真剣で私に恋しなさい!~優しい夜の兎~   作:ヒコイチ

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第6話です。
たくさんのお気に入り登録に、評価と誤字報告に感想までありがとうございます。
嬉しかったです。
では、どうぞ!


第6訓 ファーストコンタクトは大事。

3-Sの転入生・葉桜清楚の紹介がされて、次は2年に入る3人が紹介されることに。全員が2‐Sに入る学長の鉄心が紹介すると2‐Sの生徒たちはライバルたちに目を向けた。特進クラスは定員が決まっており成績が悪ければ落とされるので無理もないし、向上心の高い生徒が多いのもあった。

 

「まずは、源義経。武蔵坊弁慶。共に女性じゃ。では両者、登場」

 

2人の女性が壇上へすたすたと歩いてくる。1人は新聞の1面にもなっていた源義経。そして、

 

「こんにちは一。一応、弁慶らしいです、よろしく」

 

弁慶の色気から男子たちは声を上げた。結婚してくれや、愛してました!! と叫ぶ者もいるぐらいに。

 

「源義経だ。性別は気にしないでくれ。義経、武士道プランにかかわる人間として恥じない振る舞いをしていこうと思う。よろしく頼む!」

 

清々しいほどの挨拶に、さらに男子たちの怒号が大地を揺らした。

 

「女子諸君。次は武士道プラン、唯一の男子じゃぞ。2‐S、那須与一! でませい!」

 

皆が固唾を飲んで、登場を待った。が、那須与一は結局現れず義経がみんなの前で深々と頭を下げて謝った。これで終わりかと思ったが――

 

「はー、美味しい」

「おお――い! ひょうたんが気になってたが後ろで弁慶が酒飲んでるぞ――!!」

 

後ろですでに酔ったように顔を赤くして杯で飲む弁慶の姿に、クリスは黙っていられなかった。

 

「弁慶、我慢できなかったのか?」

「申し訳も」

「こ、これは、皆も知っている川神水で酒ではない」

 

川神水、ノンアルコールの水だが場で酔えるものだが学校で飲むものではないことは確かだった。弁慶は時々飲まないと体が震えると話し事情説明、だが、あまりの特別待遇に不満の生徒もいた。

 

「その代わり、弁慶は成績が学年で4位以下なら即退学で構わんと念書をもらっておる。じゃから、テストで4位とかだったら、サヨナラじゃ」

 

それを聞いた特進クラスの2‐Sの生徒からしたら舐められたようなものでライバル視し始めた。

最後に義経が深々と、清楚もたおやかに頭を下げて弁慶はしゅたっと手を上げる程度で紹介は終わった。

 

「あとは武士道プランの関係者じゃな。2人とも1-S! さぁ、入ってくるがよい」

 

いきなり現れた人物たちは、いきなり演奏を始めだした。そして、ふと後ろのほうからどよめきが起こる。皆の視線が集中先にいたのは――

 

「我、顕現である」

 

彼女は悠々と壇上に上がったのは2‐Sの世界最大の大財閥の息子。九鬼英雄の妹、

 

「われの名前は九鬼紋白。紋様と呼ぶがいい!」

 

紋白だった。幼さが残る紋白は飛び級で川神学園を進学先に経緯を語った。

 

「最後に我は退屈を良しとせぬ。1度きりの人生、互いに楽しくやろうではないか。フハハハハハ――――ッッッ!!」

 

強烈な個性を持つ人物の登場にどよめきが起こる中、もう1人の転入生はどこだと百代は祖父で学長の鉄心に問う。

 

「さっきから紋ちゃんの横におるじゃろう」

「……おいおい、やっぱりそんなオチなのか」

 

百代がやはりかと思う中、その生徒の自己紹介が始まる。

 

「新しく1年S組に入ることになりました。ヒューム・ヘルシングです。みなさんよろしく」

 

もう1人の生徒はどう見ても老執事だった。

 

「そんなふけた学生はいない!」

「ヒュームは特別枠。紋ちゃんの護衛じゃ」

 

そう説明する鉄心。

 

「今の爺さんがヒューム・ヘルシングとは」

「強いで候?」

「強いなんてもんじゃないぞ、九鬼家従者部隊の零番だ。だが想像しているより強くは……お年かな」

 

――――ふん、打撃屋としての筋肉が足りないぞ? 川神百代。

 

