魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第79話 饗宴⑦

「朱音麻衣さん」

 

「貴女は」

 

「正常です」

 

「何一つとして」

 

「おかしくなどありません」

 

 

 麻衣を取り囲む羽根達は口々に言った。

 示し合わせた様子など無いのに、すらすらと一文の言葉が紡がれる。

 

 

「自信を持って」

 

「良いのです」

 

「…うむ」

 

 

 どうしたものか、と朱音麻衣は考えた。

 愛する者との血深泥の戦闘行為を性行為と捉えている事を、全肯定されたことについてである。

 麻衣としてはその感情は本物であり、愛しているからこそ殺し合うに値する。

 命と命を重ねる性行為だと認識している。

 だが客観的に見たら、これはちょっとおかしいなと思う程度には麻衣も正気だった。

 それを否定ないし、やんわりとした言い方で方向転換を促されないことに麻衣は困惑していた。

 自分の考えを示すべきか。

 そう考えていた時だった。

 

 

「しゅきしゅきだいしゅきゲーム、はーじまーるよー」

 

「わー」

 

「わー」

 

「わー」

 

 

 先程とに見た光景と酷似したものが、再び麻衣の眼の前で展開し始めた。

 知能指数を極限まで下げたような、そんなタイトルを理解するまで麻衣の脳は少しの間を要した。

 

 

「それでは朱音麻衣さん」

 

「はい」

 

 

 当然のように、麻衣に話が振られるのであった。

 

 

「早速質問ですが、あなたのしゅきしゅきだいしゅきな人は誰ですか?」

 

「例えるなら、あなたが双樹さんならメタルゲラスは誰です?」

 

「………」

 

 

 麻衣は両手で顔を覆った。

 闇の中で思考する。

 あの変態の性癖は割と有名らしいということ。

 そして好きという感情を持つ人物とその対象を例えにするのなら、先程と同じくアリナとキリカでいいだろうにという突っ込み。

 そこから考えられるのは、変態を超えた変態に愛されるキリカに、羽根達が深い憐れみを抱いているということだった。

 しかし、答えは決まっている。

 眼を開き麻衣は指の隙間から愛する者を見た。

 その瞬間、

 

 

パシャリ

 

 

 という音が鳴った。

 そして、血色の眼を閃光が出迎えた。

 一瞬の後、光に染まっていた視界が元に戻る。

 開けた視界を前に、麻衣の呼吸は途絶した。

 

 

「麻衣ちゃん、とってもかわいいねぇ……」

 

 

 いくつかの座席の列を超えた先には、ナガレがいた。

 そしてその隣には、佐木京が座っていた。

 光と音は、彼女が持ったカメラが発したものだった。

 

 

「少なくともあの方にとっては」

 

「ネオマギウス新メンバーの佐木京さんにとっては」

 

「朱音麻衣さん」

 

「あなたこそが」

 

「しゅきしゅき」

 

「だいしゅき」

 

「その対象に違いありません」 

 

「」

 

 

 羽根達の一糸乱れぬ宣言に、麻衣は打ちのめされていた。

 先程から、言葉に含まれる情報が多いに過ぎていた。

 

 

「…京、もネオマギウスに入ったのか」

 

「私もですよ、麻衣」

 

「!?」

 

 

 京の隣に座るものの存在に、麻衣は漸く気付いていた。

 風見野自警団のリーダー、人見リナである。

 京とリナはともに私服となり、京はナガレの隣に、京の隣にリナが座っている。

 何時からここに居たのか。

 麻衣には見当が付かなかった。

 

 

「ねぇ、麻衣ちゃんを寝取った人」

 

「さっきから言ってんだろ。そういう事はしてねぇよ」

 

「実態じゃなくて、精神の問題なの。それで、もっといろいろと教えて」

 

「いいけど、何に使うんだ?」

 

「あなたを殺す。麻衣ちゃんの心を、あなたから解き放ってあげるの」

 

「真剣だな。じゃあ協力は惜しまねぇよ」

 

 

 麻衣の視線の先では、京とナガレが何やらやり取りをしていた。

 何処からか取り出したノートに何かを書くナガレ。

 それを熱心に見る京。

 瞬きは一切せず、血走った眼で凝視し、時折殺意に満ちた視線をナガレに注いでいる。

 隣に座るリナは、上品そうに飲み物を傾けていた。

 だが居心地が悪いに過ぎるのか、額には無数の汗が浮かんでいる。

 その一つが落下した。

 汗の一滴がリナの胸元で弾けた。

 

 

「ああ、これですか」

 

 

 麻衣の視線を追っていたらしい羽根が声を掛けた。

 観察される怖さ、というのを麻衣は感じた。

 

 

「あそこのオリ主がアリナさんに吹き込んだらしいのですが、どこか遠くにある政治団体というか軍隊のシンボルマークだそうです」

 

 

 白羽根が指先で摘んでいるのは細い鎖。

 その先には、掌の半分程度のサイズの赤い金属板がぶら下がっていた。

 

 

「…随分と攻撃的な色合いと…禍々しい形だな」

 

「アリナさんもといあの変態曰く、『destron』だか『decepticon』とかいう団体だそうです」

 

 

