魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第13話 狂潤④

「それがお前の魔法か」

 

刃部分が砕け散り、それこそ太古の打石器のような形状と成り果てた柄を投げ捨てる。

黒曜石に似た輝きを放ちながら、異界の地に屍のように横たわる。

 

確かな苦痛を湛えつつも、彼の顔には剣鬼の笑みが貼り付いていた。

そのまま、彼は胸に力を籠めた。

薄く見えるが合金のような強靭な筋肉が収縮し、傷口を強引に塞ぐ。

既に溢れた血潮が肉の裂け目より滴る様子は、餌食を喰らった獣の口に見えた。

 

「医者いらずだな」

「冗談言うなよ、後でちゃんと包帯くれぇ巻くさ」

「どちらが冗談なんだかな。せめて消毒くらいはしておけ」

 

血染めの顔で、戦士と少女剣士は微笑んだ。

その最中、ナガレは背後へと跳んだ。

一跳びで、両者の間には七メートル程の距離が隔たれた。

 

彼が着地した瞬間、麻衣は刃を振った。

刃の軸が遠方の少年を捉えた瞬間、彼の手元から黒い破片が飛び散った。

先に破壊されたものに代わり、ジャケットの裏側から抜刀した

一対の斧が無残に破壊されていた。

 

「先程の話だが、その通りだ」

 

麻衣は振り切った刃を鞘に納めた。

鈴鳴りに似た美しい音が鳴った。

彼も同時に手を離し、破片となった鉄の棒を地に堕とす。

鍔鳴りとは対照的に、岩塊が落下したかのような重々しい音が生じた。

 

「刃の射程距離は、ある程度なら自由に扱える」

「すげぇじゃねぇか。でもよ、あまり嬉しそうじゃねぇな」

 

彼の指摘の通り、自らの魔法を告げる麻衣の顔と声は寂しげだった。

 

「戦う事にしか使えない魔法だ。人の役に立つ魔法を行使する、

 物語の魔法少女達を見習いたいものだ」

「俺が云うのもなんだけどよ、応用を利かせてみたらどうだ?」

「例えばどんな?」

「空間を削り飛ばすとか」

「随分と凄い事を言うのだな、君は。空間とは寒天や豆腐じゃないんだぞ?

 そして、それが人々の生活にどう役立つ?」

「空間同士を繋げて、好きな場所に移動するとか」

「…うーむ」

 

少年の提案に少女剣士は、紫色の胸当てを巻かれてもなお豊かな胸の前で手を組んだ。

そして数秒ほど小さく唸り、一つの結論を導き出した。

 

「何事も、物は考えようという事だな。ありがとう友人君、何か掴めそうな気がしてきたよ」

 

若干の不敵さを宿した顔で、彼女は律儀に礼を述べた。

 

「それと押し付けがましいのは承知だが…」

「…分あったよ」

 

気安い応酬、例えるなら外食先で、手持ち不足ゆえに友人の代金を肩代わりしたかのような

やり取りをしつつ、ナガレは空となった右手を虚空へと伸ばした。

開いた掌を中心に黒い靄が発生、そして左右に向かって一直線に伸びる。

伸びきると同時に、彼は掌を握った。

血塗れの五指は、硬く冷えた鉄の感触を捉えた。

右だけではなく左手でも柄を握り、彼は物騒極まりない形状の切っ先を麻衣へと向けた。

 

「槍斧…俗に云うハルバードか」

 

顕現した物体に、麻衣が絞り出すような声を出した。

その声は震えてもいた。

恐怖以外の感情で。

 

「少しデカすぎるけどよ…トマホークっても云うらしいぜ」

「巨大に過ぎる手斧だな」

 

柄の部分の長さは約二メートル。

円にも近い両刃の直径は八十センチほどもある。

中央に空いた穴の真ん中には黒い塊が滞空し、

またその周囲は優美な形状を描くくり貫きがされていた。

その形がハートマークであるというのは、

魔といえど一応は『女』であるという事の証なのだろうか。

 

