あの後、アマタは再び医務室に運ばれた。流石に熱は下がっていたが、新たにできた全身の青痣についての診察が行われいた。引きずられていたミコノやスタッフの行いではないと判明はしていたため、彼女らにお咎めはなかった。だが彼女今、アマタが横になっているベッドのそばにいた。いつもは微妙に眉間に皺の寄っている顔と比べると、安らかに眠っているその顔はとても幼く見えた。
「いつも一人で戦ってたのかな」
ミコノは独り言ちた。布団からはみ出している右手をそっと握る。兄の様にがっしりとしたその腕には、よく見ると無数の傷跡が見て取れた。一体彼はどのような日々を送っていたのだろう。彼がこの力を持った時、彼にどれほどの葛藤があったのだろうか。エレメントよりも強大で力を手に入れて、恐ろしいと感じたことはなかったのだろうか?
あの言葉、「自分を知ろうとしない者に、力を振るう資格はない」というのは、彼の経験からくるものなのだろうか?
「……アマタ君」
正確に心音を刻む音が鳴り響く部屋で、ミコノは眠り続けるアマタの手を握ることしか出来なかった。
◆
気が付くとアマタは白い空間にいた。前後左右上下全てが城に染められた空間で、アマタは一人立っていた。この状況にアマタは、ただただ冷静に前を見ていた。まるでこの空間に来たのが初めてではないという様に。
「また無茶をしたようだな」
唐突に後ろからアマタに声がかけられる。その声は少し掠れていたが、とても威厳のあるものだった。掛けられた言葉にアマタは苦笑を漏らすと、後ろを振り返った。
そこには一人の男が立っていた。彼は灰と赤のツートンカラーのツナギの様な防護服を着ていたが、腰にはいろんな装備のついたベルトを、その肩には青の"S"と黄色の"GUTS"の文字を、そしてその背中には"ASUKA"の文字を背負った男が立っていた。
「どうしてもあの子を守りたかったんで。何故か知らないですけど、なんか魂が護れと言っていたというか、
「なるほどな、その気持ちはよくわかる」
男、アスカはアマタの返答に頷いた。すると彼の横から、また新たな人影が出てきた。その男は全身白の防護服を着ており、アスカとは意匠が異なるものの、"GUTS"の文字が見て取れた。
「だが、それで君が死んだりしたら、彼女に消えない傷を残し彼女の心に闇を残していただろう」
「そこは俺も浅はかだったと思っています、
二人目の男の指摘に、アマタは素直に頭を下げる。その様子を見て満足したのか、男は硬い表情を崩した。それを察したアマタは一度笑顔を浮かべると、再び真剣な表情を浮かべた。
「あのもう一人のウルトラマン、ティエラは自らを闇と称してましたけど」
「……僕が対峙したような闇ではないと思う」
「だが君と同じで、奴にもなにかあるだろう。君がオレ達や他の君の先達から受け継いだものがあるように」
二人の男も真剣な顔をして考察を述べる。しかしそれだけではなく、白衣の男は更なる見解を述べる。対になる存在という発言と、アマタが変身しなければならないという衝動に駆られたように、彼とアマタには切っても切れない繋がりがあるのだろうと。
「心配ない。どんな時でも立ち上がり、不可能を可能にするのが俺たちウルトラマンの役目だ」
「どんな時も逃げ出さないのが大切だ。彼から言われただろ? "諦めるな"と」
「だからこれからも頑張れよ、後輩」
その言葉と共に二人の男はいなくなり、アマタの視界もブラックアウトした。
◆
目が覚めると最初に目に入ったのは天上だった。それから耳に入る規則的な電子音。そして右手を握りしめる柔らか感触と腹にかかる僅かな重さ。身を起こしてみると、ミコノがアマタの手を握りながら寝ていた。時刻は夜中の二時、眠ってしまったのだろう。
アマタはベッドから降りると、腕を回したり腰を曲げたりして、自分の体の調子を確かめる。幸い腹が空いている以外は全て正常の様だ。エレメントも問題なく使用できる当たり、先の戦いの傷も完全に癒えたのだろう。
とはいえどうしたものか。この後尋問が確実にあることは分かっている。だが今の状態では傷が治っても体力が戻っていないために途中で力尽きても仕方がない。このまま朝まで何もしていないのは窮屈だ。アマタは部屋を見渡し、一度目を光らせた。そのあと、部屋の一角に移動するとこの部屋から瞬時に消えていった。
