真剣で私に恋しなさい!~優しい夜の兎~   作:ヒコイチ

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第2話。さっそくお気に入りに感想ありがとうございます。
では、どうぞ!


第2訓 神月と百代、あれから7年。

あの川神院創立以来最悪の騒動から7年目を迎えた5月下旬。つまり赤星神月が院を破門されてから7年の歳月が経った。神月を弟、そして1人の男の子として意識し始めた小学5年生の川神百代も早いもので高校3年生となっていた。

神月が破門されて川神を去ってからは1人でいることが多くなった百代は数か月後に仲良しグループである風間ファミリーの一員になっていた。

そこで彼女は大切な仲間を得て充実した時間を今まで過ごすことができた。

 

 

 

 

5月も下旬に入ったころ、いつものように風間ファミリーの面々は金曜集会で使っている廃ビルの1室に集まっていた。この廃ビルは地主の子である島津岳人の母から使われてないので見回るのを条件に1室を使っていた。

この金曜集会、基本土日祝や大型休みで何をするかなどを掛けあう場でありそれ以外は各々好きなように過ごす場でもあった。

 

「ふぅ――」

 

今も自分たちの椅子やソファーなどに座ってくつろぐ風間ファミリー8人のメンバーたちの中に1人スマートフォンの画面と睨めっこするファミリーのただ1人の年長者・川神百代が息を大きく吸って吐いて深呼吸をしていた。

この光景は、この廃ビルで金曜集会を始めて1年が経って百代が携帯を買った時からよく見られる光景となった。この様子に、最初の頃は欲しがっていた携帯電話をもらって興味深く画面と睨めっこしているものだとメンバーは思っていた。だが、それが今日まで続いているだけにメンバーたちの中では当たり前の光景になったが、気になるは確かだった。

 

「姉さん、一度スマホ離したら?」

 

今もスマホを左手に持ち黒い画面を眺めてはスイッチを入れてメールがないかを確認する百代に、舎弟関係である直江大和、あだ名・大和はきりがないのを見て百代が好きな冷えたピーチジュースを渡した。舎弟として姉の世話はよく出来る男だった。

 

「え? 私いつからやっていた?」

「それ、癖になっているよ。モモ先輩」

 

百代の癖ともとれる行動に苦笑いでそう話すのは師岡卓也、あだ名は苗字の師岡からとってモロで百代はモロロ。大和の役割が軍師ならモロは機械関係に強いのはいいが、その関係の話になると語りがマシンガンのように止まらないのが偶に傷。

 

「私も大和のメール気になってやることあるよ」

 

百代の行動にある程度理解を示したのは椎名京。ファミリーからは京と呼ばれている。

過去に色々あったが、ファミリー……特に大和を中心に助けられた女の子。天下五弓の1人に数えられる武士娘。ファミリーのみんなを大切に思い、そして大和を一途に思う子でもあった。

 

「メールの相手って、確か……」

 

メールの相手を知っているように話すのは百代の義妹にあたる川神一子。健気な姿からワン子と呼ばれている。ファミリーでは元気印でマスコットキャラクターとしてみんなに可愛がられている。そんなワン子も百代の影響を受けて武を始め薙刀を武器にする武士娘だ。

 

「そうだな、ジジィから聞いたなら破門されたことを聞いたんだな。でも、大丈夫だぞ」

 

かつての事件の後に養子として迎えられた一子も衰退しかけたころに川神家に加わったので、ある程度は掻い摘んで知っていた。

 

「まぁ、確かにあいつは修行僧たちやルー師範代、それにジジィに傷を負わした。でも、根は凄くいい奴なんだよ。きっと、ワン子が思っているような奴じゃないぞ」

 

「ホント?」

 

「あぁ」

 

「でも、破門されたことに間違いないんだろ。だったら、ここの土地を踏めるのか?」

 

百代が優しくワン子を撫でているときにそう話すのは島津岳人。みんなからは岳人と呼ばれ、自慢の二頭筋を怠ることなく鍛え上げるパワータイプでよくジムに通っている。今、ごもっともな意見を言った岳人に大和は珍しい物言いに驚く。基本、バカなことばかり言うからでもあったから。

