Blackest Nightmare   作:パン粉

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「久々のモスクワでしょう、どうですか気分は」

「クソ寒ィ。ホント馬鹿じゃねェの、この気温」

 

 カフェで二人、コーヒーを嗜みながら話すサーシャと創龍は、暖かな店内でも警戒を解かずにいた。ロシアはテロが多く、いつどこで起こってもおかしくないからだ。花鳥風月を肌見離さず持っている創龍、大してサーシャはベレッタ・90-Twoを懐に隠していた。軍人の彼女には発砲許可も許されているが、創龍は別だ。依頼主のガルガンティアが特殊ライセンスを取り急ぎ発行しているので、それが届くまでは発砲無しでやらねばならぬ。トイガンなら良いだろ、と屁理屈を捏ねてMP443のガスガンを持ってきたブリーフケースの中に仕込ませており、後は近接用にコンバットナイフも持ち込んでいる。少しだけ臆病なくらいがちょうどいい、というのが創龍の持論で、それを引継ぐサーシャも念には念をとリボルバーも携帯している。S&W・M629は44マグナム弾を装填してあり、携帯性や信頼性は悪くない。

 

 苦々しいコーヒーは音姫が入れてくれたのと大違いだ。こういうとこに人の貧しさが表れているとボソリ呟くが、店主の地獄耳はそれを聞き逃さず怒り出したが、無視して創龍はカップを置いた。黒く澄んだ液体の表面から立ち昇る湯気、その行く先をサーシャが見れば、目出し帽を被って入ってくる男が4人。肘をテーブルに突いているが、それには創龍も気づいていた。こうでもしないと顔が凍ってしまうと分かっていた。その後からくる客の方が怪しい。

 

「マスター、うんと熱いコーヒー頼むよ」

「はいよ、2分待ってくれ」

「10分だ。美味いコーヒー淹れたきゃ、それまで待ちな」

 

 次に扉を開けてやってきた女に銃を向けた。もちろんエアガンで、扉の横に張っていたサーシャは頭にハンドガンを突き付け、女が右手のマカロフを落とす瞬間に、BB弾でそれを外に追い出す。雪の中に埋もれたマカロフに眼をやらず、サーシャは茶髪の女から目を離さない。伏せろ、と言いつつ、トレンチコートを剥ぎ取れば、それを創龍に渡した。コチコチと微かに聞こえてその音源を取り出せば、恐らくはエチレンが爆薬の時限爆弾を発見した。伏せさせた女を引きずって、サーシャにボディチェックを任せながら創龍はその爆弾を宙高く放った。そこに、女が持っていたマカロフをぶつけてケースに穴を開け、季節外れの花火を打ち出す。

 

 まだ昼の11時を回ったばかり、空は澄んでいる中、このような物騒な事件が後を絶たない。警察を呼んで引き渡せば、創龍はその女の足跡を見ては一人そちらに歩いていった。

 

 そうして乱闘を終えて戻ってくれば、サーシャは呆れた様子で壁に寄りかかっていた。しかし、手がかりとなるアイテムを創龍が見せれば、ほうと彼女は口に出す。軍人であった証拠と、通信用の端末。創龍がそれをクラッキングしては情報の発信源やその司令塔を探る。

 

「"ボリゾイ・エヴゲニーノフ"。陸軍元帥でスペツナズの指揮をしていた奴だな。道理で、奴らのコートにスペツナズのワッペンがあったわけだ」

「過激派ですか。何をしたいのか、全く全貌が掴めないですね。ロシア掌握?世界征服?」

「わからん。もともと好戦的なアホだ、戦士の生きるべき道とか説き出しそうで怖いな」

「つまりは、戦争世界の実現ってやつですか」

 

 恐ろしいことだ。血を既に多く流し過ぎているこの世界にはそんなモノは必要ないのだと二人は考えていた。だからこそ、そのような愚行を止めねばならないと二人は決意をする。はぁ、と溜息をつきながら。

 

 面倒くさいことになってきた。どんな相手であろうと構いはしないが、どうせ大した敵ではないのだと思えてしまう。サーシャ一人でも捻り潰せるのに、なぜガルガンティアは創龍を寄越したのか。今はSASに在籍しているのに、なぜ?軍事演習なのか、親友の顔合わせでもしてこいということなのか。イマイチ本質が見えない。思考を巡らせるのもいいが、その前にサーシャは創龍に説教をし出した。

