不死人が異世界から来るそうですよ?   作:ふしひとさん

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白夜叉は召喚術使えないだろこのハゲ?
見逃してくださいお願いします!!


世捨人

 箱庭の東側に立地するサウザンドアイズ支店。その一室には店の主である白夜叉、客人の黒ウサギと問題児3人組が揃っていた。

 白夜叉の表情は真剣そのものであり、普段の飄々とした様子は微塵もない。それもそのはず、ノーネームの面々に何も言わず、名亡きを元の世界に送還してしまったからだ。

 

「おんしらをここに呼んだのは、先に手紙に述べていた通りじゃ」

 

 ノーネームの面々は白夜叉からの手紙を通して事情を知っていた。だからこそ、彼らの表情も真剣そのものだ。

 

「まず、改めて謝罪を。おんしらに何も知らせず、名亡きを元の世界に帰してしまった。本当にすまなかった。如何なる叱責も受け入れよう」

 

 白夜叉は深々と頭を下げた。

 あの日の名亡きからは、何をしてでも元の世界に帰るという執念を感じた。それこそ、帰るためなら箱庭の住民を皆殺しにするのも厭わないという執念が。

 名亡きには帰る権利もあるし、恩もある。しかし、それ以上に彼の言葉に従わないのは危険と感じたからこそ、名亡きを元の世界に送還した。

 しかし、ノーネームに恩を仇で返すような行為をしたのは変わらない。

 

「そんな、頭を上げてください! 白夜叉様が悪いわけではありませんよ!」

 

 東側どころか箱庭でも指折りの実力者である白夜叉が頭を下げるなんて、尋常ではない。それに、帰る権利はあくまで名亡きに帰属していたのだ。白夜叉がどうこう言える立場ではない。

 黒ウサギは慌てて頭を上げるように促すが、白夜叉は頭を下げるのをやめない。

 困り果てた黒ウサギの傍ら、十六夜は面倒そうに鼻を鳴らした。

 

「おい、わかってんだろ? 俺たちは謝罪の言葉を貰いに来たんじゃねえ。名亡きを追うためにここに来たんだ」

 

 十六夜の言葉を聞き、白夜叉は頭を上げた。

 十六夜の目には強い覚悟があった。他の3人も同様だ。

 

「白夜叉、お前が俺たちを名亡きの世界に送還してくれるんだろ?」

「うむ、可能だ。おんしらを名亡きの世界に送還することも、箱庭に召喚することもできる」

 

 白夜叉はグウィンの魂に触れた際、名亡きの世界の大まかな座標は記憶した。グウィンの魂がない今は精度こそ劣るものの、世界を繋げるには十分だ。

 

「おんしらにできるせめてもの償いじゃ。私は箱庭から離れるわけにはいかんが、サウザンドアイズの名に懸けておんしらを全力でサポートしよう」

 

 世界を越えて名亡きを追う覚悟があるのなら、彼のいる世界に召喚する。白夜叉は手紙でそう伝えていた。

 ここに来た時点で、彼ら4人の気持ちは一緒だったのだろう。

 

「すまんの、黒ウサギ。コミュニティ復興の大事な時期に厄介ごとを持ち込んでしまって」

「謝らないでください、白夜叉様。こうして便宜を図ってくれただけで十分ですよ。もし白夜叉様の話がなかったら、問題児様方は勝手に名亡き様を探しに行きそうですし……」

「おう、わかってるじゃねえか黒ウサギ」

「それはもう、あれだけ毎日振り回されたら……」

 

 白夜叉のサポートがなければ、名亡きだけでなく問題児3人組もコミュニティから飛び出していただろう。

 だからこそ白夜叉の手紙を読んだとき、黒ウサギは衝撃と安心のダブルパンチで膝から崩れ落ちた。その様子を見たレティシアは苦労サギと呟いたが、それはどうでもいい話だ。

 

「名亡きとは一度本気で闘ってみたかったんだよ。決着が付かないまま終わらせてたまるか」

 

 十六夜は手のひらに拳を当てる。

 前々から名亡きと戦ってみたいとは思っていた。その不死性と卓越した戦闘力から、全力で闘える相手ではないかと期待した。

 名亡きは無意識のうちにその期待に応えた。名亡きと肩を並べてアルゴールと戦ったときに、胸に燻るその想いはより一層と強くなった。

 

