いつもお気に入り登録に評価、感想ありがとうございます。今回は誤字報告がなかったのですが、ちょっと気になりましたが……今回も直すところがなかったらと思っています。ですが、おかしかったら教えてください。よろしくお願いします。
では、どうぞ!
川神学園を出た神月と百代が向かった先は、仲見世通りの終点で川神院の前にあるくず餅の老舗店“仲吉”だった。
「いらっしゃい。あら、百代ちゃん。それに……! もしかして神月ちゃん!」
この“仲吉”を切り盛りするおばちゃんは、よく来る百代の隣にいた男の子を神月と分かって手を取る。小さいころから2人はこの店でお世話になっていたこともあり、仲吉のおばちゃんは2人で来てくれたことに嬉しそうだった。
「どうしたのよ、神月ちゃん! まったく、本当に……」
「おばちゃん……」
「ごめんね、最近涙もろくて。はい、いらっしゃい。奥の席へどうぞ」
「ありがと」
仲吉のおばちゃんに迎えられ、久しぶりに2人で奥の席へ座る。神月は窓際の席に百代は対面に座ってメニューを見る。その前に神月はテーブルにある置物をどけて何故か懐かしむ。
「俺の歯形まだ残っているよ」
神月が4歳の時に鉄心に百代と一緒に連れられて来たときに、期間限定のメニュー・くず餅パフェを頼んだのだが、最初は嬉しそうに平らげていた神月だったが食べ終わったが大変だった。
『もっと食べる!!』
よっぽど気に入ったのと、期間限定のメニューでしばらく食べられないと鉄心に説明したのをもう食べられないと解釈してその場に居座ったのだ。
『これぃ! 帰るぞぃ!!』
『んぅぅうう!!』
最終的に腕を取って店を出ようとした鉄心に、必死の抵抗で机の角に噛り付いたのだった。
「おばちゃん。このテーブルも変えたほうがいいよ」
2人のテーブル以外はきれいに変わっていた。それを見て気付いた神月に仲吉のおばちゃんは、笑って答えた。
「フフっ、あんたが必死に噛みついてくれたおかげでこのテーブルでくず餅パフェを食べたから願掛けになっているのよ。必死に噛みついて逃がさなかったからね」
「なんの?」
「それは――」
「あっ、おばちゃん! くず餅パフェ2つ」
「! はいよ!」
仲吉のおばちゃんに何の願掛けか聞こうとした神月を遮って、百代はくず餅パフェを頼んだ。神月は期間限定のメニューなのに、どうしてだろうと思うとちょうどその期間だった。
「そう言えば、こんな時期だったか」
「そうだ、有り難く思えよ。私が誘ったおかげなんだからな」
「あぁ、だから他の店はまったく見ずにここに来たのか。それと、有り難く思うのは奢ってもらうお前だ」
置いてあったお手拭きを手に取る神月はそう言うも、本当は百代に合わして歩いていたが自分も仲吉に行こうと思っていたのは内緒だった。
「それで、どうして保健室で清楚ちゃんと2人だったんだ?」
「実は――――」
今日の帰りのHRでの出来事を話した神月に、百代は無茶なことをしたなと思いながら外を眺める。昔から何かと無茶な真似をする神月だったがあんまり変わってないなと百代はジッと見て思う。
「それで、一応保健室に向かったら葉桜さんが後ろから付いてきた」
「それでお前は、清楚ちゃんが後を付けていることを知ってそのまま保健室まで行ったのか……。それって、清楚ちゃんは声を掛けるつもりだったんじゃないか」
「いや、俺の腕を見てどうこう言っていたから。まぁ、とりあえず話せたからいいんじゃない」
適当に女の相手をした神月に百代は男の風上に置けないやつ、とそっぽを向いた。
「まぁ、そう言われても仕方ないな」
「あっさり認めたな」
「あぁ。でも、また明日葉桜さんに会わないといけないし謝っておくよ」
神月はそう言ってタオルを見せるとタオルの端にS・Hのイニシャル、ひなげしの刺繍を百代に見せた。
「それよりも、本題はあの金髪老執事だろ」
百代が呼び出した理由を大体把握していた神月は、本題と言って話を変えた。金髪老執事、かつて最強の前に君臨したヒューム・ヘルシングのことだった。
「確かに、あの爺さんのキレは半端なかったかもね。現に一発もらったし」
「それでも神月も1発入れただろ」
百代もあの一連の流れは見ていた。ヒュームに対して気づかれないほどの攻撃もしたことも知っていただけに、百代は神月に聞いた。
「もし今、神月が戦えば……勝てるか?」
百代が聞きたかったのはそれだった。神月が
