魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第68話 愛ゆえに③

 砕かれた左手の五本の指は、宙に舞うと真紅の色を喪い銀の光沢を放った。

 鏡の世界から三人の魔法少女が力を吸い上げて造ったものゆえに、その影響から離れたためにそうなるのだろう。

 更に砕かれ、飛び散る銀の破片を吹き飛ばしながらナガレは飛翔した。

 今の彼もまた、鏡の世界から魔女を介して力を吸っていた。

 肉体の破損個所を溶接のように塞ぎ、その部分は銀の色となっている。

 背中から生やした悪魔翼も銀色となり、禍々しい形状は兎も角として光を纏って飛ぶ姿は悪魔ではなく天使にも見える。

 

 美しい。

 

 三人の魔法少女はそう思った。

 だから、それが欲しくなった。

 

 

「速いな」

 

 

 迫る右腕を頭上に見上げ、ナガレは呟いた。

 エンペラーの模擬体は巨体であるが、腕の動きは落雷の速度を思わせた。

 広げられた五指が握り切る寸前、巨大に過ぎる手の甲に亀裂が入った。

 亀裂は掌の中央を基点とし、そこから崩壊が始まった。

 断裂する真紅の掌が銀色へと変わっていく。

 広がる孔を突き破り、銀の翼を背負ったナガレが飛び出した。

 手首へと着地し、そこを蹴って跳ぶ。跳躍は飛翔へと変わり、頂点を目指して光の矢の如く速度で飛ぶ。

 

 その彼へと、光が殺到した。

 一つは長い槍の形を取り、一つは鋭利な針となり、最後は巨大な雷撃となった。

 佐倉杏子と呉キリカと朱音麻衣の魔力は、それぞれが彼を求めて放たれていた。

 そのどれもに、彼の身を裂いて貫き、消滅させるほどの力が宿っていた。

 接触の寸前、それらが破壊された。

 空中を薙いだ、二振りの斬線によって。

 

 

『ああ……』

 

 

 陶然とした思念の声が漏れた。

 三人の魔法少女達は、先程から破壊を繰り返している存在の正体を知ったのだった。

 それは二振りの手斧だった。

 黒い峰と銀の刃を持ち、前に伸びた形状は日本刀の趣を有していた。

 それは彼の手に握られておらず、柄の部分から伸びた菱形の連なりによって彼の手首に巻かれた黒いブレスレットに繋がっている。

 

 

「こいつは前々から鍛えてた武器だがよ」

 

 

 そう言って彼は両腕を振った。

 菱形の魔力の鎖で繋がれた二振りの斧が、彼の動きに従い振り回される。

 残っていた槍と針と雷撃が斬撃によって切り刻まれた。

 

 

「こういう風にすることが出来たのはお前らのお陰だ」

 

 

 最初に、左手がが破壊された際に見た時に、三人は直感で感じていた。

 これは自分の武器を元に造られものではと。

 それが今彼の言葉で確定した。

 三人は、心がマグマのように沸き立つのを感じた。

 そして、その胸を貫く刀身の冷たさを。

 

 攻撃を薙ぎ払った次の瞬間には、ナガレは疑似エンペラーの頭部へと辿り着き、その額へと突撃していた。

 後頭部から抜け出た際、両手に握られた双斧は二人の魔法少女の胸を貫いていた。

 左手で呉キリカを、右手で朱音麻衣を。

 そして、残るは。

 

 

「ぐるるるるぅぅああああああ!!!!」

 

 

 血に狂った咆哮が、ほぼゼロ距離でナガレの顔に叩き付けられる。

 直後に鮮血が飛び散った。

 発生源は、ナガレの胸。

 両腕を塞がれた今、彼に成す術はなく彼の胸には杏子の牙が立てられていた。

 溢れる血が杏子の顔を赤く染め、彼女は血を飲みながら牙の先にあるナガレの鼓動を感じた。

 

 力の根源である魔法少女を喪い、エンペラーの模擬体はその姿を崩壊させ始めた。

 肩が胴体から外れ、脚は自重を支えきれずに胴体も断裂する。

 今は黒い虚空の中に浮かんでいるのだが、異界を破壊した存在が崩壊したことによってある程度の法則が戻ったらしく、エンペラーの破片は足があった部分へと落下した時に砕け散った。

 そこが地面ということだろう。 

 ナガレと三人の魔法少女達も、後を追うように落下しつつあった。

 彼の背にある銀の魔翼が、前に伸びて交差した。

 魔法少女達の背を庇うような形である。

 その動きに反応したか、

 

 

「あああぁぁぁぁあああああ!!」

 

「ぐがぁぁああああああああ!!」

 

 

 胸を刺し貫かれ、意識を喪失していたキリカと麻衣が目を覚ました。

 そして杏子と同じく方向を上げ、自らが更に傷付くのも厭わずして前へ進み、自らの牙をナガレに突き立てた。

 キリカは喉に、麻衣は彼の右肩へと喰らい付く。

 溢れる血を魔法少女達は啜り飲み、彼の肉と骨を噛み砕いた。

 彼の命に触れる事に、彼女たちは性的な快感を見出していた。

 熱い命が身体に流れ、体内が真っ赤に燃え上がる感覚。

 

 そしてそれは、直後に比喩ではなくなった。

 

 

「シャインスパーク」

 

 

 苦痛の中で、ナガレは強引に口の端を歪めて嗤いを作った。

 彼の身体が光を纏い、閃光と灼熱を放った。

 全てが白色に塗り潰される光と高熱、そして耐えがたい苦痛が返礼とばかりに魔法少女達に返される。

 だが誰一人として、彼から離れようともしなかった。

 寧ろ高熱で崩壊する口で、更に彼の肉を噛んで身体を絡めた。

 逃がさないと言わんばかりに。

 

 そして直後に、四人の身体が虚空の中の地面へと落下した。

 銀の翼が砕け、鮮血と血肉が銀の破片と共に飛散する。

 

 












いつもながらくるってやがる

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