魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第72話 新しい夜明け③

「どうして付いてきた?」

 

「邪魔?」

 

「いいや。でも俺といて楽しいのかよ」

 

「んー…消去法って言ったら怒る?」

 

「個人の自由だな」

 

 

 あすなろの街をナガレとかずみが歩く。

 正しい意味での練り歩く、である。

 時刻は朝九時半。学生たちはおらず、勤め人らの数も少ない。

 今まで別の少女と歩いた時と同じ通り、平日に街を歩くにはいい時間であった。

 

 

「そういや、その服は作ったのか?」

 

「うん。似合う?」

 

「よく似合うよ」

 

 

 歩きながらナガレは視線をかずみに向けてそう言った。えへんと胸を張ったかずみがいた。

 僅かばかりといった程度に膨らんだ胸は、黒いシャツに覆われていた。

 その上に羽織られたのは緑色のパーカー、腰から下は長いジーンズを履いていた。

 要約すると、杏子の私服のジーンズが長い版となっている。

 

 炊事洗濯に加えて、裁縫も得意なかずみであった。

 彼女は知っていなかったが、麻衣と杏子が製作した手製の魔法少女服とはクオリティが雲泥の差であった。

 かずみのそれは実際に売り出しても無問題どころか高値で売れるだろうが、麻衣と杏子のそれは着用者の写真を貼り付ければ売れるだろうといった代物だった。

 

 

「ちょっとアンバランスじゃない?陰キャと陽キャが混じってる感じ」

 

「別に。って言いたいが、俺は女の格好とか詳しくねぇからなぁ」

 

「ナガレって歳幾つだっけ?」

 

「それなんだがよ、質問に質問で返すけどキリカから俺についてなんか聞いたか?」

 

「うん、別の世界から来た人って。本当はその見た目じゃないんだって」

 

「信じるのか?」

 

「信じるも何も、私は秘密組織的なのが造ったクローンなんだよ?もう大体の事は不思議じゃないかも。あ、別にだからって落ち込んだりしないでね」

 

「つまり、信じるって事か」

 

「ナガレ。少しは私の微妙な存在というか悲しい過去?的なのに触れてよ。落ち込まないでとは言ったけど、気にしないでとは言ってないよ」

 

「お前、俺で遊んでるな」

 

「気付くのが遅いよ」

 

 

 そう言ってかずみは無邪気そうに笑った。

 会話にならないが会話として成立している会話は、誰が原因なのかは考えるまでも無い。

 妙にウマが合うのか、ここ最近のかずみはキリカに懐いていた。

 その母親とも仲が良かったことを思えば、余り不思議でないのかもしれない。

 そうナガレは結論付けた。その考え自体がおかしいという意識は彼には無かった。

 

 

「それで外出してるけど、どこか目的地とかあるの?」

 

「いや別に。外の空気吸いたかったっていうか、ブラつきたかった」

 

「あ、それ私も。嫌じゃないけど、ちょっと疲れちゃった。育児疲れってやつかなぁ」

 

「ゼロ歳児が育児か。大変なもんだ」

 

「サラッと言ってるけど、ナガレもその育児対象なんだからね」

 

「ああ、それ込みで話してた。飯の世話になってばかりだからな」

 

「分かればよし!」

 

 

 あはははは!と笑ってかずみは少し走った。

 ジャケットのポケットに手を突っ込んでいるナガレは、軽く笑いながら後に続く。

 あすなろの歩道は広く、通行人もまばらであるので邪魔にはならない。

 そして道行く人々は連れ添って歩く二人を仲の良い兄と妹のように思って見ていた。

 

 

「とりあえず、街の中心でも目指して買い食いでもすっか。甘いもの喰いてぇ」

 

「いいねぇ!じゃあその間、お話とかしてよ」

 

「俺のか?」

 

『そうそう。別のとこから来たんだったら、面白い話知ってるかなと思って』

 

 

