それでは、どうぞ!
川神市工場地帯の九鬼が所有する廃工場で武闘派の東西の学園、川神学園と天神館学園が合いまみえることとなった。名付けて東西交流戦。
互いの学長が師弟関係。弟子である天神館の鍋島が、師匠で川神学園の学長の川神鉄心に勝負を吹っ掛けたことから実現した大掛かりな決闘が組まれたのだ。そんな決闘とあって武家の家系を持つ血の気盛んな者たちが多い両学園の生徒にとっては気合の入るイベントだった。
(天神館……か。なら、あいつが)
水曜日の朝礼で発表されたイベント、それを聞いた武神・川神百代は天神館というワードからある人物の名と顔が浮かぶ。
(7年ぶり……ワクワクしてきたな♪)
幼いころから一緒に過ごしていた1つ年下に当たる男の子がどう成長して、この地に再び舞い降りるかを楽しみにする百代だったが、まさか、あんな登場をするとは予想していなかった。
3日間で行われる東西交流戦の開幕カードは1年生の部からだった。
1年生とあって伸びしろがあって未知数な戦いで盛り上がったこの部だったが、最後はあっけなかった。なぜか敵陣に攻めあがってきた川神学園の総大将が天神館の集団戦法に追い込まれてやられてしまったのだ。一体、川神学園の総大将は何をしたいのかもわからずに初日の1年生の部は天神館の勝利で幕開けた。
天神館が先手を取って迎えた2日目、3年生の部。
川神学園最強、いや世界最強と謳われる武神・川神百代がスキップで待ち構えていた。多くの逸話を持つ百代に対し、天神館の3年生たちも負けないとばかりに立ちはだかろうとしていた。
「相手は武神! 倒した相手をラーメンのように平らげてしまう逸話を持つ凶戦士だ! 不退転の覚悟で挑め!」
噂の伝わり方があまりに逸脱していただけに、それを聞いた川神学園の3-Sに属するクールな京極彦一も思わず笑ってしまう。
実際問題、普通の学生が武神の百代を相手にするのは厳しく多くの助っ人を連れてきていた。百代は倒せる相手が増えたことから快諾済みだった。
「文字通り、一丸となって立ち向かう。天・神・合・体!」
3年生全員が1つになって巨大な生物のようになって待ち構える天神館3年生サイド、その前に立つ百代は笑みを向ける。
「すごいな天神館。それ妙技だぞ。練習は大変だったろう」
あまりの妙技にワクワクする百代、昔と変わらず闘い好きな女の子であった。天神館サイドは物の大きさで百代を覆いつぶそうと考える。対して百代も気がみるみる跳ね上がって待ち構えた。
「くらぇー!」
天神館の妙技が覆いつぶそうとする前だった。百代が右手に気を練り始め――
「川神流、星殺し!!」
そして溜めた気を一気に開放するようにビームを手から発した。そして威力のあまりに天神館の妙技は貫通しバラバラに崩されて落ちていくのだった。
「あースッキリした。ユミ、残党討伐よろしく!」
「な、なんという桁外れの力、これが――武神か……」
地面に伏す天神館の生徒がそう語るときにはすでに百代は勝負ありと思い背を向けていた。
「相手が悪すぎたで候。あれは、サメでなく天災で候」
「くぅ……。あ、赤星……あいつめ」
「ん? たとえ腕が立つものがいても、武神の前で無力で候」
百代に残党制圧を任された矢場弓子は残りほんのわずかな残党と総大将を討つために敵本陣へ向かおうとした、次の瞬間だった。隕石か何かが地面に落ちてきたような勢いで空から降ってきた。
「な、なんで候!?」
あまりの落下した勢いから一点から風圧が波のように押し寄せた。百代が天神合体を始末し残党を始末しようと敵本陣へ進もうとした討伐部隊だったが、その風圧でなぎ飛ばされてしまった。幸い、後方で部隊の指揮を取っていた弓子は何とか無事だった。