「普通に戦って勝てる相手じゃないのは確かだろうな」
「今までの戦い方では無理だと?」
「いや、普通に戦えないだろう。俺の根っからの戦闘本能が疼いてしまう。どんなに押さえつけても結局血は争うことも抗うこともできない」
百代はそれを聞きかつての光景が浮かんだ。7年前の獣のように狂ってしまった神月のことを。
「だから、俺が戦うとしたらかなりの覚悟を決めないといけないだろうね。もしかしたら疼く前に終わっちゃうかも」
さっきまで精悍な顔つきで話していた神月だったが、いつものように笑顔が戻っていた。
「さて、話はこの辺にしておこう。目当てのものが来たからさ」
「……そうだな」
「はい! くず餅パフェ2つ!」
テーブルにきたくず餅パフェを見て、とりあえず食べようと神月は促した。百代もまたその話はいつでも出来るし今はこの時間を楽しむかと思いくず餅パフェをつついた。
「それにしても、やっぱりこの時期に食べるくず餅パフェは美味しいな」
「そうだね。これからは普通に食べられそうだ」
互いにくず餅パフェをつつくというよりも、神月に関してはがつがつ食べていた。
「おばちゃん、もう1杯」
「はいよ」
「本当に2杯目にいったよ」
「当たりまえだろ。このテーブルの願掛けが続くように2杯目を食べるんだよ」
「本当は、ただ食べたいだけだろ」
バレてた? と舌を出して茶目っ気を見せる神月の前にすぐにくず餅パフェが置かれた。仲吉のおばちゃんは注文が来ることを分かっていたようにテーブルに運んだ。
「神月ちゃんの胃袋はどうなっていることやら」
「ははっ、ブラックホールかもね」
神月の冗談に仲吉のおばちゃんは笑いつつテーブルから離れると、すぐに神月はガツガツと2杯目のパフェを食べ始めた。
「それで、学園は上手くいきそうか?」
「うん。退屈しなさそう」
それから百代は、しばらく神月が川神を離れた後どういう風に過ごしていたのかを聞いた。中学時代はあっという間に過ぎたけど、天神館の学長である鍋島の無茶な鍛錬内容やお世話になった松永家の奥さんに気の扱いを教わったことなどの武の成長。
そして、天神館1年生の時の出来事に北欧への留学などの学校の思い出など。メールでは聞いていたこともあったが濃い時間を過ごしたことを知った百代からしたら嬉しいのと同時に、ちょっと残念な気持ちもあった。その時間の中に自分がいなかったことが。
「――そういうことがあった」
「そうか」
「まぁ、向こうでも結構慌ただしい毎日で退屈しなかった。でも、やっぱりこっちのことは気になったな
「え?」
「俺が離れる前のモモは同年代で遊んでいたのは俺だけで正直大丈夫かと思ったけど、すぐに友達ができたって聞いて嬉しかったしホッとしたよ。俺の予想ではモモはボッチな子になるんじゃないかと思ってたぐらいだからさ」
「私が? まぁ、確かにそうだったかもな」
「そんな心配している方が……、ボッチだったからな」
~7年前~
「そう言うことだ。松永の旦那」
「いやいや、突然すぎますよ!? 鍋島さん!」
7年前の5月ごろ、川神院を破門され出払った神月を引き取った鍋島はしばらくしてから京都のある知り合いの松永家に上がっていた。
「はい、鍋島さん。ごゆっくりどうぞ」
「ありがとな。ミサゴちゃん」
テーブルに座る鍋島の前に湯飲みを運んだこの家の妻であるミサゴは、夫・久信の隣に座り事情を聞いた。
「川神院で厄介払いされた子を俺が押し付けられてしまってな。学園もそうだがあちこち飛ぶ身として面倒見きれねぇ。それで困っていたところ思いついたんだよ。松永家に――――」
「ちょ、ちょっと待てくださいよ! 何を勝手に」
「久信くん、とりあえず最後まで話を聞こうよ」
妻のミサゴにそう言われ、久信は聞く構えを取ったので鍋島は話を続けた。
「まぁ、いきなり引き取ってほしいといったのは悪かった。こっちにも訳があって頼んでいるんだ」
「訳?」
「あぁ。実はその子は川神院で――」
鍋島は事細かに総代で師匠の鉄心から聞いた川神院での出来事を松永夫妻に話した。川神院に赤ん坊の時に引き取られ、院の孫娘と同様に可愛がられながら育ったこと。そして、1か月前に起きた川神院の内輪揉めで暴れたことも。
松永夫妻も新聞で武の総本山と言われる世界の川神院で騒ぎがあったことは記事の内容だけで知っていたが、本当の全容を知って驚いた。
