

頬に肉球を押し付けたり、舐めてみたり、耳元で鳴いてみたり。

…どれだけグッスリ寝てるんだい。

挙句の果てには、ベッドから

 

「フゲッ!?」

 

ウェイルの胸の上に飛び降りた。

 

「…ん?シャイニィ?

どうしたんだ?」

 

「にゃぁ~」

 

「ああ、判った、すぐに行くよ。

おおい、起きろメルク、夕飯の時間だってさ」

 

「はぁい…ふ…ぁ…」

 

………ウェイル、シャイニィの言葉を理解してんのかい?

いい話し相手みたいな雰囲気に見える時もあるけど、本当に話し相手として対話でもしてるのだろうか?

 

寝ぼけ眼のメルクの肩に飛び乗って肉球で頬をプニプニと遠慮もなしに突っついている。

そんなシャイニィ達の様子に笑いを我慢して私は台所に戻ることにした。

その日の夕飯は、私が作ったこともあって同席。

ジェシカに押し切られてお泊りになった。

 

シャワーも終え、寝るまでの少しの時間を一緒に過ごすことにした。

 

「アンタ達、今日は夕方から晩にかけてまでよく寝てたサね」

 

「アッハハハ…本を読んでたらいつの間にか…」

 

「私は…お兄さんの寝てる様子を見てたら、つい…」

 

成程ね…。

そこにシャイニィも一緒に来た、といったところかな。

相変わらずの仲の良さにちょっとだけ呆れた。

 

「で、どんな夢を見てたんだい?」

 

ウェイルに関しては『夢』というワードは半々なところだけどNGワード。

また、泣き続ける女の子の話が出てくるかもしれないからね。

だから慎重にならないといけない。

 

「えっと…俺は、機械いじりをしてた夢、だと思います」

 

起きてから暫く経ってるし、記憶も曖昧になってきてるみたいサね。

だから『思う』って言葉が出てきても不自然というわけでもない。

 

「私は…お兄さんと一緒に自転車で出かけてる夢、だったかと」

 

メルクは相変わらずのブラコンのようサ。

おっと、盛大なブーメランか。

シャイニィは気分が良いのか、ウェイルの肩に飛び乗り、大きな欠伸をしてる。

けれどそこから飛び降りて、今度はメルクの肩、今度は私の肩へと飛び移る。

 

「なぁ…」

 

「はいはい、ミルクなら用意したげるよ」

 

「じゃあ、俺が用意してきますね」

 

「にゃぁっ!」

 

またウェイルの肩へと飛び移る。

よっぽどミルクが楽しみらしいサ。

立ち上がるウェイルに揺られながらもシャイニィはその姿勢を崩さない、ずいぶんと慣れてるサね。

 

「メルクも飲むだろう?アンタはウェイルと違って背はあんまり伸びてないみたいだけど、ソコなら成長するだろう?」

 

「酷いですぅっ!」

 

今日は寝間着を持ってきてなかったから、ジェシカのを借りたけど、胸元は程良いサイズ。

都合悪くメルクのを借りるしかなかった日もあったけど、その時にはウェイルが目を合わせてくれなかったからね。

それはそれで精神的に辛かったサ。

 

「で、メルク」

 

「…はい…」

 

今の間は何?

まあ、良いサ。

 

「夕方ごろにはウェイルは寝てたけど、様子はどうだった?」

 

この言葉の意味は、メルクだって承知はしている。

私達はウェイルの過去を自ら掘り下げてまで()っている。

だからこそ、普段から異常が起きたりなどしていないかを入念にチェックしている。

もしかしたら、全ての記憶を取り戻すのは明日かもしれないのだから。

 

「特に何も無かったです」

 

「そう、か」

 

記憶を取り戻してしまうのは正直、怖い。

思い出してしまえば、今の家族に距離感が出てくるかもしれないから。

それどころか、否定されないか…それが一番怖い。

尤も、日本ですでに故人として扱われているから、帰すわけにもいかない、かな。

こういうところは『家族のつながり』と言うよりも『依存』とも言える。

…目下の脅威と言えるのは『織斑 千冬』と『凰 鈴音』の二人、か。

前者はウェイルにとっての脅威、後者は…脅威というか…精神的には私達が不安になるというか…。

 