「私は名亡きにもう一度会いたい。さよならも言えずにお別れなんて、そんなの悲しすぎるよ」

「YES、名亡き様に会いたいのは黒ウサギも同じです。ノーネームを何度も救ってくれたご恩があるのに、それを返せないまま終わりなんて月の兎の名が泣きますよ!」

 

 黒ウサギの言葉を聞いたとき、十六夜は格好の獲物を見つけたようにニヤリと笑った。

 

「とか言いつつ、本当はコミュニティに帰ってくるよう説得する気満々なんじゃねえの?」

「ふぇっ!? いえいえ、滅相もありませんことヨ!?」

 

 大袈裟に手を横に振って否定するも、そのつもりは大いにあった。

 勿論、黒ウサギの言葉に嘘はない。しかし悲しきかな、同時に損得勘定もしてしまうのがコミュニティを背負う者としての性分である。

 

「黒ウサギ……」

「耀さん、そんな目で見ないでください!」

 

 ドタバタと騒ぐ3人を、飛鳥は軽く微笑みながら眺めている。いつもと変わらないノーネームの様子に、どこか安心して肩の力が抜けた。

 

「飛鳥、おんしも名亡きに会いたいか?」

「私だってみんなと同じ気持ちよ。それに、名亡きさんは私たちに黙って元の世界に帰るような人じゃないもの。何かあったに決まってるわ。もし名亡きさんが苦しんでいるのなら、今度は私たちが助けてあげたい」

 

 飛鳥の言葉を聞き、十六夜と耀は黒ウサギを弄るのをやめる。

 

「……まっ、そうだな。後腐れなく戦うためにも、多少は手を貸してやるか」

「十六夜、素直じゃない」

「ヤハハ、大目に見てくれ。我ながら一級品の捻くれ者だと自覚はしてんだ。そう考えると、お嬢様は名亡きに対して随分と素直だな」

「……な、何よ。いつまでたっても話が進まないでしょ。黒ウサギと一緒に遊んでないで、静かにしなさい」

「!!??」

 

 白夜叉は驚愕する黒ウサギに憐憫の目を向けた後、小さく咳払いをする。

 

「召喚術の類は専門ではないのでな、上限は4人までじゃ。座標もちいっと狂うかもしれんし、時間帯も名亡きを送った少し先になるかもしれん」

 

 太陽の光の王の魂とまではいかずとも、せめて名亡きの世界の物があれば正確に召喚できるのだが、無い物ねだりをしても仕方がない。

 

「その代わり、おんしらに太陽の光を授けよう」

 

 足元から暖かな光が立ち昇り、十六夜たちを包み込む。このまま身を委ねて眠ってしまいたくなる心地良さだ。

 光が十六夜たちの体に吸い込まれていく。彼らの内側に太陽の光が宿ったのだ。

 

「その光が闇から守ってくれるじゃろう。しかし、過信は禁物じゃぞ。常に細心の注意を払え。名亡きの世界には闇が溢れている。強い闇はときに光すらも呑み込む。それと、これを渡しておこう」

 

 白夜叉は黒ウサギに紅い宝石が嵌め込められた指輪を渡した。

 

「黒ウサギ、帰還のタイミングはおんしに任せるぞ。この指輪に強く念じながら太陽に向けよ。さすれば召喚術が発動し、箱庭に帰ることができるじゃろ。問題児どもが無茶をしないよう、しっかりと手綱を握れ」

「YES、お任せください」

「では、やるぞ」

 

 白夜叉が無造作に扇子の先を向ける。すると、十六夜たちの足元に巨大な魔法陣が現れた。

 十六夜たちはその場から立ち上がり、召喚される瞬間を身構える。正気を失った不死身の人間がごまんといる世界に出向くのだ。その表情は緊張が色濃く現れている。

 そして、魔法陣からより一層強い光が溢れた。

 

「おんしらにどうか太陽の加護があらんことを」

 

 十六夜たちの視界が白い光で包まれる中、白夜叉の言葉を聞いた。

 

「えっ」

 

 光が収まったとき、妙な浮遊感を感じた。

 気づけば、遥か上空で落下していた。眼下には鬱蒼とした森が広がっている。

 

