魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第74話 静かなる狂気⑥

「あのね君達、ちょっと落ち着こ?平和にね、ね?」

 

 

 優しく、ゆっくりとした口調で、幼子に語り掛けるように双樹は言った。

 変身は解除されており、ラフな私服を纏った状態となり、パイプ椅子に腰かけている。

 椅子はこの廃ビルに最初からあったものだった。

 敵意が無いことを示す為、双樹は両手を広げて三人へと見せていた。

 

 その三人とは言うまでも無く杏子とキリカと麻衣である。

 こちらは魔法少女姿、変身のそれではなく手製の魔法少女衣装で、こればかりは魔力で形成した得物を携えている。

 三人そろって負傷していたが、頬や肩を軽く切り裂かれたのと打撲程度で治癒魔法さえ使われていない。

 廃ビルの一室に双樹は入室し、同時に三人からの攻撃を受けた。

 刃の一閃で三人を弾き飛ばし、地面や天井に激突した直後の状況が今である。

 双樹は一度、この魔法少女三人の強引な合わせ技で撃破したが、それでも実力では三人を上回っていた。

 何か根本的な物が違う。肩で息をしながら、三人はそう考えていた。

 

 

「(それに…)」

 

「(なんか……)」

 

「(調子が………)」

 

 

 同じく、三人はそうも感じていた。

 武器を握る手の力や振った際の感触。そのどれもに違和感があった。

 そうでなければ、幾ら実力差があるとはいえ纏めて吹き飛ばされるなど有り得ない。

 戦闘を継続すべきかどうか、三人は迷っていた。

 普段なら迷うという段階は踏まれず、狂った獣のように暴れている。

 それが無い時点で、自分たちが不調を来しているのは明らかだった。

 

 原因はなんとなく察せている。

 少し前にナガレと鏡の結界で死闘を繰り広げた際に繰り出した、ドッペル体やら疑似的なゲッターロボの顕現。

 更に極めつけはエンペラーまで繰り出したことによる疲弊。

 それが原因としか考えられなかった。

 歯軋りを一つして、杏子は槍を消した。

 ほぼ同時に残る二人も武装を消し去る。

 三つの舌打ちが鳴った。

 腑抜け、と自分の行動を棚に上げ、他の二人を愚弄しているのだった。

 

 

「君達…部外者の私が言うのもなんだけど、もう少し仲良くできないのかな?」

 

「敵がほざいてんじゃねえ」

 

 

 ソファに身を沈めながら杏子は言った。

 キリカも頷きながら手近な椅子に座り、麻衣は壁に背を預けた。

 

 

「それで貴様、何しに来た」

 

「うん、ちょっと用事でね……それでなんだけど、ちょっとお時間貰ってもいいかな?」

 

「…なに?」

 

 

 刺々しい態度の麻衣。対して双樹の物腰は柔らかだった。

 それも馬鹿にしたり、見下したりの様子では無かった為に、麻衣は肩透かしを受けた気分となった。

 

 

「敵対してばかりなのもあれだから、ちょっと歩み寄りをしようと思って…ね」

 

 

 予想をしていなかった展開に、三人は沈黙した。

 血と暴力が伴わない展開に不慣れというのもあるのだろう。

 

 

「新しい人格か?」

 

「んーん、私はあやせだよ」

 

「そして私、ルカの意思でもある」

 

 

 杏子の問い掛けに双樹達は答えた。口調と雰囲気から、嘘は言っていないと分かった。

 

 

「前から思ってたんだけど、その多重人格なのは願いのお陰かい?」

 

「或いはイジメでも受けて、人格が歪んだ末の発露か?」

 

 

 キリカと麻衣が問いを発した。双樹は困ったような表情になった。

 

 

「ややこしいのは分かるけど、勝手なストーリーを作られるのは困るなぁ」

 

「全くです。私は最初からあやせの内にあり」

 

「私もルカの中にいたのだから」

 

 

 双樹達は答えた。

 過去に関係なく、生まれた時からの二重人格であり、一つの肉体に魂が二つの存在であったのだと。

 

 

「他に質問はない?可能な限り答えるよ」

 

「なんでソウルジェムを奪ってる?」

 

「綺麗だから」

 

「それだけか?」

 

「他に理由がいるの?」

 

 

 杏子の問いに双樹は当然とばかりに答えた。

 杏子はそれで納得した。態度は柔らかでも、双樹は狂人であると思っているからだ。

 狂人に理屈など通用しない。

 納得がいったので質問が途絶えた。そうすると、双樹は慌てだした。

 

 

「あー、うん、ごめん、話が終わっちゃったね…ええと、他に無いかな?質問」

 

 

 身振り手振りがオーバーであり、あまりにも必死だったために三人は罪悪感すら感じていた。

 この三人は総じて邪悪だが、邪悪にも種類がある。

 戦闘と自分の欲望以外に対して、この連中は善の側に属しているのだった。

 

 

「…そのポッケからはみ出してる、ボロっちいソフビ」

 

「メタルゲラスだよ」

 

「ご指摘ありがとよ、キリカ。そのメタル犀…たしか仮面ライダートラストってやつのペットにやけにご執心なのは何でなのさ」

 

 

 杏子の言葉に麻衣とキリカは顔を見合わせた。

 

 

「(なぁ呉キリカ。こいつのにわか知識はどこから湧いてくるんだ?)」

 

「(朱音麻衣。問い掛けは答えが明らかな物だけにしておくれ)」

 

 

 妙にピントのずれた問い掛けに二人は困惑し、双樹は叫びそうになっていた口を強引に閉じて唇を噛みしめていた。

 

 

「…私が子供の頃、遊園地でまだ遊ぶと愚図ってた私に両親が買ってくれたのです。以来、どこに行くにも一緒で今でも寝る時には枕元に置くのです」

 

「その塗装剥げは名誉の負傷か。悪いな、ボロとか言っちまって」

 

 

 杏子はすまなそうに言った。こういうあたりの感性はまともに過ぎている。双樹も頷き、謝罪を受け入れた。

 

 

「という事もあって私はこの子が大好きで、将来は密猟者を取り締まる立場の自然保護員を目指しているのです」

 

「立派な夢だね。メタルゲラスの飼い主とは大違いだ」

 

「あの屑に関して私達は何も話したくない。無関心でいたいから触れないでいてほしい」

 

 

 双樹は努めて無感情に言った。表情の裏側では、嫌悪感が地獄の燐火となって燃えていた。

 よほど考えたくない事柄らしい。

 無理も無いかと原作履修済みの麻衣とキリカは思った。適当に単語を知っているだけの杏子だけが、不思議そうな顔をしていた。

 阻害されている気がしたので、杏子は話を進めることにした。

 

 

「で、そろそろ本題に移ったらどうだい」

 

「…では、お言葉に甘えて」

 

 

 コホンと、双樹は咳ばらいをした。

 物語ならともかく、ほんとにやる奴いるんだ。とキリカは感心した。

 

 

「私が君達から奪ったソウルジェム。それを返還しに」

 

「いらねぇ」

 

 

 双樹の言葉を遮って、杏子は言った。

 

 

「え、いや。だから、その、ええ?」

 

「いらねぇって。そんな役立たずの光物、欲しけりゃくれてやるよ。ソウルジェムが大好きなら、最後まで仲良く添い遂げな」

 

 

 だからもう話し掛けるな。ここには来るな。

 そんな雰囲気を漂わせながらの、杏子の拒絶の言葉であった。

 彼女の声からは、奪われた自らの魂の結晶に対して何の感慨も感じられなかった。

 














ええ…(困惑)

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