真剣で私に恋しなさい!~優しい夜の兎~   作:ヒコイチ

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第5話です。
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では、どうぞ!


第5訓 川神学園、初登校

3日間に掛けて行われた東西交流戦は川神学園の2勝、天神館の1勝で学園ぐるみの戦いは川神学園の勝利で終わった。だが、助っ人枠と生徒枠で出場した天神館の2年生・赤星神月の存在はこの戦いにおいて大きかった。

中でも武神である百代とやり合ったことは、東の川神学園の生徒たちからしたら驚きでしかなかった。

そして、最終日に登場した源義経と名乗る武士娘。本人も言っていたが、血を受け継ぐものでなく、そのもの。現代によみがえった言わばクローンと呼ばれるものだった。世界最大の財閥・九鬼は翌日の未明に、源義経など3人の過去の英雄たちを現世に転生させていたことを発表し、各メディアでは大きく報道し騒ぎになっていた。

 

「源義経に武蔵坊弁慶、それに那須与一か~。すごいことになったね」

 

食卓に座って朝食を取る西の武士娘だった松永燕は、向かいに座って大丼ぶりを持つ居候の神月に話しかけるも気にするそぶりもなくご飯をかけ込む。

 

「こらぁ、しっかりと噛んで食べなさい」

「ん」

 

持っていた大きな茶碗を置いて頷く神月は味噌汁に手を伸ばしてすする。

 

「武士道プランの影響か強い人が入ってきているみたいだね。昨日とはまた違って闘気が満ちてピリピリしている。だから、いつも以上に嬉しそうなんだよね、神月クン」

「おかわり!」

「とほほ、やっぱり話を聞いてなかったよん」

 

燕はお味噌汁のおかわりを入れて神月に渡した。神月は美味しくいただく食事の場に闘い事を持ち入れるようなことはしないのと、食事に集中して話はほとんど聞いていないことが多かった。

 

「やっぱりあんまり変わってなくてよかったよん」

「あぁ、美味しい」

 

肌身にしみるように味噌汁のすする神月に、作った燕からしたら嬉しかった。それとこうしてまた一緒に食卓を囲むことができることも。

 

「ご馳走様でした」

「はい、お粗末様でした」

 

きれいに平らげた神月は今日から川神学園に編入することになっており真新しい川神学園の白を基調にした制服に着替え、学園に向かおうとした。

 

「私は用事で家を空けるから帰ってきたときは誰もいないから。はい、鍵」

「うん、分かった。じゃあ行ってくる」

 

燕の見送りを受けて神月は良く晴れた外へ番傘をさして出て行った。

 

「さて、私も行きますか」

 

神月を見送った燕も家の用事のために準備するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

武士道プランの受け皿となる川神学園のある街はいつも通り平常運転といった感じだった。騒がしい街にとっては、楽しいプランとして受け入れられていた。

そんな中、武神・川神百代は義経をはじめとする猛者たちがこの川神にやってきたことがうれしく気持ちがハイになっていた。それと、もう1つの知らせもあって。

 

(神月と同じ学校……)

 

昨日そそくさと神月が帰ってしまい声を掛けられなかった百代は、天神館の学長の鍋島から神月が川神学園に編入することを内緒で聞かされていた。それを聞いた時はまさかと思ったが、鍋島が嘘をついてなかったことを知り本当なんだと嬉しかった。

 

(多分、朝は忙しいから昼に押しかけよう。それまでにクラスを知らないと)

 

百代はさっそく学園で声をかけようと思いつつ前を歩く風間ファミリーの面々に合流した。

 

「姉さん、おはよう」

「おはよう! あぁ~、今日はいい天気だな」

「格好のバトル相手が来てテンション高いね」

 

百代のテンションの高さに気付くモロにもちろんと言った百代に、京は東西交流の時に遠目で見ていたが、相当な使いであること教えた。

 

「さすが日本が誇る英雄! ぜひともお相手願いたい」

 

百代はさっそく武士道プランの申し子たちと合いまみえた様子で学園へ歩を進めた。そして学園につながる多馬川橋へ向かう時だった。

 

「がはは、待っていたぞ、川神百代! 俺は西方十勇士――」

「てめぇ、南長万部!」

 

現れたのは南長万部もとい、天神館の長宗我部だった。

 

「違うわ! 長宗我部だ! チョーさんとでも、呼べ。交流戦で不本意な負け方をして名を提げちまったからな」

 

長宗我部はそれもあって名誉挽回の意味で川神百代に挑戦しに来たようだ。朝のHRまで時間がないことを心配するモロだったが、その挑戦を応じるのが百代なので考えるだけ無駄だと思った。

 

「さぁ、俺のオイルレスリングでヌルヌルにしてやろう」

 

橋下に降りた長宗我部はオイルをかぶって百代と向かい合う。百代の学園のカリスマとして崇められるオイルまみれなったら間違いなく学園掲示板の炎上ものだろう。もちろん、女の子としてオイルまみれになるのも嫌なので、百代は気をぶつける指弾を撃ち込んだ。

