魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第72話 新しい夜明け(挿絵あり)

 清々しい風と眩い朝日が、廃ビルの裏手玄関から足を踏み出した彼を出迎えた。

 数時間前に魔法少女三人との死闘を終え、少し休んだだけで肉体の疲労は殆ど取れている。

 首をこきこきと鳴らしながら数歩歩く。

 路地裏から通りに出る少し前で彼は止まった。

 

 

「じゃ、あいつら頼むわ」

 

「うん。任された」

 

 

 振り向かずに言葉を放つ。その相手は呉キリカだった。

 何時もの私服に着替え、玄関の入り口に立って見送っている。

 

 

「あー………」

 

 

 ばいばい、と手を持ち上げかけてキリカは喉を震わせた。

 小さな声だったが、ナガレはそれで足を止めた。

 ちょろっ、とキリカは思った。

 

 

「どうした?」

 

「うむ、引き留めて悪いんだけどさ」

 

 

 ナガレが尋ねてきたことに、キリカは再度ちょろいと思った。

 

 

「頼まれた限りは全力を尽くすけどさ、大丈夫だと思うの?あいつら?」

 

「俺がいねぇのは一日だけだぞ」

 

「一日も、だね。佐倉杏子は言うまでも無く、朱音麻衣も最近危うさが増している」

 

「俺は麻薬かよ」

 

「ふざけるなよ、友人。私達の君への依存度が麻薬程度で済むわけ無いだろ」

 

 

 殺意さえ込めてキリカはそう言った。

 ナガレは小さく鼻で息を吐いた。ため息ということだろう。嘆きとも言う。

 

 

「毎度思うんだけどよ、俺のどこにそんな魅力がある?」

 

 

 承認欲求を求めての、返事を期待しての問い掛けではない。

 ただ純粋に、気になったから尋ねたのである。

 風切り音。

 次いで鳴ったのは破砕音。

 ナガレが振り向きざまに放った斬撃によって、赤黒い斧が粉砕されていた。

 

 

「気に入ったみたいだね、それ」

 

 

 ナガレが用いたのは、斧型の双剣だった。

 斧の分厚さと重さ、日本刀の切れ味に槍の鋭さを併せ持った新しい武器。

 柄の末端からは菱形の魔の鎖が伸び、彼の両手首に絡みついている。

 佐倉杏子と共同生活を始めた時から持っていた、工作用の手斧を幾度も改修しつづけたそれに、牛の魔女の魔力を与えて三人の魔法少女の武器を参考にして造った物だった。

 その三人が誰かは、言うまでも無いだろう。

 

 

「使い勝手も良くってな。あと何度も壊れては直しを繰り返してっから、愛着も湧いてんだよ」

 

 

 自らの命を狙った一撃を受けながらも、彼はごく普通の会話のように笑っている。

 

 

「そう言うお前も、それが気に入ったのか?」

 

「まぁね」

 

 

 ナガレの視線の先には、魔法少女となった呉キリカがいた。

 彼女が掲げた右腕から生じたそれを、彼は見ていた。

 赤黒い輝き。

 血の色である赤と、冷たい金属の黒が交じり合った色のそれは、キリカの身長よりも大きな弓反りの物体だった。

 

 

「アイアンカッターか」

 

「ヴァンパイアカッターだってのさ。ん、まぁそれでもいいか。気分次第で使い分けるよ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 キリカが掲げているのは、彼女がナガレの記憶から読み取った存在の武装の再現だった。

 腕の側面から生やした刃を連結させて弓反りにさせ、巨大な翼のような形にさせたもの。

 そのオリジナルはナガレをして、思い出したくもないほどの理不尽な威力を備えている。

 単なる物質の切断に留まらず、対象の因果や存在の改変まで可能とする、最終にして原初の魔神の武器である。

 当然ながらそういった能力をキリカのそれは備えていないが、キリカのそれには彼女なりのアレンジが施されていた。

 

