魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第69話 外道譚

「この…気狂ぃいいいいいい!!!」

 

「はは…フフ……ハハハハハ!」

 

 

 怒りを孕んだ絶叫と哄笑が木霊する。

 プレイアデス聖団の本拠地。

 テディベアの博物館の地下は破壊の坩堝と化していた。

 狂乱する双樹が両手に握るサーベルからは超高熱と超低温を合わせての対消滅魔法が発射され、相対する黒江は羽織った外套を粘液状の鳥の姿…自らのドッペルを発現させて相手の攻撃を掻い潜りつつ翼を変形させた拳で双樹の剣戟とやり合っている。

 二つの強大な力の激突によって階層が崩落し、巨大な穴となっていた。

 幸いにして魔法少女の保管場所であるレイトウコからは距離があり、地上への影響も本拠地自体が強力な魔法で外界から隔離されている為にあすなろ市への影響は無い。

 

 

「ひっでぇなぁ…これ」

 

「うむ。先にかずみシリーズとナンバー13の戦闘、あとそれより前にクソゲスメスゴキブリの呉キリカの襲撃があったとは言え、ここまで壊れるとは。激戦の連続で空間自体が痛んだのかもね」

 

「こんな手足だけどよ、オイラも再建に手を貸すぜ」

 

「おう。しっかり頼むよ、べぇやん。あと呉キリカは今度見たら責任取らせてやる。ソウルジェム奪ってから思い切りぶん投げて分身の私にバットでかっ飛ばしてホームランさせてやる」

 

「まぁ、呉お嬢さんのソウルジェムは、今………うぇ」

 

「すまないべぇやん。吐く時は前以て言っておくれ。ゲロを避けるにしても準備が欲しい」

 

 

 幅五十メートルはある穴の中を落下しながら、肩に乗せたジュゥべぇと会話するニコ。

 穴の底からは時折閃光が見えた。閃光に照らされ、争い合う二人の魔法少女の姿が見える。

 双樹と黒江は共に殴打と斬撃を受け、顔を血で彩っていたが戦闘の激しさは増す一方で、それが終わる兆しはまるで見えない。

 

 

「なぁべぇやん。我々は今追撃をしてる訳だけど、正直戦力になれるか微妙だ。ちょっと路線変更といかないかい?」

 

「いいけど…どうすんだい?」

 

「人質作戦、いや、この場合だと犀質か」

 

 

 ニコの発言で、獣は彼女の意図を察した。なるほどとさえ思った。

 

 

「名前忘れたけど、あの銀色の怪獣みたいなのいるだろう?あれを使えないかい?たしか大分年季の入ったソフビ人形があっただろう」

 

「悪くねぇ案だけどよ…オイラ達は死ぬだろうな」

 

「ふむ。ついでに余計なパワーアップを招く恐れがあるという訳だな」

 

 

 ニコの言葉に獣は頷いた。

 ついでに、彼女には興味が湧いた。

 どうせ会敵まで時間があるということで、聞いてみることにした。

 

 

「ところで双樹さんらはなんであのキャラクターが好きなんだい?込み入った理由とかあるのかいな」

 

「いや。単に好きだから好きなんだって聞いてるぜ」

 

「んー、こう聞くのはアレだけど悲しい過去的なのとかが関係してたり?」

 

「うんにゃ。ただ子供の時に親御さんに買ってもらったソフビで、それで延々と遊んでたから子供時代からの友達なんだってさ」

 

「割とまともというか真っ当な好感だね」

 

 

 その割には元ネタの作品の登場人物、特にその犀の持ち主を愚弄したりとよく分からん奴だなとニコは思った。

 

 

「そういえば魔女モドキで、あの犀の同類や同じ番組に出てる怪物どもに似たのが最近のあすなろを練り歩いてるんだっけか」

 

「最近はサブスクでの配信もあるからなぁ。それを知った人らが無意識に怪物として投影しちまってるんだろうさ」

 

「くわばらくわばら。ん、そしたら双樹さんら大歓喜では?」

 

「ああそうさ。この前は風見野のお嬢さん経由で本物そっくりのを貰って着ぐるみにして持って帰ってきたからな」

 

「あー……サキとみらいを持って帰って来た時か」

 

「あれは……色々と酷い有様だったなぁ……もう治ったとはいえ、よぉ…」

 

「うむ……で、双樹さんらは最近外出が増えてたけど、それってやっぱり」

 

「ああ。メタルゲラス似の魔女モドキを採取しに出かけてた。まぁ…これについては魔女モドキに狩られる人を助ける為ってのもあるんだけどよ」

 

「あいつらは異常さとまともさの合い挽き肉だね。成果は?」

 

「うん…アレも個体差があるみたいで、光り方が強いのとか熱を帯びてるのがいてなぁ」

 

「さしずめ、マギウスが定義した『属性』ってやつか。最初のが光属性で、後のが火属性とやらだろう。理に適ってはいるけど、まるでソシャゲのキャラ属性とかガチャみたいだ」

 

「多分そこから発想を得たんじゃねえのかなぁ。そういや最近………あ」

 

 

 獣が言葉を閉ざした。

 ん?と思って視線を遣ると、体毛で覆われた貌から汗を噴き出している獣が見えた。

 

 

「べぇやん、どうしたんだい?」

 

「最近、先輩はレアものを見つけてさぁ…」

 

「ふむふむ」

 

「さっき属性の話したけど、こいつは『闇』か『木』属性のどっちかだと思うんだけど、紫色をした奴で…」

 

「闇か木」

 

 

 ニコは言葉を転がし想像力を働かせた。なんとなくピンときた。

 

 

「それで紫というと、毒でも持ってたのかい」

 

「そう。それだ」

 

「で、ヤバそうって事はそいつの角でも加工した武器でも造ったと?」

 

「いや。喰っちまったんだ」

 

「…はい?」

 

 

 想定外の言葉に、ニコは聞き違えたかなと思った。

 または遂に狂ってしまったのかと。自分が。

 

 

「なんか凄く美味そうに見えたとかでさ…散々に行動を観察して制圧した後、爪の先から足の爪先まで全部喰っちまったんだ」

 

「んーーーー…丈夫な歯してるんだね。あと、今の暴走はそれが原因じゃないのかい?」

 

「いや。確かに喰ってる時は毒のせいで口とか焼け爛れさせてたけど凄く幸せそうでさ…で、口に入れた瞬間に魔力に変換するらしくて喰った後は体調がこれまで生きてきた中で最絶好調とか言ってたよ」

 

「…そうかい」

 

 

 現象の一つ一つが異常すぎて、ニコは頭を抱えたくなった。

 が、抱えても何も変わらないのは明らかなので問題と向き合う事とした。

 そこでふと気づいた。

 先程からの戦闘音が消えている。

 危機感が渦巻いた。

 

 

「べぇやん。さっきヤバいって言ったの、なんとなく察しが着いたよ」

 

 

 双樹は得意な個体の魔力を喰らった。つまりはその性質を受け継いでいる可能性がある。

 ただでさえ強力な双樹に更に力が加わったなど、悪夢としか思えなかった。

 そんなニコの不安を他所に、彼女の両足は地面に着地した。

 穴の直径を上回る、広大な空間が広がっている事が魔法少女の空間認識能力で察知できた。

 そして彼女は周囲を見渡した。視線が一点で止まり、ニコは視線を上げていった。

 それは、首に痛みを覚えるまでに続いた。

 

 


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