魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第74話 静かなる狂気②

「なぁ呉キリカ」

 

「なんだい朱音麻衣。このテンプレ遣り取りにも飽きてきたから話を進めると、こいつをどうするかの質問だろう?」

 

 

 白手袋に包まれた繊手の人差し指で、キリカは佐倉杏子を指さした。

 相変わらず項垂れた状態でソファに座り、ピクリとも動かない。

 普段ならばこの距離に接近したら即座に反撃に移ると云うのに、今の杏子は平和であるが異常であった。

 

 

「ふむ。朱音くん、どこかに細いチューブとビーカー的なサイエンスチックな容器は無いかな。因みに針なら幾らでもある」

 

「何をする気だ」

 

「創世王ごっこ」

 

「固めてゼリーにしてでも売る気か?そういうのはやめろ」

 

「何故?」

 

「こいつの血液と体液が何かの役に立つと思うのか?容器を汚すだけで、それを洗う際に下水道に流す事で生じる環境破壊は地球に住まう者として避けるべきだ」

 

「朱音麻衣、君が環境に配慮できる優しさを持っていたとは…」

 

 

 毅然とした口調の麻衣の言葉に、キリカは敬意の眼差しと共にそう返した。声の震えは感動によるものだろう。

 しばしの間、麻衣とキリカの間を敵意以外のものが繋いだ。

 平和という概念への可能性、その一端に思える光景だった。

 

 

「しかしここで少し疑問を呈する。果たしてこいつの血は無価値なのだろうか?」

 

「私達は魔法少女だからな。通常人類への輸血で相手に悪影響が出ないとも限らない」

 

「うむ。だが魔法少女へは大丈夫そうな気がする」

 

「魔法少女への輸血か。非常食というか入院時の点滴のように栄養というか魔力補給の手段として使えるのかもしれないな」

 

「その利用も悪くない。が、朱音麻衣よ。気付かないのかい?この女の血の価値に」

 

 

 麻衣は首を傾げた。しばし思考する。

 そして閃いた。

 

 

「そうか。こいつの血の中には」

 

「そう。友人の血が混じってる」

 

 

 佐倉杏子を見降ろす二人の視線には深紅の光がぎらついていた。

 それは、獲物を値踏みする捕食者の眼光。

 

 

「だからこいつから血を抜いて精錬すれば」

 

「気色悪いこと抜かすんじゃねぇ」

 

 

 注がれる視線へ、真紅の輝きが絡みつく。

 此処に至り、漸く佐倉杏子は現実へと意識を戻した。

 

 

「流石に起きるか。で、今まで何を考えてたんだい?友人と仮面ライダーの類似性とか?」

 

「ああ?」

 

 

 何時もながらアウトレンジな方向からの話を仕掛けてくるキリカに、杏子は不愉快そのものといった表情となった。

 因みに問い掛けが一つだけであったなら、彼女は殺し合いながら交わってる最中だったと応える積りだった。

 それが予想出来ていたので、キリカは口を塞ぐために問い掛けを重ねたのだった。

 

 

「互いに首絞め合って頭突きしながら繋がり合って」

 

「まぁ聞け。今は本人がいないから、友人とかいう謎存在を考察するいい機会だ」

 

 

 キリカの言葉を無視しての杏子の爛れた言葉をキリカが遮る。

 更に無視して妄想を言語化しようとした杏子だったが、彼女は口を閉じることを選んだ。

 

 

「確かにいい機会だな。で、何?仮面ライダーだっけ?あたしも少しは詳しいぞ」

 

「じゃあこれは?」

 

 

 そう言うとキリカは右掌を上に向けた。

 白手袋で覆われた手の真ん中から、微細な斧を連ねた細く赤黒い触手が生えた。

 触手は縦に何本も裂けて絡み合い、蠢きながら形を形成した。

 人型の物体の上半身に見えた。

 

 

「この前、中古屋でソフビ人形売られてるの見たな。ストライクってやつだろ」

 

「オッケー。もう分かった」

 

 

 全く知らないんだな、という事でキリカは納得した。手を握り、形成させた人型を握り潰すようにして消した。

 

 

「友人の能力というか存在なんだけど、あいつってば魔女と契約というか隷属させてるから龍騎のライダーっぽいなぁと」

 

「あいつは特撮キャラクターの模造品だってのか?」

 

「そこなんだけど、友人の話を聞いてて思ったけどさぁ、友人のやってた事って特撮の詰め合わせじゃね?」

 

「ああん?」

 

 

 質問を質問で返され、そもそも呉キリカという異常者を超えた異常者と会話するという行為に杏子は嫌悪感を抱いていた。

 

 

「………」

 

 

