魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第81話 地獄の種類

「さて、ここが正念場なんだヨネ」

 

 

 凛々しさを帯びた声が鳴った。

 地を踏み付ける運動靴が、摩擦によってジャりっとなる音が追従するように響く。

 

 青みがかったジーンズ、群青色のジャケットに黒いシャツ。

 露出した肘の先には、五指を出した穴付きの緑の手袋。

 赤を基調とした帽子には、独特の筆記で描かれた『A』の文字が白地の上に深緑色で描かれている。

 冒険者のような服装に身を固めた少女の前には、大小さまざまな無数の鏡が広がっている。

 鏡を鏡が映し、無限に等しい反射を作りだしている。

 

 青い湖面のような鏡の表面に、水面のような波が浮かぶ。

 そしてその中から、異形達が顕れ出した。

 真紅の龍、紫の大蛇、漆黒の蝙蝠に白銀の猛虎、鋼の翼を持つ白鳥に緑色の装甲を纏った猛牛など。

 機械の趣を持ち、また所々に肉らしきものを付けた異形の怪物たちであった。

 

 微妙な差異を生じさせつつも、同一種と思しき怪物達は鏡の反射を体現しているかのように後から後から湧いてくる。

 空中にも浮かぶ鏡に己の姿を反射させて蛇行する漆黒の龍は大きさが二十メートル近くあった。

 牙だらけの口からは体色と同じ、漆黒の息吹が吐き出された。

 地面へと着弾した息吹は津波のように跳ね、何体かの異形達を巻き込んだ。

 飲み込まれた異形は瞬く間に色を喪って動きを止め、黒龍はそれらを数体纏めて喰らった。

 

 

「wow、石化ってやつネ」

 

 

 異界の食物連鎖を眼にした少女であったが、怯えた様子は微塵も無い。

 息吹の衝撃で少しずれた帽子を被りなおす。

 

 

「でも、呉キリカには指一本触れさせナイ!」

 

「死ね」

 

 

 少女、アリナの背後に立つ呉キリカは冷たい声で吐き捨てた。

 それがどう脳内変換されたのか、アリナはそれを声援と捉えた。

 二人の少女へと、無数の異形達が殺到していく。

 

 

let`s,party!(さぁ、戦いだ!)

 

 

 そこに向け、アリナは自ら走り出した。

 両手を高々と掲げ、五指を曲げて疾駆する様は、どちらが怪物なのか分からなくなるほどの鬼気に満ちている。

 

 

「ミラモンゲットだぜぇええええええなんですケドぉぉぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「死ね」

 

 

 歓喜の熱に満ちたアリナと絶対零度のキリカであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何やってんだあいつら…」

 

 

 宴会場に置かれたテレビに映る映像を前に、佐倉杏子は茫然と呟いた。

 ちなみにテレビとは今どきの大きめで薄型のそれではなく二昔くらい前の小脇に抱えて運搬できるくらいの大きさの、正方形に近い形をしたものだった。

 床に置かれたその前に杏子は座り、その周囲をずらりと羽根達が囲んでいる。暑苦しい様子であった。

 

 

「それがですね」

 

「里見灯花が死んだと聞いて、インスピレーションを受けたらしく」

 

「あの変態は今、ご覧の通りアートの素材調達を行ってます」

 

 

 羽根達が言いにくそうに説明をした。

 ご覧の通りと言ったものの、アリナと魔物たちが会敵した瞬間に映像は途切れてしまった。

 

 

「アリナさん、じゃなくてあの変態の魔法は結界生成でして」

 

「鏡の結界への接続も覚え腐ったらしく」

 

「ご覧の通りコンビニ感覚で、あの地獄に突撃しているのです」

 

 

 ううん、と杏子は言葉に詰まった。突っ込みどころが多過ぎるのと、鏡の結界を危険な遊び場としていたのは自分らも同じなので共感できる部分が多いからだ。

 

 

「おいキリカ、元気に死んでるか」

 

 

 テレビの前に置かれたマイクを掴み、杏子はそう言った。返事は即座にあった。

 

 

『死にそう』

 

「そうか。同情するよ」

 

 

