魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第66.5話 閑話休題

「なぁ、呉キリカ」

 

「おぅ、なんだい朱音麻衣。小説版龍騎の猿先生によるコミ・カ・ライズが決定したのか?」

 

 

 布団と寝台に寝転がりつつ、魔法少女姿の二人が言葉を投げ合う。

 二人がいるのはそれぞれの自室。

 麻衣は和風の室内であり、壁や天井にびっしりとナガレの写真が飾ってあることを除けば普通の部屋だった。

 キリカも同じく洋風の趣のある自室にいた。

 互いの私室が横に並び、曖昧な境界線を以て半分ほど一体化している。

 

 

「そうじゃないが…それは、うん、気になるな。作風に合ってそうだ。あと変な所で中黒を多用するな。猿先生を愚弄する気か」

 

「ごめーんね。あと、だよねだよね。登場人物らの悲しい過去…とエログロな内容は猿先生の作風に似合う気がする。忌憚のない意見てやつだよ」

 

「小説でハブられた連中も出そうだな。となると東條あたりは英雄願望によって強姦中の女性を助け、ようとして「なんだこのクソ展開!」とか総合格闘家だった強姦魔達に言われながら返り討ちに合って「男もいけるしな」とヌっされて悲しい過去を背負いそうだ。それで、誰も気付かないうちにいつも通り猿空間に送られているとか。それとタフとのクロス・オーバーで尊鷹がオーディンに変身するのもアリかもしれない」

 

「鷹兄ィが中身とか、そんなオーディン誰が勝てるのさ」

 

「性格や行動も不思議系奇行キャラ化してて、何がしたいのか分からない存在になりそうだな」

 

「あと多分パンチやキックだけでもAP5000はあるぞ。メカ・ファルコン・フット状態ならAP20000越えしてそう。ああそうだ、最近トダーが復活したぞ。喋り方がペガサスみたいにな砕けた感じで可愛い。あと鬼龍おじさんがまた何かしてる」

 

「寧ろ何かしていない時が珍しいし不気味だろう。そういえばふと思ったが、貴様の意味不明で度し難く屈折した依存心剥き出しで気持ち悪いマジキチな性格は東條と何処となく似てるな。二次創作でクロスオーバーすれば面白いかもしれない。必然的にこいつらと絡ませられるデストワイルダーには同情するが」

 

「…お前、さぁ」

 

 

 話に熱中すると、麻衣は早口になるらしい。

 そんな麻衣を、キリカは冷たい声で制した。

 

 

「どんな妄想でも二次創作でも好きにやればいいと思うけど、当人に向かってそれを言うのはどうよ?単純に失礼なんだけど」

 

 

 読んでいた漫画を一旦脇に置き、朱音麻衣を見据えながらキリカは言う。

 全くの正論であり、返す余地も無い言葉であった。

 

 

「…あぅ」

 

 

 朱音麻衣は自分の頭が急速に冷えていくのを感じた。

 自分が狂人と信じて疑わない存在に諭された事と、自分の愚行を悟ったのである。

 

 

「…ごめん」

 

「分かればよいよい」

 

 

 キリカは謝罪を受け入れた。ちょろいなぁ、とかもついでに思っている。

 

 

「にしても君の今の反応は結構可愛らしいな。たまにはガールズトークをしてみたいのだが、君は結構モテるんじゃないか?」

 

 

 キリカにしては珍しく、麻衣に話しかけた。

 落ち込まれても面倒なので、メンタルケアをしてやろうとの目論見があった。

 私生活に突っ込んだ要件なのもそのためである。

 

 

「モテるって現象の定義にもよるが…胸と尻に視線を感じる事はよくある」

 

「あー、それ分かる分かる。視姦って言葉が生まれたのも必然だなぁって思うよ」

 

「うむ…あとこれは一度魔女結界であった事なのだが」

 

「…ん?」

 

 

 キリカには予想が付いた。先程、自分の体験談を話したばかりだからだ。

 

 

「魔女に囚われた連中は私の同級生でな、みんな男子生徒だった。魔女の魔力でその…性欲を刺激されたらしく、私の名前を叫びながら勃起した股間のアレを激しく」

 

「あーあーあーあーあー!」

 

 

 その先は聞きたくないと、キリカが叫ぶ。

 叫ぶのが遅いのは麻衣に卑猥な事を言わせたいと思ったのと、中断させたのはキリカの罪悪感だった。

 

 

「動作を見るに私の胸を掴んでその間に挟んで扱くとか、私の尻を掴んで後ろから動物の交尾のように激しくというのが伺えた」

 

