魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第64話 災厄の最悪

 崩壊する機械の蛇龍。

 主の意識の喪失に伴い、頑強な装甲はひび割れた粘土みたいに剥離し、更に砂のように細かく砕けて流れて行く。

 巨大に過ぎる胴体は地面との接触の瞬間、粉塵となって舞い上がり、そして光となって消えていった。

 一足早く地面に着地していたナガレは、その様子を見送った。

 彼の腕の中には、血に塗れながらも安らかな顔で目を閉じている朱音麻衣がいた。

 

 左肩から入った刃は下腹部の手前で反転し、彼女の右側へと抜けた。

 外は勿論、内臓も破壊されているが麻衣の寝息は安堵に満ちていた。

 その様子に、他ならぬ加害者である彼も安堵し麻衣を抱いたまま歩き続ける。

 周囲に何も無い場所に麻衣を静かに置き、再び歩く。

 

 歩き続けて、やがて足を止めた。

 前を見た先に、黒い魔法少女がいた。

 

 

「待たせたな」

 

「うん。待った」

 

 

 ナガレの言葉に呉キリカは朗らかに微笑んだ。

 何時もの様子である。

 蜘蛛のように長い両腕を、更に伸ばすように生えた斧爪も普段の赤黒い輝きを見せている。

 ナガレも斧槍を構えた。二人の間に流れるのは、何処か映画にでも行くようなリラックスした雰囲気だった。

 殺し合いへと至る前の状態でこれなのも、普段通りの事である。

 

 

「お前だけか?」

 

「うむ。最初は奴も混ぜてやるつもりだったけど、見解の相違にて別れた」

 

 

 ナガレを見据えたまま、キリカの黄水晶の眼には靄が掛かったような色合いが映えた。

 魔法による演出は、遠い過去を眺めているような趣を見せていた。

 キリカ的には過去回想をしている気分なのだろう。

 

 

「あいつは何を考えてたんだか、私の唇を奪った。そういう趣味に目覚めた、っていうのなら別にいいさ。私はジェンダーレスだからね」

 

「そうだったのか」

 

 

 ナガレは思わず訊き返した。

 一方で驚いた様子は無い。

 

 

「ああ。君が仮に女でも私は君を好きになっていただろう。だから私はジェンダーレスだ。君が男でも女でも平等に愛せるのさ」

 

「そりゃ結構な事で」

 

 

 なんか意味違くね?話脱線してね?とナガレも疑問に思ったが、多分何かの漫画の台詞をもじってるんだろうなと感じた。

 そういえば見覚えのある台詞であった。

 

 

「それで。あいつは?」

 

「ん?まだ続くのこの話題」

 

 

 不思議そうな表情となり首を傾げるキリカ。

 美という文字が頭に二つは付く美少女は、何気ない仕草であっても可憐であり美しい。

 その何気ない表情を見たいが為に、狂気に陥る男は、いや、人間は少なくないだろう。

 

 

「まぁいいか。付き合うよ」

 

 

 そしてこの優しさに溢れた輝く美貌に見つめられたら、理性は弾けて蕩けるだろう。

 この表情を惜しげも無く与えられる者を他の誰かが知ったとしたら、果たして嫉妬に狂うか絶望するか。

 分かっている事は、それを見た当人が特に表情を変えずにさっさと話せよと思っている事だった。

 ナガレにとってキリカは出会った時から美しい存在であるし、女というより背伸びをしている子供といった相手なのであった。

 

 

「君が最初に私達を片付けたのは覚えてるよね」

 

「ああ。綺麗に同士討ちが決まったな。次は気を付けとけよ」

 

「うん。そうする。今度はちゃんと君と血深泥バトルもといセックスできるように頑張るよ」

 

「言いなおしが気に喰わねぇけど、その意気だ」

 

「あ、最初からセックスって言えばよかった?」

 

「もう好きにしろ」

 

「うん、好き。大好き愛してる。犯って殺ってヤりまくりたい」

 

 

 早速話が脱線するが何時もの事である。

 戦闘開始の直後、全力で突撃してきた二人の魔法少女のドッペルをいなし、それぞれへと激突させてから各々の得物を投擲して串刺しにした。

 これが杏子とキリカが無力化された経緯だった。

 彼はその先を知りたがっている。

 

 

「と、ここでお話を軌道修正。物語を進めないとね」

 

「悪いな」

 

 

