【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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 逃げろ。とにかく走れ。

 

 逃げるにはどのようにすれば良いのか、ただ足を動かして地面を蹴る事しか分からない。

 

 どこへ逃げたら良いのか、出口はおろかここは何処なのかすらも分からない。

 

 何から逃げているのか、後ろを向けば追って来る奴らが見えるが彼らの事は何も知らない。

 

 どうして逃げているのか、分からないが、捕まりたくない。ただそれだけ。

 

 逃げなければならない。

 

 壁・床・天井が全て白い廊下を駆け抜ける最中、曲がり角で彼らの仲間の1人に遭遇した。皆同じ服装なので奴らが同じ所属である事は分かる。

 

 黒い上下の防弾・防刃スーツに包まれた兵士、いや、特殊部隊と思われる格好をした人物。顔はバイザーヘルメットに覆われて見えない。銃等の武器は持っているらしいが発砲はして来なかった。自分を捕える事が目的らしい。

 

 正面から自分に向かってジャブを放ち続けてストレート、自分は両腕を咄嗟に頭の高さまで持って行きガードした。

 

 相手が腕を引こうとするよりも速く、相手の腕を左手で掴み、一瞬止まった所へ右手で側頭部へ拳を打ち付けた。相手は軽く吹っ飛び、倒れると起き上がらなかった。

 

 今度は追って来た奴が後ろから自分を羽交い絞めにし、他の仲間が正面から棒状の物体を突き出した。

 

 足を踏み付け自分を拘束する力が抜けるのを感じると、地面に着けた足を軸に体を回転させ相手を回した。バチっと火花の音が聞こえ、更に相手の力が抜けた。棒状の物体はスタンバトンか。

 

 担いだ人体を投げ捨て、スタンバトンを持つ奴が自分の頭を突き刺す様に出してくるのが見える。

 

 バトンを持つ右腕の手首を左手で受け止め、更に来る左フックを正面から腕で掴み取った。

 

 繰り出される膝蹴りを右肘で受け止め、相手の真っ直ぐな左手首を一気に折り曲げる事で相手が痛がる素振りを見せた。

 

 振り向くと後方から来ていた別の仲間3人が同じくスタンバトンを自分へ突き刺そうとしていた。

 

 ……遅い?

 

 自分は慌てる事無く、突き出されるバトンを持つ手を3連続蹴りでその手から弾き落とした。

 

 自分を抑えていた奴の右腕を両手で掴み、後ろへ投げ飛ばす。後方に居た1人に当たって倒れた。

 

 残り2人が自分を挟む様に位置取る。右方の連続パンチを腕で左右に交互に逸らし、左方の前蹴りを左手で受け止めた。

 

 右方の奴が更にパンチを放ち自分を左方へ追いやる。勝利を確信した右方が自分へストレートを放った。

 

 咄嗟に左方の受け止めている足を引っ張り、頭を下げる。右方のパンチが左方の顔面へ命中した。

 

 そこを逃さず、自分は右足で右方の膝を蹴り折り、更に左方の頭部へ右足を綺麗に当て吹っ飛んだ。

 

 膝の痛みに負けた右方はひざまずき、自分は後ろへやった右足を反動と合わせて曲げ戻し、その勢いを合わせて相手の顎へ膝蹴りを決めた。相手は後頭部から壁へ叩きつけられ、動く気配を見せなかった。

 

 シュパッ!

 

 空を裂く破裂音と同時に自分の肩に何かが突き刺さったのを感じた。針状の物体は血管に刺さっており、直感的に素早く引き抜いた。恐らく捕獲用の麻酔弾だろう。

 

 後方に銃を構えた大量の人影があった。黒く塗られた金属質の表面は一切表情と人の気配を感じさせない。人型兵士ロボットである事は一目見て分かった。

 

 素早く移動し廊下の曲がり角を盾に次々と迫り来る弾丸を防ぐ。こちらへ来る前へ逃げ切らなければ……

 

 今度は正面に3体、ロボットが待ち構えていた。次の分岐路はその丁度後ろ。

 

 少ない方がずっと良い、そう判断し体を前方へ加速させる。当然向こうは銃を構える。

 

 妙だな……自分がそう思ったのも無理はない。

 

 見える。

 

 銃弾の軌道に合わせて体をスライドさせ捻る。銃弾は体ギリギリを掠めて後方へ飛んで行った。

 

 横に広くばら撒かれた銃弾に対し斜め前方へ跳び上がって避け、着地時に地面を転がって一気に距離を詰める。

 

 低姿勢の自分を狙った銃弾に対し体の正面からの表面積を出来る限り小さくしてスライディングする。遂にロボット達の足元へ辿り着いた。

 

 真ん中のロボットの足元へ滑り込みながら蹴りを決めバランスを崩す。

 

 起き上がりながら左方へローキックを決め地面へ倒し、右方が銃を向ける。

 

 次の瞬間、視界が揺らいだ様に思えた。銃弾が遅く見える。

 

 自分の胸へ刺さろうとしている銃弾を横から手で掴み取り次第捨てた。

 

 自分でやった事なのに驚いていた。しかし状況を打破する方が先だ。

 

 銃を構えたままのロボットへ突進し、勢いを乗せたブローを腹部へ決め、破砕音が聞こえた。

 

 改めて見ても金属で出来ている筈のロボットのボディは割れ、内部の機関部が覗き見えた。

 

 不意に足を引っ張られる感触。倒れていたロボットが足を掴んだのだろう。

 

 対策すべく掴まれた方とは反対側の足を倒れているロボットへ振り下ろした。潰れる音と同時に火花が散り、そのロボットは動かなくなった。

 