 麻衣は無言で二人を見ている。血色の視線には凡その温度というものが欠けていた。

 まるで投薬を受けた実験動物が、どんな反応を示すのかを見るような眼だった。

 

 

「まず友人は生身だ」

 

「クソ重たいけどな。素の重さで250キロ以上ありやがる」

 

「メタルゲラスと大して変わらないな。普段はそこに武装を付けてるから総じて400キロくらいか。となると友人は結び合わせたベノスネーカーとドラグレッダー相手にシーソーやれば吊り合うってことだね。場面想像すると草」

 

「話を脱線させるなよ淫乱雌ゴキブリ。まぁ生身っつってもアホみたいに頑丈だからな、あいつ。肉と骨で出来てるけど出来が違うんだろな」

 

「友人の皮膚はぷにぷにしてるけど、魔女の攻撃にも耐えるし王水以上の強酸を顔面に浴びても骨の少し手前ぐらいの融解で済むしなぁ」

 

「それ初耳だ。そういや確かに、鋼鉄を飴みたいに溶かす炎で焼いてやっても生焼けで済んでやがるな」

 

「特撮の詰め合わせという話はどうなった」

 

 

 淡々と、そしてイラついた口調で麻衣は言った。

 キリカと杏子は麻衣を一瞥し、やれやれという表情をした。

 

 

「今その話をしてるんじゃないか。黙って聞いてておくれよ」

 

「テメェはホント頭悪いのな。いや、テメェら、か」

 

 

 室内の空気は例によって最悪である。

 しかし誰もがそれにストレスを感じない。最悪の状況とは、この連中にとって空気や重力といった概念とほぼ変わらないせいだろう。

 

 

「まぁご説明をしてあげると、友人曰く元々は同僚二人とチームを組んでたそうじゃないか。社会復帰中のお坊さんと」

 

「どうしようもねぇクズだろ」

 

「そうそう、元テロリストとかいうゴミクズ。ブラックサンとかにいたら怪人根絶やしにするか怪人側に立って人類に宣戦布告して世界滅ぼしそうなやべー奴」

 

「その一方で頭も良いらしいから、タイガのデッキを解析して異常な性能のオルタナティブを作りそうだ」

 

「あーもううっせぇな特ヲタどもが。あたしの知らねぇ事で盛り上がってくっちゃべってんじゃねぇ」

 

 

 詳しいんじゃないのか、という煽りをキリカは堪えた。話が進まないからだろう。

 

 

「それでだ。チーム編成で云々やってたのはヒーロー戦隊っぽいなぁと」

 

「ヒーローねぇ。元強姦魔の坊主とクソゲステロリストの二匹と組んでるとか、まともなのはあいつしかいねぇじゃねえか」

 

「友人がまともな奴、かどうかは判断が難しいな」

 

「呉キリカ。その基準は何だ?」

 

「朱音くん、奴は美少女三人に群がられてるのに暴力と日常会話しか交わさないんだぞ?もう出会って半年は経つし誰かしらは処女喪失してそこから連鎖的に手を付けていってハーレムを形成しててもおかしくないじゃないか」

 

「成程。貴様の判断は正しい。私もそう思ってたところだ」

 

「だろう?だから友人は結構異常だ。物語の主人公とは思えない」

 

「あのな、現実の存在を架空のものと比べてんじゃねぇってんだろ」

 

 

 異常なのはテメェらだ、と付け加える杏子。

 それに対して鼻で笑う二人。誰もが自分以外を異常者と捉えている。

 

 

「それで最後に、友人はデカいロボットに乗ってたらしいじゃないか」

 

「何を言うか分かったぞ。ウルトラマン的な感じだと言いたいんだろ」

 

「うむ。ついでに友人、本当にウルトラマンに会った事あるらしいしね」

 

「は?」

 

 

 麻衣と杏子は同時に言った。遂に壊れたか、とも思っていた。

 

 

「会ったのはタロウ、らしい」

 

「歯切れが悪いな。なんだ、死ぬのか?」

 

「これまで一緒に戦った仲だ。介錯なら私が」

 

「いや、受けた迷惑度合いならあたしのが上だ。報復する権利がある」

 

 

 腰に差した愛刀の柄に手を乗せながら麻衣は言った。杏子も槍を出現させて手に握った。

 そこに冗談など一切なく、本気である。

 

 

「いや、友人もそれ以上何も言わなかった。なんていうか、そう、見ちゃいけないものを見たって感じだった」

 

 

 二人を完全に無視してキリカは言う。黄水晶の瞳は遠くを見ているようだった。

 それきりキリカは口を閉ざした。それ以上の情報を持っていないのだろう。

 

 

「さて、長々となったが」

 

「本題に入るか」

 

 

 麻衣が口火を開いて杏子が引き継ぎキリカが頷く。

 三人は他の二人を見た。

 