感慨も程々に、両者の足が地を踏みしめた。

開いた距離など無かったかのように接近。

互いの刃を、最高の破壊力を成す間合いにて振るう。

魔を宿した刃と、魔そのものである斧。

両者の激突は、莫大な火花と轟音、そして衝撃を発生させた。

 

反動を受けた操者達の身が、一瞬発条のように反りかける。

だが魔法少女は治癒能力と耐衝撃用の防御機能で、

少年は強靭な骨格と筋肉で肉体に迸る激震を耐え切った。

 

麻衣はナガレを見た。

そしてその逆も然り。

 

「じゃあ…」

 

振りかぶりつつ、ナガレはゆっくりと言った。

相手の挙動に合わせ、呼吸を合わせているかのように。

 

「もう…」

 

こちらも同様に、肉体の痺れを取りつつゆっくりと刃を振り上げていく。

そして。

 

「「一丁!!」」

 

同じ言葉と共に、再度の激突。

得物同士の抱擁は、離れた直後に再度生じた。

 

そして四打目で、両者は衝撃に順応し始めていた。

十打を越える頃には、莫大な数の剣戟が全力のままに行われるようになっていた。

絶え間ない火花と轟音が続き、

両者の足裏より流れる力が莫大すぎて、異界の地が悲鳴を挙げていた。

 

二十五打目にて、両者の周囲の地面に亀裂が入った。

全く気にも留めずに更に打ち合う。

用いているのは共に巨大な業物だというのに、その交接点は取り回しの利くナイフどころか、

布に撃ち込まれるミシン針の連打に近かった。

 

攻めるばかりではなく、時に刃の腹が盾として防御も行っていく。

そして相手の刃を弾き返した瞬間、攻守を変える。

それが、ほんの数秒間の間に幾重も繰り返されていく。

亀裂は長さと深さを増していき、両者の周囲に巨大な円を描いた。

上空から見れば、小惑星の激突によって成るクレーターを思わせる様相となっている事だろう。

 

そして、遂に。

 

「扱い辛そうな得物なのに、随分と上手く扱うものだな」

「まぁな。ちょっと使い慣れすぎちまっててよぉ」

 

両者の念話には、破壊音と風切音が覆い被さっていた。

狂った潤いを交わす両者に、遂に大地が屈したのであった。

麻衣とナガレの足は地面の上に無く、その破片と共に宙に浮いていた。

大地にばっくりと開いた孔の中へと、少年と魔法少女が堕ちていく。

 

光源から遠ざかっていくにも関わらず、二人の周囲には光が満ちていた。

落下しながらも、戦闘は継続されていた。

停める理由など、どこにも無いとでもいうように。

 

「斧を扱い慣れる…山籠もりが好きなのか?」

「嫌いじゃねぇけど、好きって訳でもねぇな。ただ親父によく連れられてたな」

「家族の理解があったのか、羨ましい限りだ」

「理解っつうか…生活の一部だったっつうか」

 

追想をしつつ、槍斧が振られた。

半円を描いた巨大な刃が麻衣の刃に激突し、魔法少女を弾き飛ばした。

弾かれた先、異界の壁面へと麻衣が脚を撓めた状態で接する。

すぐに脚が伸ばされ、魔法少女が閃光のように飛翔。

血染めの薄紫の光となって、ナガレに迫る。

 

「矢張り、君からは色々と学べそうだ」

 

刃の笑みを携えた麻衣と少年は、空中にて再び激突。

麻衣の刃は軋み、斧型の魔女が耳障りな悲鳴を挙げた。

刀身が削られ、魔の金属が鱗粉のように宙に舞う。

火花に鮮血、そして刀身から噴き上がる粉でさえ、吹き荒れる刃の嵐によって刻まれていく。

 

何時果てるとも知れない刃の応酬を重ねたまま、若き勇者たちは

異界の底の底へ、果てしなき闇へと堕ちていく。

 










今回も命の火を燃やしています。
また次回からは、魔法少女組の話を描きたいと思います。

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