ナルと買い物デートに行く約束をした直後、私は全力で奈緒に電話をかけた。何故って?遊園地に行く洋服を決めないといけないから。
その時の奈緒のセリフをよく覚えてる。
『ああもう、面倒くさいバカップルだなこいつら………』
あれはどういう意味なんだろうか。私がナルと付き合ってると思ってるのかな。いや、そんなはずはないか。まだナルは私のことなんてカケラも意識してないはずだし、それは奈緒も気付いてるはずだ。
まぁ、とにかく今日は奈緒と加蓮と洋服を買いに行く。これで、少しでもあの鈍感バカを意識させる。効果は薄いと思うけど。
そんな事を考えながら奈緒と加蓮と合流して、駅に向かった。何故か、奈緒が一度駅前に行きたいとかで改札口を出た。すると、見覚えのある男の子が一人でスマホを横にしていじってるのが見えた。
「おーい、鳴海!」
奈緒が平気で手を挙げて声をかけたので、私は慌てて奈緒の襟首を掴んで自分の元に引き寄せた。
「なんで?どういうこと?」
「あははー、凛に怒った顔は似合わないぞー?」
「あんたぶっ飛ばすよ」
「………いえ、その……鳴海にも同じ相談をされまして……空いてる日が今日しかなかったので………それで………」
「………そういうことなら、まぁ良いケド」
………それなら私に相談してくれれば良いのに。いや、本人には相談しづらいことなのかな。
「で、流石に二人の面倒は見切れないから、奈緒が私に連絡して来たってわけ」
「………なるほど」
それで加蓮か。
「ていうか凛、なんで私じゃなくて奈緒に相談したの?」
「へっ?」
そりゃあ、加蓮は茶化して来そうで買い物進まなさそうだし。そんな事、本人には言えないけどね。
「トークルームの一番上にあったのが奈緒だったんだよ」
「ふーん……なんか腑に落ちないけど、まぁ良いか。とりあえず鳴海くんと合流しようよ」
「そうだな」
「えっ、ちょっ……心の準備が」
「「後にして」」
いや後じゃ意味ないでしょ。
私の心の中のツッコミも無視して、奈緒は呑気に手を挙げた。
「よっ、鳴海」
「おい待てこの野郎」
ナルが早速、奈緒の腕を掴んで引っ張り、肩を組んで何か話し始めた。多分、私と同じ文句を言ってるんだろうけど……ちょっと距離近くない?異性でしょあんた達。なんで肩組んでんの?
少しもやもやして来て、つま先でタンタンと貧乏揺すりをしてると、隣の加蓮が肩を叩いて来た。
「凛、イライラしないで」
「………別にイライラしてないし」
「してるよ。普段から凛はアレより距離近いんだから、そう思えばイライラしないでしょ?」
………確かに。別にイライラして無いけど、普段の私はナルの膝の上でゲームしてると思えば、心の中が、こう……スッと晴れた。
すると、奈緒がナルを連れて戻って来た。
「さ、行くか……って、凛?何勝ち誇った顔してんだ?」
「べっつにー?」
「………わかりやすい」
加蓮が何か呟いた気がしたが、無視してナルに声を掛けた。
「こんにちは、ナル」
「おっ、おうっ」
「………なんで緊張してんの?」
「しっ、してねぇから。ちょっとドキドキしてるだけだから」
「してるじゃんそれ。変なナル」
ホント、最近のナルはおかしい。なんか変に緊張してる気がする。いや、ナルに限って緊張することは無いか。どうせナルだし。
「ていうか、凛も服で悩んだりするんだな」
「そりゃね。ナルとのデートだし」
「えっ……それどういう………」
「聞いた?奈緒、なんかこの辺暑くない?」
「夏だからじゃないか?」
そこ、茶化さないで。
×××
ナルと私がいると買い物が進まない、との事で私は加蓮と買い物に行くことにした。ナルは奈緒と二人で買いに行った。まぁ、奈緒なら大丈夫だと思うし、加蓮と二人にさせるよりマシだ。
ナルと奈緒の背中を見送りながら、加蓮と二人でレディース服を見に行った。
「さて、私達も行こっか」
「そうだね。じゃ、まずは鳴海くんの好みなんだけど……何か無い?」
「ポニテ大好きだからそれに合わせた感じかな」
「じゃあ、活動的な服にしよっか」
「うん、そこまでは私でも決められたんだけど………」
「? 何か問題が?」
まぁ、問題と言える程じゃないんだけど………。
「………なんか、こう……不安になっちゃって。普段から私そういう服着てるからさ、たまには変化球でお淑やかな服でも良いかなって」
「お淑やかって?」
「………ロングスカートとか」
「ついに⁉︎あの中々スカートを履かない凛が⁉︎」
「ちょっと……声大きいよ………」
そんな大袈裟な……。まぁ、確かに衣装か制服でしかスカート履かないけど、私だって一応、女の子だしスカートくらい履くよ。好きな男の子ためなら尚更。
「まぁ、正直ロングスカートって好きじゃないんだけどね。動きにくそうだし」
「んー……なら、やめた方が良いと思うけど」
「? なんで?」
「ほら、鳴海くんは自分の事より他人を優先するタイプなんでしょ?」
「そうだね」
「そんな子なら『自分のために凛が好きじゃない服にお金使うくらいなら、好きな服を着て欲しい』ってなると思うよ」
「むっ……確かに」
「それに、遊園地に行くなら動きやすい格好の方が良いと思うしね」
………すごいな、加蓮は。そんな事よく分かるな。ナルを意識させる事ばかり考えてて、ナルの思考を考えてなかった私とは大違いだ。
「………じゃあ、いつもの動きやすい奴に……」
「でも、確かに変化球も必要だよねぇ。と、いうわけで………」
「えっ?」
「ちょっと凛、こっち来て」
「ち、ちょっと?」
加蓮に手を引かれて、試着室に連れて行かれた。
黙ってこれを履いて、と手渡されて試着室に放り込まれ、言われるがまま試着した。
………えっ、これを履くの?