 

「さぁ。()は。って、ところかな」

 

「では、いずれ戻ってくるつもりなのか?」

 

破門の身であることは確かであることを話す百代に、ドイツからの留学生であるクリスティアーネ・フリードリヒ、クリスはそう問いかける。このクリスもレイピアを扱う武士娘である。

 

「帰ってくる。そう約束したからな。あいつは私との約束を破ったことがないからな」

 

「へぇ~!! めっちゃかっけぇじゃん! 俺も会ってみてぇな!!」

 

百代の話を聞いて風間ファミリーのリーダーでカリスマ的で永遠の少年である風間翔一ことキャップの頭では超絶かっこいい人と解釈し、会いたい気持ちでいっぱいになった。

 

「すごくいい話だ。一度、私もあってみたいものだ。なぁ、まゆっち」

 

「え!!? わ、私も!!」

 

「まゆっち~。今すぐじゃないんだからYO」

 

クリスから話を振られた黛由紀江はどもりながら、そして険しい顔で答える。自分では笑っているつもりだが、いかんせん表情と感情がうまく繋がらないことで苦労する1年生である。

そんな彼女も武士娘、それも伝説と謳われる黛十一段の黛大成の娘で国から帯刀を許される数少ない剣士でもあった。それと友達100人を作るのが夢であるが、4月は好成績だったが、5月は苦戦中。それと付喪神という設定の松風と言う馬の携帯ストラップがいる。

 

「あれからもう7年か」

 

それからも百代の話は続き、赤星神月という人物について語る。

武神・百代が認める人物とあり、ファミリーの武士娘たちはドリンク片手に興味深く聞いていた。それ以外のメンバーの男子たちキャップ以外のほとんどがつまらないのか片耳に流す程度に聞いてたが百代の舎弟である大和はあまり聞きたくない話であった。

 

姉貴分で魅力のある百代に好意を抱く大和からしたら他所の男の話を嬉しそうに話されたら、それはつまらないだろう。この構図ならだれでもそうだと思う。

 

「――――まぁ、そういうことだ。赤星神月、私が対等にいたいと思う……そのライバル的な奴だな」

 

普段見せない百代の表情豊かな笑顔するだけの人物であることに薄々メンバーたちは気が付くのだった。

 

「あっ。そうだった神月の奴、久しぶりに土産を寄越してきたんだった」

 

百代は思い出しように持ってきていた袋をテーブルに置く。

 

「え? これ何語?」

「これはフィンランド語だな」

「さすが、クリス。なんかお菓子を送ってきてくれたんだ。いっぱい貰ったからもらってくれ」

 

海外のお菓子とあり冒険好きなキャップと食べることが好きなワン子、それに岳人たちは嬉しそうにお菓子を取る。

 

「ん? 飴か。どんな味なんだろうな!」

 

 飴と聞いて大和はフィンランドと飴ということで気づき、食べるように止める。同じようにクリスも。だが、時すでに遅くキャップとワン子と岳人は飴玉を下で転がして舐めていた。

 

「「「!!?」」」

 

 3人はどんな味だろうと楽しみに舐めていたわけだが、顔が見る見る渋くなっていき吐き出した。

 

「クッキー! 何か飲み物をくれ!」

「ぎゃぁぁあああ! 口が!!」

「ぉぉおおおぇぇえええ!!」

 

「なんだなんだ!!?」

「姉さんがもらったお菓子、飴玉はフィンランド名物のサルミアッキ。世界一まずい飴って言われているものだよ」

「私も口にしたことがあるからキャップや犬に岳人の吐き出したくなる気持ちも分からなくもない」

 

大和とクリスは分かっていたのでそう説明した。

 

「ん?」

 

それを聞いた百代は袋から落ちた小さな紙を拾ってなるほどと思った。

 

PS.ドッキリ好きなモモにはいいアイテムだと思って送った。

 

この金曜集会でのサルミアッキ事件から週明けの川神学園では、キャップが同じ寮で暮らす親しい源忠勝にサルミアッキを悪戯であげてから面白いように一部の間で広がるのだった。

