魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第82話 絶えたもの、絶えぬもの

「もう一度!治癒魔法を全開発動!」

 

「了解!」

 

 

 十人の白羽根を中心に、残った黒羽根達が魔力を紡ぐ。

 円を組まれた中心には、魔力で作られた寝台に横たわる少女がいた。

 羽根達とよく似たローブ風の黒い衣装を纏った桃色の少女が、眼を閉じて荒い息を吐いている。

 並ぶ羽根達が持った得物に治癒の魔力が宿り、それが中央の少女へと金色の輝きとなって向かう。

 光が着弾した時、少女の体の震えが弱まり呼吸も和らいだ。

 ほんの一瞬だけ。

 

 

「-------------------ッ」

 

 

 眼が見開かれ、背中が大きく仰け反る。開いた口からは黒々とした血液が吐き出された。

 背骨は折れそうなくらいに曲がり、少女は無音の絶叫を上げていた。

 肌の上を直に覆った、黒味を帯びたワイン色のタイツは汗でじっとりと滲んでいた。

 そのタイツの下では肉が蠢いていた。腹と脚、腕を覆うタイツが至る所で小指大の隆起を見せ、それが小さな生き物のように移動し増殖していた。

 腐肉を喰らう蛆虫の様子を、連想せずにはいられない光景であった。

 

 

「…どうなってんだよ、あいつ」

 

「あいつじゃない。環さん。環いろはさん」

 

「じゃあ聞くけどさ。ありゃなんだ?生き物に喰われてんのか?」

 

「答える気は無い」

 

「力になれるかもしれねぇだろ」

 

「そのザマで?」

 

「その言葉はそっくり返してやるよ」

 

 

 宴会場の隣。どこか学校の教室に似た造形の開けた空間にて一同は終結していた。

 白羽根と黒羽根の円陣から少し離れた場所で、魔法少女姿の佐倉杏子と黒江は壁を背にして座っていた。

 険悪な雰囲気であったが、杏子の態度には確かな軟化が見えた。

 だが今の二人の有様は酷いものだった。杏子は既に左腕を欠損していたが、それに加えて右脚も膝から下が無かった。

 脇腹も肉が抉られ、包帯で巻かれてはいたが布のすぐ下には外に漏れかけの臓物があった。

 黒江も両腕を肩から喪失しており、右頬も大きく裂かれてまるで肉食動物の口のように広げられていた。

 

 

「……あー……」

 

 

 杏子は隣に視線を送ると、そんな声を出した。

 黒江はそれを奇行と思い、怪訝な視線を送った。

 

 

「何?五月蠅いんだけど」

 

「悪い、やり過ぎた」

 

「……何?」

 

「やり過ぎた。あたしが悪かったよ。ごめんな」

 

「………」

 

 

 どういう風の吹き回しだろうか。黒江はそう思った。

 佐倉杏子と会うのはこれが三度目だが、うち二回は殺し合いに発展していた。

 初戦では黒江は杏子の顔の皮を剥ぎ、黒江も反撃で手傷を負った。

 二回目は戦場となったプレイアデスの本拠地を半壊させるほどに暴れ狂い、両者は互いの内臓を引き摺り出し合った。

 その後は黒江の部下らしい、黒と名乗ったこれもまたローブ姿の魔法少女のとりなしによって両者は手を引く羽目となった。

 今回もいろはを担いできた黒江が杏子を見た瞬間に沸騰し、死闘が展開された。

 幸いであったのは、負傷の程度で言えば二人は日ごろのものと比べれば比較的軽傷であり、戦闘時間も二分程度で済んだ事であった。

 そうなった原因とは。

 

 

「痛むか、ナガレ」

 

「別にって言いてぇけど、少しな」

 

「素直でよろしい」

 

 

 杏子と黒江から少し離れた場所では、二人と同じように壁に背を預けたナガレがいた。

 彼はと言えば、両手の指先から肘までを包帯で覆われていた。

 その隣では、彼の手に包帯を巻いている麻衣がいた。

 包帯を巻かれたナガレの腕や指は微妙に歪んでいる。折れているのだろう。

 その近くでは、佐木京が立っている。

 ナガレを介抱する麻衣を、瞬きをせずにじっと見ている。

 麻衣の額には汗があったが、それは京の執拗な視線に晒されているからに違いない。

 

 

「…分かった。私の方こそやりすぎだった」

 

 

 そう言って黒江は軽く頭を下げた。

 杏子の様子に感化されたのと、京の様子を見て争いの火種を灯す事の虚しさを感じたようだ。

 前者は兎も角として、何が平和の使者となるか分かったものではない。

 

 

「ところで、あのオリ主みたいなのは?」

 

「あたしの彼氏」

 

「……大丈夫なの?」

 

 

 黒江の声には心配があった。

 会敵時に杏子を狙って放った一撃を受け止めたのも、殴り飛ばした杏子へのトドメの一撃を防いだのもナガレであった。

 

 

「ああ、よく」

 

 

 仲良く殺し合ってる。何の疑問も無しに杏子はそう答えようとした。

 それが自分たちのセックスだから。

 愛してるからグッチャグチャになるまで何時間でも何日でも殺し合って、互いの血と体液に塗れて抱き合って死んだように寝る。

 それがもう楽しくて愛おしくて堪らない。もうこの感覚からは抜け出せないし抜けたくない。

 完全な正気のままで、確信と恋慕の想いを込めて杏子はそう黒江に告げるつもりだった。

 そう言っていたのなら、間違いなく杏子の好感度は再び失墜し、この異常な愛を受け入れているナガレは異常を超えた異常な性癖の持ち主と判断された事だろう。

 

 

「環さぁぁあああああああんんんんんんん!!!!!」

 

 

 部屋のドアが開き、絶叫と共に緑色の疾風が室内に訪れた。

 瞬間、杏子の隣は空白地帯となった。黒く禍々しい風が、叫ぶ緑へと躍り掛かっていた。

 

 

「死ねえぇぇええええええええええアリナぁぁあああああああ!!!!!」

 

 

 叫ぶ黒江はドッペルを展開し、拳となった翼でアリナの顔面を殴打していた。

 倒れたアリナへと向け、人の上半身よりも大きな拳を振り下ろす。

 

 

「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええええええええええええええええええ!!!!」

 

 

 凄まじい憎悪と共に、巨大な拳が機関銃の勢いで振り下ろされ続ける。

 それは佐倉杏子へと向けた怒りと憎しみなど、到底及ばない煮え滾った感情の発露であった。

 

 

 

 

 


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