魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第62話 つながり

『朱音麻衣、ちょっと聞きたい事があるんだ』

 

『なんだ呉キリカ。今は機嫌が良いから聞いてやるぞ』

 

 

 弾む声の思念で返す麻衣。

 平和的で、奇跡のような遣り取りであった。

 

 

『君、必殺技とか奥義とか覚えて無いの?魔法少女的な必殺技じゃなくて、ナチュラルな剣技でさ』

 

『無い』

 

『はっ!つっかえ。ほんとつっかえ。辞めたら?その剣士キャラ』

 

『無駄に語録を使うな。それで、唐突に何を言ってるんだ』

 

『朱音麻衣って、いかにもそれっぽい古風な名前してるのに秘伝の奥義も覚えてないのか。御先祖様から何を教わった?』

 

『名前を付けたのは両親で、先祖から伝わったのは苗字だ。ついでに私の家には蔵的な物は無いしルーツを辿ったことも無い』

 

『それはそうだね。御両親と御先祖を愚弄して済まない』

 

『構わない。野良犬の粗相と思えばいい』

 

『にしても残念。ハズレか』

 

『何が』

 

『朱音麻衣ガチャ』

 

『は?』

 

 

 意味不明な言葉に、麻衣は怒りではなく疑問の意思で応えた。

 

 

『ああすまない。要は『朱音麻衣ピックアップガチャ』というコトだ』

 

 

 どぅゆうあんだぁすたん?とキリカは続けた。

 麻衣は理解を放棄した。

 黙っていると、キリカの方から思念を送ってきた。

 

 

『要約すると、この世界線の朱音麻衣はハズレ。つまり君は朱音麻衣の中でもレア度の低いハズレ個体って訳だ。ああ、もっと勇ましく意志が強く、精悍で好戦的な朱音麻衣が欲しかった。そんでもって私の為に戦って、そして華々しく死んでほしい。ほら、あの青空に笑顔となって。後々の私の回想で出てきておくれ』

 

『呉キリカ。お前、変なクスリでもやってるのか』

 

 

 麻衣の言葉は疑問ではなく確信だった。

 元より、キリカを正気と思っていない。

 それにしても今回の発言は中々に意味不明だった。

 なので怒りよりも興味が湧いた。

 

 

『この世界線と言うが、お前は意味を分かって言ってるのか?』

 

『シャレオツなSF用語ってくらいに。でもまぁ、別に大して考えて無い。君や佐倉杏子の並行世界の別人がいるとか悪夢そのものじゃないか』

 

『別世界の貴様か。それも悪夢だ』

 

『全くだね』

 

『同意するのか』

 

『うん。私以外の私は私の敵だ』

 

『度し難いな。もう切るぞ』

 

『うん、ばいばい。佐倉杏子に伝えとくことある?』

 

『「そこで眺めてろ」と伝えてくれ』

 

『聞こえてるよバァカ』

 

 

 割り込む杏子。思念はマグマから発せられる熱波のような怒気で出来ている。

 対する麻衣は春風のような微笑で返した。

 

 

『それは良かった。では』

 

 

 そして思念は途切れた。

 事象は精神ではなく現実へと移り変わる。

 

 

 

 

 

 

「朱音麻衣も中々に性格が悪いね」

 

「ああ。見せつけやがる」

 

「責任は自分らにあるとはいえ、辛いね」

 

「そうだな。じゃあ、さっさとなんとかしよう」

 

 

 吐き捨てる杏子。

 その口からは血の塊が吐き出された。

 頷くキリカは口からぶくぶくと泡を噴いている。

 泡は血で出来ていた。

 本人としてはシャボン玉で遊んでいるつもりなのだろう。

 ぷくっと膨らむ血泡は、風船ガムのようでもあった。

 弾けた時、それの飛沫は他でもない呉キリカと、佐倉杏子の顔を濡らした。

 

 

「おい」

 

「ごめんごめん。私の血ったら、友人のも混じってるのか元気いっぱいでね」

 

「あ゛?」

 

 