「履いたー?」
外から声が聞こえてきたので、とりあえずカーテンを開けた。私は裾を抑えながら、おそらく赤くなってる顔で加蓮を睨んだ。
「………こ、これを履くの……?」
ミニスカートの裾を抑えながら。
「うんうん、これなら変化球にもなるしお淑やかさも出て活発にも見えるよね」
「そ、そうかな………」
「可愛いよ、凛」
「………うるさい」
そんな人をからかう時の笑顔を浮かべて何を言い出すのか。
「でも、制服とかミニスカートだし………」
「男子にとって制服のスカートと私服のスカートは全然違うらしいよ」
「ふ、ふーん………」
「さて、ここからさらに改造しようか」
嬉々として加蓮はそう言うと、服を選びに店内に戻ったので、私も履き替えて加蓮の後を追った。
×××
案外、あっさりと私服は選び終わり、私と加蓮はのんびりと店内を歩いた。良いものが買えたね。正直、ミニスカートは恥ずかしいけどナルを落とすためだ。
大体、ナルが鈍感じゃなければ私もこんな面倒な思いはしなくて済んだんだ。全部ナルが悪い。
「で、凛」
「? 何?」
「明日、どうするの?」
「何が?」
「告白」
「ブフッ!」
な、何をいきなり言い出すのか⁉︎そんなの、出来るわけないじゃん!
「い、いきなり何言ってんの⁉︎」
「いや、何となく気になったから。文化祭まで待つとか言ってたけど、もう今いっても全然良さそうだなーって思えて」
「あり得ないから!大体、ナルは私の事なんて意識もしてないから」
「………そう?」
「そうだよ」
大体、ナルが鈍感じゃなかったらとっくにお付き合いしているし、何なら既にキスまで済ませてそうな気さえする。
しかし、そんな私の考えとは裏腹に、加蓮は冷たい目で私に言った。
「………凛も割と鈍感だよね。さっきの鳴海くんの反応を見ただけの私でも察したのに」
「はあ?何が?」
「別に、何でも。まぁ、私は明日告白しても面白そう、とだけ言っておくよ」
振られるの分かってて告白して面白いも何もないと思うんだけど……。ていうか、振られるのが面白いって言ってるの?何それひどい。
「しかし、凛もすっかり恋する乙女だよね。好きな男の子のために着て行く服選びを手伝ってなんて」
「うるさいな………。仕方ないじゃん、こんなの初めてなんだもん………」
本当にこんな気持ちは初めてだ。何だろう、この感じ。高鳴る胸の鼓動が痛くもあり気持ち良くもある感じ。落ち着かないのに落ち着く、みたいな。いや、逆かな。落ち着くのに落ち着かない。
とにかく、こんな感情は初めてだった。それも、絶対ありえないとまで断言したナルを相手にだった。
「ちなみに、もし付き合えたらどうするの?」
「えっ、ど、どうするって………?」
「簡単に言うとー……カップルが一人暮らししてる方の部屋に泊まるっていうのは、そういうことでしょ?」
「ーっ⁉︎いっ、いきなり何を………⁉︎」
「いや本当に。そういう事したいなーとか、そういうのはあるの?」
「………そ、それは……!」
無いとは言い切れない。でも、まだ高校生だし、そういうのは早い気もする。何より、一応私はアイドルだし、そういう事して良いのかなっていうのもある。
「………どうだろう」
「他にもさ、山手線とかそういうのでは言うの?私達、お付き合い始めましたって」
「いやそれはやめとく。リア充爆発しろってコメントで埋まりそうだし」
「あー……確かに想像付くかも」
でも、お付き合いしてからの事なんて考えてなかったな。確かに、色々と問題は多いかもしれない。
けど、それはあくまでも付き合ってから、の問題だ。
「………正直、これからの事は何も考えてないかな。今は、ナルとお付き合いする事だけを考えてるから」
「そっか。まぁ、その方が良いかもね」
そう、何せ相手はナルだからね。手強いなんてものじゃない。
………しかし、ナルと付き合って、もしそんな雰囲気になったらどうなるんだろう。そもそも、あのナルとそんな雰囲気になるのかな。大体、いつもゲームやってるうちに寝落ちするってパターンばかりだからな………。
大体、ナルとそういう雰囲気になるのが考えられない。ナルも、男の子だし私の身体に興味あったりするのかな………。いや、でもそんなナルはやっぱり想像出来ないかな。
いざとなったら私の方からリードしてあげれば………って、何考えてんの私⁉︎しかも加蓮の前で!私の方からリードって……まるで私の方がシたいみたいじゃん!ダメダメダメ、エッチな女の子をナルが好きなわけないし、もうこういうこと考えるのはダメ!
顔を赤くしながら、勝手に頭を振ってると、何かを察したのかニヤついた加蓮が聞いてきた。
「どうかしたの?凛」
「なっ、なんでもないから!」
「ふーん?避妊はしっかりね?」
「ーっ!お、怒るよ!」
「冗談だから」
まあこれ以上考えるのはやめよう。本当に私の方がエッチみたいだ。