魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第27話 黒く抉く、漆黒に②

 それらが動く度、空は嵐の中の海原のように荒れ狂った。

 破壊が吹き荒れた後には、その隙間を覆うように漆黒の色が映えていった。それはまるで、世界を闇の膜で覆っていくかのようだった。

 全長百メートルを越える逆さまの貴婦人の顔面を、漆黒の腕が撃ち抜いた。巨体はまるで小石のように軽々と吹き飛び、その軸線上のもの全てを破壊しながら飛翔した。

 尤も、既に個体として存在するものは皆無であり、破壊されるものは主に少女の姿をした闇の人影のみであった。

 

 それらも既に原形が崩れ、頭部や腕の断片と言った程度となっていた。飛翔する巨体の上空から、黒々とした巨大な影が降り注いだ。

 形状としては深紅の鬼を踏襲していながら、全身から闇色の光とも液ともつかないなにかを滲ませた異形と化した存在だった。

 人で例えれば口に相当する場所は大きく裂け、開いた場所にはびっしりと鋭い柱が連ねられていた。

 

 機械の硬さと生物の肉が混ざり合ったかのような醜い牙の何本かは、闇色の人体を貫いていた。それらを震わしながら、開いた口の奥から咆哮が放たれた。

 吹き荒れる暴風を貫く叫びと共に、漆黒の剛腕が突き落とされる。腕の先端の拳が貴婦人の胴体を貫き、そのまま暗黒の彗星と化して地表に向けて落ちていった。

 高度数千メートルを一瞬にして縮め、二つの巨大質量は地表へと突き刺さった。二つの巨体は地面を液体のように貫き、そしてどこまでも落ちていった。

 抉られていく大地の上方からは、無限に等しい質量が次々と穴の底へ向けて落下していく。

 しかしそれらはある距離に触れた途端に粉塵へと姿を変えていった。上方からのものだけではなく、それはあらゆる方向に向けて生じていた。

 岩石を淡雪のように崩す衝撃の奔流は、漆黒の拳が深青の貴婦人を殴打するたびに生じていった。

 無限の質量を打ち崩す打撃を雨の様に受けながらも、貴婦人の笑い声は続いていた。そこに混じり、もう一つの声が鳴っていた。

 

「くぅっふふふっふふふふぅぅぅ!!!!」

 

 豪風や暴風、轟音に破砕音を貫いて響くのは、淫らな音に濡れた女の笑い声だった。発生点は、漆黒の巨体の頭頂部にあった。

 闇の波紋が波打つ角ばった頭部から、黄金色に輝く女体が生えていた。腰から下を闇の鬼の頭に埋めたその姿は、言うまでも無く優木沙々のものだった。

 実体の上に己の魔力を纏ったその身体は、本物よりも女らしさの増した姿となっていた。

 膨らみを増したその姿は妖艶と可憐さが同居した女神の姿となっていた。これが道化の理想の姿なのかもしれない。

 女神の姿を纏ったまま、道化は腕を振るった。同時に悪鬼の巨体が動き、貴婦人の顔面に拳の連打が暗黒の流星となって降り注ぐ。

 

 貴婦人の頭部を介して破壊の力が周囲に広がり、更に破壊が拡大していく。岩塊の崩落は既に遥か彼方の事象となっていた。

 貴婦人と悪鬼の周囲には最早物質は皆無となり、広大な闇が広がるのみとなっていた。ただ一つの光点は、道化から放たれる黄金色の光であった。

 伝説の魔女の頭部と腹を悪鬼の両手が掴むと、その間である胸に向けて無数の牙が突き立てられた。

 衣装と体表を突き破り、傷口からは重油のような闇が溢れた。闇は悪鬼の口腔へと吸い込まれ、その身を覆う闇に取り込まれていった。

 魔女を蹂躙する悪鬼を操る、光を纏う道化の心には至極の快楽が渦巻いていた。

 悪鬼の口を介して己の口に広がる闇の味はこの上なく甘露であり、振う暴力の嵐に彼女の雌の部分が疼き性欲と支配欲が煮え滾った。

 

「死ねぇぇぇぇぇえええええ糞木偶人形ォォォオオオオオオ!!!!!!」

 

 欲望のままに道化は叫んだ。牙が更に押し込まれ、悪鬼の牙は根元まで魔女の肉に喰い込んだ。牙の根元には機械にあるまじき赤黒い歯茎が形成されていた。

 

「死ね死ね死ね!!!!死んじまえ!!!」

 

 死の言葉を叫ぶ度に道化の脳裏に無残な死体のビジョンが思い浮かべられた。

 それらは内臓を獣に食い荒らされたものであり、尻から口までを茨の棘を巻かれた鉄棒で貫かれたり、関節という関節を引き千切られた少女の姿であった。

 それらの死体の頭部には、炎を思わせる真紅の髪が流れていた。恐怖と絶望の表情で固まった佐倉杏子の顔を、道化の足が何度も何度も踏みしだいていた。

 鼻が潰れ、歯が砕け、眼球が破裂し血雑じりの体液を眼窩から汚液となって滴り落ちる。

 更に無惨さを増した肉の塊を前に、道化は高らかに笑った。心の底から楽しくて仕方ないといった笑い声だった。

 

 輝く道化もまた喉を仰け反らせて笑っていた。そこに向け、複数の物体が飛翔していった。闇色のそれらは、悪鬼の牙と貴婦人の皮膚の隙間から飛来していた。

 手に手に銃火器や刃に槍を携えた、闇色の少女の群れだった。

 

「邪魔だドクズどもぉお!!」

 

 道化の眼前にまで迫っていた少女達の武具は、主諸共に微塵に砕け散っていた。

 貴婦人の拘束を解きつつ、五十メートルを優に超える巨体は少女達よりも俊敏に動いていた。巨大な右腕の一閃が少女達を砕いていた。

 だがその一瞬の隙に、少女達は悪鬼の前面に無数に浮かんでいた。貴婦人から滔々と溢れる闇からは、次から次へと少女達が生まれていった。

 

「邪魔だって、言ってんだろがぁぁあああああああああ!!!!!!!」

 

 道化の思考に怒りの炎が渦巻いた。嗜虐の妄想を中断させられた怒りであった。その怒りが、漆黒の巨体を動かした。

 轟音を立てながら、黒い両拳が打ち合わされる。その動きは、道化が思い描いたものではなかった。

 

「は?何やってんですかこのガラクタ木偶人ぎょ」

 

 後一文字で成立する筈だった言葉は、そこで中断させられていた。止まった後には、道化の絶叫が鳴り響いた。












長らくお待たせしました。
短いのですが、そろそろ投稿すべきと思いまして。

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