魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第74話 静かなる狂気③

「………」

 

「………」

 

「………」

 

 

 廃ビルの中。

 テーブルに配された椅子に座る佐倉杏子、呉キリカ、朱音麻衣の三人は黙っていた。

 だが口は動いており、手はナイフとフォーク、または箸を用いて食事をしている。

 杏子は血が滴りそうなレアなステーキ、キリカは濃厚なソースが絡められたカルボナーラスパゲティ、麻衣はいい具合に焼けた生姜焼きと、それをオカズにして白米を食べていた。

 廃ビルの中にはどこから用意してきたのは大きな冷蔵庫が三台もあり、その内の一台は食材がぎっしり詰め込まれ、今は外出中のかずみが残していった料理が二台の冷蔵庫の中で保管されている。

 今は昼頃近くになっており、早めの昼食兼遅めの朝食を三人は摂っていた。

 同じ建物の中で、同じ食卓を囲んでいるのに誰も会話をしようとはしていない。

 それに対して居心地が悪いとかストレスを感じるとかも思わない辺り、連中の精神の強靭さというか怪物性が伺えた。

 

 一時間ほどを掛けて食事を終えた。時間を掛けているのは食事を楽しんだからである。

 

 

「呉エリカ」

 

 

 皿洗いを終え、思い思いの場所で寝転がったり椅子に座って食休みをしている中で佐倉杏子はそう言った。

 因みにこの連中は今も手製の魔法少女服を着ている。気に入ったのだろうか。

 

 

「あたしが投稿してるネット小説の登場人物なんだけど、今死んだ。死に方聞くかい?」

 

 

 スマホを弄りながら杏子はそう言った。

 暇だったので麻衣はそちらを見た。

 

 

「読んで欲しいのか?」

 

「まぁね。毎日更新してるってのに五人くらいしか見てくれてねぇ」

 

「五人もいることに感謝すべきだろう」

 

「なるほど。あんたにしちゃあ、いい考えだ」

 

 

 納得する杏子。そこにううむ、という可憐な唸り声が届いた。

 

 

「えりか、かぁ…」

 

「なんだ?悲しい過去か」

 

「よく分かったね」

 

 

 キリカは感心したように言った。対して杏子は嘲りのつもりで言った言葉が的を得てしまった事に困惑した。

 

 

「昔、えりかっていう幼馴染がいてねぇ。仲良く遊んでたんだけど、万引きの濡れ衣着せられた後にそれっきりになっちゃった」

 

「……名前、変えとくわ。あんたの名前に……いや、あたしのでいいか」

 

 

 雨が降ってきた、止んだといった現象を告げるような、淡々としたキリカの口調だった。

 嘘を言ってるとは思えず、杏子はスマホを操作し始めた。文章の中では、呉エリカから佐倉キョウコへと名前を変えられたキャラクターが筆舌に尽くしがたい暴力行為の果てに一切の救いの無い最期を迎える様子が描かれていた。

 

 

「平和だな」

 

 

 今の現状を麻衣はそう評した。キリカは頷き、杏子は苦々しい表情となりつつも顎を引いて肯定した。

 

 

「静かならそれに越したことは無い」

 

「ああ、頭を冷やすのは大事だ。あたしらはどうかしてた」

 

「うむ。全くだ」

 

 

 三人は少し前の事を振り返った。

 互いの身体に同化させたナガレの血肉を、自分以外の二人を喰らって自らに取り込むという度し難いにも程がある考えをこの連中は持った。

 戦端が開かれる寸前までいったが、同時に『不純物が多い』という考えに至り三人は槍と爪と刃を収めた。

 必要なのは彼の血肉で、他は不要なのである。

 大体、何より…

 

 

「友人はどうせ十数時間か数十時間後に帰って来るしね」

 

「だな。喰うのはそっちでいい」

 

「それまでに鍛錬を終えておくか」

 

 

 この魔法少女、というよりも怪物。雌餓鬼とでもいうべき連中が導き出した答えはこれだった。

 冗談など一切なく、表情は真面目そのものである。

 人生の目的を見つけたような、そんな晴れやかささえあった。

 

 朱音麻衣は席を立ち、稽古道具の準備をし始めた。

 部屋の片隅に置かれている稽古道具…両手首に巻く重りや、ナガレが置いていった多種の武器を集め始める。

 剣以外にも使えるものは増やそうというのだろう。

 

 一方のキリカはその場に留まる事を選んだ。

 ソファに寝転がりながら、机の上に重ねた漫画を黙々と読んでいる。

 『龍を継ぐ男』というタイトルが見えた。

 キリカが黄水晶の視線を注ぐ頁の中では、グロテスクで面妖な覆面を被った筋肉男がポージングを極めながら何やらイベントのルールを説明している。

 どう見てもスパム・メール以下としか思えない内容と5000万ドルという非現実的な賞金にも関わらず、世界各国から参加者達が日本に上陸する様子が描かれていた。

 

 最後に佐倉杏子はというと、無言で立ち上がり部屋の出口を目指して歩いていた。

 自慰る気だろうな、とキリカと麻衣は思い、実際本人もそのつもりだった。

 部屋の外へ出るドアノブへと手を掛けた時、杏子は背後に飛んだ。

 麻衣も手に抱えていた稽古道具やらを投げ捨て、キリカも飛び起きた。

 それでいて今にも崩れそうなほど積み上げられていた漫画が小動もせず、今読んでいた漫画に付箋をしているところが彼女らしい。

 

 入り口から距離を保ちつつ、杏子を正面として左右にキリカと麻衣が立つ。

 既に得物で武装し切っ先を向けている。

 そして扉が開いた。

 

 

「突然失礼」

 

 

 ポニーテールの髪を揺らしながら恭しい一礼を交え、その少女は入室した。

 そんな彼女向けて三つの影が、武具を携えて襲い掛かったのは言うまでも無い。

 

 

 

 

 

 


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