いつの間にか百代の後ろにさっきまで自己紹介をしていたヒュームがいた。まさか後ろを取られるとは思ってなかっただけに百代は驚く。

 

「大体わかった。お前もまだ赤子よ」

 

それだけ伝えてヒュームは消え去った。あまりの突然のことに近くにいた矢場弓子は一体何があったのか理解するのに時間がかかった。

 

「ふん、お前が赤星神月か」

「……」

「ふん」

 

ヒュームが踵を返して壇上に戻ろうと消え去った時だった。神月の姿はその場からいなくなる。

 

「えぇ!!? 赤星がいなくなったぞ!!」

 

2-Fの生徒たちはヒュームがその場にいたことに気付いてなく、突然神月が消えたことに辺りを見回した。

 

「一体どこに?」

「さぼったとか?」

 

2‐Fで騒がしくなり始めてしばらくしてからだった。神月が戻ってくる、砂埃をまったく出さずに。

 

「くぅぁああ~。誰だよ。俺を打ち上げた奴は。気持ちよく寝てたのに」

『!!?』

 

さっきまで空に打ち上げれていたと信じられない話をしだす神月は、打ち上げたヒュームに見やり、何かをつぶやいた。

 

「ふっ、赤子からは卒業……か」

 

ヒュームは右の袖口にできた人差し指で突き刺したような穴を見て思わず笑みを向けた。デコピンで打ち上げたときに神月に付けられた傷だった。

2人の邂逅は互いに軽いジャブで応戦して終わったのだった。

最後にヒュームと同じように老執事のクラウディオ・ネエロが紋白の護衛と武士道プラン成功のために川神学園に来ることを話して、一通りの紹介は終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

武士道プランのために人員整理が行われた川神学園。1-Cでは新しく担任になった全米チャンプのカラカル・ゲイルが教壇に立っていた。つい先日、負けた噂が立っていたゲイルは初心に戻るために武士娘の多い川神学園の先生の誘いを受けていた。

1-Sでは九鬼紋白が1日だけで特進クラスをすべての決闘に勝利、それも幅広いジャンルで勝利したハイスペックと剛瑛の圧力的武力によりクラスの上に立つものとして掌握したのだった。

――3-Sでは喝さいが起きていた。受験シーズンでピリピリしていた特進クラスにやってきた清楚の登場で、空気が和やかになっていた。

3-Fの百代クラスではゲイルの弟・ゲイツが新たな担任として教壇に立つことが決まった。

3人の転入生を迎えた2-Sはさっそくマルギッテが弁慶に勝負を吹っ掛けた。弁慶の攻撃にマルギッテが防御で耐えられたら勝利、耐えられなかったら負けという形での余興が始まった。軽い力比べは弁慶がマルギッテを廊下まで吹き飛ばして弁慶勝利で終わった。

 

「一撃で、ろ、廊下まで押し出すとは。トンファーが無ければ危なかった……ということですか」

 

マルギッテを軽くといえど吹き飛ばしたパワーにSの教室は一気にザワついた。さっそく弁慶は威厳を示したので、その流れで義経が教壇に一枚のパネルを取り出した。内容は多馬川の野鳥の数の推移をまとめたものだった。

さっきまでざわついた教室は一気に冷めあがってしまう。義経は発表したかったが、担任の宇佐美巨人にHRの時間もあるからまた今度と流されるのだった。

 

2-F。

 

「それにしても転入生が多く入ったね」

「熊飼! HR中に柿ピー食うな!」

 

授業が終わり2-FのHRが行われることになった。大食漢の熊飼満は柿ピーを食べていたところを担任の小島にみつかり鞭で打たれる。それを見ていた大串スグルは何かぼそっとつぶやくと小島の鞭を向けられていた。

 

「では、朝礼もあって赤星のちゃんとした自己紹介ができなかった。赤星、もう少し話してくれ」

 

小島はまだ伝えておかないといけないことをと思い神月を教壇に立たせた。

 

「えー、朝礼の時も注意してくれた人がいたけど俺は日光が苦手で肌をさらしたらきついので傘をさしてました。最初は包帯グルグルで行こうとしたところを先生に止められたから、傘をさしていた。説明不足でごめんね」

「苦手? それだったら努力して克服すべきではないか?」

 

神月の説明にそう答えたのはクリス。苦手で許したら何でも許されるではないかと思ったクリスの発言に、周りのねたむ男子たちも声を上げる。

 

「じゃあ、これを見て克服しろともう一度いうなら考えるよ」

「お、おい。赤星」

 

