魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
白い肌の上を汗が伝う。
既に湿り気を帯びた肌を珠の汗が流れ、極小の川となって体表を濡らす。
秀麗な顎から細く美しい喉を伝い、小さな水の線は大きな双丘へと至った。
見ただけで分かる柔らかさと温かさを湛えた美麗な形状の乳房の上を、その美しい線に沿って流れ、金色の輝きを放つ装飾を濡らした。
翼を広げた甲虫を模した、美しい装飾品だった。
「うぅむ」
美しい喉が小さい声を出す。
唸り声ですら、輝く星のような美しさがあった。
「ねぇねぇネオマギモブのみんな、このエロ衣装はなぁに?」
華麗な、そして露出度が高いに過ぎる衣装に美しい手を添えつつ、呉キリカは尋ねた。
エロ衣装とキリカは言った。実際その通りだろう。
胸に股にと、性を象徴する部分を覆う布は余りに小さく、薄かった。
「エボニーちゃんです」
「誰よそれ」
「こちらの方です」
首を傾げたキリカの前に、魔力で作られた画像が浮かぶ。
「んん…?」
キリカは逆向きの方に首を傾けた。髪の先から汗が滴る。
滴る汗ですら、星が流れたような美しさだった。
「このように、砂漠を練り歩いてる場面で有名な方です」
「衣装これと違うじゃん」
キリカが指摘する。
画像に映っているのは砂漠を歩く軽装の少女の姿。
キリカの言葉の通り、纏った衣装はキリカのそれとは異なっている。
「流石はキリカさん、お目が高い」
「うん、確かに高い位置にお目目があるね」
頭の上を小突きながらキリカが言う。
濡れ羽色の髪の上には、鳥を模した装飾があった。
「御察しの通り、この人は過去の魔法少女なのです」
「ほほぅ」
脱線した話題だが、新たな事象への興味を示した態度をキリカはした。
「マギウスの連中が過去への干渉というか魔法少女の事象のアーカイブ化をしてまして」
「噂では魔法少女の観測をしていた地球外の魔女を捕獲したらしく」
「これはそれを解剖・解析して抽出した画像だそうです」
「へぇ」
軽く呟くように言ったが、キリカはうすら寒いものを感じていた。
狂気の魔法少女である彼女をして、短い間に聞き捨てならない単語が幾つも出ていたからだ。
「そんな事はどうでもいい」
熱い大気を貫いて、冷ややかな声が流れた。
「貴様たちは、サウナを嘗めているのか?」
朱音麻衣は血色の眼で周囲を見渡した。
自分の隣にも前にも、そして背後の上段にもローブ姿の少女達が並んでいる。
黒か白かのローブの下の身体には、キリカと同じ衣装が纏われている。
異なるのは頭に鳥の飾りがあるかどうかである。
当然、九十度を超える高温多湿の空間においてキリカ曰くのエロ衣装は兎も角ローブを着ているのだから発汗量が尋常ではない。
「その破廉恥な服装といい暑苦しいローブといい、貴様たちは何を考えている」
麻衣の言葉は嘆きでもあった。
当の麻衣はと言えば、腰元を小さめのタオルで覆い、首から長いタオルを垂らしただけの裸体。
サウナに入る場合の正装である。
「そうだよ」
麻衣の隣で便乗の言葉が発せられた。
隣に座る佐木京も麻衣と同じ姿となっている。
言葉を言いつつ、京の眼はネオマギウスの一般構成員、別名ネオマギモブを見ていない。
朱音麻衣の肌の部位を、舐め廻すように見続けている。
「同性相手とはいえ裸体を晒すのは恥ずかしいというのは分かるが、その衣装は裸よりも恥ずかしいと思うぞ」
毅然とした声で麻衣は言った。
一方で、隣から向けられている情欲に満ちた視線は完全に無視している。
正直なところ怖くて怖くて仕方ないのだが、誇り高い戦士然とした自分を演じる事で乗り切っているのであった。
そんな麻衣の隣で、京は誇らしげに腕を組んで何度も頷いている。
それもまた、麻衣は怖くて堪らなかった。
「いいじゃねえか。ここはこの連中の場所で、あたしらは客なんだから口出しする権利はねぇ」
そう言ったのは佐倉杏子である。
彼女はと言えば、麻衣同然に裸になっている。
こちらは腰を布で覆っただけで、上半身は何も隠していない。
「むぅ……」
杏子の言葉に麻衣が唸る。
杏子の言葉は正論であり、また彼女の堂々とした態度に敗北感を覚えたようだった。
その様子を確認すると、杏子は眼を閉じて背もたれに体重を預けた。
炎を操る魔法少女なためか、高温な環境が心地いいらしい。
今の彼女は左肩から先が義手となっているが、外見は金属でも魔法由来の素材であり、製作したアリナの心遣いか快適なようである。