「起きたときに涙を流してるのは、変わらず、か?」

 

メルクが肯く。

 

ウェイルは夢の中の女の子に手を伸ばそうとしている。

なのに、手が届かない、か。

その手を留めているのは…もしかしたら私達なのかもしれないね。

 

「ミルクココア、出来上がりましたよ」

 

おっと、ウェイルが戻ってきたか。

この話はさっそく切り上げ、ウェイルの持つお盆ので湯気を上げるマグカップを受け取る。

う~ん、いい香り。

 

「ほい、メルクはホットミルク。

熱いから気をつけてな」

 

「はい!

ふはぁ…暖かい…」

 

「にゃぁ~」

 

「はいはい、判ってるって」

 

シャイニィがウェイルの肩から飛び降り、しっぽをユラユラ揺らしながらソワソワと。

ホットミルクが待ち遠しいらしい。

思えばウェイルとこうやって時間を共有するようになってからだったかな、シャイニィの自己主張が大きくなってきたのは。

…誰に似たんだか。

 

「ウェイルは将来、やってみたいことは決まったかい?」

 

「俺は…やっぱり、一度決めた目標を捨てきれなくて」

 

「メルク専属のシステムエンジニアか。

だけど、判ってるんだろうね?

機械と言っても、ISは現在兵器に使われてるんだってことを」

 

相手を傷つける以外に能がない、時には自分をも傷付けかねない。

そう教えた。

なのにこの子は…。

 

「はい、判っています。

でも、家族を守れるのなら…失ってはいけないものを、俺は得ましたから。

だから…」

 

「はいはい、判ったサね。

アンタも随分と頑固に育ったサね。

でも、それなら今以上に勉強しなくちゃいけないよ」

 

この子の技術師としてのレベルはまだ素人のソレに近い。

この家ではテレビのリモコンを修理してみたり、扇風機を直してみたり。

素人じゃなくて、親父さん譲りの技術と言った方が近いか。

 

「…勉強か…苦手なんですけどね…」

 

そういいながら、その手は釣り竿の手入れをテキパキと進めてる。

そこには躊躇も無いというか、すっかり玄人というか…。

少しだけ考えてみる。

ウェイルは通っている学校での成績は人並みのもの。

けど、親父さんや、釣り人(オッサン)共から教わった技術は、確かに自分のものにしている。

何なのだろうか、このアンバランスさは…?

 

だからこそ赦せない、この子を無能呼ばわりした連中を。

 

「えっと…先生?俺の顔に何かついてます?」

 

おっと、いけないいけない。

思わずここには居ない誰かを睨んでいたみたいサ。

 

「そうサね…『眉』『目』『鼻』『口』が付いてるサ」

 

「それって誰にでもありますよね!?」

 

よし、上手く誤魔化せた。

私からすれば精一杯のギャグだったサね。

 

「おっと、もうこんな時間か。

ウェイルもそろそろ寝た方が良いサ。

メルクは…」

 

「すぅ…すぅ…」

 

シャイニィを抱きしめて寝てた。

寝つきがいい子サ、本当に…。

 

「メルクにはシャイニィが添い寝してるみたいだけど、ウェイルには私が添い寝したげようか?」

 

「…俺、居間のソファで寝るから添い寝なんて出来ませんよ」

 

おっと、私の誘惑にも耐えきった…おや?どっちかというと呆れてるみたいサね。

というか居間のソファで寝るとか、子供の言う内容じゃないサね!?