「ま、またこんな展開なの!!??」

 

 全身で風を受け止めながら、悲鳴に近い声を上げる飛鳥。

 そう、黒ウサギに箱庭に召喚されたときと同じ展開だ。あのときと違う点を挙げるとすれば、落下地点に湖がないことか。

 地面が刻一刻と近づいてくる。

 身体能力が人並みの飛鳥は、このまま墜落すれば即死は免れない。

 

「春日部、お嬢様を頼む!」

「うん」

 

 一番近くにいた耀が飛鳥の手を掴む。そのまま体を近づかせ、腕で抱えた。

 耀の身体能力でも墜落すれば危険だが、グリフォンとの特性である風を操る力がある。

 風を操り、階段のように宙を跳ねながら地面に降りる。

 一方、十六夜と黒ウサギは普通に地面に着地した。落下の衝撃で轟音と共に地面が割れる。

 

「あ、ありがとう春日部さん……」

「どういたしまして」

 

 耀は抱えている飛鳥を地面に降ろす。

 他の3人はともかく、初っ端から命の危険に晒され、飛鳥の心に沸々と怒りが湧いてくる。

 

「なんでまた上空に放り出されるのよ!」

「座標の指定を少し誤ったのかと…… でも、仕方ありませんよ。砂漠の中から一粒の砂を見つけるような作業なんですから」

「……それよりお前ら、気づいたか?」

 

 十六夜の表情は今まで見たことがないくらい険しいものだった。

 

「多分、この世界の大半は闇で呑まれてる」

「ど、どういうことです!?」

「まだ憶測の域は出ないけどな。最初は視界が悪いだけだと思ったんだが、断絶されたみてえに途中から何も見えなくなる。闇で溢れてるとはよく言ったもんだ。絶海ならぬ闇の孤島になってやがる」

 

 十六夜の並外れた視力は、遥か先にある闇との境目を捉えた。

 徐々に見えなくなるならまだしも、境目を少しでも越えると完全に何も見えなくなる。まるでそこから先の世界が抜け落ちたように。

 

「それじゃあ、この世界の人たちは……」

「……」

 

 耀の問いかけに十六夜は何も答えられなかった。闇に呑まれた人がどうなるのか、博識な十六夜でも知る由はない。だが、おそらくは──。

 十六夜の沈黙の意味を理解し、耀は悲しそうに顔を歪ませる。

 

「名亡きはこの現象を止めるために元の世界に戻ったのかもな。それか── いや、何でもねえ」

 

 それか、名亡きが世界をこうしたのか。

 だが、あくまで可能性の話だ。確証はどこにもない。余計な動揺を与える必要はないと、十六夜は言葉を飲んだ。

 名亡きを探すために、4人は鬱蒼とした森を彷徨い歩く。あまりに静かな森だ。動物や虫がいる気配はない。風もなく、木々のざわめきすら聞こえない。

 ふと、耀が視界の先に何かを捉えた。

 

「何、あの黒い靄……」

 

 耀が指差した先には黒い靄がいた。手と足のない幽霊のような姿で、どこか不気味だ。

 

「動物、か……?」

 

 最初は動物かと思ったが、この黒い靄から生きている気配を感じない。霊体的な存在なのだろうか。

 黒い靄も十六夜たちの存在に気づき、両者の目が合った。

 

「ッ──!!??」

 

 黒い靄の目の奥底にあるのは、人に対する羨望と愛情。それなのに、こうも身の毛がよだつのは何故なのだろうか。

 生存本能が警告している。絶対にあれには触れるなと。

 気づけば、十六夜たちの周囲には無数の黒い靄が現れていた。全てが十六夜たちに目を向け、ゆっくりとだが近づいている。

 

「いつの間にこんな……!?」

「囲まれたら終いだ、突破するぞ!」

 

 黒い靄たちの間を縫い、十六夜たちは走る。

 幸い、黒い靄たちの動きは鈍い。飛鳥の足でも逃げ切れるほどだ。

 

「振り切れたみたいね……」

 

 しばらく走ると、黒い靄はいなくなっていた。

 十六夜たちは足を止め、少し休憩する。

 たいした距離を走ってないのに、十六夜を除いた3人の額には汗が浮かんでいた。

 

