ディスカバリーナイト 作:雪亜
昔むかし、小さなお姫様が言い放ちました。
「私!ホームレスになった姉を探しに行きたい!そのために旅人になる!」
当然周りは孟反対、ですが王様曰く
「別に構わん、町で一番腕の立つ奴を護衛に付けるようにしてやれ。」
どうやら娘には頭は上がらないようで、何か弱味を握られているようです。
これから起こる物語は一人のお姫様とアルバイターの青年の世界を旅する物語です。
「…客来ねぇな。」
商人の元で働いている青年の名前はロモ・ファゴール、お客様が来ないのでタバコを吹かしながら魔導書を読んでいます。
「…風魔術、弱小。」
そよ風を起こし更に寛ぎます。
「ロモ、良い知らせが入ったぞ。」
「んだよ…ろくでもねぇのだったらフランケンシュタイナーな。」
この若干駄目そうな見た目をした中年はロモの父親、名前はゴズ。
「うぉい、そりゃねぇよ。」
「誰に話してるんだ…まぁ良いや、何々…。」
『強者求む、腕に自信の有るものは中央広場まで。』
「…大雑把過ぎねぇか?このチラシ。」
「分かる、だけどこれは城から直々に出されたもんだ、どうせ暇だったら見に行ったらどうだ?」
「んー…ま、暇だし見に行く位なら。」
立ち上がりボウガンを腰に引っ提げタバコを消す。
「じゃあ行ってくるわ。」
「おう、行ってら。」
まずは市街地を目指して裏路地を進んでいくのでした。
それから10分歩き、行きつけのバー近くで小さな姿が有った。
「ん?何でこんなところにガキが居るんだ?」
どうやら息を切らしているようだ。
「よう嬢ちゃん、こんなところに何のようだい?」
「ゼェ…あ、あなたも逃げた方が良いよ!」
「あ?何だ?」
指を指した方向に5体飛行種のモンスターがこっちに飛んできた。
「何でこんなところに飛行種のモンスターが…嬢ちゃん、走れるか?」
「も、もう無理かも…。」
「…なら、残された手は1つだけだな。」
面倒だがボウガンを構える。
「無茶だよ!逃げた方が…。」
風魔術を唱え風の矢を精製し装填する。
「この俺に無茶なんて物は…無ぇ。」
全弾全てを羽にかすらせある程度飛行不能にさせる。
「…ビンゴ、百点満点だ。」
一匹を拾い上げ、首筋を見てみる。
「…ふーん、やっぱりそうか。」
地面に下ろし、睡眠魔法と治癒魔法を同時に掛ける。
「これで暫くは安心だろ、さて…改めて無事か?」
「う、うん…ありがとう。」
「おう、にしても…何で追いかけられてたんだ?しかもこの町中で。」
「…試験用のモンスターが何故か外に出てて…私に襲ってきて…。」
「…よし、そこのバーで話を聞かせてもらえるか?なんだったらジュースでも奢ってやるよ。」
「う、うん…。」
バーの扉を開けマスターの姿を探すが、代わりに居たのは娘のアトだった。
「よう、マスターは居るか?」
「ロモか…父さんだったら買い出し中だよ。」
「そうか、じゃあブドウジュースとコーラ、それくらい置いてんだろ。」
「…あんたブドウジュースなんて飲むの?」
「俺のじゃねぇ、こいつのだ。」
「こいつ…?」
アトは目線を落として漸く気付いたようだ。
「…人拐い?」
「バカ言え、こいつの恩人だ。」
アトがじろじろと見るとおずおずと口を開いた。
「…本当だよ?」
「…ふーん、じゃあコーラは自分で開けろよ。」
「おう、そうするさ。」
適当に机の有る席に腰掛け対面に座らせる。
「紹介が遅れたな、俺はロモ・ファゴール、そこら辺の家でアルバイトをしている端くれ者だ、お前は?」
「エ…エウナ、です。」
やっぱりまだ緊張しているのか肩がガチガチだ。
「そうか、抜け出したのはあの五匹だけか?」
「うん、それ以外はちゃんと鍵か掛かって居たから…。」
…一個だけ空いていた、それに回りの奴を襲わずに真っ直ぐエウナを狙った、そしてあの首の紋章は…。
「…単刀直入に言おう、お前王族だろ。」
「!?」
「そしてお前は内部から命を狙われてるぞ。」
「証拠が…。」
「あのモンスターに付いていたのは一種の呪いだ、魔法とはちょっと違ってな…クソ面倒な術を組まねぇと出来ねえ奴だ、暗殺と取って貰っても構わねぇ。」
「どうしてそんな…。」
「ま、本来なら暫くは城付近に近づかねぇのが良いが…そんなわけにもいかねぇよな。」
「っ…。」
俯いて黙ってしまった。
「…おーい!ブドウジュースからホットミルクに変更!」
「客席まで持ってきてそれかよ…!」
「俺の奢りで良いから飲んで良いぞ。」
「言われなくても飲むよ!」
その場でブドウジュースとコーラをイッキ飲みし、カウンターに戻る。
「…コーラまでとは言ってねぇんだけど。」
「うっせぇバーカ!」
相変わらず暴力的だな…。
「悪いな、勝手に変えちまって。」