 

「さっきの話だけどよぉ、そういえばテメェらはあいつの肉を喰ってたよなぁ」

 

「うむ。血をガブ飲みしたこともよくあるよ」

 

「私は彼の心臓近くまでを貪り食った事がある。鼓動する心音を聞きながらのあれは……いい経験だった」

 

 

 麻衣は上唇を舌先で舐めた。その時の味と鼓動を思い出したのだろう。

 血の滴る肉を見た、飢えた獣と淫らな娼婦の表情が合わさったような。麻衣の今の表情を表すならそうなるだろう。

 

 

「変態」

 

「どしがた」

 

 

 杏子とキリカはそう言ったが、負け惜しみだとは分かっていたし麻衣にも見抜かれていた。

 

 

「そういやぁ、テメェはあいつの血をソウルジェムに溜めてたよなぁ………一応聞くけど狂ってるって実感、あんのかい?」

 

「佐倉杏子、惨めになるからそれ以上言葉を発するのはよしておきたまえ」

 

「ああ。今にも泣きそうになってるぞ」

 

「ぬかしやがれ」

 

 

 乾いた笑いが廃ビルの中で生じた。それは誰が最初に放ったものか。同時だったのかもしれない。

 それはすぐに哄笑となった。手製の魔法少女服を纏った魔法少女達は狂ったように、または美しい花や景色を見た時のように朗らかに笑い合う。

 狂気の一言では計り知れない、人間が持ってはいけない感情を帯びた笑いであった。

 

 

「じゃあ、テメェらの中にはあいつがいるってことだよなぁ…」

 

「察しが良いな、佐倉杏子」

 

「うむ。消化するなど勿体ない」

 

 

 イカレてやがる。三人は他の二人に対してそう思った。

 前々から察しており、先日ドッペルを融合させた際に確信が持てた。

 この連中は魔力を用いて、捕食したナガレの血肉を自らの肉体に取り込んでいるのだと。

 浴びた血肉の香りや味からそれが察せていた。

 真紅と血色と黄水晶。

 三人の瞳には危険、というにも程遠い陰惨な輝きが宿っていた。

 誰ともなく、口内に溜まった唾液を飲み込んだ。

 それが意味する事とは、つまり。

 

 

「(負け犬共め)」

 

 

 自らを焦がすような胃酸の分泌を感じながら、キリカは内心でほくそ笑んだ。

 

 

「(お前達は、友人を喰らっただけに過ぎない)」

 

 

 キリカは記憶を辿る。ナガレと唇を交わす、自らの姿が思い浮かんだ。

 

 

「(その点、私は………)」

 

 

 重なる口からは、蕩けた血肉が零れた。

 体液と血肉の交錯。

 毒を受けたナガレの鮮血を飲み、その血で自らの体内の肉が破壊された。

 肉体の損壊も構わずに毒を分解させたキリカは、溶解した血肉を彼へと口移しをして解毒を促した。

 彼の血を飲み、自らの血肉を喰わせ続けた。

 それは、他の二人には無い事だった。

 その事実に、キリカの精神は高揚し、興奮しきっていた。

 新たな命を胎内に宿し、自分の血肉を用いて育む事とはきっとこんな事なのだろう。

 呉キリカは今、女として、雌として生まれた事への感謝で胸を満たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「率直に聞くんだケド」

 

 

 桃色の光量で満ちた室内で、濡れた身体をタオルで拭きながら少女はそう言った。

 澄んだ声であり、どこか異国の趣のある発音だった。

 長い髪や細い身体には湿気が纏われ、身を清めるのに用いられたシャンプーやソープの爽やかな香りを振り撒いている。

 薬品の香りに混じる甘い臭気は、少女が生来から纏っている匂いだろう。

 甘い匂いは、満開に咲いた花を思わせた。何かを誘引する様な、そんな香り。

 

 部屋の中にある大きな寝台の淵に座るナガレは、少女から片時も視線を外していなかった。

 身を拭いてはいるが、肌着どころか下着すら身に着けずに近寄って来る少女に欲情したのではない。

 警戒を怠らない為である。

 緑の髪の少女はある程度といった具合に身体を拭くと、濡れたタオルを放ってナガレの隣へと座った。

 二度目になるが、この時少女は全裸であった。

 そして彼女はこう言った。

 

 

 

「ユー、なんで呉キリカの匂いがするワケ?」

 

 

 深緑の瞳は、ナガレの眼を覗いていた。

 彼の渦巻く瞳の中を、注意深く探るかのように。













因みに彼の戦闘スタイルの元ネタは「されど罪人は竜と踊る」のザッハドの使徒達です(魔物が封印された書物を用いて連続殺人を繰り返す異常者たち)
また、彼が見たタロウというのは、漫画版の……

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