 顔を血で汚された事よりも、血が混ざるという言葉に反応する杏子であった。

 それに疑問は無い。

 憎悪にも似た愛欲と執着の対象。

 その血が奪われるなど、彼女にとっては身を切り刻まれるよりも辛い事柄であるからだ。

 そう。とても辛い。

 まさに今、この状況よりも。

 

 

「じゃあ佐倉杏子。さっさとこれをどうにかしようか」

 

 

 そう言ったキリカの顔には、しょうがないなぁという趣があった。

 これを言ったのは杏子が先だが、行動に出ようとしないので促したのである。

 話が脱線したのは自分のせいとは、彼女は全く思っていない。

 不承不承に杏子は頷いた。

 首を傾けた時、再び彼女は血を吐いた。

 切り刻まれると先程書いた。

 今の杏子は、正にそんな状態だった。

 それはキリカも同様である。

 

 キリカの胸と腹、杏子の同部位は巨大な針で貫かれていた。

 胸に一本、右脇腹に一本。それらは二メートルほどの距離を隔てて二人を繋いでいた。

 そして更にそれぞれの腹の中央を、黒い菱形に似た刃の槍が貫いている。

 槍と針で串刺しにされて繋がれた杏子とキリカの背後では、残骸となったドッペルが転がっている。

 斬撃や殴打による破壊、または火炎や雷撃からの高熱を受けて蕩け、無惨な有様となっていた。

 

 

「さて、さっさと引き抜いて戦線復帰といこう」

 

「ああ」

 

 

 渇望が声となったかのような声で二人は言う。

 愛する者と殺し合う。

 狂っているとしか思えない行為が、この連中にとっては正気の事柄であり彼との戦闘は性行為という認識なのだった。

 だからここで止まっている訳にはいかない。

 返り討ちになった身だが、まだ戦える。

 子宮には熱が溜まり、疼いてぬかるんでいる。

 

 

「ん…?」

 

「…おい」

 

 

 そんな中、杏子とキリカは同時に声を発した。

 疑問と、嫌な予感といった声だった。

 二人は共に、両膝を着いた体勢である。

 正確には膝下を切断されている為、血が流れて行く肉の断面を地面に着けている。

 それでも膝を動かして後退した。

 体内で、突き刺された針の滑らかさと槍の柄の凹凸が如実に感じられた。

 その感覚は、前へと向かっているのであった。

 実際、二人の距離は縮まっていた。

 

 

「あちゃあ…君もか」

 

「ッ!!」

 

 

 諦観の表情のキリカ。

 対して失意と絶望の貌を見せる杏子。

 

 

「こうすれば、友人と繋がれるからねぇ」

 

 

 二人の現状は、キリカのこの一言が示していた。

 針と槍の表面には、返しが設けられていた。

 後退すればするほど前進し、より深く食い込むギミックが。

 それを本来であればナガレに用い、彼を拘束するつもりだったのだろう。

 自分の身を貫いた上で。

 

 

「ふ、ふざけんな!」

 

 

 杏子は叫んだ。

 キリカの言葉への否定ではない。

 彼と繋がる事は彼女の望みでもあった。

 一度行った時は、まだ彼が嫌いだった。

 今では好きで好きで堪らない。

 だからもう一度繋がりたかった。

 それが今、最悪の相手と繋がる羽目になっている。

 だから彼女は暴れた。

 それがどういう結果を招くか、狂乱する杏子の思考には描かれていなかった。

 

 血肉を槍と針と肉体の間から漏らしつつ一気に前進し、既にキリカとの距離は数センチ単位となっている。

 眼の前には、キリカの美しい顔があった。

 絶世の美少女であるその顔は、杏子にとっては悪夢の顕現でしかない。

 

 

「ああ、人生の悲哀を感じるねぇ…」

 

 

 キリカは茫洋と呟いた。

 その瞬間、二つの美しい顔と唇同士が重なり合った。

 キリカの体内を、重ねられた口の奥から奏でられた杏子の絶叫が駆け巡った。

 

 

 

 












この展開に一番困惑してるのは書いてる自分なんだよね…

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