「想像力豊かだね」

 

 

 吐きそう、とキリカは思った。

 性行為というものに、どこか悍ましさを感じているのだろう。

 呉キリカは性行為と受胎・妊娠・出産を望んではいるが、それの対象はたった一つである。

 故に他人が行う行為として見ると、子供特有の性行為への忌避感というか非現実感が去来しアンニュイな気分になるのである。

 面倒に過ぎる性格だが、ある意味貞淑な深い愛と子供らしさの象徴でもあった。

 

 

「これも定義というか捉え方なのだが、あれが『抱かれる』といった状態なのだろうな」

 

 

 朱音麻衣は物憂げな様子で上を見上げた。遠くを見るような視線だったが、視線の先には美少女じみた容貌の少年が映った写真が貼られている。

 というか、先に記した通り部屋の至る所、空間の隙間を埋める勢いでナガレの写真が貼ってあるのである。

 つまり、麻衣はナガレを見ていた。視界にはそれしか映っていない。

 

 

「私は『抱かれる』というのは好かない。主導権を握られるというのが気に喰わないのと、一方的に触れられるのが嫌なのだろう」

 

 

 麻衣は目を伏せた。床にも写真が貼られている。

 キリカはその様子を見て、「おおっ。リアル・悲しい過去…!」と内心で思い、妙に興奮していた。

 

 

「その時同級生らを操っていた魔女を酷く惨たらしく破壊したのは、そういった意識を覚えさせられたからという報復だったか、それとも普段通りの私だったのか」

 

「あんま気にしない方がいいよ。私も似たような感じで、私を総菜に自慰ってる同級生らに出くわした事あるしさ」

 

 

 慰めを言いつつ、キリカも場面を思い返して不愉快な気分になっていた。

 その同級生の中には同性も含まれていたからだ。

 

 

「ありがとう。だが気にするなとしても、どうしてもな……だが、例外がある」

 

「うむ」

 

 

 キリカは頷いた。何を言いたいのか察し、また自分も同じ考えであるからだ。

 

 

「彼が…ナガレになら、私は抱かれたい。同級生の男子共がしていた妄想も、彼相手なら私は受けられる。この胸を激しく揉んで、後ろから尻を掴んで私の雌を蹂躙して欲しい」

 

 

 熱い息を吐きながら麻衣は言った。

 他人には、よほど親しい相手でも見せない彼女の表情だった。

 それを見たのが宿敵に等しい呉キリカであるというのが、皮肉に過ぎている。

 麻衣の感覚的にはキリカは畜生も同然で、飼い犬や飼い猫の前で裸体を晒して恥ずかしがる事が無いのと同じ感覚である。

 

 キリカは麻衣の言葉を黙って聞いていた。

 愛の魔法少女なだけに、他者の愛を否定することもないのだろう。

 ただ、

 

 

「(後ろからか…割とマゾい性癖なのかな。あと私ならお尻見られるのハズいんだけど)」

 

 

 と思っていた。

 自分の事を朱音麻衣が言った場面に当てはめた時、キリカの顔は一瞬にして真っ赤に染まった。

 恥ずかしさに耐えきれず、枕に顔を突っ伏して鎮静に掛かる。

 数分が経った。ようやく、気持ち程度に興奮は収まった。

 枕から顔を離すと、朱音麻衣は布団の上で仰向け、というか逆海老反りに近い体勢になって悶えていた。

 彼女もまた、自分の発言に羞恥心を覚えて悶絶している。

 表情が嬉しそうなのは、その場面が尊くて堪らないからだ。

 幸せそうだなぁ、とキリカは思い、ふとある事に気が付いた。

 

 

「ところで朱音麻衣。最初に私に声掛けてきたけど、何用?」

 

「あぁ…もっと、そこ、激しく……ん、ああ、声掛けの兼か」

 

「同じ部屋だってのに喘ぐなよ。私も我慢してるってのに」

 

「む……ああ、話だったな。要は」

 

 

 麻衣が口を開いたのと同時に破壊音が鳴り、室内が振動する。

 机の上のお菓子や飲み物、本棚に麻衣の部屋の無数のナガレの写真も一切の揺れを起こさなかったが、確かに揺れた。

 そしてそれが続いた。破壊の音と振動は、近付いているようだった。

 

 

「これだね。佐倉杏子が劣勢か」

 

「そういうことだ。全く、奴は強いんだか弱いんだか分からん」

 

「まるで鬼龍おじさんみたいだ」

 

 

 キリカと麻衣は同時に溜息を吐いた。

 そして、外界に意識を向けることにした。

 

 


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