 続けて正面のロボットが殴り掛かって来るのを確認し、ストレートを頭を傾けて避け、カウンターへもう一回装甲の破れた部分へ拳を叩き入れる。こちらも火花を散らしてがっくりと倒れた。

 

 最後の1体が後ろから銃を構えていた。引き金が引かれ、針状の麻酔弾が発射される。

 

 迫り来る銃弾に対し体を後ろへ逸らした。倒れ際に銃弾が自分の胸の上を掠めたのを感じた。

 

 後方に倒れながら後ろへ回転し、丁度あった壁に足を着ける。折り曲げた足を勢い良く伸ばし、突進しながらナックルをロボットの顔面に決めた。

 

 頭を抉られたロボットが動かなくなるのを確認し、自分が来た道から足音が聞こえて来た。

 

 勝てない、そう思い交差点を曲がり走行を再開する。

 

 廊下の途中で人間やロボットが飛び出して来たが、大半は振り切り、しつこく付いて来たり掴んだりしたのは撃退した。

 

 これなら逃げられるかも……

 

「お前は逃げられない」

 

 自分の考えを拒否した様な声。自分に掛けられたものだということはすぐに分かった。何故なら声の主は自分の正面に堂々と立っていたから。

 

 自分よりも頭一個分大きい男性が1人、その引き締まっているが大柄な身体は行く手を遮るのに十分過ぎた。横にある筈の通路の隙間が無い様に感じた。

 

 次の瞬間、5メートルもあった距離が一気にゼロとなり、男は右ボディブローを放っている最中だった。

 

 直感的に腕を腹の所へ持って行き、どうにか肘付近で受け止めた。しかし、

 

 強い!

 

 受け止めるだけでも威力は抑えられず、そのまま後ろに吹き飛ばされ背中から不時着した。

 

 後ろを見れば他の兵士やロボット達が集まっていたが、自分を捕えようとはせず、あの男に一任している様だ。

 

 余程あの男が強いのか……しかし他に手段は無い。

 

 手を着いて反動で素早く起き上がり、次なる攻撃に備えようと身構えた。その時既に男の姿は自分の正面1メートルの距離にあった。

 

 慌てながらも男の両腕から繰り出される連続撃を躱し、両腕で抑え込んでいる隙に前蹴りを放った。

 

 しかし、蹴りは男の手によって阻まれ、掴まれる。勢い良く引かれ、出した足の付け根に強い衝撃を感じた。

 

 自分の腰に手刀を当てた男は、自分がよろめくのを見ると足ごと自分を持ち上げ、真横にあった硬く白い壁に叩きつけた。

 

 背中に柔らかみも存在しない感触がし、更に前方からパンチの嵐が襲う。

 

 腕を必死に動かして防御を試みるが、それを上回る速さで拳がガードをすり抜け自分に命中してしまう。

 

 自分からは見えないが、直径2メートルにも及ぶクレーターが壁に形成されていた。

 

 負けてはいられない。

 

 自分を奮い立たせ、今にも自分を殴ろうとしている拳を両手で受け取った。伸びた腕の先にある肩に一発手刀を当て、男が腕を放しながら一瞬後退した。

 

 その隙を逃さず、自分の両手を勢い良く前後に回転させ、威力は無いが多数の拳を浴びせる。男はあらゆる角度から来るそれらを冷静に払い除けてみせる。

 

 だが相手が防御しようと後退しているのが分かる。それを知り、一気に攻めに転じようとした。

 

「確かに強いし、技もある」

 

 相手が何か自分に向かって喋って来た。何が言いたいのだ。

 

「だが……」

 

 男の右腕が今までよりも格段に速く動いた。男の腕が光った様に見えた気がした。

 

 腕をかざして攻撃を防ぐが、男は自分の腕を掴んで離さなかった。

 

「お前と俺とでは根本が違う」

 

 男の掌が光り、輝きは自分の身体へ流れ込んだのが見えた。次の瞬間、体が揺さぶられる様な感覚を覚え、力が抜ける。

 

「アンダーソン、やはり見込み違いか……」

 

 倒れた自分へ何か言う男だったが、次第に何も聞こえなくなった。瞼も重くなり、視界が塞がれた。後は皮膚に張り付く床の感触……やがてそれも消えた。

 

 ただこの世界が嫌なだけなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「支援ありがとうございます」

「いつもサンキューな、ハン」

『ああ、ただし30分程度しか持たないから気を付けろよ。』

 

 茂みの中で通信とやり取りする声の内、前者はまだ20代前の少女という感じがし、後者は落ち着いた20代後半の雰囲気を漂わせていた。

 

「はい、分かってます」

「土産はあまり期待しないでくれよ。帰ったら一杯やろうや」

『リョウ、安いフラグは回収されやすいから言わんでくれ』

 

 通信機越しの声は冗談と分かっていながらも不安そうに言った。それを見かねたので、

 

「じゃあ二杯ならどうだ?」

『いや、どうだ? じゃねえよ。数的な問題じゃないぞ』

「リョウさん、任務前だから集中しましょうよ」

 

 と冗談を更に効かせようとしたが2人から叩かれる始末だった。

 

「ほら、お前の所為でアンジュちゃんにも怒られたじゃないか。」

『知るか! お前は何で何時も空気を読まないんだ?』

「というかちゃん付け止めて下さいよ!」

 

 しつこくジョークを繰り返しても打開策にはならず、2人に叩かれる始末。ので今は集中する事にしようか、と気を引き締めた。

 

『それじゃあ始めるぞ。30分経ったら攻撃するからそれまで脱出しておけよ』

 

 通信が切れ、2人は腕時計のタイマーを残り30分に設定した。そして2つの影は目の前1キロメートル先にある建物へ向かって走り出した。


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