担任の小島が止めに入るのを制して神月は教室のカーテンを纏めて窓を開けて包帯で巻かれた腕を地肌にさらして日光に当てた。

 

「えっ!!?」

「ちょ!? お、おい!」

 

白い地肌は見る見るうちに赤く腫れあがる。あまりの痛々しさにクラスメイト達は目を向けられない者までいたが、最後は言い出したクリスがカーテンで日光を遮った。

 

「これでも克服したほうがいいかな?」

「す、すまない」

「うん、いいよ。説明不足だった俺も悪いしね」

 

日光をほんの短時間浴びただけで痛々しいほど赤く腫れあがったのを見て、それでも克服しろと酷なことを言えるはずもなかった。神月は分かってもらってなによりと包帯を巻きなおして教壇に戻ったが、それからの質問タイムは誰も質問せずに終わった。

 

「じゃあ、またね」

 

HRが終わり真っ先に神月は教室を出て帰っていた。さっきの出来事に沈黙が続いたFのクラスメイト達はやっと口を開けた。

 

「あわわわ……、絶対痛かったよね」

 

ワン子はさっきの痛々しさに涙目になりながら震え上がり、モロもまさかこんな理由があるとは驚いていた。

 

「それもあるけど、内定は下がることも認めてやっているんだ。ちゃんと通しているし、いいじゃねぇかアイツ。なら大丈夫だな」

 

進学や就職で使われる学園の生活態度などを示す内定を下げてもいいことを神月が認めたうえでやっていることに、それならいいじゃないかとキャップは頷きそう話す。

 

「凄く悪いことをしてしまったな」

「クリスは悪くない。あいつも自分の説明不足だと非を認めたんだから」

「私も大和と同意見」

 

クリスをかばう大和と京、それでも私が悪かったと責めるクリスに次からは気を付けたらいいとファミリーの面々は声をかけた。

 

「で、さっきから岳人は黙ってどうしたんだ?」

「いや、キャップ。思ったんだよな。あいつって結構かわいそうな奴だったんだなって」

「えらい掌返しだね」

「考えてみろ。良く晴れた太陽の許で傘をさしてデートでもしてみろ。速攻フラれるだろ」

 

まったくもってくだらないことに、ファミリーの面々は岳人の言い分を無視して予定通り放課後に武士道プラン組との接触に向かったのだった。

 

 

 

 

「あぁ、演技でも痛かった」

 

放課後の廊下を歩く神月は、1人別棟にある保健室に向かっていた。さっきの赤く腫らした左腕はちょっとした演技も交じっていたが、痛かったのは確かでさっさと直すためにと氷が必要なことから保健室を選んだ。

 

「失礼しまーす」

 

――――……

 

「誰もいないか」

 

誰もいない保健室に運が良かったと思いつつ管理記録に自分の名前などを書いて、冷蔵庫から氷を取り出してポリ袋に入れていた時だった。視線を感じた神月は振り返ると扉のかすかな隙間から覗く生徒と視線があった。

 

「ん?」

「あ、あの! 保健室に入って誰もいなかったから1人で大丈夫かと思って、その……」

 

気付かれて保健室に入ってきた挙動不審に話す女子生徒に、神月は頭を傾げる。

 

(どこかで見たような……)

(あぁっ! どうしよう!? ここは――)

 

女子生徒は冷蔵庫の前にいる神月に近づき、左腕を取った。

 

「私が、手当てしてあげるから!」

「あ、やっぱり。朝の人」

 

神月はやっと気づく。その女子生徒が今日転入してきた葉桜清楚だということを。

 

 

 

 

「冷やすことも大事だけど、ちゃんと水分補給してクリームを塗るんだよ」

 

あの後、神月は清楚に適切な処置を受けていた。2人は決して面識があったわけではなかったが、清楚は傷を負っていたことに気付いてほっとけなかったのかこうして処置に当たっていた。

 

「でも、こんなに真っ赤に腫らしてどうしたの?」

「いや、直射日光に凄く弱いのでこうなっただけ」

 

それを聞いた清楚は特に驚くことなかった。

 

(男の子だから言えないことがあるんだろうね)

(まさか、俺がわざと腕を炙ったことを……)

 

平然と適切な対応をする清楚に、まさか炙り方で分かっているのかと少し警戒心を持つも、決して笑顔を絶やさない。

 

「それにしても大変だね。ここまで弱いと」

「うん、まぁそうだね」

 

