魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第101話 朱色の想い②

「…あの、いいんですか…?」

 

 

 魔法のメモ帳にこれも魔法で作ったペンを走らせていた佐鳥かごめは、その動きを止めて尋ねた。

 質問の矛先は童話風の衣装と軍服風の衣装を纏った二人、佐木京と人見リナである。

 

 

「…ええ。これが麻衣の希望です」

 

「…麻衣ちゃんがそう決めたのなら、私も文句はないよ」

 

「…そう、ですか…」

 

 

 怯えたように体を震わせ、かごめは再びペンを走らせ始めた。

 かごめ、京、リナの三人は今、麻衣から距離を置いた場所にいた。

 地層のように堆積した鏡の傾斜によって出来た小高い丘の上から、麻衣の様子を見守っている。

 三人の周囲には複製魔法少女達の残骸が転がっているが、その数は三十体ほどであり、今は襲撃が絶えている。

 

 その理由は三人が視線を送る場所にあった。

 そこには雲霞もかくやといった数の魔法少女達がいた。

 槍に短刀に刀にと、変わったところでは十手やチャクラムなどといったものもあった。

 それらを携えた魔法少女らは、ある場所を目指して殺到していた。

 

 刃の先では武者風の衣装が切り裂かれ、肌が切り刻まれて鮮血と肉、骨と内臓が散っている。

 切断された肉や骨には銀色の魔力が纏わり付いていた。

 それが輝いた刹那、崩壊した肉体が衣装諸共に完全に復元する。

 それは落下して割れた鏡が、それを記録した映像を巻き戻すことで元に戻るかのような光景だった。

 これは鏡の世界自体の魔力か、或いは

 

 一瞬の内に切り刻まれ、また戻してが繰り返される。

 呻き声や悲鳴どころか、呼吸の一つもないままに朱音麻衣は切り刻まれ続けていた。

 

 

「あの、繰り返すようなんですが…いいんですか?」

 

 

 再びかごめは尋ねた。今度は手を休めていない。

 魔法少女のアーカイブ化が彼女の願いであり、掛け替えのない趣味であるからだ。

 手を止めないのは、これが朱音麻衣という存在の最期の記録になると本能的に悟っている為か。

 とはいえその眼に宿る光には欲望の色は無く、純粋な心配だけがある。

 彼女自身もこの行為を止められないのだろう。願いとは呪いに等しい。

 その呪いの中に毎もいる。それが分かっているからこそ、リナも京も止めることなく、そもそも止められないのであった。

 ただ歯を食い縛り、見守る事しか出来はしない。

 

 

 

 

 

 

「は、はは、ははは」

 

 

 切り刻まれる口で、舌で、喉で、朱音麻衣は嗤っていた。

 眼球は破裂と断裂、溶解を繰り返しながら再生していたが、血が拭われる間もなく視界は真紅に染まっていた。

 破壊に伴う感覚は痛みだけであるのだが、彼女の意識は別のものを感じていた。

 数は少ないが、愛する者と戦った時の感覚が肉体が損壊した際に蘇るのであった。

 肉体を破壊される際の衝撃で麻衣の身体は常に揺れているのだが、それとは別の、麻衣自身の震えも見えた。

 肉体の損壊によって性的な快楽を得ているようだった。

 背骨が割れようが脳が切り刻まれようが、幾ら血が流れようが、下腹部に籠る熱量は下がらない。

 

 

「あ」

 

 

 頭頂から喉の真ん中まで切り裂かれた麻衣は、そう呟いた。

 口からの血泡と共に漏れた呟きは、気付きによるものだった。

 

 

「これは……違う」

 

 

 これは痛みであり破壊であるが、彼から齎されるものでは無い。

 現象としては同じでも、その根源が違うのであれば意味が無い。

 彼との戦いを愛情表現として見ていた。

 性行為に等しいか、或いはさらに尊いものへと。

 だが、これは違う。

 しかし自分はそこに彼の存在を見出し、快楽と幸福を感じていた。

 全ては錯覚である事に眼を背け、ただ身体を差し出していた。

 麻衣の体温と高揚感は急速に低下していった。

 

 

「これでは…まるで」

 

 

 自慰、そして強姦。群がられている現状を鑑みて正確に言えば、輪姦。

 そう認識したとき、麻衣の思考は爆ぜ割れた。

 

 

「-----------------------------!!!!」

 

 

 血と破壊された内臓と共に、麻衣の口からは声にならない声が放たれた。

 それは咆哮ではなく悲鳴であった。

 恐怖と嫌悪感に染まった声を吐き出しながら、麻衣は視線を落とした。

 自分から見たのではなく、背後から首を切られたために前に倒れたのだった。

 

