渋谷さんと友達になりたくて。   作:バナハロ

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人はモンハンで一般人かゲーマーに判別される。

 まさか、女子高生の手料理を食べれる日が来ることになろうとは……自分から言っといてアレだけど信じられない。マジか、こんな事あんのか。

 店の中に入ると、渋谷さんは中をキョロキョロと見回した。何を探してるか、或いは確認してるのか知らないが、何もなかったようで安心した顔で俺に言った。

 

「入って」

「お、お邪魔します………」

 

 遠慮気味に挨拶して家に上がった。

 

「私の部屋分かるよね?そこで待ってて」

「了解」

 

 言われて、渋谷さんの部屋に向かった。なんか若干扉開いてんだけど………。しっかり閉めた方が良いんじゃ?

 とりあえず、待っててと言われたので扉を開けると、中で犬が俺を睨んで唸り声を上げていた。

 

「…………」

「グルルルッ………」

 

 ▽ はなこ の せんせいこうげき!

 

「グルァッ‼︎」

「しっ、しぶっ、渋谷さぁああああああん‼︎」

 

 ▽ なるみ に 2580 の ダメージ!なるみ は たおれた!

 

 ×××

 

「ご、ごめんね………」

 

 現在、渋谷さんに足に包帯を巻いてもらい終えて、俺の家に向かっている。犬に俺を差し出すのはライオンの群れに生肉のネックレスを装備した力士を放り投げるに等しい行為だ。

 よって、俺の部屋で手作り料理を作ってもらうことになった。

 

「いや、別に渋谷さんは悪くないから」

「でも、うちの犬がしたことだし………」

「ほんと気にしないで。強いて言うなら犬に嫌われやすい俺の体質の問題だから」

「…………」

 

 割とかなり凹んでるのか、渋谷さんは申し訳なさそうな顔をして俯いている。いや、本当に渋谷さんは悪くないから気にして欲しくないんだけどな………。

 

「それより渋谷さん、何作ってくれるの?」

「………何が食べたい?」

「んー、肉!」

「意外と肉食なんだ。人間性は草食なのに」

「そ、草食じゃないから!好きな女の子出来たらガンガン行くから!」

 

 出来たことないから分からないけど!

 

「ふーん……じゃあ、晩御飯は肉野菜炒めで良い?」

「良いよ」

 

 少しは元気出たかな?基本的にクールな感じだからイマイチ表情読み取れないんだよなぁ。

 …………あれ?待てよ。なんかナチュラルにうちに来て飯を作ってもらうことになってるけど………それって俺の部屋で女の子と二人きりになるって事?

 ………あ、ヤバイ。なんかすごい嫌な汗が……。てか、心臓の動悸が………。ちょっ、どうしよう。いや、大丈夫。俺から手を出すつもりなんかないし。そうだ、俺から何かしなきゃ問題はないはずだ。

 

「? 水原くん?」

「ふぁひゅっ⁉︎……なっ、何?」

「………なんか、顔色が面白いけど」

「顔色が面白いって何⁉︎」

「青くなったと思ったら、急に赤くなってたから」

 

 しまった、顔に出ていたか………。

 

「………もしかして、女の子と一つ屋根の下に入る事になってるのに今更気づいたの?」

「っ!」

「………ちょっと、顔赤くしないでよ。こっちも恥ずかしくなってくるじゃん。意識しないようにしてたのに」

「ごめん。………えっ?それって意識してたってこひゅっ⁉︎」

 

 脇腹を突かれ、変な声が漏れた。

 

「それ以上言ったら帰るから」

「だ、だからって脇腹を突くなよ!ビックリするだろ!」

「………ふんっ」

 

 不機嫌そうに鼻息を漏らす渋谷さん。もしかしたら、向こうは怖いのかもしれない。知り合って1、2週間ほどの男と二人きりになるのだから、ある意味当然だ。

 ………そんな無理してもらってまでうちで飯を作ってくれなくても良いんだが。

 

