【THE TRANSCEND-MEN】 -超越せし者達-   作:タツマゲドン

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3 : Warfare

 リョウが両手に抱えたライトマシンガン型の銃。引き金を引くだけで音も光も無く敵が怯み倒れる。大量の敵兵の死体がリョウの通った跡を示していた。

 

 よく見れば敵兵はリョウが向けた銃口の直線上に当たる所で血を吹き出し肉体が弾け飛ぶ。もっとも、「普通の人間」には気付く筈も無いが。

 

 しかし、リョウには視覚的に「感じ」取っていた。銃口から秒間100発の勢いで「銃弾」が発射され、敵兵達に命中して吹き飛ばすのが「見え」た。

 

 銃弾に当たれば例外なく誰もが被弾したその部位を失い、脳や内臓に命中すれば即死、腕や足等末端部分であっても出血多量やショックで死ぬ。

 

 銃弾が発射される度、つまり0.01秒に1回のペースで、銃の向く方向を生きている敵兵の方向を向く様に細かく変える。敵兵に1発だけ当てれば良いので条件が整ってさえいれば1秒に最大10体の死体を生み出せる。(実戦ではそう楽な条件は揃わないが。)

 

 負けじと敵兵も装備の常備しているアサルトライフルやグレネードで応戦するが、銃弾は当たってもその肉体に弾かれ、擲弾は当たる前に避けられる。それでも恐れず対面しているのだからそこだけは評価できよう。

 

 歩兵を圧倒し、余裕があるリョウは他の事にも気付く。100メートル程前方から殺意を感じ取った。

 

 全高4.5メートル、重量12.5トン、チタン鋼で出来た全身、端的に言えば箱型の操縦席から手足が伸びた形状、(人型だが首が無い)、二足歩行型戦車(足で立つが高機動時には足に取りつけらたタイヤで走行する)だ。二足歩行戦車はリョウに向けて両腕に装備した30ミリマシンガンを向け、引き金が引かれた。

 

 音速の3倍、秒間10発、リョウは驚きもしなかった。それどころか詰まらなさそうな表情でのろのろ飛んで来る銃弾を見る。言うまでも無いが彼にとっての出来事だ。当たれば戦車の外壁に穴を開ける事も出来る銃弾は、リョウが体をスライドさせて簡単に躱された。

 

 接近しながら今度はリョウが銃口を向けた。引き金を引こうとしたが、途中で止めた。

 

 対面していた二足歩行戦車から予兆も無しに火花が散り、その腕と足がだらしなく垂れ下がり、動かなくなったからだ。

 

 正確にはリョウには「予兆」が見えていた。イメージ的には後方から光弾が発射され、それが二足歩行戦車に命中、そして倒れた。

 

「サンキュー、ハン」

「集中しろよ。どうやら俺達を食い止めに来たらしい」

 

 後ろに居たハンへと簡潔に礼を述べたリョウ。対するハンは目の前に立つ2つの人影を指して注意した。

 

 どちらもリョウ達と同じ20代に見える。片方は片手にナイフを、もう片方は両手に槍を、それぞれ持ち構えていた。

 

 一方、リョウは右手に刃渡り75センチメートルの湾曲した片手剣を、ハンは何も持たず素手で構える。

 

 地面の四か所が蹴られ、空中の2か所で衝突が起こった。

 

 リョウの剣が長さ1.8メートルもある槍を受け止め、ハンの掌がナイフを握る腕の軌道を逸らした。

 

 周囲に居た他の敵兵や味方兵は彼らを置いてそれぞれで交戦し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵味方双方の兵士達が一斉に引き金を引く。機関銃や戦車や装甲車、二足歩行戦車も同じだ。

 

 数では明らかに攻めて来た「敵」側の方が勝っていた。それでもアンジュリーナが率いる「味方」側が戦況を有利にしていた。

 

 人数はおよそ敵対味方で300人対200人、それぞれ中隊程度の規模だが人数差は大きい。それに機甲兵器もその分差もある。

 

 それでもアンジュリーナ・フジタという一人の少女の存在が戦況を大きく変えていた。

 

 味方の銃弾や砲弾は敵へ命中し、次々と数を減らす。だがその逆はなかった。

 

 敵の攻撃はこちら側に届かなかった。正確には攻撃が届く前に、銃弾であれば突然止まり、砲弾や爆弾なら飛翔中に爆発する。

 

 敵側からは見えないが、味方側からは見えない壁が爆風を押し止めている光景が見える。

 

