魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「ユー…なんで、ユーから、呉キリカの匂いがするワケ……」
寝台に座るナガレへと、緑髪の少女は問いを発した。
「答えて、プリーズ」
腰を屈め、顔同士の距離を限りなく近づけながら、奇妙な喋り方をする少女はナガレの眼を見ながら言った。
深緑の眼は、彼の黒く渦巻く瞳の底を覗き込んでいるかのようだった。
「その前に」
毒々しい瑞々しさを湛えた緑の瞳は、名状しがたい狂気を湛えていたがナガレは毅然と返した。
怯えた風は全く無い。演じているのではなく、全く怖くないのだった。
ただ、少しの疲れと呆れがあった。
「ちゃんと水気を切って、服を着な」
全身はシャワーの温水で濡れ、湯気を立ち昇らせている。
一糸纏わぬ裸体から。
ぴちゃりぴちゃりと音が鳴る。
少女の裸体を這い、床に落下する水音が連鎖する。
深緑の瞳が遠ざかり、後退していく全身を濡らした少女の姿をナガレに見せた。
離れはしても、少女はナガレの眼を凝視し続けている。
「ユー!そこを動かないで!!」
湯に濡れた少女はナガレを右の人差し指で指しながら叫んだ。
スラっと伸びた腕と細い指。芝居がかった動作だが、至って自然に見えた。
叫ぶと浴室へと消えた。が、次の瞬間
「逃げたら赦さないカラ!!」
と扉から半身を乗り出して叫んだ。
逃げねぇよと言う前に少女は扉の奥に消えた。
瞬間、扉が開いた。先程の再現でもしたかのように。
「もう一度聞くけど、なんでユーから呉キリカの」
「おい」
少女の叫びを遮りナガレは言った。
「
と少女は呟いた。こいつもマネモブという奴かと、ナガレはどうでもいい情報を得た。
「何?言い訳ならせめてアリ……ミーが話し終わってからにしてほしいんですケド」
「服を着ろ」
再び顔を覗き込んできた少女にナガレは再度の注文を付ける。
先程の再現のように顔が遠ざかる。黒いパンツだけを穿き、あとは適当に水気を拭った程度の少女がいた。
少女は溜息を吐いた。
「一々緊張感を削ぐボーイ……ボーイ、だヨネ?間違ってたらソーリー」
「男だよ。こんなツラで声だけど」
「シィィィイイイイット!!」
叫んだ瞬間には少女は扉の奥に消えていた。
人間の眼には瞬間移動に見えたが、ナガレにはその過程が見えた。
瞬時に赤面し、胸と下半身を手で遮り、慌てながら扉を開けて中に入っていく様子が。
直後に開いた。
「ユー!アリナ…じゃなくてミーの服はドコなワケ!?」
「あ、悪い。クリーニングのサービスに出してるから、洗面台に置いてあるの使ってくれ」
「サンキュー、ナナチみたいな声と口調のキュートボーイ」
そして閉じて、また開いた。
「おまたせ」
ナガレが用意した服を纏った少女に対し、ナガレは首を傾げたくなった。
右手を前に出し、左手を額に付け、両脚を内側に曲げて八の字を描く。
様になってはいるのだが、何を意図しているのか分からないポーズを少女は取っていた。
拍手でもした方がいいのかな。彼は考えた。その間に、少女はナガレへと接近していた。
「隣、イイ?」
「いいけど、さっきのやらねぇのか?」
「ワッツ?」
「眼を覗くやつ」
「いい加減演出過剰だから省略。気に入ったノ?」
「いや、気にしないでくれ」
「オーケイ。じゃあ今度は…ミーの質問なんだケド」
名前は先程、自爆気味に告げていたがまだ隠したいらしい。
ナガレもそこには突っ込まずに質問を受けたという意思を首肯で表した。
「この服はユーの趣味?」
「別に」
「ふーん」
少女は両手で、ホットパンツの裾を興味深そうに引っ張っていた。
緑髪の少女が纏っているのは、佐倉杏子の私服のスペアであった。
背格好がほぼ同じため、着用に不便は無いようだった。
ただ外見的に、この少女の方が大人びており
「胸がキツいんですケド」
とクレームを付けていた。しかし直後に「ま、イイか」と言い、少女はナガレの隣に座った。
「改めまして、ユー……呼び名が無いのは不便に過ぎるんですケド」
それもそうだと思い、ナガレは名乗ろうとした。
が、それより前に少女は言葉を紡いでいた。
「Hey,ナナチみたいな声と口調のキュートボーイ」
「長ぇんだよ。あと可愛いとか言うんじゃねえ」
憤慨するナガレの態度に、少女はナナチ扱いは良いのかという疑問を抱いた。
自分で例を出しておきながら、中々に勝手な思考だった。
「ユーから呉キリカとの接点が感じられるんだけど、ユーはキリカから何て呼ばれてるノ?」
「友人」
ナガレは素直に認めた。伝えても問題が無い事だと思ったのである。
瞬間、少女は背を仰け反らせた。感電でもしたかのように。
「友……人……呉……キリカの……あの……地球が…宇宙が生んだ奇跡……究極で……至高の………美しい存在の……友人………」
少女は震えていた。歯の根は合わずに歯がガチガチと鳴り、両手で我が身を抱いて震えている。
まるで極寒地帯にいるかのように。
それでいて、表情は恍惚と輝き蕩けている。
そんな奇妙な様子を、ナガレは黙って見ていた。
一瞬たりとも気が置けない存在であると、彼の本能が呼び掛けていた。
少女の震えが止まった。
「フレンズ」
呪文でも唱えるような、厳かな発音で少女は言った。
「フレンズ。ユーは呉キリカの友人なら、アリ…ミーのフレンズなんだよネ。よろしく、フレンズ」
興奮冷めやらぬといった表情で少女はナガレに握手を求めた。
少し迷ったが、ナガレは手を差し出した。少女は彼の手を掴み、上下に激しく振った。
それはいつ終わるともなく続いた。
「(年頃の女の考えって、ほんと分からねぇな)」
腕を振られる中、ナガレはそんな事を考えていた。
実質、何も考えていないのと同じである。
こいつもまともな存在ではない事の証明だった。
…何なんだこのキャラは