魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
「ぐふぅ」
壁面に激突する少女の体。
亀一面に亀裂が入り、少女の背中から迸った血液が亀裂の中を奔って壁は血走った眼球のような様相を呈した。
「あー…スマン、べぇやん。私じゃ力不足だわ」
壁から落下した少女、ニコは顔半分を床に着けながら言った。
床側にある左の眼球は破裂し、肉穴となった眼窩からは脳漿どころか脳味噌の一部が垂れている。
右腕は肩から吹き飛び、肉の断面は炭化し飴の様に粘ついた血が傷口から滲む。
「謝ってる場合じゃねぇ!逃げるぞ!」
獣は魔法少女服を齧り、必死に動いた。
ずりずりと、血と炭の欠片の線を曳きながら後退していく。
「君は案外えっちだなぁ。お腹でも噛めばいいのに」
「行ってる場合か!」
獣が噛んでいるのは、ニコの胸辺りの生地である。
また腹部は大きく抉られ、腸も殆ど千切れて腹は赤黒い空洞となっている。
腕と違って熱による破壊ではなく、刃と腕力による暴虐が行使されていた。
「私の事は放っておいておくれ。君に死なれると困る」
「ざっけんな!んな寝覚めの悪い事できっかよ!!」
獣の返事に、ニコは目をぱちくりとさせた。
眼球を喪った左眼も、肉を収縮させて驚きを表している。
「君、残酷な事を言うけどその感情は本物かい?」
「んなもん知るか!オイラのこの衝動が偽物でも知ったこっちゃねぇ!オイラはやりたい事をやってんだ!」
「それが私に、魔法少女に奉仕する理由かい?」
「そうだって言えば、自分でも動いてくれるか!?そろそろキツいんだよ!顎が捥げそうだぜぇっ!!」
「あー、じゃあ条件がある」
「な、なんだぁっ!?」
「ふぅむ。そのリアクションは確かに双樹どもさんらの影響が伺える。マネモブとは厄介な連中だな」
「なにっ」
「ふざけてるのか?」
「オイラは真面目だよ!でもこう造られちまったんだ!」
「人生の悲哀を感じるね」
「オイラはそうでもねぇぜ!こう見えても結構頑張って生きてるんだ。だからそっちも動いてくれよ!」
「無理。少なくともあと一分は動けない。だからその間話をしておくれ」
ニコの提案に獣は言葉を喪った。
不吉な足跡はゆっくりであるが近付いて来ている。
遭遇したら今度は命が保つか分からない。
獣はニコの提案に乗ることにした。それしか出来ない。
「ええと、他の皆様方は?」
「学校」
「だろうな」
五秒で会話が終わった。
獣は他の話を探した。
「逃げるのは当然として、他に手はあるのかい?」
「んー、逃げてから考える。君には何かあるかい?君はインキュベーターから造られたんだから、それを活かすとか」
「ええと、例えば?」
「例えばそこらの連中にマスクチェンジ的な魔法を使ってマスクドヒーロー的な存在にするとか」
「なんだそれ」
「ダークロウって知ってる?」
「知ってるよ。オイラ、あいつ嫌い。実質4900打点で多少の誘発も封じて来やがる。そもそもワクワクもへったくれもねぇじゃねえか」
「じゃあデスフェニ」
「ディバインガイが何したっつうんだよ…返してくれよ…てかアナコンダ投獄でいいじゃねえか…」
「うむ、その様子だと無理か。がっかり」
「話戻すけどアンタ、オイラを何だと思ってるんだ?で、仮にそれが出来たとしてオイラに何をしろと?」
「デュエルとかデスゲーム的なのを開催する。ジュゥべぇ、君はサポート役になって運営をするんだ。そして優勝者の願いを主催者権限で簒奪して、双樹をまともな人格にしてもらう」
「ニコさんや、アンタ…漫画や特撮の読みすぎ、観すぎだぜぇ…」
時間稼ぎとは言え、中身の無さすぎる会話にジュゥべぇは疲弊していた。
迫る足音の大きさは、刻一刻と増していた。
『あの…ちょっと』
「ん?」
「あ」
その時、思念の声がニコと獣に去来した。
ニコは「何だろう」、獣は「しまった」と感じた。
『黒江、だけど…その、急いでキュゥべぇ持ってきたけど、なんか随分と建物…荒れてないかな?入ってってだいじょ』
あと二文字で終わる思念は、破壊の音で塗り潰された。
回廊の奥で熱波と光が炸裂し、一人と一匹を熱を伴った猛風が叩く。
「あちゃあ…配達屋さん巻き込んじゃったよ」
お手当弾ませないとなぁ。とニコはぼやくように言った。
罪悪感は間違いなくあるのだが、多量の出血と肉体損傷の為に虚無的な声となっていた。
傍らの獣は首から生えた腕状の器官で頭を覆っていた。
申し訳なさ過ぎて堪らないのであった。
「うむ」
呉キリカは満足げに頷いた。
被ったシルクハットが揺れ、落下させまいと慌てて左手で支える。
単純な動作だが、それだけで熟練の奇術師のような洗練された動きとなっていた。
キリカ本人はそう演じた訳ではなく、生来の美しさによって動きの全てが美しく見えるのである。