「あの黒い靄、名亡きが使っていた人間性に似ている。何か関係があるのか……?」

 

 十六夜だけは走りながらも、黒い靄の正体を考察していた。

 あの黒い靄は人間性という。名亡きが白夜叉戦で使った人間性とほぼ同質だ。十六夜の考察は的を得ていると言えよう。

 人間性。それはこの世界の人だけが持つ。しかし、人に人間性を注ぎ過ぎればウーラシールの民のような異形と化し、最終的には人間性そのものと化す。

 つまり、ここに多数の人間性が彷徨っているのはそういうことだ。現時点の情報では十六夜たちに知る由もないが。

 

「うっ!?」

「どうした、春日部?」

 

 耀は口に手を当て、顔を青くしている。

 

「な、何でもない…… ただ、変な臭いが……」

「変な臭い?」

 

 黒ウサギの耳がピクリと動いた。

 

「な、何か来ます!」

 

 巨大な何かが近づいてくる。この音はまるで、蛇の這いずりのような。

 それと同時に、鼻を突き刺すような異臭が漂った。思わず眉間に皺を寄せるが、五感が鋭い耀は心配なくらい顔を白くしている。

 

「懐かしい太陽の光の気配がすると思ったら、お主らか?」

 

 現れたのは巨大な蛇だった。

 目は赤々として、人間のような歯を剥き出しにしている。人間と蛇を足して二で割ったような不気味な姿だ。

 

「何だてめえは?」

「儂の名は王の探求者フラムト。大王グウィンの親友じゃ。神族には見えぬが…… 不死人でもないな。お主らは何者だ?」

 

 フラムトが口を開くと、強烈な臭いが襲ってきた。どうらやこの異臭の原因はフラムトの口臭らしい。

 耀に目を向けると、涙目になりながら必死に何かを堪えていた。

 

「な、名亡きさんを知ってるかしら。この世界にいるはずなんだけど。私たちは彼の仲間なの」

 

 名亡きの名前を出すと、フラムトは少しだけ目を細めた。

 

「……そうか、闇の王の」

「闇の、王……?」

「そうさな…… 儂は名亡きの居場所を知っておる。もしお主らが会うのを望むなら、そこに連れてってやろう」

 

 フラムトの予想外の提案に、十六夜は訝しげな目を向ける。フラムトの正体がわからない上、あまりにも都合が良い提案だ。

 しかし、彼の提案に乗る以外にない。他の手がかりがないのだから仕方がない。

 

「信じていいんだな? もし裏切ったら、容赦なくその長え首を捩じ切るぜ」

「心配せんでよろしい。儂にお主らをどうにかできる力はない。ただ、火の時代を末長く見守りたいだけじゃ」

 

 胡散臭い口調には変わりないが、どこか昔を懐かしんでいるようにも感じた。

 

「では、行くぞ」

 

 フラムトは大きく口を開け、十六夜たちを咥えようとした。

 迫る大口。あまりに突然かつ衝撃的な事態に飛鳥と黒ウサギは動けない。耀は臭いに耐え切れず地面に倒れた。

 このままでは乙女として大事な何かが粉々に打ち砕かれる。

 

「オラァ!!」

「ごはぁ!!??」

 

 一早く反応した十六夜がフラムトの顎にアッパーカットを打ち込んだ。

 

「普通に案内しろ、普通に」

「ウ、ウム……」

 

 この日、十六夜は耀を始めとした女性陣に死ぬほど感謝されたという。




名亡きの部屋

名亡き「かぼえも〜ん!!」
アナスタシア「どうしたんですか名亡きくん?」
名亡き「また今日も仮面巨人先輩にいじめられたよ〜! 何か仕返しできるひみつ道具を出してよ〜!」
アナスタシア「今日もですか。仕方ないですねぇ名亡きくんは」

アナスタシア「アノヨヘオクール〜」タッタラタッタ ター タターン

アナスタシア「はい、どうぞ」つ肉断ち包丁
名亡き「えっ…… か、かぼえもん……?」
アナスタシア「……ぶっ殺したいんだろ? これで格の違いを教えてやれよ」

名亡き「わぁ〜! ありがとうかぼえもん! これで仮面巨人先輩に仕返しできるよ!」
アナスタシア「くれぐれも悪用しないでくださいね〜」






──YOU DIED





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