風圧で起きた砂煙がやむとそこに――、夜の工場にもかかわらず番傘を広げてさす人物がいた。透き通るような白い肌、それと何に対してなのか笑みを浮かべる表情が弓子には不気味に感じられた。
「あらら、傘広げたら飛べると思ったんだけど。やっぱ無理だった」
あれほどの勢いで空から落下してきたにもかかわらず無傷どころか平然とその場にいる人物に弓子は警戒する。が、
「お壌さん、ちょっと尋ねてもいい?」
「!?」
遠くから眺めていたところをいつの間にか間合いを詰められていた弓子は驚きながらも、構えを取る。
「天神館の生徒で候。なら、何もいうことはないで候」
「ん~。じゃあ、とりあえず強そうなやつ見つけるか。いや――こっちから呼ぶか」
その瞬間だった。ザワっと空気が変わる。風の動きもそうだが、なんといっても重苦しい雰囲気がその場にいた弓子には辛かった。
「空から美少女登場!」
それを感じ取って現れたのは武神・川神百代だった。もう用済みだと思っていた彼女だったが、闘気を感じ取ってきてみたら敵本陣に向かっていた討伐部隊が解隊されていたのを見てどんな猛者だろうかとワクワク闘気のなる方へ見た。
「あっ……」
百代は言葉を失う。昔、見慣れた白い肌に番傘。笑顔が絶えない飄々とした表情、それだけで十分だった。
「神月!」
「ん……、モモか。変わってないな」
その人物はかつて川神院で一緒に過ごして弟として、そしていつの間にか1人の男の子としてとらえるようになった赤星神月だった。
どこかで会えると思ってはいた百代だったが、心の準備ができていなかったのでどこかぎこちなかった。
百代はチラッと顔を伺ってみると、まだあどけなさが残っていた7年前とは違いすっかりと男の子らしくなっていた神月に思わず目を奪われていた。
「どうしたの? すみません、お嬢さん。少し外してもらってもいいかな」
その場で腰を抜かしていた弓子にそう言うも、動けなさそうだったので弓子を抱えて消えてしまう。
「おまたせ、モモ。ほら、来なよ」
そして、場所が整ったところでクイクイっと挑発するような人差し指で誘うが、神月自身そういうつもりでなく7年ぶりの手合わせをしたかっただけだった。純粋にどれだけ腕を上げたかを――――
それを見て、百代は口元で笑うと地面を蹴った。
「神月――――!!」
ここから始まるたった1分間も満たない戦いで最強は川神百代だと思い込んでいる川神学園の生徒たちは知る。匹敵するだけの力を持つものが西にいた――と。
川神市工場地帯で廃工場とされている場所で行われている3年生の部の決闘を風間ファミリーのメンバー、大和とモロと京は明日の決闘に向けて最終視察もかねて来ていたがどうせすぐに終わるだろうとモニターから映し出される決闘を別会場で眺めていた。
「あの大きなやつ。確かにすごかったけどモモ先輩の前じゃ無意味だったね」
「姉さんもある程度楽しめたみたいだし良かったよ」
多くの天神館の生徒で作った天神合体は武神・百代の一撃で粉々になってやられた。残党がいても残り30人を切っているし、川神学園サイドはまだ200人はいるから勝負あったと思い明日に備えて早く帰ろうとモニター会場から後にしよう帰り支度を始めた3人たちだった。
「さて、帰るか」
大和たちが帰ろうとした時だった。モニター会場がざわつき始める。なんだろうと振り返るとカメラ視点が切り替わっていた。そこには百代と番傘がよく目立つ後姿の男が向かい合って立っていた。
「あぁ……なんて運のない人なんだろうね。わざわざ出て向かっていくなんて―――」
モロはこの後に起こることを何となく分かっていた。が、武士娘の京は違うと話す。
「あの人、やり合うつもりだよ」
「でも、姉さん相手に無理だと思う」
「うん、私もそう思うけど――――」
そう京と大和が話していた時だった。百代が何かを叫んで向かっていた。
(神月……あいつが?)