 

「しょうもない」

 

その様子を窓際の席で京は遠目で見つめつついつもの日常を過ごす。今日も川神は退屈という言葉が似合わないほど賑やかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

天神館学園。

東の川神学園、西の天神館学園の2校はよく似たユニークな校風を持つ学校として日本では対をなす高等学校として一部の間ではよく知られた存在だった。

そして、ともに武士の末裔たちが多く所属する学校として前にも出したユニークな校風・決闘システムや闘いごとを好む生徒が多かった。

 

 

そこに、東の川神から西へやってきて5年が経つ15歳の赤星神月は天神館学園へ進学していた。

 

「あれ、鍋マンどこにいるんだ? しょうがないしい待っているか」

 

季節はもうすぐ夏に差し掛かり始めた頃、神月は久しぶりに天神館に登校していた。最近まで学長の鍋島に勧めで3月から海外留学に行っていた。色々あったので予定より伸びたが、無事に帰ってきたことを報告しにわざわざ学長室に出向いた神月だったが、目的の人物がいなくソファーでくつろいでいた。

 

「おいおい~。ここは学長室だぞ」

「おっ、鍋マン。どこにいたんだ?」

「鍋マンじゃない、学長だ。ったく、海外留学で苛めに苛め抜かれて腑抜けになってちょっとはまともになったかと思ったが、な」

 

あまりに一生徒のこと思わない学長、いや7年目の付き合いのある2人には当たりまえのやり取りに見えた。

 

「まぁ、腑抜けになることはなかった。まぁ、苛めに苛め抜かれたのは確かだけど」

「ん? お前がそう言うとは。で、文面だけじゃ分からんからいろいろ教えてくれや」

「そうだな。とりあえず鍋マンに紹介された軍事学校に行ったことは行った。鍋マンの知り合いとあっていい人そうだったんだけど、そうじゃなかったんだよな」

「あ? 別に俺の知り合いじゃないけどな」

「そうか。それはいい。そんで軍の訓練やなんやら付き合いつつ初めての休日に、ムーミソを探しに行ったんだよ」

 

神月は思い出すように語った。

 

「山奥にいるという妖精・ムーミソを探しに行った俺だったが、事件に巻き込まれたんだ」

「ほぅ、どんな?」

「軍の反乱分子だった奴を見つけてな。それが、困ったことに軍の訓練で世話になった人だったんだよな」

「それで、お前は倒したのか」

「いや、捕縛された」

 

笑ってそう話す神月に、よくそんな笑顔で話せるものだと鍋島は思いつつ話を振る。

 

「で、それで?」

「うん。俺はただわざと捕縛されたんだ」

「いや、お前ならそんなの修羅場でも何でもねぇだろ」

「そうでもなかったんだよな~。色々訳があったのを知ってしまい俺は内部潜入したってわけ。そして、反乱分子どものクーデターなるものを押さえたんだよ」

「おいおい、そんな情報まったく……。いや、何もなかったことにしたのか」

「そうそう、さすがにそんな情報が流れた国としてマズいからね」

 

鍋島は神月の行動がいつも斜め上を行くことは知っていたが、まさか国絡みなことになっているとは思わず、頭を抱えた。

神月は何事もなく帰ってこれて良かったとテーブルの上に土産を置く。

 

「それで、そのことを知るごく一部の間で俺を軍にいれようとしたんだ。肌も白いし胡麻化しきれるみたいなね。だから、帰るに帰れなかった」

「そ、そうか」

 

まだ17の神月がこんな数奇な人生を歩むのも無理はないかと鍋島はそう思いつつお茶をすする。

 

「で、話はここからだ」

「何だよ、まだ話があるのか?」

「あぁ、また留学できそうなところはないか。次は、そうだな。北と西以外で頼む。それじゃ」

「お、おい――って、もう帰りやがった」

 

鍋島は報告するだけして学長室から消えてしまった神月に、相変わらず自分の思うままにいることをうれしく思うのだった。

 