 

「創龍、さっき何をしました?」

「あ?」

「その脚のデザートイーグル、撃ちましたよね?」

「知らねェな。空耳なんじゃねェの」

「そんな特徴の強い音を空耳するわけないでしょ。MP5KにW2000、それにマカロフですか、相手は。武器無くても勝てたでしょ、貴方は」

「流石狙撃手(スナイパー)、耳も一級品だ」

「ごまかすな。ライセンス出るまで撃つな」

 

 少し怒るサーシャを見て、創龍はひええと怯えた。彼女が本気で怒ると本当に怖い。コンビ時代からそれは知っていたし、それからなるべく怒らせないようにしていた。素直に彼女の言うことを聞こう、それが一番いい。

 

 ったく、と言いながら、大きなハードケースをサーシャは持ち上げた。陸軍の迎えの車が来てそれに乗り込み、創龍は窓際に腕を置いて頬杖を付きながら、本部へ到着するまでそうしていた。

 

 

「待たせたな、これで大丈夫だ」

「最初からそうしておいてくれ……」

 

 ガルガンティアと対面した創龍は溜息をついてそう愚痴った。ライセンスを受け取ってから現在の彼の身分についての説明をする。現在身を置いているSAS(英国陸軍特殊空挺部隊)の一員としてではなく、またロシア軍も基本的には関与しないとの事らしい。サポートはするものの、即ち汚れ仕事だ。軍事用回線にて英露は連絡を取り合ってっているので、任務の内容自体は把握しているらしい。

 

 それともう一つ、付け加えられた。"アルトレア・ブラックモア"という、創龍の二つ目の名前がある。それはイギリスに戸籍があるのだが、そちらを使うなとのことだ。当然のことだろう、契約上は便利屋としてきているのだから。その契約での金額はなるべく釣り上げておきたい。まず最初に提示される金額はいくらなのか、それを聞いた。

 

「5万ドルでどうだ」

「桁が一個少ねェよ」

「むむ……」

「10万ドル。それ未満は受けねェ」

 

 強気の商談。装備を整えてきたサーシャは創龍の眼を見ては相当額の値上げを要求したのだと理解した。わかった、そうガルガンティアは折れると小切手を取り出すが創龍はそれを制した。現金を用意しな、と言って。

 

 小切手ならいくらでもごまかせる。また、現金でも偽札だったらとんでもないことになる。そこで、猶予を付けてやるのが少し甘い所だろう。成功してから報酬をよろしくな、と創龍が言った。ほっとガルガンティアは胸を撫で下ろす。裏世界NO.1の実力者を雇うにはこれでも安い方だと思いたい。生命のやり取りを自分たちの代わりにしてくれるのだから。その横で、サーシャも調子に乗り出した。

 

「私にはボーナスは出ますか?」

「え?」

「どうなんですか?出ないなら別の人が遂行しますけど」

「も、勿論出す!しかし別の人、とは……?」

「キリエ・レイソン、俺の今の仕事の相方だ」

「並々ならない面子だな。裏世界の戦乙女が相方とは」

 

 ずっぷりとガルガンティアも裏に脚を突っ込んでいるのかもしれない。ここまで詳しいのは少し怪しいと思ったが、軍の統制を受け持っている以上は知っていないといけないのだろう。シギントの重要性を踏まえて行動していることは評価できる。そして、創龍には及び腰となっているものの外交戦略はかなり強者の彼だ、裏を利用する価値を見出しては口説き落とすテクニックを創龍は在軍時から買っていた。

 

 それなのに、部下のサーシャからも昇給をお願いされて断れないとは、それなりに可愛いところもあるようだ。創龍はふっと立場の弱い彼を笑った。まだ30そこそこのガルガンティアは、創龍が入隊した頃はまだ彼の部下であった。そこから地道な努力を続けていつの間にかトップの座に君臨している。才能もあるのだろう、しかし努力を続けた結果がこうなのだから、彼を褒める他ない。実力もきちんと創龍は認めているのだ。

 

 

「当分はここで寝泊まりしてもらいます」

「ーー予想はしてたが。コシュマじゃねェか」

「当然でしょ、貴方に稽古を付けてもらうつもりでもいるんですから」

 

 充分な実力を持っているはず、少なくとも人間より圧倒的に強いはずのサーシャの一言。何をこいつは寝言を言っているのか、と思うが、すぐにホールに来いと言われ、渋々そこに向かう。19歳の終わり頃にここを離れた創龍は懐かしさを感じる側面で哀しみも抱いていた。