「ううん、良いの…おじちゃんは…。」
「お兄さんな、まだそこまで年は取ってねぇから。」
「お、お兄ちゃんは…強い?」
「おう、天下無双のガンナーだ!」
指を銃の型にしバンと撃つ真似をする。
「あの…付いてきて欲しいところがあるの。」
「構わねぇが、飲み物だけ飲ませてくれ。」
丁度運んで来たがコーラは滅茶苦茶ぬるかった。
「はい、ホットミルクとぬるいコーラ。」
「このヤロー…。」
「自業自得だ。」
「…フフッ、アハハッ。」
「何だ?そんな面白いことはしちゃ居ねぇよ?」
「だ、だってこう言うやり取り初めてで…フフッ…アハハッ…。」
「…そうか、ならもっと笑いな!腹が壊れる位にな!」
変顔を見せたら更に笑った。
「キャハハッ、それ卑怯だよっ!」
「ならこんなのはどうだ!」
次々と変顔を見せたら更に笑った、こんな事で人って笑えるんだな。
「笑わせるのは良いんだけど行きたい場所が有るんじゃ無いのか?」
「あっ…そうだった、じゃあ頂きます。」
エウナと呼ぶ少女は勢い良くホットミルクを飲み干した。
「良い飲みっぷりだ、じゃあ行くか。」
「お前は飲まないのかよ。」
「ぬるいコーラなんて誰が飲むか、ほら行くぜ。」
「うん。」
ホットミルク代だけカウンターに置きバーを後にする。
「さて、行きたいところってのはどこだ?」
「あそこ。」
エウナが指を指したのはこの国のシンボルでもある、フルエンダル城だった。
途中で馬車を拾い間もなくして城前まで着いた。
「相変わらずでけぇ城だな…。」
馬車では奇襲は無かったな…だが用心をしないといけねえ。
「こっちだよ!」
「おう、そんなに急ぐな…っ!」
やっぱり何処かから狙撃された、こいつでは無く、俺に。
「はーん…殺すか。」
ボウガンを構え一本のみに魔力を集中させる。
「…死ね。」
可視化出来ぬ速さで打ち込み更に風魔術を2倍に掛け、速度を上げるが感覚が鈍かった。
「…チッ、まだか。」
確実にヘッドショットを決めたはずなんだが…まだ生きてやがるな、相手は相当な手練れ…直撃を防護魔術で阻止しやがったな、なら。
「それすらも撃ち抜けば良いって話だ!」
矢を硬質化、風魔術を4倍、それを更に連射出来るように魔力を込める。
「俺を狙った事…後悔するんだな、グリフォンショット!」
「そこまで!」
甲高い声の方を見ると現国王、ゲント・バリゴスがその場に佇んでいた。
「…王様直々とは珍しいな、何か用か?。」
「久しぶりだな、ロモ・ファゴール…腕は落ちてないようで何よりだ。」
「そりゃどうも、で、何の用か聞いている。」
「おお、そうだったな…ここではなんだ、城の中で話をしないか?」
「構わねぇ、行くぞ嬢ちゃん。」
「…うん。」
連れてこられた場所はやけに豪華な一室だった、取り引きなどで使う部屋だろう。
「さて…それで用ってのは?」
「…今勤めている仕事とかは有るのか?」
「親父の店で店番のアルバイト、それだけだ。」
「そうか…お前を元『最高の騎士』として雇いたい仕事がある。」
「いや、元準最高な、俺はあいつに負けたんだ。」
「そうか…そうだったな、だがお前に頼みたいのは事実だ。」
「…何だ?時給が良いならやってやるが。」
「…そこに居る我の娘の護衛をしてもらいたい。」
「は?娘?」
指を指す先にはお菓子を食べるエウナが居た。
「お前娘だったんか…道理で命を狙われてるわけだ。」
「何?命を狙われてるだと?」
「おう、実はな…。」
これまでの経緯を王様に話し、これからどうすべきかを話した。
「ふむ…そんな事が有ったのか。」
「ああ、どうせこいつの王位継承を阻止しようとして居る奴等の仕業だろうけどな。」
「…ますますお前に頼みたい、エウナを守るためにも、この国の未来のためにも。」
「…報酬は?」
「これに好きな額を書くが良い。」
差し出されたのは契約書だった。
「良いのかよ。」
「この国の為だ、出し惜しみは出来まい。」
「そうか…なら時給950zな、そしてこの国に戻ってくるまでの契約だ。」
「そんな額で良いのか?1ヶ月でも70万位しか行かぬが…。」
「それ以外の報酬はこいつの出世用で頼むわ、俺みたいな奴が大金持っても使い道ねぇからよ。」
「そうか…あくまでアルバイトと言うことか…分かった、その要求を飲もう。」
契約書に書き込み王様に差し出す。
「で、どこまでだ?」
「エギュジェ王国のスラム街にこいつの姉…イアナが居ると言う情報が有る、外見はエウナが良く知ってるはずだ。」
「そうか、出発は明日で良いか?これから準備をしなきゃ行けねぇもんでな。」
「ああ、改めて…よろしく頼むぞ。」
「おう、完遂してやるから任せとけ。」
城を後にし、道具などを揃えるために商店区に向かうのでした。