 態々言い直すあたりに、羽根達のアリナへの印象が伺える一幕であった。

 改めてこのエンブレムを見る。

 赤はオレンジじみていて明るい色だが、形は鉄仮面のそれであり、しかも刺々しく禍々しい。

 

 

「…これを下げている、という事は」

 

「ええ。これが我らネオマギウスの新エンブレムです」

 

「新、というと」

 

「変更されました。ついさっき」

 

「ええ…」

 

 

 そういえばと記憶を辿ると、翼を広げた鳥のような金色のエンブレムをぶら下げていたような気がした。

 更にはローブの額にもそれと同じ刻印がされていたような。

 改めて確認すると、今は額に紫色の、そして首からはこの赤色の鉄仮面の紋章が下がっている。

 原型を留めていないというレベルでは無いので、最早別の団体になっている気がしてならない麻衣であった。

 

 

「…いい、形だな。強そうだ」

 

「ありがとうございます」

 

「実際、強い魔力が込められています」

 

「有事には色々と役に立つということで」

 

「なにせ、アリナさんの手造りですから」

 

 

 そう告げた羽根達は誇らしげだった。

 なんだかんだで、リーダーを尊敬しているのだろう。

 

 

「それでは、こちらをどうぞ」

 

「ああ、ありがとう」

 

 

 ごく自然な様子で白羽根はエンブレムを手渡した。

 あまりにも自然過ぎたので、麻衣はお礼を言って受け取った。

 ん、と思った。だが直後に理解した。

 

 

「…私と同じチームの京が、これを持っているという事は」

 

 

 麻衣は視線を送った。それを受けたリナは、一瞬肩を震わせた。

 だが咳ばらいを一つして

 

 

「今後を考え、私達もネオマギウスに加入いたしました」

 

「………そうか」

 

 

 沈黙は、思わず思い浮かんだ抗議を喉まで込み上げてから押しとどめるのに要した時間であった。

 自分が昏睡状態から復活してから、かなりの帰還連絡を怠っていたという事実が麻衣に後ろめたさを与えていた。

 そうやっている間に、何時も間にか麻衣の首には鎖が通され、デストロンないしディセプティコンなる団体のエンブレムが下げられていた。

 その途端、エンブレムの真上にある麻衣の心臓がどくりと鳴った。

 身に着けた事で、そこに宿る魔力を直に感じ取ったのだ。

 

 

「……これは………」

 

 

 苦痛の呻き声のように、麻衣は必死になって声を絞り出した。

 心臓は破裂しそうなほどに鳴っている。逃げろ、という恐怖と、戦意を促された事の高揚によって。

 

 

「これは……凄いな」

 

「ええ、アリナさんのソウルジェムから造りましたから」

 

「……………!?!?!?!?」

 

 

 度し難い事が続くが、これには物理的な衝撃さえ伴っていた。

 

 

「あの変態のソウルジェムの表面を少しだけ削って、剥離させたものを」

 

「アリナさんが乱獲した、ミラーズ結界の中の魔女モドキ達」

 

「悪ノリしてるのは否めませんが」

 

「『ミラーズモンスター』と名付けた連中」

 

「定着しなさそうですが、縮めて『ミラモン』達の」

 

「体組織やらを混ぜて溶かして」

 

「あの変態の魔力を込めてから固めたものになります」

 

 

 意味不明な事が続いて頭痛を、めまいを覚えるというのは大昔から使われている文章や漫画の表現だが、麻衣は実際に頭痛を感じていた。

 色々と酷い。

 酷過ぎる。こんなのってないよ。

 麻衣はそう思っていた。

 その時、宴会場の襖がばっと開いた。

 この時になって麻衣は、その襖は爪を展開して血みどろの闘争を繰り広げる呉キリカのイラストであると気が付いた。

 原型をリスペクトしつつのアレンジが大きく、更には風景画としての趣もある荘厳さがあったために気付かなかったのだった。

 襖に描かれているのは、傘を持った長い髪の少女の胴体を右手でぶち抜き、博士帽らしきものを被った少女の顔面を左手で殴打し爪の先端を後頭部から覗かせている状態のキリカであった。

 子供相手でも容赦しないだろうなと麻衣は思った。

 キリカの体型は出るところは出ているがかなりの小柄であり、精神的にも幼稚園児程度だと思っているからである。

 酷い言い様だが、少し前なら動物扱いだったのでこれでもかなりマシになっていた。

 

 話を戻す。

 開いた襖の先にもまた、呉キリカがいた。

 その身体には

 

 

ヴぁあああああああしゅきいいいいしゅきしゅきしゅきくれきりかしゅきいいいいいいいいいいいいいいいいしゅきしゅぎるんですケドぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 

 

 と叫びながら、キリカの胴体にセミのように抱き着いているアリナがいた。

 両手も足も、キリカの背に回っており身体の前面が完全にキリカと密着している。

 叫び声がくぐもっているのは、アリナの顔はキリカの胸に埋まっているからだ。

 叫び声には、呼吸音も混じっていた。

 キリカの匂いを、アリナは思う存分に吸っているのであった。

 

 

「………殺して」

 

 

 黄水晶の瞳に虚無を満たしながら、呉キリカは呟いた。

 殺す対象とは、恐らく自分の事だろう。

 絶望に満ちた声からは、そんな感情が伺えた。

 

 

 











全てに困惑

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