魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第101話 朱色の想い

 鮮やかな桃色の臓物が弾け、くすんだ灰色を帯びた薄桃色の脳髄が砕け散る。

 血の沙幕が空気を染め、赤い豪雨となって地面に降り注ぐ。

 一面の鏡である筈の地面は、既に鏡の輝きよりも血や肉の紅や破壊された臓物や人体によって覆われていた。

 

 

「はは…ははははは!」

 

 

 少女の哄笑が地面に広がる血の湖面を震わせた。

 そして湖面を踏み荒らし、肉や骨の破片を蹴散らしながら疾駆する。

 走りながら振るわれる刃が、鏡の世界の魔法少女達を容赦なく切り刻む。

 鏡の少女達は身構えた途端ないしは接近に気付かないままに胴体を横薙ぎに切断され、空中で更に細かく刻まれる。

 原型が分からないほどに切断された少女の死体が地面に散らばり、それは更に赤の湖面を跳ねさせつつ踏み潰された。

 

 

「残ってるのは貴様たちか」

 

 

 声の主は朱音麻衣であった。

 白と紫を基調とした衣装も朱に染まり、顔も血で濡れている。血に濡れた唇が紡ぐ言葉も朱に彩られているように聞こえた。

 

 

「言っておくが、何処へ逃げても無駄だからさっさと来い」

 

 

 右手に握った刃を前方に向けて突き付けながら麻衣は言った。

 血で全身を染めながらも、その刃には一滴の血も着かずに白銀の輝きを放っていた。

 切っ先が縦に揺れ、来訪を促している。声の先には人影は見えない。

 麻衣の声は、鏡の結界の奥の闇の中へと向けられていた。

 闇の奥で、二つの気配が生じた。その瞬間には、朱音麻衣は走っていた。

 

 

「変わった武器だな」

 

 

 気配の主へと瞬時に肉薄した麻衣は、その者の得物を見てそう言った。

 

 

「拝借するぞ」

 

 

 宙に浮いたそれを、麻衣は左手で掴んだ。肉薄した瞬間に刃が放たれ、相手の手首を切断していた。

 手首が握る柄を掴むと、麻衣はそれを振り下ろした。

 それは炎の色を帯びた扇だった。折り畳まれたそれの柄を、麻衣はその所持者の顔に叩きつけていた。

 それを一瞬の間に何度も何度も繰り返す。一撃毎に顔の形が変わり、頬が削げ落ち歯が顎ごと砕け散る。

 中華風の軽装な衣装を纏った少女の顔は、元の顔の原型もなく破壊されていた。

 その肉体が、頭の天辺から足の爪先まで一気に圧搾されたのは次の瞬間であった。

 

 巨大、というのも馬鹿々々しくなるほどのサイズの超巨大なハンマーが振り下ろされていた。

 二階建ての建物に匹敵する大きさの得物の一撃は地面を揺るがし、槌の直径の数倍の範囲に罅を入れた。

 巨大な槌を振り下ろしたのは、小さな二つの角を生やした帽子を被った金髪の少女だった。

 

 

「遅い」

 

 

 その声が、その少女が聞いた最後の声だった。

 最期の音は、ぼぎゃりとでもいうような形容しがたい音だった。

 金髪の少女の首が、頭頂部に突き落とされた拳によって胴体に埋まり、急激な膨張に耐えきれなくなった胸部が弾け飛ぶ音だった。

 渦巻く腸の上に潰れた顔を乗せた状態で、上半身の大半を喪った少女は二歩三歩と歩いてから地面に崩れ落ちた。

 地面との接触前に、その身体を麻衣は蹴り飛ばした。

 血飛沫と内臓を散らしながら飛ぶ少女の肉体の先には、麻衣に向けて殺到する鏡の魔法少女達の姿があった。

 麻衣はその場で腰を落とし、腰の鞘に戻していた愛刀の柄に手を掛けた。

 そして魔法少女達が金髪少女の遺骸を邪魔者として斬り払おうとした時に、麻衣は一閃を放った。

 

 

「虚空斬破」

 

 

 言い終えるのと凛とした鍔鳴り音が鳴るのは同時であり、それに遅れて落下音が続いた。

 三十メートルの距離はあったというのに、麻衣に向けて殺到していた魔法少女らは胴体を両断されていた。

 麻衣の魔法は刃の距離の延長であったが、それは空間を切断する力へと変異しており距離を無視した斬撃を放つことを可能としていた。

 しかしながら、今の一撃の威力は異常であった。

 

 

「ふむ。調子が良いな」

 

 

 始末した魔法少女らの元へ歩み寄り、麻衣はそう呟いた。

 

 

「日ごろの鍛錬が実を結んだか。我ながら感慨深い」

 

 

 血と肉の海の上を歩き、魔法少女の肉の断面を覗き込む。

 肉と内臓、そして骨の断面は磨き抜かれたように滑らかな面を見せ、形も崩れていなかった。

 

 

「絶好調というやつだろうか。しかし何故、こんなに冴えているのだろうか」

 

 

 麻衣は首を傾げた。そのまま数分が経過した。

 

 

「ああ、そうか」

 

 

 再び口を開いた麻衣が放ったその声は、ひどく澄み切っていた。

 その顔に浮かぶのは、朝の光のような爽やかな笑顔。

 

 

「君がいないから、私は、こんなにも」

 

 

 そこで言葉は断ち切られ、代わりに麻衣の口からは鮮血が溢れた。

 麻衣の豊満な胸の中央から、白銀の刃が生えていた。その形状は、麻衣の持つ得物とよく似ていた。即ち、日本刀に。

 

 

「……良い太刀だ」

 

 

 血泡を口から噴きつつ、麻衣は背後に視線を送ってそう言った。

 紫を帯びた赤色の髪の少女が、背後から麻衣を刺し貫いていた。

 和の趣を持った衣装は、系統こそ異なれど麻衣と似通った部分があった。

 そして麻衣へ向け、複数の魔法少女達が周囲から殺到していった。

 既にこと切れた者達を踏み砕きながら、麻衣へと向けて己の得物を振り翳す。


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