 落ち着いて、自分のしたい事を頭ではっきりと念じる。今ならば敵の攻撃を受け止める。そうするとアンジュリーナは自分から「何か」が放たれるのを感じた。まるで自分の中に存在する隠された力が湧き上がる様な、そんな感覚だった。

 

 自分から半球状に発射された「何か」は敵の放った銃弾や砲弾へ衝突し、銃弾の持つ速度をゼロにし、砲弾の信管に刺激を与え、爆風が味方側へ広がるのを防いだ。

 

 攻撃を無力化された敵達はもはや蜂の巣も同然、味方達があっという間に制圧した。

 

「よっしゃあ! 次へ行こう!」

 

 味方兵の一人が気分を高揚させて言った。一種の油断ではあるが、他の皆の士気は上がる。

 

 敵側が全滅なのに対し、味方の負傷・死傷兵は無し。短時間で済ませたので兵士達の疲労も少なく、心配は弾薬残りだけだがそれも今は気にする程でも無い。

 

「皆さん無事ですか?」

「いつも通り、皆大丈夫だ。毎回感謝する」

 

 アンジュリーナが念の為呼びかけたが、無用だった。

 

 喜ぶべき状況の中、それでもアンジュリーナは悲しみを胸に秘めていた。酷い死体姿の敵兵を見ると憂鬱な表情になった。

 

(出来ればこの人達も助けてあげたい……でも今の事を考えても仕方ない。未来へ繋げなきゃ!)

 

 首を横に振ってロングヘアをたなびかせながら、弱気を自分で打ち払ったアンジュリーナは先頭の味方達に続いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 拳を前に突き出す。それだけで敵兵達が簡単に身を破裂させる。

 

 蹴りを前に繰り出す。それだけで敵の戦闘車両が壊れる。

 

 実質それだけやっているアレクソンは退屈に思っていた。この調子では後方の味方兵達に何もさせないで良いだろう。だから自分単独と残り全員と戦力を分けた。

 

 対物ライフル弾を片目に避けながら走って一気に接近し、敵兵の胸に指を突き刺す。当然敵兵は心臓を貫かれて即死だ。

 

 足元に投げられた手榴弾を視界に認めると斜め上に跳び上がり、1回転して着地地点に居る敵兵を降下キックで頭を潰した。脳が弾け飛ぶ様は彼にとって見慣れた光景だから忌む事も無い。

 

 離れた所に居る戦車が砲塔を吹く。ほぼ同時にアレクソンが腰にある銃を一瞬で取り、狙いを定めず直感的に向け、引き金を引く。

 

 砲弾がアレクソンと戦車の中間の距離で爆発した。彼には銃口から「銃弾」が砲弾の中心に命中したのが「見え」ていた。

 

 地面を蹴って加速し始めてから1秒にも満たない時間、それだけで戦車の正面から5メートルまで距離を縮めていた。

 

 車体の下に潜り込み、スライディングしながら後方へ抜け出る。地面を踏ん張り急ブレーキを掛けて止まり、今度は反対側へ走る。

 

 走行の勢いを乗せたパンチが戦車の後方にあるエンジンルームに当たる部分に命中し、戦車は動かなくなった。

 

「仲間の仇だ!」

 

 右方向から彼を怒鳴る声、振り向くと三脚に固定されたガトリング砲を向けた敵兵が憎しみを込めた眼差しで睨んでいた。

 

「死ねえ!」

 

 自棄になった敵兵は引き金を引き、秒間50発という恐るべきペースで銃弾が吐き出される。アレクソンは全く動じなかった。常人なら痛みを感じず命を引き取るという銃弾の逆風に逆らって歩き、ついに目の前までたどり着いた。

 

 ガトリングの方も弾を失って虚しい回転音が聞こえる。アレクソンの姿が目の前にある事に気付いた敵兵は表情を憎しみから恐怖へ一変。

 

 次の瞬間、敵兵の意識は暗闇に包まれた。アレクソン視点だと自分の手刀が敵兵の首を切り飛ばした。

 

 一段落着いた彼はやれやれ、と腕を組み、他の味方達の戦況を知る為に通信機を取り出した。

 

「こちらポール・アレクソン。こちらの損害を教えろ。相手の確定している勢力もだ」

『了解、指揮官殿。「反乱軍」勢力は約5000。こちらの勢力は最初7000だったのが既に6000まで減っております。機甲勢力に関しては……』

 

 会話が途切れた。

 