ミコノが目を覚ますと、ベッドは持助の空になっていた。驚いたミコノは部屋を見渡す。そして思わず椅子から転げちてしまった。患者であるはずのアマタはスクワットをしていた。しかもどこから取ってきたのか、口にはサンドイッチを加えていた。
「あ、アマタ君? 何してるの?」
「ん? おはようミコノさん。体が鈍っていたからトレーニングをね」
「もう大丈夫なの?」
「問題ない」
ミコノと会話しながらも、スクワットを辞めないアマタ。彼が口にくわえたサンドイッチを食べ終わったとき、医務室の扉が開いた。扉から入ってきたのは軍服を着た赤毛の男性と眼帯を付けた壮年の男性、そしてシスター服に似た服を着た女性が入ってきた。
「アマタ・ソラだな?」
「そうですが、あなた方は?」
「私は男士棟教官のドナール・ダンテス、こちらは司令だ」
「そして私は女性教官を務める、スオミ・コピネです」
「成程。御三方、よろしくお願い致します」
自己紹介をされたアマタは三人に対して会釈を取る。すると司令と呼ばれた人物がアマタに近寄った。
「これから少し時間をもらえるかな?」
「構いませんが。まぁ言いたいことは分かります」
「話が早くて助かる」
「ただし、こちらにも条件があります。一方的な交渉には応じるつもりはありませんので」
「構わん」
互いに牽制しながら話を進めていき、アマタと司令、ドナールは医療室から出ていった。ミコノはミコノで、スオミに連れられて医務室から出ていった。
とある一室に通されたアマタは、机を挟んでドナールと司令の二人と対峙した。
「さて、交渉を始める前に最初の条件を。彼女を、ミコノさんを材料に使うな。彼女は巻き込まれただけだからな」
「無論だ。こちらもそのようなことはするつもりはない」
「そうですか……良かった」
誰にも聞こえないように漏らした安堵の声を、しかし司令は聞いた。そしてまるで自分の身よりも他人を優先するような姿勢に、少なからず驚いていた。
「それで、他に条件はあるかね?」
「俺自身の個人的なことではありますが、これは他の誰にも内密にしていただきたい」
「一体なんだ?」
もったいぶるように話すアマタに対し。ドナールは語気を強めて問いただした。しかしアマタは気にすることなく、一度胸の前で腕をクロスさせた。そこからゆっくりとそれぞれ半円を描くようにして真横に両腕を広げると、両手中指にはめられた二色の指輪を突き合せた。
瞬間、密室は強烈な光に満たされ、ドナールと司令は思わず目を覆った。光が収まり、アマタの立っていた場所を見ると、そこには銀色に輝く人型が立っていた。そしてその人型は先の戦いとその前の戦いで出現した巨人に、細部に至るまでそっくりだった。
「まさか……君がそうだったのか」
「……光の巨人」
『これが理由です。この先、この力を使わなければいけないと判断したときは、私の自由行動を認めてほしい』
「認められるか!!」
頭に語りかけるように木霊した声に、ドナールは噛みついた。仮令相手が人以上の力を持つ存在だったとしても、ここに身を置くのであればこちらの指示に従うのが当然と考えたのである。
司令は黙考していたが、ゆっくりと口を開いた。
「……いいだろう」
「司令!?」
「考えてもみたまえ。昨日現れた闇の巨人に、アクエリアが対応できていたか?」
「それは……」
司令の問いかけに、ドナールは答えを窮してしまった。昨日の戦い、アクエリアやベクターはアブダクターには対応できていたものの、巨人にたいして手も足も出なかったのである。結局巨人は巨人でしか対応できず、どうしようもなかったのだ。
「……しかし」
「それに一昨日の戦闘において、彼は初めての合体で勝利を収めた。しかも禁断の合体を行ったうえで。今我々には力が必要なんだ、この際多少の条件を呑むことも大切だ」
『感謝します。今この事を知っているのは、巨人の先達以外にはあなた方とミコノさんだけです。再三言いますが、このことはくれぐれも内密に』
「分かった。しかし何故彼女は知っている?」
『やむを得ぬ事情で、彼女を死なせないために目の前で変身する必要があったので』
「そうか」
その言葉を締めにアマタは元に戻り、司令と悪手を交わした。
はい、ここまでです。
いや、サンプルでもイラストって難しい。よくゲームで挿絵を描いている人やpix〇vに投稿している方々はすごいですね。
さて、これでようやく冒頭部分が終わった……かな?
次回もよろしくお願いします。