魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第79話 饗宴③

「うう…こんな風に食事するなんて、修学旅行以来…」

 

「私、サボったから行ってない…」

 

「私も」

 

「私も」

 

 

 私も、という声が唱和していく。その数は二十にも及んだ。

 それが止んだ時、最初に言葉を紡いだものは

 

 

「…最初の数分だけで、あとはトイレに逃げてたよ……」

 

 

 そう言って口を閉ざした。

 何故か、ホッとした雰囲気が漂った。

 

 

「…そういえば、アオちゃん元気してるかな」

 

「ああ、この前ミスドの友達から写メ送られてきた。乳歯が生えてきたみたい」

 

「あの人らも大変だよねぇ。次女さんまだ家出中だっけ」

 

「これ内緒だけど、神浜監獄を探してるんだって」

 

「確かそれ、金髪で背が高い人が看守長勤めてるとこだよね」

 

「相当強い人みたいだよね。どっちも」

 

「また血が流れそう。プロミスドブラッドだけに」

 

「笑えないよ」

 

「そうそう、魔法少女は血塗れがいつもだから、別におかしいことじゃないし」

 

「違う、そうじゃない」

 

 

 並べられた座席の座布団の上に座り、一人用の机の上に置かれた料理を食べたりジュースを飲んだりしながら少女達は会話をしている。

 揃いも揃って白か黒のローブ姿。

 前髪すら伺えないほど目深に被られている上、大体みんな似たような背丈なので声とローブの色を除けばまるでクローンである。

 モブという呼称が相応しい。そんな風にも思えてしまう。

 

 

「あれ何て言ったっけ、たしかMJ…」

 

「…MJD、マギウス司法局だよ。あのイカれ部隊」

 

「あー…嫌なの思い出した」

 

「笛の音はしばらく聴きたくない」

 

「緑髪の子…あの盾の中、一度見たけど忘れられない」

 

「れんぱすちゃん、妙に似合っててなんか怖い」

 

「最近新メンバー入ったらしいよ。仕事が増えたのかな」

 

「そりゃあ、ね…」

 

「きっと離反者の私らを狩る為だよ」

 

「私達全員、あの連中の懲罰リストに載っちゃってるし」

 

「もし見つかったら残酷且つ斬新な方法で拷問されて、ソウルジェムを取られるんだろうね。それで神浜監獄行き」

 

「離反前に聞いたけど、監獄って今は第九まであるらしいよ」

 

「って、離反者多過ぎて草」

 

「離反って言うか、懲罰リストの管理方法がね…」

 

「明確な規定ないしね、あれ」

 

「よっぽどでもない限りはだけど、基本的にはあの連中の感覚に掛かってるって…」

 

「あのメスガキ共、面倒な事はとことん部下に丸投げすっからねぇ」

 

「そんなんだから、みふゆさんは」

 

 

 言葉が途切れ、視線が流れる。

 従うように、会話に参加していた面々が視線を追った。

 視線の先には同じくローブ姿の少女がいた。

 白いローブを纏った姿は、周囲の魔法少女よりもやや高身長に見えた。

 

 よく見れば内側からの衣装のせり上げも、他の少女達より大きい。

 相応に大きな胸を持ち、全体的な肉付きがあるからだろう。

 他には顔を覆うローブもまた、上向きに上げられているように見えた。

 布の張り方からして、頭から何かが生えているような感じだった。

 例えるなら、角のような。

 

 その少女の傍らでは、白と黒ローブの二人があたふたと動いていた。

 どうやら座り続けるのが苦痛であり、ここにいたくないと言われているようだった。

 体格は大きいが、精神性は外見相応ではないらしい。

 その様子を見る魔法少女達の面持ちは、鼻から下が見える程度であったが沈痛なものが伺えた。

 そうしている内に、二人の少女をお供に白ローブの少女は宴会場を後にした。

 そこで漸く、会話が再開された。

 

 

「それで、MJDの事だけど」

 

「今更だけど食事中の話題じゃないよね」

 

「まぁいいじゃん。私らってどうせ浮いた話もないし」

 

「魔法少女やってたら、グロとかには結構慣れるしね」

 

「うーん…これって精神が強くなってるのかなぁ」

 

「麻痺だと思うよ」

 

「そろそろ調整屋さん行った方がいいかもね」

 

「それなんだけど、あの外見そろそろ戻してくれないかなぁ」

 

「未亡人スタイル、っていうのかな」

 

「あの薔薇どこから生えてるんだろ」

 

「それと護衛の人…あ、ごめん、笑いそうになる」

 

「何で笑うのよ。似合ってると思うよ」

 

「半笑いで言われてもねぇ」

 

「何て言ったらいいんだろ、あの外見」

 

「あれよあれ、仮面ライダーナイト」

 

「あー…それさ、本人の前だと禁句。ライダーってのも地雷ワードだよ」

 

「なしてよ?」

 

「ミスドの友達から聞いたんだけどさ」

 

「ふむふむ」

 

