東方魂魄恋愛談   作:魂夢

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こんにちは、魂夢です。今回は“黒幕“が登場します!あと今回は三人称視点です!


第28話 アヴェンズとリーパー

妖怪の山、その麓には、数々のカッパの工場があり、その頂上には守矢神社がある

その中で一つだけ特殊な建物があった。

 

建物内の案内図を見れば一目でその異様さに気がつくことだろう

この建物のみ、通常の工場の3倍の広さを有しているのである

他の工場のほぼ全てが同じぐらいの大きさなのに、その建物だけ特別な造りになっているのだ

何故そうなのか、それを知る者はたった数名しかいない

 

ではその建物を使う組織は如何なる活動を行う組織であるのか

その問いに明確に答える者もまた、数名しかいない

 

活動内容に関する情報は全く流れていない

しかし、組織を激写されることも、存在自体が晒される事も無い

それ故、この組織の存在を知らずして暮らしている妖怪が大半を占めている

 

仮に見たとしても、さして興味を持たない。それを天狗が記事にしないことに関しては、誰も知らない

それこそが全てを隠すよりも一番効果的に物事を秘匿する技法である

そのことを理解し、考慮し、実行しているようであった

 

その建物の扉の鍵を有している、数少ない者たちがいる

“彼ら“の仲間の一人にして頭目である“彼“は大きな建物の扉を開けた

 

そしてゆっくりと、“彼“は建物と中の暗闇の廊下を歩み行く

まったくの闇というわけではなく、窓を通して、微かに月明かりが入ってくる

そのため、一度か二度訪れた者であれば、躓くことも無い

 

“彼“は部屋に入り、机に置いてある、ろうそくに火をつける

それらの光によって広い部屋を縦断するかのように鎮座する大きく長い机が照らし出された

机を囲む10以上の椅子、それはまるで大企業の会議室のようだった

部屋の奥にあるただの壁に貼られた幻想郷の地図と6つの顔写真の前に立った

その部屋はろうそくのおかげで室内は少し明るく、地図と写真はよく見えた

 

「これで、全員か...」

 

“彼“は顔写真を見ながら一人つぶやくと、再び地図に視線を戻す

大きい幻想郷の地図には特定の場所にピンが刺されていた

 

白玉楼、博麗神社、霧雨魔法店、里の民家の4つ

 

“彼“は机の上の小さな棚から1枚の紙を取った

それも地図で、その地図には妖怪の山を境に一本の黒い線があった

妖怪の山は赤、そこから先は青に塗られていた

 

“彼“目を閉じ、ゆっくりと妄想し始める

赤の領土から何本もの赤い矢印が順次、血が流れるように青の領土へ進み、博麗神社を示す黒いピンに達する

その様はまさに、軍隊が敵へ進軍する経路を示したかのような、複雑にして緻密、一切の無駄なきものだった。

 

“彼“はそのことを考えるたびに、なんとも言えない複雑な感情を覚えた

「ようやくここまで来た」という達成感とともに、「酷いものを作り上げてしまった」という後悔

ヴィクター・フランケンシュタイン博士が自らの創造物を見る時もこんな気分だったのかもしれない

 

「幻想郷への侵略作戦.....かつてなき試み、公然の隠密行動、扇動されしセルフの群れ、予定された勝敗、我らの計画...それに抗うのか、セルフAよ」

 

“彼“は歌うように呟きながら地図に背を向け、椅子に腰かける

正面には出入り口がある、そういう配置だ

“彼“は後ろを振り返り、一人の男の顔写真を直視した

その画像の下にはただ、〔石円流楠〕と、あった

 

これまでほぼ予定通り、順調すぎるほどに順調に計画が進んでいた

しかし、やはり物事とは完璧にはいかないものだと“彼“思う

 

「失礼します」

 

目の前の出入り口が開き、眼鏡をかけた青年が書類を片手に持ちながら入って来た

 

「状況を報告しろ」

 

“彼“は、無感情な声で言った

 

「今回の狩怪及びタイタンは幻想郷の主要セルフとの接触は完了。タイタンの行動等も完璧です。.....ただ、問題なのはセルフAがタイタンを喰いました」

「石円流楠、か。だがそれは殺したのではなく、喰ったのか?」

「えぇ、確認しました。予定では博麗神社にて、アレを回収する予定でしたが、人間の里で殺害、のちに喰われました。まぁこれは大した問題では無いのですが...セルフAが闇の波動に目覚めたのは予想外です。さらに、セルフAはセルフBを殺そうとしました。そこまですると、流石にセルフAが動くと思われるのですが...」

「お前達の監視外で動いている可能性は?」

「セルフBをはじめとして、セルフの人間が誰も動いていないことが確認されています。」

「セルフどもは個人主義の傾向が強い。まぁお前達の監視能力は絶対だ。お前達がわからない事なんて、まずありえないか」

 

“彼“が言うことのは確かだ。

先の地図のように色分けをし、意識しているのはここの関係者だけだろう。

“彼“が統括する領域の人間達だ。それ以外のセルフ達は完全に独立している。

自ら組織として行動している人間はいない

セルフ達はよく一緒に行動しているだけである、たまたまなだけだ

 

「ふむ、何か手を打つ必要があるな、少々危険を伴うが、もう最終計画を始動させる方が確実かもしれん」

「それではただの抗争になってしまうのでは?今回は幻想郷の侵略が目的で、戦うのが目的では無いので...」

「そうだ。だが、向こうが手を打つより先にこちらの計画を実行に移す。相手がこちらに気づき、組織立って行動する前に、だ」

「しかしそれでは、こちらの被害が甚大になる恐れがあります」

「こちらのバーサーカーが何人くたばろうと知ったことでは無い。侵略することが目的だ、違うか?」

 

“彼“は下卑た声で笑った

了解とだけ告げ、青年はその部屋を後にした

 

ただ上へ上へと貪欲なまでに上り続けた男

翼がないのにもかかわらず、空を舞う蝶の座を目指した愚かなる男

愚かだった、無様とさえ言っていい。それが“彼“だった

 

“彼“はゆっくりと立ち上がり、もう一度地図と写真を見た

セルフAとセルフBを見る

石円流楠と魂魄妖夢、2人の写真には“要注意“と書いてあった

 

“彼“は微かに動悸を覚える

 

「うっ」

 

ふらふらし始め、机に手をつくことで辛うじて倒れないようにした

“彼“は己の首に手を当て、そのままグッと力を入れた

当然息が荒くなる、体が息を求めて、体が生きようとする

苦しい、やめたい、だけどやめると死んでしまう

それが“彼“の宿命、しかし、苦しんで得られるものはすごく大きいかった

 

“彼“は首から手を離しフッと息を吐き、ろうそくを消す

月明かりだけの暗い部屋で、“彼“の荒い吐息だけが部屋を満たしていた

 

“彼ら“は闇。“彼ら“はただ主に従い、夜を駆け、夜に吠える

“彼“が作った組織に所属せし、名も無き数万名。生き方を制限された、可哀想な人

“彼ら“を人は、《アヴェンズ》と呼び、そのリーダーの“彼“、坂技 柳(さかぎ りゅう)を《リーパー》と呼んだ

 




途中ちょっと会話文が多かった気がする...

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