 会話の途中でかずみは会話を声から思念に切り替えた。会話の内容が漏れ聞こえる事を危惧したのだろう。

 変身が出来なくなっているかずみであったが、この程度は行えるようだ。

 

 

『そうだな……』

 

 

 ナガレも思念で応じた。何を話すべきかと思案する。

 ロクでもない話ばかりなので、かずみへの影響を考えたのだった。

 多少の配慮はしたとはいえ、不健全な世界の物語を伝えたキリカとはえらい違いである。

 

 

『グレートマジンガーの事とかはどうだ?お前さんの技の元ネタなんだけどよ』

 

 

 ナガレは無難な例を出した。

 何故か分からないがグレートは妙に気に喰わない事があるが、自分の感情は今はどうでもいいとして切り出した。

 

 

『んー、そういうのは後々の方がよくない?』

 

『嫌なのか?』

 

『ううん、伏線的に』

 

『お前、ちょっと発言がキリカっぽいぞ。大丈夫か?』

 

『大丈夫だよ!……って言いたいけど、ごめん、ちょっと自信ない』

 

 

 走るのをやめ、かずみはナガレの隣に並んだ。

 声と表情には僅かな寂寥と、そして怯えが伺えた。

 キリカに近付きつつある、という自覚が少しあるらしい。

 

 それを異常と捉えている事に、ナガレはかずみは正常なのだなと思った。

 酷い考えにも思えるが、他者と自己の同一視は危険だという認識が彼にはあった。

 このあたりは並行世界の自分が世界を破壊しまくっている事に起因するのだろう。

 

 

『じゃあ昔俺が見た連中について話すか』

 

『うん、お願い』

 

 

 話を切り替える為に、ナガレは会話中に思い出していた記憶から嘗ての経験を一つ選んだ。

 比較的マトモなものを選んだつもりであったが、その出だしはこうだった。

 

 

『そいつらは金属の身体を持ってる人型の連中で、場合によるけど400から900万年くらい戦争してる奴らでな』

 

『んん……?』

 

 

 かずみは困惑した。なんというか、数字がおかしい。面食らったのも無理はない。

 

 

『ああ悪い。困惑するよな』

 

『そりゃあ、ねぇ』

 

『こいつらは金属生命体ってぇのかな。ロボットではあるんだけど生き物っていう連中で』

 

 

 そこじゃねえよという突っ込みをかずみは堪えた。

 魔法少女や魔女がいる世界なのだから、常と異なる生命体の存在を信じるのはかずみにとってそんなに難しくはなかった。

 更に自分はクローンであり、ならばロボットである金属生命体とやらと似ていなくもない。親近感が湧くくらいだった。

 問題は、ナガレが言った数字である。そして、その間何をしていたのかという事で。

 

 

『ねぇナガレ。桁間違えてない?400年とか900年とかじゃなくて?』

 

『俺も聞いただけだがよ、万年単位だってよ。どうかしてんな』

 

 

 かずみは首を傾げているが、ナガレもまた同様だった。

 少し前に旅の仲間をしていた魔神経由で知った連中だが、言葉に出してみると時間に対して鈍感な彼をしても時間の概念がおかしくなりそうな超長期間。

 地球全体の歴史からすればざっくり計算して千分の一くらいだが、逆を言えば惑星の年齢と比較できる程度の時間という事である。

 

 

「(うーん……どうしよっかなぁ)」

 

 

 ここでかずみは考えた。

 元の会話に戻るか、ナガレの話を聞くかである。

 二呼吸程度考え、結論を出した。

 

 

『ほんとだね!ねぇねぇ、その度し難い連中の事もっと教えて!』

 

 

 かずみは前者の選択を選んだ。

 何だかんだで興味が湧いたし、何より元の状況だと会話にならない会話が延々と続くことになり、それはまるで思考がキリカ化したようで怖いからだ。

 

 

 














どうしてこの会話になった…

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