 

「おふぅっ!?」

 

パチンとなった百代の手から指弾が放たれあとに長宗我部は倒れてしまった。百代が一礼したところで決闘は終わり、周りから歓声が沸き起こった。

無敵っぷりと漫画にあった技をしたこともあって盛り上がる中、百代は橋上にいる九鬼のメイドに目をやっていると、九鬼の執事が声をかけてきたが、また改めて正式なご挨拶をすると去ってしまった。

武士道プランを機に新顔が増えることを歓迎するキャップと嫌な予感しかない大和だった。そして、また――――

 

「皆、おはよう。今日は臨時の全校集会があるが、その前に伝えたいことがある。編入生だ」

 

年長者の百代と年下の黛由紀恵以外の風間ファミリーの2年生のメンバーたちが所属する2‐Fの教室では担任の小島梅子が臨時の全校集会の前に編入生の紹介をしようとしていた。

 

「え? 武士道プランの?」

「違う。天神館からの編入生だ」

 

まさかのタイミングに驚くFのメンバーたち、どんな生徒かで盛り上がるところを小島が静かに制した。

 

「では、入ってきてくれ」

 

前の扉が横に引かれると入ってきたのは、川神学園の男子の制服を身にまとっていたわけだが、みんなと違い夏服の半袖ではなく長袖のシャツをまくっていた。そして、腕に巻かれた白の包帯が異様に目立っていた。まっすぐと前を見据えたまま教壇の上に立った男子生徒は笑みを崩さずに紹介を始めた。

 

「天神館から来ました、赤星神月です。強いやつしか興味がないのでよろしく」

 

笑顔を絶やさずそう話したのは……、神月だった。

あまりの強気な発言にクラスは静まり返った。昨日の東西交流戦で戦った、それも武神の百代とやり合った猛者が平然と立っているのだから。

 

(強気でかっこいいかも)

(委員長として、そしてお姉さんとして迎えないと)

(来たよ来たよ、オラオラ系!)

 

クラスの女子、人気のある小笠原千花と委員長・甘粕真与、それに羽黒は教壇に立つ神月を歓迎するように見る。一方で――

 

(あの野郎、調子に乗りやがって)

 

島津岳人を中心に女子のハートをしっかりとつかんでしまったことを妬む男子たちは面白くない様子だった。でも、歓迎する男子もいたことはいた。

 

(あはははっ、決闘したいな!)

(映像を見てそうだしあれだけ言うんだ。一戦交えたい)

 

一子とクリスと言った武士娘からしたら決闘を申し出たいところだった。京は別に気にするそぶりもなく窓の外の景色を眺めていたが。

 

「すまないが、赤星の自己紹介はここで終わる。みんなよろしく頼む。では、グラウンドへ」

 

小島はFの生徒たちにグラウンドでの臨時の全校集会へ向かわせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

武士道プランにともなっての臨時の全校集会。各クラス列で適当に並ぶ中で前の方に浮かぶ紫色の番傘もつ神月に注目が集まっていた。傍から見たらなんで晴れているのに傘をさしいているのか、日傘のつもりかなどと冷やかしのように見ていた。

 

「赤星、傘は必要ないだろ」

 

視線を集まる中で近くにいた大和が声を掛ける。が、神月は自分にとって太陽は体に毒だからと閉じることはなかった。そして、学長にも伝わっていると。

 

「あいつ何様?」

「京の言う通りだ、もしかしたら嘘かもしれない」

「クリス。教職員の誰もが注意しないのを考えると嘘じゃないのは確かだ」

 

注意した大和に対して、聞く耳を持たなかった神月に京は苛立ちクリスも注意をし直したほうがいいと思うが、大和の言う通りだった。周りの教員たちが全く注意らしいことをしてなかったから。

それを見る限り本当に太陽を嫌っているのだと大和は前方にいる神月の後姿を見て思う。それと――

 

(それと、さっきの姉さんの態度……)

 

全校集会の前、生徒たちがぞろぞろとグラウンドに集まっていた時のこと。1人番傘をさしてグラウンドにやってきた神月は、まだ2-Fだけしか紹介されてなかったので見慣れない顔であったが、先日の東西交流戦で注目を浴びていたこともあってなんでこの場にいるのだろうと周りは不思議そうに見ていた。

笑顔を絶やさず飄々と委員長の甘粕を先頭に作る列へ向かおうとした神月だったが、途中で百代と鉢合わせた。学校でこうして会うのは初めてだった2人は何か小言で話していた。その後の百代の笑顔が大和や2人の会話を見ていた生徒たちからしたら印象的だっただけに何を話したのかが気になるところだった。

 

(一体、何を……)

 

その頃、3-Fに並んでいた百代は上の空といった感じでボーっと前を眺めていた。

 

「川神さんが……」

「これから武士道プランの発表なのに黙っているなんて……、何かが降ってくるかも」

「なんだよ、チミ?」

「ひぃぃいい!!?」

 