それから紆余曲折してウェイルを部屋に留めさせた。

私は普段と同じようにメルクと同室での宿泊サ。

 

「本当に…アンバランスな子だよ…」

 

ちょっとしたからかいのつもりだったけど、本気で返してくるだなんてね。

 

 

 

 

夜中に目が覚め、ウェイルが見ていた機械工学の本を見てみる。

何度も読み続けているらしく、ページの端が折れている場所もある。

特に集中的に読んでいるらしいページには、何か書き込みもしている。

 

『胸を張れる自分になるんだ』

 

そう書かれてた。

決意に関しちゃ大人顔負けサ。

隣ではメルクが静かに寝ている。

その間に私は部屋を抜け出した。

 

「ッ!」

 

途端にシャイニィが飛び起きた。

 

「ナァッ!」

 

ベッドから飛び降り、部屋のドアの向こうへと走っていく。

だけど、シャイニィにドアを開けるなんて出来ない。

嫌な予感がした。違う、コレは確信だった。

 

「ウェイル!」

 

向かい側の部屋のドアを開く。

月光に照らされたその横顔は…苦悶(・・)と言えるそれだった。

左腕で右の二の腕(・・・・・)を押さえている。

 

「…ぅ…ぁ…」

 

「しっかりしな!ウェイル!

…ジェシカ!メルク!来てくれ!」

 

右の二の腕に何があったのかも知っているから私は焦った。

過去の悪夢に苛まれているのだと。

 

「ウェイル!起きな!

起きてくれ!なぁっ!?しっかりしなよ!?」

 

「…ぁ……アリーシャ、先生…?」

 

 

 

 

念には念を入れ、家に医者を引っ張ってきた。

大事な弟の身に何が起きたのかをハッキリさせときたかったし、やっぱり心配だった。

 

「えっと…俺、何かあったんですか…?」

 

あれからは何も異常は無く、グッスリと眠っていたけれど、それでも心配で家族会議が始まった。

朝食もキッチリと終わらせてから、食事後のコーヒーを飲みながらの家族会議は少しだけ空気がピリピリとしてた。

そんな中でもメルクはウェイルにベッタリ、シャイニィはウェイルの肩に乗って頬をペロペロと舐めてる。

アンタ達、くっつき過ぎサね。

 

「ウェイル、昨晩どんな夢を見てたか覚えてるサね?」

 

「えっと…ごめんなさい、全然覚えてないです」

 

家族会議、開始20秒で終了。

ああ、ウェイルが作ってくれたカプチーノが美味しい。

 

 

このまま何もなければ良いんだけど。

片やウェイルに叫び声を聞かせ続け、片やウェイルの悪夢になり、同年代の女ってのはマトモなやつが居ないのかね…?

すっかり行き遅れになりつつある私が言うのも妙な話だけどサ。

 

「今日は、いい夢を見られると良いサね」

 

さて、今日のウェイルの寝言は…

 

「大物…釣れた…」

 

……夢の中でも釣りしてるよこの子…。

 

 

 

 

「ふぅ…今日はこれくらいにしとこうサね」

 

以前、あの女に敗北してからはトレーニングの量は3倍にまで増強した。

その合間合間にウェイル達の様子を見るのが私の生活の楽しみ。

仕事ではあるんだけどサ。

 

「ん?んん?今日は何してんのサ?」

 

ウェイルの家に遊びに来たらウェイルは居間のど真ん中で何か色々と工具を広げて何かを機械を弄っている。

 

「アリーシャ先生、いらっしゃい」

 

「ああ、出迎えありがとサねメルク。

それで、ウェイルは…」

 

「釣りをしているお仲間の方から…ビデオデッキの修理を頼まれまして…」

 

万屋の真似でもし始めた、とかサね?