 傾いた麻衣の視線は、自らの胸を貫く日本刀を握る者の顔に注がれた。

 前髪に隠れ、目元は分からないが、口は半月の笑みを刻んでいた。

 和の趣を持った外見と、自分と同じ系統の武器。

 麻衣の脳裏には、その少女が自分の生き写しに見えた。

 そう思った瞬間、恐怖は憎悪によって焼却された。

 

 

「ぐぁぁあああ!!!」

 

 

 獰悪な叫びと共に、麻衣は前に進んだ。

 胸の傷は拡大し、傷口からは刻まれた心臓が零れた。

 口からは大量の出血が溢れた。堰を切った濁流のようなそれは、口が耳まで裂けたからだった。

 倍ほどに拡大した口で、麻衣は赤紫髪の少女の頭部に噛り付いた。

 大型猛獣並みの咀嚼力の前では、人間の頭蓋骨も熟れた果実と変わらない。

 一口で半分が齧り取られ、次の一口で喉の半ばまでが飲み込まれた。

 不思議なのは、齧り取られた後は喉が動くものの、麻衣は細首のままであり肉が広がらないことだった。

 齧り取った瞬間、肉体が魔力に変換されているのである。

 

 その間も、複製魔法少女たちの猛攻は終わらない。

 巨大な槍が、剣が、あるいは殴打が麻衣を貫く。

 だがそれらは柄や腕の半ばまでが麻衣に埋没しつつも、切っ先は彼女から抜け出なかった。

 腕も武具も麻衣の肉体に飲み込まれていた。

 

 いつの間にか、麻衣の全身に刻まれていた傷はすべて消えていた。

 腕や武具を引き抜こうとするも、それらは麻衣へと埋まっていく。

 手を放そうとするも、手は武具の柄に張り付いて離れない。

 やがてもたれかかるようにして、魔法少女らは麻衣の体へと密着する。

 麻衣に触れた肌や衣服が蕩け、彼女の中へと溶けていく。

 麻衣に触れていなくても、麻衣に接触している魔法少女らに触れた魔法少女たちも同じように他のものに吸着し、肉を溶かされていく。

 

 

「…失せろ」

 

 

 少女たちがこの声を聴いたとき、大量の血と肉が飛散した。

 血肉の飛散の後に、鮮血の豪雨が降り注ぐ。

 その中央に、朱音麻衣が立っている。右手には愛刀が握られ、真っすぐに前を向いている。

 鮮血の雨が降り注ぐ中で、刀身には一滴の血も付着していなかった。

 

 

「……はは」

 

 

 乾いた笑いが麻衣の口から洩れた。その瞬間、複数の魔法少女たちの首が飛んでいた。

 彼女らと麻衣の距離は、三十メートルは離れていた。

 彼女らの背後に出現した麻衣の背後には、陽炎のような揺らめきがあった。

 空間を切り裂き、魔法少女らの背後と繋いだのである。

 それだけなら以前も行っていた。だが、今は。

 

 

「ははは、ははははは!」

 

 

 哄笑と共に麻衣は刃を振るう。そのたびに魔法少女らは肉片に変えられ、反撃が来る前に麻衣の姿は次元の狭間へと消える。

 その次の瞬間には魔法少女らの背後や死角に現れ、何もさせないままに非情の刃で切り刻む。

 一時たりとも同じ場所に留まらず、奇襲に奇襲を重ねていく。

 かと思えば、麻衣の存在に気付いた魔法少女の群れへと真っ向から向かっていき、剣戟を重ねた末に頭頂から股間までを縦の一閃で両断する。

 地獄の門が開かれたように、血と内臓が左右に分かれる。その奥にいる麻衣は、小刻みに歯を震わせながら笑っていた。

 そして、双眸からは止め処なく涙が流れていた。

 麻衣は笑いながら泣いていた。

 

 笑っているのは自分の力が高まっているのを感じ、その力を存分に奮えていることへの歓喜から。

 泣いているのは、複製魔法少女たちから与えられた痛みと暴虐を愛する者に重ねてしまっていたことから。

 それを己の弱さと認識し、そこから無力感を感じていた。

 

 そして愛する者に対してこの力を振るえないことに、彼を殺害できないことへの悲しみに耐えきれずに泣いていた。

 これが異常な感情であることを認識しつつ、それでも止められない自分自身に対し、彼女は自分を嘲笑し、そして嘆いているのであった。

 彼女の暴虐は留まるところを知らず、死山血河は際限なく拡大していく。

 

 


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