魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第94話 砕ける氷、散る雨粒

 鮮血が散り、切断された指が宙を舞う。

 血と肉片の先に青い衣装を纏った青い髪の少女がいた。

 

 

「ななか」

 

 

 銀髪少女の呟きの直後、右から左へと光が流れた。

 左手は人差し指と中指に小太刀の柄を挟んでいた。

 

 

「ななか」

 

 

 再び同じ言葉を呟く。

 銀髪の少女の全身は血に染まっていた。

 右腕は肘の半ばで切断され、左手の指は全て切り落とされている。

 額から顎までを縦断する斬線はその間にある左眼を断ち割っていた。

 眼窩から流れる血雑じりの液体は、眼球内の房水と血液と涙の混合液だった。

 

 胸部は肉がそぎ落とされて肋骨の断面が剥き出しになっている。

 元は白銀で構築されていた衣装は赤黒く穢れ切っていた。

 その中で、新たに鮮やかな紅が足される。

 それは少女の鍛えられた腹筋の上を横に走る傷だった。

 

 

「ななか…」

 

 

 言い終えた少女の視界が黒く濁った。

 細い指が少女の顔を覆っていた。

 そして聞く者の脳裏に一生こびり付き、離れないであろう悍ましい音が鳴った。

 肉が引き裂け、骨が引き千切られる音だった。

 

 赤い花が花弁を散らして爆発したかのように、大量の血と肉と内臓が飛び散る。

 銀髪の少女、志伸あきらの胴体は臍の辺りで真っ二つに引き裂かれていた。

 断面からは滝のような鮮血が溢れ、千切れた内臓と血塗れの背骨が垂れ下がる。

 

 

「さて、お待たせいたしました」

 

 

 静かな声に少し遅れて、泥が弾けたような音が鳴る。

 投げ捨てられたあきらの肉体が、地面に落ちた音である。

 落下した少女の肉体の周囲は、罅割れと大小さまざまな陥没で満ちている。

 激戦の痕跡は至る所に広がり、罅を水路として鮮血が地面を這っている。

 無数の血の線が広がっていく様は、生物から皮膚を剥いで血管を眺めているかのようだった。

 広がる血はやがて、大きな血だまりへと合流した。

 そこには、青い衣装の少女が蹲っていた。

 

 

「…随分と、余裕ネ……私を舐めてるのカ?」

 

 

 血臭を孕んだ声で美雨は言った。

 今の彼女は両脚が膝の部分で捩じれ、続く太腿も真ん中のあたりで砕かれていた。

 太腿は折れた木のように、千切られた筋線維と折れた骨がささくれた断面を見せている。

 腹部を覆う衣装は破れてこそいないが血を大量に吸って赤黒く変色していた。

 長い脚による蹴りだったと美雨は記憶している。

 咄嗟に右膝で防御したが、防御した膝がへし折られて腹へと激突したのだった。

 防御しなければ、あきらより先に真っ二つになっていただろうと美雨は考えていた。

 また下半身の損壊とは裏腹に、上半身はほぼ無傷である。

 両手の三本の爪も、細かい傷はあれど形を維持している。

 

 

「いいえ」

 

 

 ななかは首を左右に振った。

 長い髪が主の動きに従い、柔らかな絹のようにさらりと揺れる。

 

 

「舐めてなどはおりません。あきらさんにも私は真剣に向き合いました」

 

「その割にハ、ほぼ素手だったと思うけド」

 

「彼女は手袋が武器とはいえ、素手でしたので私も合わせていただきました」

 

「………ふぅん」

 

 

 沈黙を挟んでから美雨は吐息を吐く。息からは血臭が止んでいた。

 肉の断面からも出血は絶えている。

 そして二人の姿が消えた。

 金属音が鳴り響く。高い天井を持つ室内の、頂点に近い場所にて。

 再生させきる寸前に美雨は跳躍し、ななかもその後を追っていた。

 美雨の両手の爪を、ななかは小刀一本で受けていた。

 

 

「ッ」

 

 

 美雨は爪を振って背後へと飛び、壁面へと至ると壁を蹴って再度跳んだ。

 同様の所作を行ったななかと、空中で激突。

 室内の高所にて、夥しい数の火花が散った。

 一瞬の間に繰り出される爪の猛打を、ななかは一本の小刀で完全に受け切っている。

 

 

「ほう、やはりお強い」

 

 

 氷のように涼しい声でそう言うななか。

 感嘆の響きは如実に表れていたが、美雨は奥歯を噛み締めた。

 自分が攻勢に出ているが、ななかに爪は届かず全く傷を負わせられていない。

 一方ななかは爪の猛打の中で生じた僅かな隙を逃さず刃を振い、美雨に手傷を与えていく。

 

 美雨の顔に首に胸に肩、腹に腕にと細い朱線が入り続ける。

 皮膚を切り裂き、肉をそっと裂く程度の傷。

 手加減をされているという事が嫌でも分かる威力であった。

 最初に切り裂かれたのは額でその次は首であったため、本気であれば最初の一手で自分は戦闘不能に追い込まれていた。

 その自覚が美雨を苛む。

 

 

「御顔が優れないようですが、何か悩み事でも……?」

 

 

 十数度目の交差は地上で生じた。

 美雨が繰り出した両手の爪をななかが小刀の刀身を絡ませて受け止める。

 問い掛けは、その際の一瞬の停滞の際にななかが告げたものだった。

 美雨の返答は怒りの咆哮だった。渾身の力で振り払う…が、ビクともしなかった。

 技ならばまだ分かるが、単純な力比べですら敵わない。

 その対比は蟻と巨象に等しいと悟った美雨の両手の圧力がふっと消えた。

 小刀が離れたと思ったとき、その顔に影が降りていた。

 見上げた先には、掲げられた小刀の柄があった。

 

 

「そんな悲しい顔……あなたには似合いません」

 

 

 痛切な声でななかは言う。

 直後に衝撃。柄が振り下ろされ、柄頭が美雨の前歯に激突し叩き折った。

 

 

「がぎゅっ」

 

 

 無残な悲鳴を上げる顔へと、ななかは再び小刀の柄を振り下ろした。

 額が陥没し、鼻が潰れ、頬が砕けて歯が飛び散り、飛散した歯は散弾となって柔らかい口内を切り刻む。

 悲鳴を上げ続ける美雨の背へと、ななかは左手を回していた。

 限りなく優しい手付きと力で抱擁しながら、彼女は美雨の顔を砕き続ける。

 一撃毎に肉と骨が飛散し、酸鼻な破片が宙を舞う。

 

 


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