「中々良い感じだよ」
緩やかに微笑む。開いた口の隙間からは八重歯が見えた。
白い牙のような歯を、桃色の舌がちろりと舐める。
その様子にはひどく官能的な、淫靡なものがあった。
異界の空で、燕尾の翼を広げてキリカは春風のように朗らかで、そして淫魔のように艶然と笑う。
白と黒を基調とした姿の背後には、燕尾の翼の裏地である赤の色が広がっていた。
赤は蠢き、くねり、濡れ光る輝きを見せている。
それは明らかに、布の色彩と質感では無かった。
「君の肉、そして血はとても美味しいねえ。実に良い香りと食べ応えだ」
微笑みながら告げる。
そして両手で腹を撫でた。
白い布に覆われたその部分は、彼女の子宮の真上だった。
「いい感じだ。お腹に溜まるよ」
慈母のような慈しみの眼差しをナガレに向ける。
対する彼は荒い息を吐いていた。
左肩は削られ、皮膚の下の筋線維が見えていた。
右頬も同様であり、皮が削げている。
その他にも、腕や膝などが同様に肉を削られている。
大体は大したことは無いのだが、彼が左手で抑えた胸は指の隙間から血の滴りが生じていた。
今もまた彼の指を伝い、血の一滴が落下した。
落下運動を始めた瞬間、血は下方ではなく前へと向かって落ちていった。
そしてぴちゃんという音を立て、キリカの燕尾の裏地へと吸い込まれた。
赤の裏地で小さな波紋が生じた。血が接触した部分が小さく窪み、そして戻った。
「おおっと危ない危ない。君の血はとても貴重だからね。一滴たりとも無駄には出来ない」
キリカが告げている間にも更に数滴が滴り、それらは全て裏地に吸い込まれた。
血を吸い込ませるたびに、キリカの笑みに妖艶さが増した。
「ああ……いいねぇ」
うっとりとしつつ、キリカは背中をビクビクと痙攣させた。
ナガレの嗅覚は、血の匂いに加えて雌の匂いが大気に混じるのを感じた。
その様子にナガレは眉を跳ねさせた。
吸血行為に性的な快感を見出すキリカの様子を見るのは、これが初めてではない。
「お前、その翼は」
右手で握る魔女に治癒を命じながら、ナガレも強引に息を整える。
キリカの翼に触れられた胸の部分は肉と骨が削がれ、肺の一部も削られていた。
「うん。生きてるよ。ていうか私の一部」
そう言ってキリカは燕尾を大きく広げた。
左右に広がる翼は、一翼の幅が五メートルもある。
広げられたことで、翼の様子がよく見えた。
赤い裏地は粘液で濡れて照り光り、凝視すれば赤い表面の下を流れる微細な血管とその中を流れる血が見えた。
「この吸い込みは君が握ってる間女を参考にしたのさ」
存在を指摘され、牛の魔女がびくんと震えた。
滅多な事では怯えず彼に従う牛の魔女が、呉キリカから離れようと藻掻いていた。
赦す筈も無く、ナガレが腕に力を込める。
逃げる前に滅ぼされると察し、彼女は覚悟を決めた。
それでも、キリカへの恐怖の震えは止まらなかった。
分かるのだろう。
成れ果てた存在とは言え、眼の前の同性が放つ狂気が。
「そして、正直此れは言いたくないが……変態ド腐れ外道の双樹と、クソゲスゴミカスゲボ塗れの気狂いアリナにも敬意を払っておこう。あの二大変態は参考になった」
不愉快そうに吐き捨て、キリカは燕尾に手を伸ばした。
外字に手を這わせて軽く持ち上げる。
柔らかく震えながら脈動する赤…鮮紅色の裏地を見つめる。
「これ、私の一番奥の色なんだ。別にいやらしくなんてないだろう。アダルトビデオとかエロマンガみたく、膣をくぱぁって広げてるんじゃあるまいし」
キリカは平然と言った。
この時点で、察しが付く者もいるだろう。ナガレもそうだった。
そしてこれを聞いたのが杏子か麻衣ならば、恐らく吐いている。
「私の赤ちゃんを育てる部屋、アリナがよぉぉく見せてくれたからねぇ。全く、感謝はしないけど役に立つものだね」
キリカは嘗て、アリナ某という存在に生きたまま解体されたと言っていた。
その際にあったことだろう。
魔女が再び怯えて震え始めた。
対するナガレは怯えもせず、ただ斧槍を握り締めながらキリカを睨んでいる。
「それと、双樹も参考程度に役に立った。だけど子宮は、小物入れにするには勿体ない」
キリカの翼が更に広がる。
先程までの翼の交差は、使い方を覚えるための予備運動。
これからが本番だった。
「だから君を今から取り込んで、我が胎に宿して育んで、そして産みなおさせていただこう。私に子宮を使わせておくれよ」
何時ものように微笑み、キリカは飛翔する。
分析など無意味な、度し難い欲望を宿して。
この上なく、真摯で純粋な愛を伴って。
◇この女の目的は……!?
龍継風煽り。冗談言ってないとやってられないくらい、過去最悪レベルで狂ってる
因みにこのキリカさんの外見は新約の特典、自作での能力の元ネタは某Bloo-Dです