魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第87話 同調

「ところで、ほんとにあのガッデムファッキンプッシーキャットその①はデッドしたノ?」

 

『アリナ先輩、プッシーキャットっていうのは可愛い猫ちゃんを指す意味でもあるのなの』

 

「アイエエ!?really!?」

 

『だから先輩、罵詈雑言で言うならちゃんと日本語で言うのなの』

 

「え、ええと……」

 

『早く言えなの』

 

「……ふ、ふぁっきん、めすがき、マ〇〇……」

 

『ほんとに言うと思わなかったの。ドン引きなの』

 

 

 宴会場の一角にて、アリナの一人芝居が展開されている。

 そこから距離を取った場所で、人だかりが出来ていた。

 

 

「あの変態の言葉を引き継ぎますが、こちらがその証拠画像になります」

 

「ふむ」

 

 

 人の密集地帯の中心は呉キリカであった。その彼女に、傍らの白羽根は端末を渡した。

 

 

「あー、こりゃ中々にハードコア」

 

 

 黄水晶の瞳に移ったのは、仰向けに倒れた少女の体であった。

 赤と黒をベースとし、フリルをふんだんに用いたお嬢様のようなドレスは生地以外の赤黒に彩られていた。

 顔は唇から上が無く、頭部の断面からは桃色の舌が垂れている。

 倒れた肉体の背後に溜まる小さな血の池は、肘と膝のあたりにもあった。

 

 よく見ればその部分の衣装や肌には赤い線が奔っている。  

 丁寧に付けられてはいたが、四肢は切断されているのだろう。

 さらに注視すれば、広げられた指も関節ごとに切断されている。

 無惨に破壊した後で形を整えている所に、加害者の異常性が伺えた。

 しかし、キリカの視線は肉体よりも、切断されている頭部の隣に散らばる物体に注がれていた。

 血の池の中に、細かく砕かれた宝石が沈んでいた。

 それが意味するところは、つまり…。

 

 

「にしてもさぁ」

 

 

 端末を白羽根に返し、キリカは疑問の表情を浮かべた。

 

 

「こんな画像、よく手に入ったね。スパイでもいるの?」

 

「ええ。マギウスは無駄に人数も多いので忍び込むのは簡単でして」

 

 

 認めるのかよ、とキリカは思った。「しかし」と羽根は付け加えた。

 

 

「この画像の出処は別でして」

 

「エロサイトとか?」

 

「御名答」

 

「…はい?」

 

 

 キリカは冗談のつもりで言った。しかしそれは是であると言われた。

 

 

「海外のエロサイトに載ってました。多分というか内部の連中がリークしたんでしょう」

 

「あー…ええと」

 

 

 どこから突っ込もうかな、とキリカは考えた。

 なんでエロサイト観てるの?という問い掛けを内心で整理すると、自分も勉強用によく見てるから別に不思議じゃないとなった。

 少女の死体がそういったジャンルで投稿されている事に関しては、そういう性癖もあるだろうとキリカは納得した。

 となればと質問は決まった。幸いと言うべきか、答えはあちらからやってきた。

 

 

「このメスガキはめっさ嫌われてましたからね」

 

「正直、思い出すのも嫌でした」

 

「こいつに関しては憐れみは思い浮かびませんな」

 

 

 羽根達の口々の声。口調からして相当に嫌っていたようである。

 

 

「画像はこれ以外にもありまして」

 

「砕かれたソウルジェムや」

 

「首の断面の拡大画像」

 

「手足の接続を外して遊んだ様子など」

 

「五十枚ぐらいの差分がありました」

 

「うわぁ…」

 

 

 客観的に見てエログロの権化でもあるキリカであったが、自分でやる事と見ることはまるで違うらしく羽根達の言葉には引いていた。

 当然のリアクションなのだが、異常が通常のキリカであるのでまともな行動や情動が異常に思えるのだった。

 

 

「んなことやったら、また例のアレ……ええと、マギウス司法局縮めてMJDだったっけ。あの残念で残忍な変態集団に狩られるじゃないか。学習しないのかい?」

 

「多分今頃あの連中がお仕事してるのかなと思います」

 

「二度目ですが、マギウスは人数も多いですからね」

 

「その分アホで間抜けなお馬鹿どもも多いのです」

 

「まぁかくいう私達は」

 

「マギウスの落ちこぼれ集団だったのですが」

 

「あの変態…いえ、アリナさんに拾って貰えたのです」

 

「へぇ」

 

 

 キリカの一声は感心の響きを帯びていた。しかし一転し、黄水晶の眼に鋭い光が宿る。

 感心の対象も、眼光を鋭くさせた原因も同じ存在であった。

 

 