気のせいか、メルクの顔が引き攣ってた。

またとんでもない御仁じゃないだろうねぇ。

 

親父さんに色々と教わって、機械いじりに精を出すようになってたけど、此処までとは。

以前にも家庭内のトラブルでテレビのリモコンだとか、扇風機だとかを直してたけど、これは難しそうサね。

 

「う~…ん…」

 

マニュアルとにらみ合いをしながら、半田ごてや、見慣れない器具を傍らに腕を組んで足を組んで悩んでる。

 

「あ、そうか…ここだな…!」

 

何か案でも思いついたのか、再びガチャガチャと。

 

「よし、コレで!」

 

配線をつなげてからボタンで操作。

するとあら不思議、映らなかったらしいビデオデッキが大活躍を始めてる。

時間はかかったらしいけど、ビデオデッキの修理はこれで終わりかな。

 

「お疲れさん、ウェイル」

 

「あれ?アリーシャ先生、いつから?」

 

「ちょっと前からサ。

ところでウェイル…アンタ、お昼ご飯も抜きでやってたサね?」

 

時計を見れば14時半、ダイニングの机の上には作られた時から放置されていたであろう昼食が…。

もちろん冷え切ってる。

 

「うわぁ…もうこんな時間…」

 

夢中になると時間を忘れる性格でもあるらしい。

まあいいや、私も昼食はまだだったし、此処で食事していこう。

キュルル~とメルクの腹の虫も音を立ててるみたいだからなおのこと、ね。

 

お昼ご飯はメルク特製のホワイトクリームソースのオムライスだった。

この兄妹、料理の腕がどんどん充実してるサね。

 

イタリアでの学府は、小学生が5学年まで、中学は3学年まで、高校が5学年。

居間の二人は次の十二月で12歳に至る計算で、現在中学二年生。

これからの将来は二人は早くも決まっているようなもの。

メルクはIS搭乗者として、ウェイルはそのサポートをするためのエンジニアだ。

 

「ご馳走様」

 

メルクは現在は代表候補生の候補者、その教官役は既に私がすることに決まっている。

システムエンジア兼メカニックになろうとしているウェイルは、工学関係の高校への進学を今から決めてしまっており、最近では機械と参考書のにらみ合いが始まっている。

今回のような実践もあるみたいだけどサ。

 

「おいしかったぞメルク」

 

「はい!」

 

「それで、午後からはアンタ達はどうするつもりサ?」

 

シャイニィは先に食事をしていたのか、ダイニングのソファでぐっすりと就寝中。

けど、私達が出かけると思ったのか、駆け寄ってくる。

 

「俺は…このビデオデッキを持っていきます。

修理がすんだら釣り場で渡すように待ち合わせしていたんです」

 

ああ、そう…またあの場所に行くのサね…。

ちょっと心配だから私も同行しよう。

普通の御仁であってほしい、そう思う。

 

どこで何をそうやったらこんなことになるのサ…。

 

そう、思ってたのに…

 

「ゼヴェルさ~ん!

ビデオデッキの修理ができましたよ」

 

「ほほう、もう直ったのかね」

 

釣り場の中から返事を返したのは初老の男性。

オッサン(ローマ法皇)、アンタそんなところで何やってんのさ…。

 

「はっはっは、ありがとうよ、ウェイル君。

これで孫が送ってきたビデオレターがまた見れるよ」

 

「結構難しかったですけどね。

朝からずっとやってこの時間ですから。

役に立てたなら嬉しいですよ」

 

それからも他愛の無い会話が少しだけ続き、解散になった。

オッサン(ローマ法皇)とは視線が重なったが、合図を出された。

『私の正体は秘密で頼む』、と。

…正体を隠してるオッサンは一人だけじゃないんだが…。

 

「どこで何を間違えたらこんな御仁どもに好かれるのサ…」

 

今日この場に来ているものはといえば…オッサン(国家主席)オッサン(マフィアのボス)オッサン(警察長官)オッサン(ヴェネツィア市長)オッサン(中学校校長)オッサン(大病院院長)オッサン(国防大臣)、最後にオッサン(ローマ法皇)

この場に襲撃でもあろうものならば、イタリアは国家情勢が一気に傾く。

このオッサン共、護衛とか一人もつけてないんだから、本人としては御忍びのつもりなんだろう。

もしかしたら、互いに互いの正体を知らないのかもしれない。

身辺警護はどうなってんだか。

 

「さてと、釣り釣り♪」

 

釣りってそんなに楽しかったっけ?

私からすれば頭痛を引き起こす要因でしか無いんだが…


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