杏子の発言によって麻衣が黙った事により、場に満ちていた緊張感は霧散していた。
敗北感から立ち直りかけている麻衣が耳を澄ませると、幾つもの会話が聞こえた。
「自分らも色々あるけど、魔法少女チームってのも大変だよねぇ」
「基本的に個性ある人らばかりだから、纏めるの大変そう」
「それ考えるとあの三人組はよく纏まってたよね。火と水と木属性の人ら」
「調整屋が付けた便宜上のカテゴリだけど、木属性ってなんなんだろ」
「地属性とかだと分かりにくいからなのかな」
「草属性だとなんか草だし」
「他のチーム、というかあれは集団って言った方がいいのかな」
「なになに?」
「山奥で暮らしてる、ちょっとカルトな人たち」
「あ、それミスドの友達から聞いたことある」
「独特の宗教的な風習がある人らだよね」
「そそそ。猫耳生やした聖母様を奉ってるんだって」
「なにそれかわいい」
うむ、平和だな。
朱音麻衣はそう思った。
ここ最近は多少はマシになってきたとはいえ、自警団仲間の二人はまだしも憎たらしい恋敵の雌餓鬼二匹とは会話が成立することがまず珍しいという破綻した間柄である。
そういった非人間的な人間関係を構築している為に、普通に会話が成立しているという光景が珍しいのだった。
和やかな気分で耳を傾けていると、会話以外の異音が聞こえた。
ぴちゃぴちゃ、ぺろぺろ。
音を言葉で表せば、そんな風になる音だった。
サウナの中にいるので、汗や水蒸気からの水が溜まって流れるのは分かる。
だがこの音は、妙に粘着質な音だった。
そして、神経を刺激する様な淫らさがあった。
麻衣はそちらに眼を向けた。
何時の間にか、会話も絶えていた。
他の面々も、その音を察したのだろうと思われた。
「んーーーーー」
震えた声が続く。鼻で鳴らしているような声だった。
声と共に、桃色の舌が縦横に動く。
美しい繊手が握るのは、小さな棒。
水色のアイスキャンディーがその先に続き、唾液で輝く舌がそれを舐めている。
熱によって見る間に溶けるそれを、溶ける端から舐めていく。
裏側、斜め、正面、先端。
一滴も無駄にしないようにと、呉キリカは丹念にアイスを舐めていく。
その様子を、サウナ室にいる全員が見ていた。
少なくない何人か、というかその様子に大半が見惚れて唾を飲み込んだ。
キリカとしてはただ単にアイスを食べているだけである。
だがそれだけで、えも言われぬ美しさと淫らさが凝縮された美の結晶となっていた。
煌びやかで淫靡な衣装ですら、彼女のこの美を引き立てる装飾品の一つでしかなかった。
衣装よりも何よりも、キリカの外見と行動それ自体が美しすぎる為に。
「やっぱ邪魔だな、これ。切り刻んで硫酸に漬けてから海に捨てたい」
舐めながら、キリカは辛辣な言葉を吐いた。
キリカの膝の上には、横たわる緑髪の少女の頭が置かれている。
「おい腐れアリナ。そろそろ、そのトラウマモード解除してくれないかな。あとそのコート何枚着てるのさ。暑苦しいたらありゃしないよ」
キリカが苦言を呈するも、アリナは
「kill,me…kill,me…」
と虚ろな眼差しのままに繰り返すだけだった。
溜息を吐くキリカであったが、払いのけはせずにそのままを維持した。
羽根の一人から言われた、「優しくしてあげてください」という言葉を守っているようだ。
「これが成長ってやつか」
杏子が呟く。
「煽るな」
アイスキャンディーを舐めながら、キリカが力なく返す。
それを見た麻衣は、こいつらは本当に杏子とキリカなのかという疑問すら抱いた。
少し前までなら、会話が発生する前に殺し合いに発展し、言葉を交わした直後どころか言葉と共に槍や爪の応酬が重ねられていたからだ。
「…平和だな」
苦々しく麻衣は言う。平和なのは結構だが、こういう状況に慣れていないのだ。
渋々と言った様子で、キリカと杏子も頷いた。
その瞬間、全員の耳朶を激しい音が打った。
機械が泣き叫ぶようなけたたましい音が鳴り響く。
「警報?」
杏子が呟く。
「おわぁっ!?」
キリカが叫んだ。これまで虚ろな目で死を懇願していたアリナが、突如として跳ね起きたのだった。
「…oh,my god………」
喉を絞り出すようにして呟くアリナ。
その表情には、常には無い緊張感と焦りが見えた。
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