いつの間にか3-Fの男子生徒たちが会話しているのを聞いていた百代がチミとあだ名で呼ぶ男子生徒を呼んでいた。結構こそこそと話していたにもかかわらず。

 

「百代、一体何があったで候?」

「ま、まぁ……色々と」

「ほう、武神でもそういった顔をするものなんだな」

 

百代の様子がいつもと違うことは友人である矢場弓子に後からやってきたSの京極彦一も感づいていた。

 

「んだよ。悪いかよ」

「いいや、これもまたいい発見だったよ」

 

持ち合わせた扇子を広げて笑みを浮かべる京極彦一、言霊部に所属し興味深い人間を観察していることが多い変わった生徒だが、川神学園が誇るイケメン四天王の1人でもあった。

 

「それで彼とはどこで知り合ったんだ?」

「川神院で物心つく前からだ」

「そんな昔で候?」

「そして、7年ぶりにこの前会ったってところだ。もういいだろ。それよりも早く始まらないかな。ワクワク!」

 

百代はそれよりも早く朝礼が始まらないかと話をすり替えてしまった。これ以上話して墓穴を掘るような真似はしたくなかったから。

それからしばらくして学長の川神鉄心がグラウンドに表れて朝礼台の上に立った。

 

「今朝の騒ぎで知っているじゃろう、武士道プラン」

 

挨拶を済ませた鉄心は全生徒の前で武士道プランのことで受け持つことになった転入生の話を始めた。

 

「この川神学園に、転入生が6人はいることになったぞぃ」

 

新聞やテレビの報道では武士道プランでよみがえった英雄は3人と報道されてたので、人数の食い違いが生じたが、鉄心は武士道プランのことは各々で調べ、重要なのは学友が増えることと仲良くすること、そして競い相手として最高級だと伝えた。

最高級の競い相手と言われては、武士の血を引く者たちが多いこの土地の生徒たちは燃えないはずがなかった。

 

「武士道プランの申し子たちは全部で4人。残り2人は関係者。まず3年生、3-Sに1人入るぞぃ。それでは、葉桜清楚。挨拶せい」

 

鉄心の声とともに、1人の女の子がしゃなりと前に出てくる。そのままゆっくりと壇上に上がり素顔やしぐさを見た男子生徒たちはほーっと言うためいい気が漏れていた。

 

「こんにちは、はじめまして。葉桜清楚です。みなさんとお会いするのを楽しみにしていました。これから、よろしくお願いします」

 

ふわりとした挨拶をした後、男子たちから歓声が巻き起こった。一部、女子からの歓声もあった。騒がしくなったところで体育教師を務めるルー・イーが静かにするように注意した時だった。1人の生徒が挙手をする。2-Fの福本育郎だった。

 

「が、学長! 質問がありまーす!!」

「前項の前で大胆な奴じゃのぅ。言うてみぃ」

 

誰もが葉桜清楚は誰の偉人か、という流れに行くと思われた。が、

 

「是非、3サイズと、彼氏の有無を――」

「全校の前でこの俗物が! 皆、私の教え子がすまん」

 

福本のセクハラと取れる発言にすぐさま担任の小島が鞭で始末した。

 

「アホかい! まぁ、確かに3サイズは、気になるが」

「……えぇっ」

 

乗っかる鉄心に壇上の清楚は顔を赤くして驚く中、一度間をあけて再び清楚は話を続けた。

 

「皆さんのご想像にお任せします」

 

律儀に恥ずかしいながらも答える清楚に、多くの男子に1部の女子たちも盛り上がる。話が外れかかったところでルーが鉄心に注意し、本題に入った。

 

「葉桜清楚、という英雄の名を聞いたことがなかろう皆」

「これについては、私から説明をします。実は私は、ほかの3人と違いまして、誰のクローンだか自分自身ですら教えてもらってないです。葉桜清楚というのはイメージでつけた名前です。25歳ぐらいになったら教えてもらえるそうです。それまでは、学問に打ち込みなさいと言われています」

 

そう事情を話した清楚は、趣味が読書であることから清少納言あたりのクローンならいいと自分の思いを言った。

 

「うむ、では葉桜清楚。ありがとのぅ」

 

ここで次の紹介に移るために清楚は壇上で一礼し顔を上げた時だった。振り向いたときの一瞬だった。少し動きを止めてある方を見つめてしまう。

 

「ん? まだ言い残したことがあったかのぅ?」

「い、いえ。すみません」

 

清楚は進行を妨げたと思い慌てつつ壇上を降りていくのだった。

 

「な、なぁ! 最後こっちを見たよな!!」

「見てたぜ!」

 

清楚が見つめた先にいた2‐Fの岳人と育郎といった男子たちが盛り上がり気になるのではと、勘違いを起こしていたが周りは面倒なのか何も言わずに前を見ていた。

 

(ウソ……ただ、似ていただけだよね)

 

清楚は壇上を降りた後も、チラチラと周りに気付かないように見ていたが見えたのは紫の番傘だけだった。




第5話でした。次回も転入生紹介から始めます。
では、また!

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