魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第74話 静かなる狂気⑦

「なぁ、その…」

 

 

 あすなろの街をナガレが歩く。その隣にはかずみがいた。

 ナガレの声は、かずみに向けられたものでは無かった。

 二人の少し後ろを歩く、もう一人に投げ掛けられていた。

 

 

「ワッツ、フレンズ?」

 

「何を気にしてるのか知らねぇけど、そんだけしてりゃ十分だろ」

 

 

 二人の少し後ろを、緑髪の少女が歩いている。

 が、その姿は少々、というか異様だった。

 陽射しが強い日中だと云うのに黒いコートを羽織り、頭には鍔広の黒帽子を被っている。

 更に目元はサングラスで覆い、口元も赤い布で覆っている。

 

 

『不審者』

 

 

 かずみは思念でそう評した。返す言葉も無い、完璧な表現だった。

 

 

「フレンズ。フレンズの認識は少し甘いんだヨネ」

 

「ていうと?」

 

「アリ…ミーはこう見えても有名人で、今はちょっと訳アリだから人目を避けたいノ」

 

「そうか」

 

 

 演技でもウケ狙いでもない真摯な言葉に、ナガレは突っ込みを入れることを戸惑った。

 真面目に何かをしている相手に対し、余計な事は言わないようにするというのがこの男の流儀というか習性のようだ。

 

 

『私この人知ってるよ。アリナ・グレイって人だよ。有名なアーティストさん』

 

『博識だな』

 

『生き物の死骸や遺灰を使って色んなのを作るんだって。こういうのは偏見になるかもだけど、多分変態さんだと思う。それも変態を超えた変態』

 

『かもな』

 

『ほっとくべきなんだろうけど、そうしたらしたで面倒だね。連れて行こうか』

 

『お前は賢いな。俺もそう思ってた』

 

『それ、今便乗したでしょ』

 

「ところで、フレンズ」

 

 

 思念で会話するナガレとかずみ。

 かずみへの返答をする前に、アリミー改めアリナは口を挟んだ。

 

 

「なんでア…ミーをlove hotelに連れ込んだワケ?今更だけど説明をプリーズ」

 

「顔面からゴミ箱に突っ込んで、匂いがヤバかったから。それがかなり酷かったから。一番近くて体洗える場所がそこしかなかったから」

 

 

 会話を長引かせても面倒と、ナガレは一気に言った。

 年頃の少女とラブホテルに入ったという事象が嫌すぎて、説明するのも嫌なのだろう。

 

 

「なるほど。そして気絶したミーを起こしてシャワーを浴びさせて、汚れた服は洗濯に回してくれたってコトだヨネ」

 

『説明口調だね』

 

『頭の中整理してんだろ』

 

 

 かずみとの思念の中で発した頭の中の整理に意識を引っ張られたのか、ナガレはその時のことを回想していた。

 街の不良たちを殲滅する直前、名乗り口上的な物を上げて落下してきたこの少女は、三十メートル上空からの受け身に失敗し転倒。

 転げ回った末にゴミ箱に頭から突っ込んで停止した。

 その際の彼女の様子は酷い有様だった。

 ゴミ箱は近場の風俗店から出たものだったらしく、通常のゴミに加えて使用済みの避妊具も結構な量が入っていた。

 

 つまりはそう言う事だった。

 教育上よくないと判断したナガレは、かずみに近くで時間を潰しているように告げて、彼が言った通り緊急事態と言う事でラブホへと入った。

 年少者二人だと云うのに、特に何のチェックもしてこないあたりに彼はモラルの低下を感じた。

 が、彼自身が気絶して白目を剥いた、上半身を精液で濡らした少女を抱えていてはなんの説得力も無かっただろう。

 通報されなかっただけマシだというものである。

 

 

『ご愁傷様。私がナガレの立場だったら泣き崩れてるよ』

 

『お前は優しいな。ありがとよ』

 

 

 通報はされなかったが、フロントの係員の表情をナガレはしばらく忘れられそうになかった。

 生臭い液体の出処は、どう見ても自分にされているだろうし、少女は気絶しているとあればまるで強姦被害者と加害者と思われそうだと。

 量的に考えれば集団暴行を受けたようにも見える。短く言えば最悪の状況だった。

 アリナが早めに目を覚まし、寝惚けながらも服を脱いでシャワーを浴びてくれたことにナガレは感謝していた。

 

 

「ところで、お前さん何やってんだ」

 

 

 ナガレが尋ねた先には、街の壁をボード代わりにして何かをメモっているアリナがいた。

 全身コートに手には白手袋、サングラスに赤いマスクにと完全な不審者スタイルであり、今の状況では何をやっても異常に見えるが殊更に異様に見えた。

 

 

「貴重な体験だったカラ、忘れないように記録してるんですケド」

 

「例えば、何を」

 

「年頃のボーイにlovehotelに連れ込まれたけど何もされなくて、その前には妙に興奮する匂いを嗅いだトカ…あの液体、フレンズは何だか分かる?」

 

「あー…ゴミが発酵とかなんかして、独特の感じになったんじゃねえかな」

 

「ナルホド…一種のケミカルなmiracleってワケね…」

 

 

 言葉遊びを交えながら、アリナは自らの経験をメモに書き切った。

 ナガレはその中身をチラッと見たが、日本語と英語がごちゃ混ぜになった独特の書き方であり全くとして何が書いてあるのか分からなかった。

 分かりたくも無いのだろう。

 

 

「ところでなんだけど」

 

「ホワッツ、フレンズ」

 

『懐かれすぎじゃない?』

 

 

 アリナの態度をかずみは怪しんでいた。一方、彼女も必要以上にはアリナを警戒していない。

 自分も似たような感じでナガレや杏子と出逢った為、妙な親近感でも感じているのかもしれない。

 

 

「あんた、何で俺らのとこに飛び込んできた?」

 

「困ってる感じだったカラ。人助けをするのは魔法少……ンン、ゴホン、げほん」

 

『うわぁ、漫画みたい』

 

 

 アリナの言い淀みにかずみは思念とは言え的確な突っ込みを放った。

 ナガレ的にはこの少女の正体は魔法少女だととっくに気付いているが、アリナ的にはそれを隠したいようだ。

 

 

「失礼。困ってる人を助けるのは、人として当然なんですケド」

 

 

 そう言ったアリナの態度からは、下心や承認欲求などといったものは感じられなかった。

 彼女の言葉は、自らの正しいと思う信念に則った、いわば正義感と呼べるもので出来ていた。

 

 

『不審者全開な外見だから、色々と台無しなのが残念だね…』

 

 

 その様子に、かずみは沈痛な意思をナガレに伝えた。

 ナガレも似た面持ちでそう思った。

 

 一日が始まって、まだロクに時間も経っていない。

 それでこれなのだから、今後は何が起こるか分かったものでは無い。


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