大和は時折百代の話からよく聞いたある名前が耳に入っていた。
いつものように開始一発目から百代の右拳から繰り出すストレートパンチ、ただそれは一撃で仕留める技までに昇華した――
《川神流、無双正拳突き!》
必殺技を出し惜しみすることなく百代は攻撃した。誰もが終わったと思った。完全に左の頬に入っているのがモニター越しでもよく分かっていたから。そこからはるか遠くへ地面にバウンドするいつもの光景が映る……はずだった。
《ふむふむ、久しぶりだからどう来るかと思ったらやっぱり……そうかそうか》
百代の必殺技でもある正拳突きを手で抵抗することなく左の頬に受けた神月は、飄々した表情で拳を頬で受け止めていた。あまりのことにモニター会場では静寂の後ざわついた。
《分かりやすい挨拶。それに武神なだけあって元・弟としてうれしい限りだ》
でも、と付け加えたうえで左の頬で受け止めていた百代の右拳をスッと人差し指で上に持ち上げてすぐだった。百代の手首を持つとそのまま持ち上げて背中から地面に叩き付けたのだ。
「え……」
「ウソ、だろ……」
その映像を見た仲間でもあるモロや大和はただ驚いて見ることしかできなかった。京も映像越し見ていたが、まさかここまでのことをするとは思ってなかった。
《ごめ~ん。ちょっとやりすぎたかな。久しぶりの川神でワクワク気分だったからさ――》
そう神月が話している間だったに背中から叩き落された百代は受け身から仰向きから反転して体勢を整えなおし足元を払うように低い姿勢から蹴りを入れた。
それを飛んで避けた神月に、百代は飛んで足場もない一瞬を狙った。無理やり右腕掴むとそのまま左手からエネルギー砲をゼロ距離からぶつけた。
爆音がモニター会場まで聞こえるほど響くと一気に映像は爆風に耐え切れず途切れてしまったのだった。
映像が途切れてしまったころ、その場は爆風で視界が遮られていた。百代の星砕きは神月にゼロ距離で放ったこともあったが、放った本人は緊張を解いてなかった。なぜなら、これだけでくたばるような玉じゃないことを知っていたから。
「ふっ、そうだよな」
百代が笑う。そこには最初から変わらない飄々とした笑顔を向ける神月が立っていたから。
「ははっ、やっぱりモモはモモのままだな」
「そういうお前も、な。それと、私のことを敬え」
「敬っているよ。昔と変わらず手加減せずにやりあってくれるところはさ。なんて言っても、姉弟のタイマンに手加減なしだからね」
「そうだな。まぁ、本当に銃口を見せるとは思わなかったけどな」
二人は向かい合ったまま笑い、次の一手に出ようとした。が、
「顕現の弐・持国天!」
巨大な腕が現れると2人は巻き込まれて吹き飛ばされてしまう。技を出したのは――――、川神学園・学長の川神鉄心だった。後ろには天神館の学長・鍋島の姿も。
「これ、モモ!」
「おい、神月。ここまでだ」
百代には鉄心が、神月には鍋島が止めに入っていた。さすがにこれ以上応戦するのはマズいと思った2人は構えを解いた。
「おいジジィ! 今からいいところだったのに」
「もう決闘は終わりじゃ、天神館の総大将が討ちとられたからのぅ」
「そういうことだ、百代ちゃん。それとお前もな」
「はいはい。誤魔化して押し通せるかと思ったけど」
百代は終わったことを知ってなかったが、神月は分かっていたうえで2人の戦いを通し切ろうしたわけだが、止められたこともあり冷めた様子でポケットの中で鳴るバイブレーションのスマホを取り出した。
「今すぐ、帰って来なさい……か。じゃあ」
メールの文面を見てその場を去ろうとする神月を百代は呼び止めたが、その前に消え去ってしまった。
「悪いな、師匠。手を煩わせてしまって」
「何々、いつものことじゃからの。孫娘は」
「それならアイツもだろ」
鍋島は、百代だけじゃなく神月も。と苦笑いで言うが、鉄心はそんなことは知らないと去ってしまった。
「んだよ、ジジィ。7年ぶりの再会を」
「まぁそう責めないでやってくれ百代ちゃん、師匠も態度だけでも示して説かねぇといけねぇからな」
百代は久しぶりの神月との再会に見向きもせずに去っていた鉄心に冷たいジジィと思いつつも鉄心の弟子の鍋島はフォローを入れておいた。それと悪いようにはしないと意味深なことを言って。
「一体どういうことなんだ?」
こうして東西交流戦2日目は川神学園勝利でイーブンに戻し最終日を迎えることになった。
百代は久しぶりに会ったのでもう少し拳だけでなく話も交えたかった。面と向かって――――
第3話でした。
お気に入り数が100に迫りそうな勢いだったのでうれしいかぎりです。また、よろしくお願いします。さ~て、頑張るぞ!