 砂嵐が流れるテレビからはキリカの声が発せられた。

 どうやらこのテレビの映像はキリカの視点からのもので、映像の乱れは魔法で作った機械か何かが壊れたか壊したかしたためだろう。

 幸いと言うべきか、音声は明瞭だった。

 

 

『私をこの変態に付き合わせておいて、同情もなにもあるものか』

 

「だってお前、そいつらの元ネタに詳しいんだろ?ええっと」

 

『魔女モドキの新種、別名「ミラー『』モンスター」だ。いいか、ズを抜くなよ。絶対抜くなよ。ついでに私は詳しいといっても小説派だから別に必要以上には』

 

「wow!amaizing!」

 

 

 キリカの警告を遮るように、アリナの叫びが聞こえた。声は相変わらず歓喜に満たされている。

 生まれて初めて動物園に連れていかれた子供も、こんな反応をするんだろうなという無邪気な悦びがあった。

 声の奥には振動による破壊音が鳴っている。それは、足音に思えた。

 

 

「なんだ。使徒とか量産機でも出たか」

 

『近いね』

 

「はい?」

 

『なんかジェノサイダーみたいなのが何体も練り歩いてる。大きさもなんか…うん、使徒みたいにデカい。足が無くて下半身が蛇になってるのとか、逆に足がめっさ増えてて百足みたいのになってるのがいる。色も赤に金銀にと色々。尻尾が槍や重火器みたいになってるとか、全身から針を飛び出させてるハリセンボン状態のもいてカオス』

 

「加勢が必要かい」

 

『いや、もう済んだ』

 

「あん?」

 

『素材大量ゲットォォオオオオ!!!yeaaaaaaaaaahaaaaaaaaaaaaaa!』

 

 

 アリナの叫びが再び木霊する。少女の方向の奥に、何か巨大なものが倒れるような音と、複数の獣を合わせたような叫びが聞こえた。

 歓喜で出来たアリナのそれとは異なり、叫びは悲鳴に聞こえた。

 

 

『こいつほんと、さっさと死なないかな。この異常な強さと引き換えに、戦う度に年単位で寿命が縮むとか』

 

『ホワァッ!?』

 

 

 キリカの願いとは裏腹に、アリナの声は元気で一杯だった。

 

 

ホ、ホワッツ!?(な、なんだぁっ!?)レッドなドラゴンとダーク・コウモリ、パープル色のスネークがバイクになったんですケド!』

 

「どういう状況なんだよ…」

 

『多分だけど、この腐れ外道の乱獲のせいで、生存本能を刺激されまくってるんだろうね。要はサバ』

 

 

 キリカの声を遮り、破壊音が連なる。何かが複数放たれ、それらが爆発しているような。

 その爆音は激しさを増す一方だった。

 

 

『そう…そうだったのネ……』

 

 

 燃え盛る炎が辺り一面に広がる、という光景が容易に脳裏に浮かぶ破壊音の中で、アリナは静かに呟いた。

 

 

『ユー達は素敵なmirrorなmonsterである事に加えて、愉快なTRANSFORMERSだったってワケね!!』

 

 

 アリナは高らかに宣言した。その声は、自信と確信に満ちていた。

 

 

『分かったかい、風見野のお仲間達とネオマギモブのみんな』

 

 

 重金属のような重さと、冷たさで出来た声をキリカが絞り出す。

 

 

『こいつに執着されるとこうなるんだよ』

 

『超excitieeeeeeeenggggggg,TRAAAANSFOROOOOOMERRRRRRRRRS!!!!!!!!!!!!!!』

 

 

 アリナの叫びに、タイヤが地面を削る疾駆の音が聞こえた。

 それには何やら巨大な獣の咆哮も混じっている。

 恐らくだが、先程言っていたバイクに変形した存在の内の一体を捕獲し乗りこなしているのだろうと。

 地獄にもいろいろな種類がある。そう誰もが思った瞬間であった。通信が途切れ、テレビが切れた。

 そして

 

 

「出て来なさい!変態腐れ外道のクソゲスアリナ!!」

 

 

 裂帛の叫びが宴会場を貫いた。

 一同が一斉に振り返った先には、巨大な黒い鳥のような姿が見えた。

 そしてその背で荒い息を吐く、黒い装束の桃色髪の少女の姿も。

 




















あけましておめでとうございます

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