「………あの、渋谷さん。今からでもサイゼにしてくれて良いよ?」

「……………」

「考えてみれば、渋谷さんアイドルだし……渋谷さんのお宅にお邪魔するならお店のお客さんで通るけど、俺の部屋だとマズい気もするしさ……。そんな無理しなくても……」

「でも、水原くんは私の手料理が食べたいんでしょ?」

 

 それは正直、冗談のつもりだったんだけどな………。まぁ、食べたいには食べたいし、むしろ食べたくないわけがないが。

 

「大丈夫。私、水原くんの事は信頼してるから」

「……………そっか」

 

 そうまで言われたら、これ以上断るのは失礼な気がする。まぁ、後は周りに渋谷凛がうちに来たことがバレないようにすれば良いだけだ。

 そうこうしてるうちに、自宅に到着した。アパートの一室の鍵を開けて中に入る。

 

「………お邪魔します」

 

 ボソッと呟くように渋谷さんは挨拶して部屋に入った。

 渋谷さんを案内するように、まずは洗面所に移動して手を洗った。渋谷さんも手を洗い、俺の後に続いて居間に来た。座布団の上にちょこんと座り、緊張してるのかそのまま動かない。

 ………こういう時、俺はどうすれば良いのだろうか。早速、飯を作ってもらい、さっさと帰してあげた方が良いのか、それとも少しゆっくりした方が良いのか……。

 とりあえず、もてなしておいた方が良いのかな。お茶でも淹れようと思って立ち上がると、渋谷さんはビクッと体を震わせた。どこまで緊張してんの。

 

「お、お茶でも飲む?」

「………う、うん。いただきます」

 

 冷蔵庫の中の冷麦茶をコップに入れて、渋谷さんの前に置いた。

 渋谷さんが飲んでるのを見ながら、俺も自分のお茶を飲みながらテレビをつけた。実家からもって来たゲーム機を起動した。普段は電気代かかるからやらないけど、友達が家に来た時用に持ってきたものである。ちなみに、一人暮らしを始めてからは初めて使う。

 

「えっと……なんかやる?」

「……なんかって?」

「あ、いや……さ、さっさと帰りたいなら早く飯作ってくれても良いけど………」

「いや、そうじゃなくて。なんかって、ゲームでしょ?何があるのかなって」

「あ、う、うん。えーっと……あるのは、割と古い奴だけど。W○iとか、プレ2とか………」

「んー……じゃあW○iで」

「モンハントライはどう?闘技場なら二人で協力出来るし」

「………私、モンハンやったことないけど」

「大丈夫。俺が上手いから」

「じゃあやる。………足引っ張ったらごめん」

「大丈夫だよ」

 

 そんなわけで、モンハンを始めた。久々だなー、このゲームやんの。友達が家に来ることなかった……というか友達がいなかったから、卒業までやらないかと思ってた。

 電源を入れて、闘技場に向かう。二人でプレイを押して渋谷さんにコントローラを渡した。操作方法を説明し、とりあえず誰を狩るかを決める。

 

「ボルボにしようか」

「………何それ?」

「泥とか身体中に塗りたくるモンスター。そんな強くないよ」

「まぁ、それで良いなら」

 

 せっかくだし、こっちも縛りプレイでやろう。遠距離縛りで。

 ボルボを選択すると、使える武器が出て来た。片手剣、大剣、ハンマー、ライトボウガンの4種類。

 

「どれが良いの?」

「大剣かな。一撃が重たいし、ガードも出来るから初心者にオススメ。ただ、動きが遅いから気をつけて」

「う、うん」

 

 説明しながら、俺はライトボウガンを選択する。

 ロード画面の間に、とりあえず説明した。

 

「相手の攻撃は大体、特定の攻撃しようとするモーションがそれぞれあるから、それさえ覚えておけば全然勝てるよ」

「………わ、分かった」

 

 クエストが開始され、闘技場に入った。………ライトボウガン使うの初めてなんだけど。弾何使えば良いかわかんねーや。とりあえず通常弾で良いか。

 

「どうすれば良い?」

「とりあえず、斬りかかりな。モンハンは攻撃を喰らって学習するものだから。ピンチになったら俺がタゲ取るからその間に回復して」

「わ、分かった」

 

 渋谷さんが斬りかかる間に、俺はリロードしてボルボに狙いを定めた。

 