「訪れる奴らが毎回毎回「元ネタはナイトですか?」って言うもんだから、最近遂にブチ切れたんだって。同じ事言われ続けて精神的に参ったのと、外見を頑張って考えたのにライダーの物真似扱いが堪えたみたい」

 

「え、あれ本人のオリジナルだったの?オマージュか何かだと思ってた」

 

「本人は特撮とか、そもそもアニメとか漫画には無縁みたいよ。だから知らない存在の真似だとか言われたのが相当頭に来たみたい」

 

「そういえば貧乏で有名だったね」

 

「まだバイトやってるのかな」

 

「もうあの呼び名で呼ばれることはない、とか言ってるみたいだから…」

 

「あっ察し」

 

「人生の悲哀を感じますね」

 

「話が脱線してて草」

 

「もういいよ、MJDは」

 

「そもそも三人?最近二人加わって五人だっけ?それで司法局っておかしくない?」

 

「もしも連中にジェムが取られる時が来たら、最後の皮肉で指摘してやろ」

 

「連中のターゲットになりそうなのって、私らの他には誰がいたっけ」

 

「二木市でやられてたイジメ動画…っていうかあれは…うん…」

 

「あれを流通させてた奴らは主犯格はもう捕まってて、今は残党狩りがされてるみたい」

 

「それと私達の前に出ていった人かな」

 

「あの和風な人かな。ワケありみたいだけど、元々は良いとこのお嬢さん」

 

「あー、あの人か。あんま詳しく知らないんだよね、あの人。マギウスのメンバー多過ぎて」

 

「マギウスって今何人いるんだっけ?」

 

「さぁ。でも並んだ限りだと私達の人数なんて数の内に入らなそう」

 

「だったら見逃してほしいよねぇ。ああもう、懲罰リストなんて書いてないで、男でも作って抱かれてればいいのに」

 

「その発想は大草原。まー、人多過ぎるから会った事無い人が多過ぎるんだよね」

 

「私はちょっとしか会った事ないけど、しっかり者な感じだけどよく物とか壊してたよ。注意散漫なとこがあった気がする」

 

「逃げられるといいんだけどね…いっそ私達の仲間になればいいのに」

 

「まぁまぁ。そろそろこの話題やめとこうよ」

 

「そうだね。飽きてきた」

 

「それに、私達ネオマギウスの中で、MJDの懲罰リストのトップにいるのは」

 

 

 再び視線が動く。一糸乱れぬ統率を彷彿とさせる、機械のような動きだった。

 十数人の魔法少女達の視線の先には

 

 

「キョーキョキョキョ!フレンズ!アリナの胸を見た感想を言って、いや、言えなんですケド!」

 

 

 

 笑いながら、笑っていると演技した上で泣きながら、奇怪な泣き笑いをしている上司の姿が見えた。

 アリナ・グレイ。ネオマギウスのリーダーである。

 そしてその隣には。

 

 

「見てねぇよ。醤油で何も見えなかった。あと泣くな」

 

「ああ…自分の行動の軽率さに腹が立つんだヨネ……ガールみたいな外見してるとはいえ、ボーイの前でバストを晒すなんて……」

 

 

 アリナの言葉の通り、少女の、それも頭に美が付く少女のような外見をした黒髪の少年が座っていた。

 泣くなと言われつつ、アリナは顔を両手で抑えて泣き始めた。

 何か声を掛けようとして、ナガレは口を閉ざした。

 数秒後、アリナは

 

 

「フレンズ…ユーはアリ……ミーの痴態を見た記憶をどう扱うワケ?」

 

「忘れる」

 

「やっぱ見てたんですケドォォォォオオオオオオオ!!!!!!!」

 

 

 他者の会話の迷惑にならない程度の絶叫を上げるアリナであった。

 その様子を見るナガレは、困惑はしつつもリラックスした気分であった。

 普段と異なり、血肉が跳ねる事態にならなそうだと思っているからだろう。

 普段一緒にいる魔法少女達と比べたら、アリナは平和な存在に過ぎるからだ。

 

 

「サラッと混ざってるけど、誰、っていうか何、アレ」

 

「二次創作のオリ主かな」

 

「あ、確かに」

 

「それっぽい」

 

「うん、ほんと」

 

「声もナナチに似てるし」

 

「見た目可愛いし」

 

「多分誰かが魔法で作ったんだよ」

 

「人造オリ主かぁ」

 

「草」

 

「草」

 

 

 遠くで聞こえた声をナガレは拾っていた。

 これまでの会話も、何か役に立つだろうと思って聞いている、というか耳が良すぎるので聞こえている。

 他人が何を思おうが勝手だが、自分を二次創作扱いするとは妙な例えだと彼は思った。

 そもそも、二次創作って何だろうと思っていた。

 だが今の彼の関心は、それまでに聞いた不穏そうな会話にあった。

 この平和も何時まで続くのかねと、そう考えながら彼はジュースを飲んだ。

 また醤油の味がした。

 

 キョーキョキョキョという奇怪な笑い声が隣から聞こえた。

 何時の間にかまた継ぎ足したらしい。

 次やったら怒ろう。

 彼はそう決めた。

 


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