互いに笑う2人だが、腹を探っているのは神月だけで清楚はいたって良心からだった。

 

「はい。とりあえずクリームを塗ってこれでいいかな」

「ありがとう。助かったよ」

「どういたしまして、ポリ袋でじかに氷を当てるのもあれだからこのタオルも巻いて当ててね」

 

最後まで適切な対応をしてくれた清楚に礼を言った神月は帰ろうとした。

 

「あ、あの。途中まで、昇降口まで一緒に行ってもいいかな」

 

神月は、清楚の様子を見て感じ取った。善意でただ処置をしてくれたことを。

 

「うん、いいよ」

 

特に断る理由もなく神月が保健室の管理記録に使った時間と氷とクリームを記して2人は後にした。

 

「お風呂は痛いと思うから気を付けてね。それとクリームを塗っておくこと」

「分かった」

 

清楚にそう言われるも、神月からしたらお風呂に入るころには治っているだろうと思っていた。

 

「あ、そう言えばいつから俺の後を着けてたの?」

「ふぇ!?」

 

神月は気付いていた。保健室に向かう途中から自分が誰かに付けられていたのを。最後は人気の少ない廊下だったので、清楚だと気づいていた。清楚はバレてないと思っただけに驚くも正直に、告白した。

 

「じ、実は……」

「B棟からでしょ」

「え。う、うん」

「やっぱり、そんな前からか。さすがに、そこからは気づいてなかった。別棟に移るときに気付いたけど」

「うぅ……」

 

後をつけるような真似をしたら嫌われると思った清楚だったが、意外な返答が帰ってきた。

 

「それにしても、上手く後に付けたな。完全に分からなかった」

「え?」

「まぁ、悪意があったらどうにかしてたけど♪」

「あ、あははは……」

 

清楚は悪意があったといえないが、本当はB棟の出口からつけたのではなく2-Fのある階からだった。

 

(絶対に言えないよ。腕を抱えて気になったから後をつけていったこと)

「それにしても、この学校は賑やかだな」

「そうだね。クラスのみんなも温かく迎えてくれたからいい人ばかりだよ」

 

他愛もない話をしつつ別棟の廊下を歩くのは2人だけで会話だけが廊下が響く。と言っても、清楚が一方的に話してそれに神月が頷くだけだが。

 

「それで――! ご、ごめんね。私ばっかりが話してしまって」

「別にいいけど――」

 

別棟を出てグラウンドが出たときに状況に気付いた清楚は謝るが、べつに謝ることじゃないと神月は言いつつも1つ付け加えた。

 

「でも、次からは後ろからうかがうのではなく普通に声をかけること。あと、2-Fからつけていた(・・・・・・・・・・)ことは知っていたから」

「ご、ごめんなさーい!!」

 

清楚は謝って足早、いやその場からダッシュで走り去ってしまった。

 

「ちょっと、言い過ぎたかな?」

「“ちょっと、言い過ぎたかな?”じゃないぞ~!!」

 

清楚が去っていくのを見送った神月に後ろから声をかけたのは百代だった。当たり前のように現れた百代だったが、神月は陰から百代がいたことに気付いていた。

 

「なんで、出てこなかったんだ?」

「おまっ! やっぱり分かっていたんだな。タチが悪い」

「別に普通に保健室に入ってきたらよかったじゃない。窓外からじゃなくてさ」

 

さっきの保健室の処置を百代は外窓から覗いていたのだ。

 

「いいな~。清楚ちゃんにけがの処置をやらせるなんて~。ぶぅーぶぅー!」

「やらせてない。そして葉桜さんから処置してくれたんだ」

 

それを聞いて背中をたたく百代。もちろん、本気でなく撫でるぐらいに(武神範囲で)

 

「あぁ~何か甘いものが食べたいな」

「唐突だな」

「鍋島さんが、神月の財布を凄く潤っているって聞いたから」

「奢ること前提かよ」

「奢ってくれ~、奢ってくれ~。奢ってくれるまで離れないぞ――。この前の交流戦で背中から叩き付けたこと、それに――」

 

がっちりホールドされた神月は、こうなったら百代はどうにもならないことを知っていた。なので、あっさり諦めた。

 

「行くぞ~」

「やった!」

 

2人は甘味なものを食べに学園を出て行くのだった。




第6話でした。
今日も17時に投稿出来てよかったです。
また、よろしくお願いします。

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