 通信不良でも電波妨害でも無く、原因は通信機の故障によるものだった。何故分かったかというと、彼が手にしていた通信機が突如にして砕け散ったからだ。

 

 ポール・アレクソンはその直前、身を後ろに引いていた。前方から向けられる殺意に気付いたのだ。自分は攻撃に当たらずに済んだが、結果的に通信機が壊れたという訳だ。

 

「ステルス能力か。俺には及ばないが見事だ」

「身体技能だ。「能力」はまた別だ」

「ほう面白い」

 

 ポールよりも少し背が高い男性。肌の浅黒さや彫りの深さは間違いなく中東系だ。そしてこの男こそがトレバーだった。(当然互いに名前は知らない)

 

 3メートルの距離を取り、トレバーが左半身を前に拳を顎の高さに掲げる。一方でポールは右半身を引いた所は同じだが、右手は顎を左手は腹を守っている。

 

 トレバーが右手を後ろに引きながら距離を詰める。ポールが同時に左足を前に出した。

 

 前蹴りを左手で叩き落としたトレバーは曲げた右腕を勢い良く伸ばした。それをポールが左掌で正面から掴み止める。

 

 ポールは左足を地面に着けるとその足を軸に右足で上段回し蹴りを繰り出した。

 

 トレバーは首を後ろに曲げて簡単に蹴りを避けた。躱されたがポールは空振りから勢いを増加させ、今度は下段へ回し蹴りを放つ。

 

 次なる蹴りを自分の右ローキックで防いだトレバーは、左足をポールの頭に向けて蹴り出す。

 

 自分の頭を狙った蹴りを両手で受け取ったポールはそのまま掴んだ腕を回し、相手を回転させると手を離した。

 

 きりもみ回転したトレバーはまだ落ち着きを保っている。回転を利用して勢いを乗せた回し蹴りを仕掛ける。

 

 投げられた相手から反撃が来ると思っていなかったポールは慌てて体を後ろに引く。トレバーは蹴りを空ぶらせたが身体を異常回転させながらも無事に着地した。

 

「成程、他の奴らとは違って手応えがある。良い勝負が出来そうだ」

 

 ポールは無表情のままだったが口調からは楽しさが聞こえる。

 

「……」

 

 対するトレバーは無表情なのは同じだが言葉が無い。内に潜めた意志が読み取れない。

 

 沈黙。

 

 先にトレバーが動いた。しかしポールは動かなかった。

 

 本能的に危険を察知したトレバーは左へ向くと腕を体の前に構える。銃弾が連続して襲い掛かって来たのが見え、腕を連続して動かし銃弾を防ぐ。

 

「どうやら何か袖の下に隠しているな」

 

 銃弾を撃って来たサブマシンガン型の銃を持った人物が尋ねた。

 

 トレバーは破れた袖を引き裂いて即席ノースリーブを作り、両腕に装着された黒く硬そうな籠手を見せた。

 

「良い武器だな……この男の相手がお前の役目だ」

「了解」

 

 ポールは無表情のままトレバーへ関心を向けていると思われる台詞を吐いた。銃弾を撃って来た人物は顔を覆うステルス素材マスクの上からポールに返事した。

 

(違う)

 

 トレバーは察知していた。

 

 自分の背後から長さ1メートルにもなる刃が首目掛けて飛んで来たのだ。体勢を低くして避け、足元へ蹴りを入れようとする。

 

(届かない)

 

 そう判断したトレバーはスライディングの体勢から前に出した左足を右上に突き上げた。

 

 ガキン、と金属同士が打ち合う音。トレバーの脛に装着された「アーマー」は”2本目”の刃を防いだ。

 

 改めて刃を振って来た人物を見ると、こちらも先程銃をぶっ放して来た人物と同じく顔が仮面に隠されていた。その人物は受け止められた方とは反対側、つまり右手に握った剣を頭から振り下ろす。

 

 左足で受け止めている剣を振り払い、体を捻って起こしながら次なる刃を躱し、相手の顔面にジャブを決めた。それ以上は追撃を行わず間合いを取るトレバー。

 

 気付けばポール・アレクソンの姿は消えていた。代わりに銃を撃って来た人物が両手に剣を握っていた。

 

「指揮班へ報告。そちらに「トランセンド・マン」が1人向かった。「能力値」は少なくとも50を超えるだろう。近接戦闘が得意なタイプだ」

 

 返答が聞こえ始める前より耳に当てた通信ユニットを素早く片付けたトレバー。

 

 こうしてトレバーはたった独りで4本の刃を相手にする事となった。

 


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