 一応の断りを入れたのは、曲りなり或いは異常なまでに真っすぐに自分の事を好いていると思っているからだろう。

 因みに彼にとって呉キリカは異常者には映らない。

 彼女とは方向性が異なるが、異常な存在は腐るほど見てきている。

 またついでに言えば、その殆どは既に葬り去られている。

 数少ない例外が、今は世界の何処にも存在していない進化の光と、何処に行ったか分からない魔神の二例である。

 宇宙を塵芥のように粉砕可能なその二例の事は今は彼の頭には無く、彼の今の関心は杏子の現状の確認だった。

 

 

「佐倉杏子なら全身に針をグサグサ刺して地面にちくちくと縫い止めといた。裁縫って言うか溶接に近い状況かも」

 

「じゃあ暫くは来なそうだな」

 

「心配してないの?」

 

「お前らがそんな簡単に死ぬかよ」

 

「むむっ!」

 

「ん?」

 

 

 キリカの発した言葉というか喉鳴らしは憤慨の意思を帯びていた。

 口内に息を少し含んで小さくぷくっと膨らませた頬は、美しさと可愛さのある種の極致であった。

 

 

「どうしたよ」

 

 

 平然と返すが、ナガレも少し興味があった。こういったリアクションはあまり見た事が無いからだ。

 

 

「嫉妬。君の関心を受けるあいつに対して」

 

「素直だな」

 

「そうそう素直。だからあいつの現状も事細かに教えてあげる」

 

「ああ、頼む」

 

「頼まれた!」

 

 

 そう得意げに言ってキリカは胸を叩いた。

 生地を押し上げて膨らむ大きな胸がたゆんと揺れた。

 キリカ本人曰く、

 

 

「どうだい友人。我がクラスの男どもは私のおっぱいが揺れるのを見るだけで三日は総菜に困らないそうだよ」

 

 

 との事だった。

 そう言ったキリカの表情は呆れていた。

 

 

「何でそんなの知ってんだよ」

 

 

 そうは言ったものの、ナガレ本人も「まぁ中坊だしな」と理解していた。

 そしてこの時点で早速また話が脱線しているのだが、この連中は話を続ける気があるのだろうか。

 どうせ何も考えていないのだろう。

 

 

「前に魔女退治した時にクラスメイトが取っ捕まっててね。性欲でも刺激されたのかそんな事言ってたんだよ。『ああ、呉さん、呉さんっっ!』『キリカ、キリカ、キリカぁっ!』『あ!あ!ああ!射精(で)る!!呉の中に!』とかね」

 

「うへぇ」

 

 

 呆れ切った声を出すナガレ。

 それは欲望を剥き出しにした男子諸兄らに対してではなく、可憐なハスキーボイスを用いて少年の特徴を完璧に捉えて発した卑猥な言葉に対してであった。

 

 

「因みに捕まってたのは男だけじゃなくて女子も多かったよ」

 

「ん……」

 

 

 流石に言葉に詰まるナガレであった。

 

 

「彼ら彼女らはジェンダーレスのようだ。男からも女からも、私は平等に妄想の中で陵辱されるのさ」

 

「その台詞気に入ったのか?確かに妙に印象に残る場面だけどよ。煽り文も仕事してねぇし」

 

「そんな私の目的は…?」

 

「杏子が今どうなってるのかを教えとくれ」

 

「んもう、友人てば言葉攻めえっぐ」

 

 

 強引なんだから♡とキリカは言い、漸く話をし始めた。

 

 

「佐倉杏子は全身針で串刺しにしておいたよ。手足の指の関節にも腕や脚にも目や耳や口の中にも細かいのをびっしり刺しといた」

 

 

 キリカの顔は平然としていた。

 例えるなら、今日の当番やっといたよ。花壇の水やり。

 ちゃんと肥料も撒いといたから。

 そういう感じだった。

 

 

「てなわけで……あ!ああ!しまった!しくったぁ!!」

 

 

 しかし言い終えてから、彼女は少し慌てた様子を見せた。

 そして急いでこう言った。

 

 

「大丈夫!あいつの脳味噌や内臓はグチャグチャだけど、処女膜とかお尻とかは傷つけないように頑張ったから!見くびらないでほしいのだが、私もそこまで外道じゃない」

 

 

 そう言ったキリカの表情には晴れ晴れとしたものがあった。

 失敗を成功に転化させ、難儀な課題をやり遂げたような清々しさがあった。

 言うまでも無く、発言そのものは最悪を超えた最悪である。

 

 

 

 

 











キリカさん、久々に彼と一対一でお話しできて実に楽しそう

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