「ところで、アリナ」

 

「yes,my master」

 

「さっきみた画像が無惨だったけど、私に比べてたら可愛いもんだよねぇ…」

 

 

 触れれば即座に氷結しそうなほどの冷たい目で、キリカは眼の前のアリナに言った。

 遠くにいた筈のアリナは何時も間にかそこにいた。

 変態の為せる業だとして、誰も疑問に思っていない。

 

 

「あ、ええと……どれ、かな、かな?」

 

 

 一瞬にして顔一面に汗を浮かべたアリナは引き攣った笑顔でそう言った。

 対してキリカは微笑んだ。あまりの美しさに気絶しそうになったのを、アリナは必死に堪えた。

 

 

「私の肉体を、再生能力を暴走させて沢山作って」

 

 

 ゆっくりと、丁寧にキリカは語る。

 アリナは脳内検索を掛けていた。

 キリカの肉体を量産させたのは、一度や二度ではなく対象が絞れないのである。

 

 

「全部の肉体に意識を共有させたうえで、両脚を縛って逆さ吊りにして首を掻き切って」

 

 

 話を聞いている羽根達も、アリナを非難の視線でじっと見ている。

 なお此処に至っても、まだキリカが何を指しているのか絞れていない。

 候補はまだ十ほどもあるからだ。

 

 

「流れ出た血をぜぇんぶ一滴残らず、魔法で作ったプールに溜めて」

 

「あ」

 

 

 そこで漸く察しが付いた。しかしながら、まだ四つも候補が残っている。

 

 

「私の血で作ったプールに、私の肉体を切り刻んで作った人体の部品を投げ入れて、その後自分も裸でダイブして遊びくさってたよねぇ」

 

『最悪なの』

 

 

 アリナ自身の口から、彼女とは異なる意見が放たれた。断罪の言葉だった。

 

 

「お前は私の血のプールに潜って、私の頭や内臓を探して遊んでたよね。四肢切断して動けなくなった私を浮袋みたいに抱っこしながら」

 

『変態すぎるの』

 

「あ、その時の動画が残ってました」

 

 

 硬直するアリナの前を横切り、先程の白羽根がキリカに端末を差し出した。

 別に見たくもないんだけど、とキリカは思ったが折角の好意だからと受け取った。

 好意なのか?という疑問は、再生ボタンを押してから生じた。

 先程キリカが口にした言葉が映像となって展開されていた。

 

 海外の裕福な家庭の敷地内に設けられているような小さめのプールをキリカの血で満たし、その中で四肢を喪ったキリカを抱いて血塗れの遊泳を行っているアリナの姿が。

 顔は恍惚に蕩け、感極まっているのか両眼からは涙が溢れ続けている。

 あらゆる感情を喪失したかのように茫然となっているキリカと異なり、アリナは生の喜びに満ちているようだった。

 首にはキリカの腸らしき内臓が巻かれ、時折潜っては血の中に沈んだり浮かんだりしているキリカの人体部品を探し集めて喜んでいる。

 動画の時間を確認すると、「336h」の数字が見えた。

 少なくともこの異常行動は、二週間に渡って続いたらしい。

 

 

「何か言う事はあるかい?」

 

 

 キリカの声は更に闇を孕んでいた。

 その声に興奮しつつ、アリナはどう返すべきかを考えた。真面目に、心底から本気で考えていた。

 そして、その結果は。

 

 

「てへ」

 

 

 可愛い女の子達がきゃいきゃいと日常を過ごすアニメの一幕のような、失敗を茶化す様子をアリナは真似た。

 キリカがアリナを殴る前に、その顔に拳が叩き込まれた。

 それは、アリナ自身の右拳だった。右頬をぶち抜き、血と肉と歯が飛んだ。

 

 

『キリカちゃん!今なの!このド変態の腐れ外道をブッ殺すの!!』

 

 

 アリナは叫んだ。彼女曰くのフールガールの叫びだった。

 仰向けに倒れたアリナの顔を、キリカは目にも止まらぬ速さで踏み付けの連打を見舞い始めた。

 

 

「死ねアリナぁぁあああああああ!!!!!」

 

 

 叫ぶキリカ。

 と、そこに黒い風が舞い込んだ。

 それは、蕩けた黒い鳥のような姿。それを纏った少女であった。

 その少女、黒江とキリカは一瞬視線を交わした。キリカは頷いた。黒江もまた同じく頷く。

 

 

「「うぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」

 

 

 キリカと黒江。二人の黒い魔法少女の叫びは完全にシンクロしていた。

 アリナの顔面を全力で踏みまくるのも、完璧な連携が取れている。

 それは極大の怒りが生んだ、奇跡の同調であった。

 

 

 

 


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