 

「使い方とかも、例えば今みたいにね」

 

 

 言い終えた語尾は弾んでいた。希望で言えば、ハートか音符が付くだろう。

 じゃりん、と音が鳴った。キリカが掲げた巨大な刃の表面で。

 そこには無数の斧が連なっていた。それは刃から牙が生えているかのようだった。

 音は、その連なりが蠢いたことで生じた音だった。

 ナガレは斧が並ぶ列の一か所に空白があるのを見つけた。先の斧は、そこに生えていたものを飛ばしたものだろう。

 

 

「便利だな。あと応用できるってのは大したもんだと思う」

 

「えへん!」

 

 

 変身を解除しキリカは胸を張った。

 いつものようにたゆんと揺れた。

 なお変身を解除したのは、私服の方が胸の揺れ幅が大きいからだ。無駄だとは分かりつつの、彼へのアピールである。

 表には出ていなかったが、確かにそれはナガレの関心を引いた。

 ただしそれは性的な物ではなく、「こいつ下に何も着けてねぇな」という呆れであった。

 

 

「で、話を戻すけどさ。君の魅力?その問いは愚問としか思えない」

 

 

 微笑みながらキリカは言う。優しい形であった。毒を孕んだ花のような。

 

 

「君の行動は、言動は、思考は、生き方は、何一つとして策を弄するところがない。思いやりがないとか空気を読まないとかとは少し違う。君は他からの評価を求めない、自分の本能で生きることを是としている。他者を拒絶して我を通すのでもなく、誰かに認められたいという歪んだ英雄願望でもない。ただ自分の思うままに行動して、人を助けたり誰かを救ったりしている。君を観察してて思ったのだが、私には君が正義の存在に思える」

 

 

 長い長い言葉を、キリカは平然と言い終えた。 

 自らの言葉を疑っている様子は全く無い。

 つまり、これは本心と言う事だろう。

 

 

「御苦労なこったな。『馬鹿』って言えば直ぐ済んだのによ」

 

「あ、そっか。友人てばジーニアス」

 

 

 ナガレの自嘲にキリカは即座に追従した。

 尤もこれは彼を全肯定している訳では無く、その手があったかという思いからだった。

 

 

「ていうか救ってるってのがピンと来ねぇ。魔女とかから人を助けたりはよくあっけど」

 

「気付かないのかい?」

 

「何が?」

 

 

 ナガレの疑問は、本心からのものだった。何を自分が救っているのか、本気で全く分かっていない。

 だからキリカはこう言った。

 

 

「ほんとに君は馬鹿だな、友人」

 

 

 微笑みながらキリカは言った。

 ナガレは首を傾げた。

 ううむ、やっぱ見た目可愛いなこいつ、とキリカは思った。

 そして同時にこうも思った。頃合いだと。

 

 

「じゃあね、友人。ヤンデレ二匹の世話は可能な限りやっておく。あとついでに私はヤンデレを超えたヤンデレなのであのメスガキ二匹と同ランクで見ないでほしい」

 

「酷ぇ言い方だな。それじゃ、行ってくるわ」

 

 

 彼はそう言い、キリカは頷いた。

 そして踵を返して歩いていく。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

 数歩で彼は向き直った。首だけを背後に傾け、独特の角度で背後を見る。

 慌てて振り向くキリカの姿が見えた。

 

 

「自分を病んでるとか、あんまり言うもんじゃねえぞ。それにお前らは、俺が見てきたのと比べればずっとまともで良い奴らだよ」

 

 

 そう言って牙を見せて嗤うと、右手を掲げて軽く左右に振り、路地裏から去っていった。

 キリカはその背中が表通りへ消えるまで見つめていた。

 彼の姿が消えた後、

 

 

「女殺し」

 

 

 と小さく呟き、廃ビルの中に戻っていった。

 










素晴らしいイラストに感謝であります

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