 

 あの出来事を忘れてはいない。犠牲を大量に出し、数多の死体を作り出したことを。怨念が彼を縛り付けるようで、だから彼はそこにいたくはなかった。しかし、同じ事件をサーシャも体験し、それでここのトップに立っている。新兵だった彼女がここまで成長するとは思っていなかったし、メンタルならあちらの方が上ではと創龍は思っていた。

 

 彼女は私服のままでいた。白いジャケットに黒のレギンスとホットパンツを穿き、そのとても大きな胸を見せるようなオフショルダーのレザーインナーを着る。何をするのかはもう決まっていて、二人は組み合えば互いにCQCを掛け合う。

 

 既に二人共達人のレベルにあるが、創龍は圧倒的であった。全くスキがないと思われる左ストレートを見切りつつ、締めていた右脇に肘を当てて、踏み込んだ左足の膝裏とかかとを蹴り、体勢を崩したサーシャの顔すれすれに地面を殴る。

 

 寝技でも諦めないサーシャはその腕を取って地面に転がした。そのまま腕ひしぎを取ろうとしても創龍の関節は柔らかく、また馬鹿力がサーシャを腕ごと持ち上げ、叩き付けた。受け身を取った彼女だが、次の攻撃に供えてすぐさま体勢を直す。

 

「まだまだだな」

「でしょうね、あなたからしたら」

 

 成長はしている。しかし追いつけはしていない。なら訓練してやろう、と創龍は気持ちを改めた。




主人公紹介

名前:神威 創龍(かむい そうりゅう)
偽名:Altorea Blackmore(アルトレア・ブラックモア)
性別:男
年齢:23
国籍:なし(イングランド)
所属:便利屋"Black Cherry"オーナー、イギリス陸軍特殊空挺部隊第6隊隊長
階級:大佐
身長:196cm
体重:95kg
髪型:黒、デビルメイクライのダンテと同じ髪型
アイカラー:漆黒
趣味:音楽鑑賞、物理や化学・数学などの書物を読む、
散歩
好きなもの:酒(特にウィスキー)、家族(特に音姫や悠李など)、家事全般、お祭り
嫌いなもの:タバコ、宗教や神などといったもの
特技:格闘術、射撃、乗り物の操縦、多国語、ギター、ピアノ、プログラミング、子育て等、スポーツ全般、空間把握

[詳細]
悪魔と退魔師の血を引く魔剣士。伝説の魔剣士スパーダの兄・クラウスの息子(兄弟自体が伝説)。そして、便利屋「Black Cherry」を経営する悪魔狩り。武器の扱いに長けており、持ち前のセンスと身体能力で、初見のものでも自在に操る。
生き物とは到底思えないパワーとタフネス、メンタルを持つ。

6歳の時に両親を無くし、人を殺めた。その後孤児院を経てイギリスのインペリアルカレッジに入学、物理学(専門は量子力学、統計力学)を学ぶ。飛び級で物理のPh.Dを取った後、便利屋"Devil May Cry"を立ち上げるが、従兄弟のダンテに名前を上げて"Black Cherry"に改名する。

16歳の時にロシア陸軍特殊基地コシュマグラードのセキュリティシステムを構築、その時に嵌められたカタチで入隊。18歳の時にサーシャを部下に迎え入れ、コシュマグラード事件を解決。人員の大幅な欠如の為、軍曹から大尉に昇進、その後コシュマグラードのトップに立ち、復興作業と基礎作りをした後、スペツナズに左遷(軍部は創龍を殺すつもりで左遷した)されたが生き残り、除名処分を下されたあとSASからスカウトをもらい、そこで大佐となる。

どんな依頼でも必ず成功させてしまうこと、裏世界で最強クラスということから、"不可能を可能にする男"、"アルトレア・ザ・リッパー"、"風雲児"などと呼ばれる。

知能も高く、多言語を操れる模様。英語、イタリア語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、スペイン語、ポルトガル語、タガログ語、日本語など様々。

性格は冷静沈着ながらも楽天家のように振る舞う。皮肉や軽口を時折叩くものの音は真面目。

義理の息子に悠李、従業員兼妻としてD.C.2の朝倉音姫、現在の相棒としてV.C.のキリエ・レイソンがいる。またサーシャ・グスタフとは未だに交流がある。

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