 ×××

 

 ゲームを始めて、約1時間半くらい経過した。ようやく、ようやく画面の中のボルボが倒れた。

 そのシーンを見て、俺と渋谷さんは後ろに倒れた。

 

「「終わっっったーーーーー!」」

 

 いやー、苦労した!渋谷さんは中々モーション覚えられないし、俺は俺でどんな弾使えば良いかイマイチ分かってないからスゲェ時間かかった!おかげで、お互いにロクなダメージを与えられないから、泥を剥がすのだけでもかなり時間がかかった。

 まぁ、途中で渋谷さんが片手剣に変えてからは比較的にスムーズに進んだけど。

 

「疲れたぁ……モンハンって疲れるね………」

「ほんとな……。俺もこんなに苦労したの初めてだわ。闘技場ってアイテムも武器も限定されてるから割と難しいのな」

「もうクタクタ………いや、本当に。今のはボスなの?」

「ボスといえばボスだけど、数あるボスの中では弱い方」

「本当に………?そんなのクリアできる人っているの………?」

「まぁ、俺も一応ラスボスまでは行ったけど」

「ふーん……。そいつ、相当ヤバそうだね」

「そんな疲れたなら、途中でやめても良かったのに」

「負けたままは終われないでしょ」

 

 負けず嫌いか、この子は。

 まぁ、でも楽しんでたみたいだし良かった。ただ、その……なんだ?これから晩飯作ってもらうんだけど………満身創痍だよなぁ、どう見ても。

 仕方ない、俺が作るか。ゴロゴロしてる渋谷さんの邪魔にならないように立ち上がって台所に向かった。

 

「………あっ、水原くん。私作るよ」

「えっ、でも疲れてるでしょ?」

「ううん、平気」

「なら任せるけど……あ、言うまでもないかもだけど、渋谷さんの分も作って良いからね。一緒に食べよう」

「あ、うん。わかった」

 

 わざわざ起き上がって、渋谷さんは台所に立った。俺の冷蔵庫を漁って、食材を取り出す。

 俺は居間でちゃぶ台を出した。スマホをいじりながらしばらく待機してると、完成したのか、料理を持って来た。

 

「………あれ、肉野菜炒めじゃなかったっけ?」

 

 目の前にあるのはコロッケ定食だった。わざわざ味噌汁まで添えて。

 渋谷さんを見上げると、いつものクールな表情よりも若干、得意げな顔で言った。

 

「少し気合い入れた」

「そっか……。まぁ、それはそれで嬉しいけど」

「じゃ、食べよっか」

 

 いただきます、と二人で手を合わせて食事にした。早速、コロッケを一口いただいた。

 

「うまっ」

「ありがと」

 

 やっべ、今反射的に声出たな。てか、この人料理も出来るのか……。完璧超人かよ。

 

「よくこんなサクッとした感じでコロッケ作れるなぁ。俺、コロッケとか作るの苦手なんだよね」

「ふーん、一人暮らししてるのに?」

「悪かったな………。つい、楽なもの作っちゃうんだよ、一人暮らししてると。そういう意味だと、渋谷さんにコロッケ作ってもらえたのは本当にありがたいよ」

「………そ、そう」

 

 あ、今照れたな。本当に可愛い人だな。こんな人が俺の彼女だったら本当に最高なのに………。まぁ、アイドルと俺なんかが釣り合うわけがないけどね。

 食事を終えて、食器を片付けた。すると、渋谷さんは再びコントローラを持った。

 

「よし、次は誰を狩る?」

「え、まだやるの?」

「やるよ。当たり前じゃん」

「いや、でももう夜遅いよ?10時回ってるし………」

「大丈夫だよ」

「いやいやダメだって。うちに来ればいつでも貸してあげるから、今日は帰りなよ。送るから」

「…………むー」

「むー、じゃないから」

「………わかった」

 

 ふぅ、このままゲームやってたら朝までゲームコースだった。

 

 ____________しかし、この時の俺は知らなかった。まさか、今日の出来事が俺と渋谷さんの関係を大きく変えることになるなんて。

 

 


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