森島はるか スキBADアフター   作:索紅

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や っ た ぜ 。
なんかPCの掃除してたら出てきたんで初投稿です。


暴力系ツンデレって、リアルだとただの精神疾患だよね

「……はあ、疲れた」

 社員食堂で一人寂しくうどんを啜る。刻み葱が散らしてあるだけの、いわゆる素うどんというやつだ。別に遅めの昼食に海老天を乗せるのを躊躇うほど貧してはいないけれど、残虐非道な後輩の絡み酒攻撃と、冷酷無比の上司に吊るし上げ攻撃を受け、疲れきった僕の胃は優しさを求めていた。

 馬鹿げたミスだった。それこそ学生気分の抜けていない新人のやるような。以前の視察の時に向こうの総監督から渡された資料、それを本社に忘れてしまった。もちろん重要な書類であったというわけではない。コレが無ければ今日の契約内容はご破算だ!というような、会社に重要な影響を及ぼすようなモノでもない。そもそもこの視察においての僕の役割は部長のお供で、つまりこれは僕が一人手持ち無沙汰でお茶をすすっているだけの存在にならないように、一応持たされているだけの資料だ。

……だが、いくら学生レベルの些細なミスであっても、そして視察に影響がでなくても、社会という場に出た仕事の中では快く思わない人は大勢いる。たとえばそれは合併したばかりの我が社でバリバリの派閥闘争の最中にいる現場監督であったり、僕の失態に対して異常に厳しい我が上司であったりだ。

 

「同席しても構わないかしら?」

弱りきった胃に止めを刺さそうとするような氷点下の声。おずおずとどんぶりから顔を上げると、そこには予想通りの顔。

「……もう座ってるじゃないですか」

「あら、一応聞いただけよ。上司と食事の席で親睦を深めようと努めるのも、社会人としての勤めではないかしら?」

我が上司である彼女、森島部長はちくりと一言、昼のことも含んだイヤミと共に正面の席に唐揚げ定食を乗せたトレイをおいた。

身も蓋もない言葉に押さえ込まれるように顔を残り少ない麺に向ける。幸いどんぶりの中身は残り僅かだ。大急ぎで昼食を済ませ、とにかくこの場を切り抜けてしまおう。そう決めて残りのうどんを掻き込むも、一向にいつものお小言は降ってこない。

何事かと我が上司の顔をちらりと覗くと、食事もなおざりにこちらをじっと見つめている。

「……なにか?」

「いえ、大したことではないのだけれど……」

昔も今も(太陽と北風ぐらいの違いがあるが)朗々と話す彼女らしくない物言いに、こちらもつい、箸を止めて顔を上げた。

「あなた、私の下に来た事を後悔していない?」

「……はい?」

また予想外の言葉が飛び出してきた。

「言葉通りの意味よ。あなたは4月から私の部下になったわけだけれど、この開発部に来て後悔していない?」

「……それは、僕がこの部に必要ではないという事でしょうか?」

そう言われても仕方ない。なにしろこっちにきてから僕はいかにも昼行灯なのだ、冷徹を絵に書いたような我が上司の堪忍袋がとうとう使い物にならなくなってもおかしくはないわけで……

「いいえ、あなたのモチベーションの話よ。私は私の部下である事で、あなた自身が能力を出しきれていないんじゃないかと思っているわ」

「それは、やっぱり遠まわしに僕は戦力外だと……?」

「……今の論点はそこじゃないわ」

……否定しないんだ。分かっていてもクるものがある……

 

「あなたの以前の職場、合併する前の会社での実績には目を通させてもらったわ」

「はあ……」

「あなたが取り付けた契約の数、資産マネジメントの的確さ、ついでに言うと残業の数も、今のあなたからは想像も出来ない数字ね」

「……はあ」

「それが開発部に来てからは鳴かず飛ばず。残業の数は増えたみたいだけどね」

それは単なる代償行為の結果で、むしろ順番は逆なのだと口には出せない。

……ちなみに頭についてるサービスの四文字を取っ払っただけで、残業の数は変わらなかったりするのだが。

「どういう事なのかしら?」

「それは……」

言い淀む。自分でも整理をつけられていない感情。それを言葉にする勇気も足りない。口を閉じるしかなくなる。

「……私のせい?」

雲行きが怪しくなり始め、いつものお小言に身構えていたところに、彼女はいきなり変化球を投げてきた。

「もしかして、私が上司だからかしら……?」

今までの態度から一転して、不安げな顔。そんな風に見つめられて、急に脈拍が速くなる。

 

「そんな事は、無いです」

小さく、でもはっきりと口に出す。

「僕は部長の下で働けて、良かったと思っていますよ」

紛れもない本心。いくら仕事に打ち込んでも忘れられなかった彼女への、またとない贖罪の機会が得られたのだから。彼女がどう思おうが、それは僕にとって闇の中の光明だったのだから。

「……そう」

そしてそんな僕の本心を知ってか知らずか、彼女は少し表情を和らげ、話はこれで終わりと僕から視線を外し、唐揚げ定食に取り掛かる。

自然と沈黙が食卓を包む。だがさっきまでの息苦しさとは違う、どこか気安い、居心地のいい空気が満ちていた。

「“先輩”は……」

そして僕は愚かにも

「僕のことを……」

そんな空気が、どこか十年前のあの時に似ていると

「許してくれたんですか……?」

そう、錯覚してしまったのだ。

「っ!」

場の空気が一気に張り詰める。さっきまで柔和に微笑んですらいた彼女の顔が強張り、どんどん距離が離れていくような感覚。

……やってしまった、また地雷を踏み抜いた。さっき彼女が投げたのが変化球なら、僕が今投げたのは危険球だ。こんなに気安く振っていい話題では無かった。

「……今日は視察の報告書を纏めたら上がっていいわ」

「はっ、はい!」

一瞬だけ姿を見せた気がした“先輩”は、僕の不用意な一言で“上司”に戻っていた。

「それじゃ、私は仕事に戻るから」

「はい……」

「あなたも早く食事を済ませるようにね。たまには定時で帰りたいでしょう?」

「……」

すっかりいつもの調子に戻った彼女は、容赦なくイヤミを放ってくる。

「それと……」

まだなにかあるのか……

「それ、橘君にあげるわ」

「……」

彼女が指さした先には数が減っているものの、まだまだ皿の大部分を埋めている唐揚げ。綺麗にご飯と味噌汁は片付いていた。

……弱りきった僕の胃の、断末魔を聞いたような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なにやってるのよ、私は……」

「……」

「……橘純一の、バーカ」

 




ラブリーの性格が掴みにくい
一応メインヒロインは七咲とラブリー。サブヒロインで一人二人出すかも。続きはまたその内でーす。

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