魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第95話 炸裂

「…おや?」

 

 

 常盤ななかは疑問の声を発した。

 既に美雨とあきらは斃され、首無しとなった前者の身体と足首と背骨の一部を残して全体が砕け散った後者の残骸が足元に転がっている。

 眼球に非ずの、眼下に溜まった黒い闇の奥で輝く赤い燐光の視線を向けた先の存在に対し、彼女は首を傾げていた。

 

 

「それ以上…近付かないでください……これは……警告です!」

 

 

 震えているが、芯の通った強い声。

 緑髪の小柄な少女は、栞の形をした刃を持った槍の切っ先をななかに向けてそう言った。

 声は震えていたが、槍の先は小動もしていない。

 右に傾いていたななかの首が、今度は左に傾いた。重ねての疑問を感じたということだろう。

 

 

「警告……ですか」

 

 

 病的を通り越して、文字通りの白磁の肌の中でそこだけは生命を感じる赤い唇が、不思議そうに言葉を呟く。

 言葉の意味を再確認しているかのようだった。

 

 

「貴女が…私を?」

 

 

 そう言ったななかの顔には、悲哀の影が差していた。

 

 

「私が何か……しましたでしょうか?」

 

 

 彼女の言葉に、夏目かこの槍の穂先が震えた。

 彼女自身の顔も引き攣り、両眼には恐怖の色が色濃く映えている。

 

 

「貴女にそんな、悲しい顔をさせるような、なにか、失礼な事を………」

 

 

 言いながら、ななかはかこへと歩み寄る。

 爪先があきらの内臓の破片を小石のように蹴り、足裏が美雨の眼球を踏み潰す。

 仲間二人の肉片や骨の欠片を砂利のように踏み散らしながら、常盤ななかはゆっくりと歩いている。

 

 

「どうか…教えていただけないでしょうか……私に出来る事なら、どんな改善でも致します」

 

 

 声は真摯であり、狂気の欠片も伺えない。

 全くの正気で、常盤ななかは狂っていた。

 かこは悟った。

 彼女は仲間たちの破片を破壊したいのではなく、視界に入っていないのだと。

 また、それを悪行とも思っていないと。

 そもそも自分が今何をしているのか分かっているのか、何を考えているのかが分からない。

 かこの心が、急速に黒々と濁り始めた。

 救出、奪還、和解。

 そういった言葉が、次々と希薄化していくのが感じられた。

 必死になって希薄化を防ごうとするも、踏み潰される肉や骨の音や、接近を続けるななかの存在がそれを阻害する。

 

 

「あ」

 

 

 かこは短く呟いた。

 精神の奥底に、黒い爪が切っ先を突き立てた瞬間だった。

 黒い爪とは、恐怖の事であった。

 爪先から流し込まれた恐怖の毒が、かこの心を一気に汚染した。

 

 

「あああああああああああああ!!!ああああああああ!あああああああああああ!!!」

 

 

 赤子のように、かこは叫んだ。

 それは産声に近い声だったかもしれない。

 彼女の心を突き破り、生まれ出でた恐怖の叫びである故に。

 叫びに呼応し、槍の先端が深緑色に輝いた。

 同時に、ななかの身体の正面からも同色の光が生じる。

 先に斃れた美雨とあきらが放った、機関銃の形をしたコネクト魔法。

 

 魔女数体を重ねても一撃で肉の霧に変える威力であったが、ななかの衣装や肉体が頑丈に過ぎ、弾丸も殆どが弾かれていた。

 だが美雨の爪を模した氷の弾の無数の猛打はななかの衣装を貫き、肉に食い込み骨格へと至っていた。

 彼女の外見こそ、僅かに衣服が乱れた程度であったが、極微の破片となった弾丸は彼女の体内に埋没している。

 それら全てが、かこの魔力の色に輝いていた。

 

 体内からの緑の光に照らされる、青い髪と衣装を纏った白磁の肌の少女。

 生命の色を思わせる光に対する非生物である造形物のような姿となったななかの対比は、常世に非ずの異界の美を表していた。

 

 

「ななかさん!」

 

 

 かこは叫んだ。異界の美の美しさが、僅かながらかこの恐怖を拭ったのだった。

 その視線の先、光の中のななかはかこを見た。

 闇の奥の赤い輝きはかこを見て、そして右手に視線を落とした。

 そこには、剥ぎ取られた人間の顔が貼り付いていた。

 

 

「…美雨……さん………?」

 

 

 呟くななか。その時、彼女の髪の色は赤く変わっていた。

 衣装も青から赤を帯びた紫へと変わる。白磁の肌も、白いが健康的な肉の肌となった。

 最後に、闇と光が溜まった眼窩が瞬く。開いた後には、赤い瞳の眼があった。

 瞳の中は、困惑と恐怖と、哀しみで満ちていた。

 それは紛れもなく、かこ達が知る常盤ななかの姿だった。

 かこは紡ぎかけの魔法を止めようとしたが、既に力が満ちていた。

 銃で例えるなら、引き金は引かれており弾丸は既に放たれている状態だった。

 

 

「私は、何を」

 

 

 愕然とした様子で呟いたななかの全身を、緑の光が包み込んだ。

 かこの放った絶望の叫びも、爆風と閃光に塗り潰された。

 


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