「そんで、若い修行僧たちが神月を1人の時を狙って絞めようとした。でも、エスカレートして左腕に着いたブレスレット、神月の暴走を未然に防ぐための拘束具を壊したことから若い修行僧や駆けつけた修行僧、それに師範代を重症。最後は川神鉄心がその暴走を止めるために左腕をやられて止めた。そこまでが師匠の話だ」
「そ、そんな話が……」
「……」
「まぁ、そのあと1週間は隔離された部屋で拘束して落ち着いたところで俺は引き取った。それからしばらくは俺の家で預かって女房や世話人に任せたんだが……」
鍋島は頭をぐしゃぐしゃと掴んで悩んでいることを話した。
「元々、根は凄くいい子なんだがまったく心を開かねぇ。それと、家から出ないもんだから学校をどうするかも困っているところだ。今は家で勉強させてはいるがな」
確かに川神院にいた頃のように過ごすことは無理なのは分かっていたが、預かるのが決まった時に聞いた神月とはあまりに違ったことから困っていた。
「特によく食べる子と聞いたが、ウチの飯が合わねぇのかたったごはんを1杯しか食べない。本当なら少なくともどんぶり5杯以上は食べるらしいが」
「いや、1杯でとどめるのが普通ですよ」
久信は鍋島の悩みにツッコミを入れるも何故にどうしてうちに預けることを考えたのかを聞くと、松永家の一人娘の燕の存在だった。
「川神院の孫娘・百代ちゃんの存在が大きくて。別れ際は割り切っていたが、離れてみたら思いのほかそうでもなかったんだ。まぁ、ほとんどの時間を一緒にいたもんだからよ」
「そこで燕が?」
「あぁ。同じとは言えないが面倒見が良くて姉気質な燕ちゃんなら上手くやってくれるだろうと思ってな。もちろん、そこは燕ちゃんの意思も確認した上だと言うことは分かっている」
それを聞いた久信は隣に座るミサゴと顔を合わせる。どうしようかと考えているとリビングに1人の女の子が入ってくる。燕だった。
「おとん、おかん。私、その子に会ってみたい」
隣の部屋で話を聞いていた燕は、神月に会ってみたいと久信とミサゴに言う。そう可愛いい娘に言われたら首を縦に振るが、鍋島に確認を取った。
「大丈夫。今、暴れるようなことはしねぇ。逆、何にもしないぐらいだからな」
「そうですか……」
あまり乗り気でない久信の袖を引っ張る燕。
「どうしたの、燕ちゃん?」
「私、できるか分からないけど……。手助けしたいな、神月クンが自分らしくいられるキッカケになるだけでも力になりたい」
そこまで言われた父親の久信も腹をくくった。
「鍋島さん、その話。前向きに受ける方でお願いします。いいよね、ミサゴ」
「うん、久信くんがそう言うなら。私もそのつもりだったから」
了承を得たところで鍋島は頭を下げて感謝の意を示し、家の前に待たせている車へ向かい中で待っていた神月を降ろして松永家に紹介させた。
「初めまして、赤星神月です。よろしくお願いします」
さっき川神院で暴れまわったと聞いたのが嘘みたいに普通の子だったことに驚く松永夫妻を他所に、燕は神月の前に立っていた。
「私は松永燕。私のことはお姉さんのように思ってくれたいいからね。じゃあ、家で遊ぼうか」
燕は神月の手を取ってそのまま家へと案内した。
「我が娘ながら、なんて良い娘すぎるんだ」
「私たちの娘だからね」
目を潤ませる久信に、ミサゴはハンカチを渡し2人の後ろ姿を見守るのだった。
(いきなり遊ぶことになったな)
いきなり遊ぶことになった小学4年生・神月は1つ年上のお姉さんに手を引かれて家の中へ入った。
(ふふっ、どうせ私と一緒に遊べばこの子もコロッと変わるだろうな)
燕は誰とでも仲良くできることを自分自身分かっていただけに、自ら近づけば神月とて
仲良くなるも時間の問題で、すぐに姉として慕うだろうと思っていた。だが、そう簡単にいかなかった。それから弟・神月に構いまくる姉・松永燕となるのはしばらくしてすぐのことだった。
第7話でした。
お気に入り1000件も間地かで評価の色がオレンジ。と、時期としては申し分ない。そろそろ、この作品も――過去編に突入するべきじゃないか?!
とよく分からない幻聴が聞こえたのでちょっとした過去に飛びます。と言っても、何話もかけてやるつもりはないのでよろしくお願いします。
では、次回に。それと、感想で書いていたオリ主情報を出せなくてすみません。しばしお待ちください。