「さて、もうすぐ川神に殴り込み。楽しみになってきたじゃねぇか」

 

テーブルに置かれたある資料を手に鍋島は葉巻を咥え、火をつけて煙を吹かすのだった。その資料に書かれてあったのは、“東西交流戦”だった。

 

 

 

 

学長室を後にした神月は、もう用は済ませたので帰ろうと校庭から正門へ向かっていた時だった。

 

「待つんだ、赤星」

「ん?」

 

番傘をさしている神月に声を掛けたのは、刀を腰に下げる同じぐらいの身長の男子学生だった。

 

「よくのこのこと帰ってきて来れたものよ、赤星!」

「……え、と」

「俺のあまりの成長した強さに恐れをなしたか」

「あぁ、その逆のほう」

 

声を荒げてなんだと! と話すのは石田三郎。神月と同じ2年生で天神館のキセキの世代と呼ばれる西方十勇士の総大将にして最強の男だ。石田鉄鋼の御曹司で出世街道を歩むべく英才教育を受けてきたが、エリート街道を歩むがゆえに驕っているところは多々あった。

 

「それで。キセキ的に弱い連中がこぞってどうしたんだ? また懲りずに決闘か?」

「おんのれぇ! 今日こそ貴様を斬って――」

「御大将! 今日はただ話をするだけですぞぃ!」

 

石田の間に入ったのは西方十勇士の副将を務める島右近。石田の右腕で冷静にして実践経験豊富な皆のまとめ役に買って出る実年齢から+10歳足したぐらいのふけた顔だった。なので、何かと生徒でなく先生に間違えられる。

 

「おい、島!  こいつはまた俺を愚弄し腐って――」

「御大将! 一度落ち着きなされ」

 

石田とは昔からの馴染みで唯一気を許されている島が、変わりに本題に入った。

 

「すまぬ、赤星。実は話があってだな」

「手短に頼むよ~」

「うむ、今週末の行事に参加してほしくて頼みに来たところだ」

「行事? そんなことで?」

「そう。川神学園との決闘がある」

 

行事については1年生の時からただ適当に参加するだけで協調性のかけらもなかった神月だったが、目の色が変わる。川神学園との決闘、と聞いて。

 

「それで、内容は?」

「うむ。3学年それぞれの学年ごとに九鬼の廃工場を舞台に武を競い合う決闘だ。それで――」

「あぁ、分かった。もういいよ。じゃあな」

「赤星っ! まだ話が――って、姿をくらませたか」

 

島の最初の部分だけで説明十分だったのか神月は、その場から消え去ったように去ってしまった。

 

「赤星の奴は来るのだろうか?」

「奴のことだからその日の気分次第だろうな。だははぁぁああ!」

 

西方十勇士の特攻隊長・大友焔は頭を傾げ、最大最強の攻撃力を持つ長宗我部もその日次第だろう投げやりに笑い飛ばす。

 

「まぁ、あいつが登場したところで一番美しいのは私なのだから」

「まぁ、いたらいたらで暴れてくれるだろう」

 

天下五弓でナルシストな毛利元親はいつも通りでスピードが一の尼子晴は、いることで貢献にはなるだろうと話す。

 

「それがしもそう思う。が、読めぬが故に期待はできぬ」

「まぁ、あいつがいてもウチのやることはかわらへんけどな」

 

便利屋で実直な忍び・蜂屋壱助も戦力と見込まないほうが良いだろうと助言し、宇喜多秀美は関係なくやるだけど粋がる。

 

「来たら楽ができるが、ごほ、ごほ!」

「まぁ、俺はやりたいようにやるさ」

 

病弱キャラでサイバー担当の大村ヨシツグと広告塔でイケメンの龍造寺は好きにすればいいといった感じだった。

 

「ふんっ、まぁ来ようが来ないが西方十勇士がいる限り勝利しかない。この石田三郎の出世街道はまっしぐらなのだからな!」

 

キセキの世代・西方十勇士たち、東西交流戦で西の強さを見せつけるために気合十分といったところだった。




次から東西交流戦へ。
また、お願いします!

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